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フィンランドの子育てと教育改革 (甲南女子大学国際子ども学研究センター・第53回公開シンポジウムから)

2008年12月19日掲載

要旨:

本稿は甲南女子大学国際子ども学研究センターの第53回「子ども学」講演会の報告である。初めにオヤラ教授によるフィンランドの教育改革、幼児教育と保育、特に幼児教育の特色(プレスクール)についての講演があり、それを受けてスポデック博士はパネリストとして、フィンランドの子どもの高い学力を支える、就学への移行期の教育に焦点を当ててお話された。

プレゼンター: ミコ・オヤラ(Mikko Ojala)
パネリスト: バーナド・スポデック(Bernard Spodek)
司会: 白川蓉子(Yoko Shirakawa)

白川:本日は甲南女子大学国際子ども学研究センターの第53回「子ども学」講演会となります。最初に今日のプレゼンター、オヤラ教授のご紹介をさせていただきます。フィンランドの教育改革、幼児教育と保育についてお話しいただき、その後、パネリストとしてそちらにお座りのスポデック博士に加わっていただきます。博士は長年にわたり、小学校の先生をしていらっしゃいました。

 

オヤラ教授:皆さん、こんにちは。はじめに、私をこの場にご招待くださいました白川先生、及び甲南女子大学の関係者の皆さまにお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。私はヘルシンキ大学で幼児教育学について教鞭を執りながら研究を続けていますが、小学校の教諭の研修も私の専門です。特に、子どもの幼稚園から小学校への移行に強い関心を持っています。

この図で、冬のヘルシンキのデイケアセンター(幼稚園)での、典型的な一日の様子がおわかりになると思います。ご覧のように、ほとんどのセンター(幼稚園)がとても新しいのですが、それというのも、私たちのデイケアシステムは、1973年に始められたものであるからです。その後急速に数を伸ばし、次々と新しい幼稚園が建てられました。

それでは、フィンランドの幼児教育について話し始めましょう。この図は、フィンランドの教育制度を表したものです。学校は7歳からと、とても遅くから始まります。義務教育の始まりがこれほど遅いのは国際的に見ても、あまり例がないのではと思います。

 

report_02_79_1.gif就学の前に、幼児教育のための、二つの期間があります。就学の直前の1年がいわゆるプレスクールで、小学校へ移行するための集中準備期間となっています。そして、そのプレスクールの前が、幼児教育とケア(Early Child Education and Care=ECEC)であり、主にデイケアセンターで行われています。当初、このデイケアセンターを幼稚園と呼んでいましたが、私たちのシステムは幼稚園とは少し違うことから、今では新たにデイケアセンターと呼んでいます。子どもが就学前に行く主な機関です。

フィンランドにおいて教育政策は大変重要です。政府によって決められますが、毎年どんな新しい傾向が教育政策に盛り込まれるか、我々もよく知るところとなっています。

 

report_02_79_2.gifこの図の項目は、現在、そして当面の我が国の教育政策の大きな柱となっています。フィンランドは、広大な土地と空間に恵まれた国です。このため重要課題の一つが、国のどこのデイケアセンター、学校においても質の高い教育サービスを提供できるようにするということです。

 

また、フィンランドには、スウェーデン語とフィンランド語の二つの公用言語グループが存在するということも重要項目です。スウェーデン語を話す人々は、6パーセントとマイノリティーですが、デイケアセンター、学校、大学と、どこでも二つの言語が使えるように法律で定められています。

また、ジェンダーに関わる問題もあります。二つの性、つまり男の子と女の子、男性と女性が平等に教育を受けられなければならない、社会にジェンダーによる分断があってはならないということは、今日ますます人々の関心を集めています。

次の重要な教育政策は、一般教育は今日までずっと無料であるということです。つまり、教育は、すべての人に対して無料で提供されているのです。学校にあがる前から、学校システムの最中も、現在では、大学教育も、いかなる費用を払う必要がなく無料です。究極的だと言えると思いますが、大学や工科大学の学生には、学生の間、都市で生活するための生活費が支給されます。たくさんとは言えませんが、生活費や住居費としては充分な額と言えます。

 

report_02_79_3.gifまた、教育システムをさらに発展させるために、もっと細部にわたった政策テーマも抱えています。現在、こうしたテーマに対し、集中した発展的な取り組みが行われています。第一には、日本や他の多くの国々と同じ情報社会にあって、先進的な国でありたいということです。フィンランド社会のどこにおいても、ハイテク産業とイノベーションが浸透しています。これは、フィンランド政府の公式な重要課題でもあります。

第二に、今日、学校の教科と、少しではありますがデイケア(幼稚園)教育においても、数学と自然科学が新たな注目を集めています。これは国際的な傾向であり重要性は高まるばかりですが、数学教育を筆頭にフィンランドでは多くの新しい研究がなされ、教諭の研修も行われています。現在は早期数学教育が集中的に発展している段階にあるといえます。

ヨーロッパの小国にとって、他の国々の言語は大変重要です。フィンランドでは、英語が最初に習う外国語となっていますが、次に子ども達は、スペイン語、イタリア語、フランス語、ロシア語など英語以外の言語を学校で学ぶことができます。大学では、試験に通るためには英語の教科書を読むことが不可欠です。

現在はまた、教育の質を上げる、質をコントロールする、公教育の様々なレベルにおける質の標準化をはかることについて大いに議論を高め、行動をとっているところです。この種の課題は、ますます重要性を高めているところから、デイケアセンター、学校、大学などがどのように成果をあげ、機能しているか、私たち指導陣はフィードバックを求められています。質の高い教育とは何であるか、より正確な標準が必要なのです。

 

ここで次の問題に移りましょう。教諭のための初期の継続的な研修です。幼稚園と小学校の教諭は、教諭としての能力を維持できるよう毎年研修を受けることができます。研修中は、勤務時間中に研修が受けられます。研修のために年間で一定の日数をとることができるよう法律で定められています。

report_02_79_4.bmp※スライドをクリックすると拡大されます。

いままでの話を要約しますと、このスライドのようになります。フィンランドにおける0歳から6歳までの子どものためのECECシステムの大きな枠組みを表わしています。この幾分複雑なスライドを使って少し説明します。学校は7歳から始まります。就学前の子どもの教育の基本戦略がご覧になれます。まずは市営のデイケアセンターですが、デイケアシステムの中核の教育機関となっていまして、大きく二つの種類があります。ファミリーデイケアとデイケアセンターです。その後にくるのが、前にも話しましたように、6歳児のためのプレスクールによる教育です。後ほど、市営のデイケアセンター、私立のセンター、およびその他の施設で、どんな割合で子ども達が通っているか、その割合をお話ししましょう。第三の大きな教育タイプ、及び就学前の子どもの世話は、3歳までの3年間、子どもは家で過ごすというものです。ホームケアシステムと呼ばれるこのタイプの教育を受ける0歳児から3歳児の数は急速に増加しています。新たな選択であるからだと思います。デイケアセンターには私立のものもありますが、現状では、数はとても少ないものです。ほとんど全部が公立と言っていいくらいですが、魅力的な私立の施設があって親もそこを望むのでしたら、私立という選択も可能です。また国も私立のセンターに対し補助金を出しています。

白川:私立のセンターを運営しているのは、どんなところでしょう? 会社ですか?

オヤラ教授:幼稚園の先生が、2、3人集まって運営することが多いようです。普通は会社組織にしてあります。


スライドは、赤ちゃんが生まれる前から生まれた後まで、国や国のシステムがいかに家族を支援しているかを表しています。赤ちゃんが3歳以下とまだとても小さいときには、様々な種類の支援を国から受けられます。小さな子を抱えた親たちを支援する組織がフィンランドにはたくさんあります。


近頃の傾向としては、子どもがまだとても小さいとき、家にいて世話をするのはお母さんに限らなくなってきたことです。今日ではお父さんのための支援もあり、数週間仕事から解放されて子どもの世話をすることができます。政府から給付金が支払われます。母親だけでなく、自ら望んで小さな子と一緒に家にいる父親の数が増えています。


家族が子どものためにどんなデイケアを選んでいるか、もう少し詳しく見てみましょう。親たちに選択肢がたくさんあることがとても重要であるとフィンランドでは考えられています。国は強力にデイケアを支援していますが、親たちの決定に基づいて様々な選択肢が用意されています。日本の幼稚園にあたる市営のデイケアが、就学前の子どもを預ける場所として一番人気があるようです。子どもがとても小さいときには特に、ファミリーデイケアもとても人気があります。家庭のような環境で子どもの面倒をみてもらいたいという家族もいるのです。他人が子どもたちの世話をしますが、個人の家のような環境になります。


次にチャイルドホームケアについてお話ししましょう。これはつまり、子どもが3歳になるまで家にいて自分で子どもの面倒をみたいという場合、国が支援金を出して親をサポートするということです。現在26パーセントの子どもが、3歳になるまで、このタイプのケアと教育を受けていることからも、とても人気があると言えるでしょう。


スライド5をご覧ください。どのくらいの比率で、デイケアセンターやファミリーケアセンターに通っているか詳しくわかります。デイケアセンターが一番人気がありますが、ファミリーデイケアも人気があるのがご覧になれます。また3歳以下に限ると20パーセントしか公立のデイケアセンターに行っていないのがわかります。これはつまり、残りの子は、国からの援助を受けて、ホームタイプのケアにあるということです。歳が上がるにつれて、デイケアセンターの割合が高くなっていきます。ほとんどのデイケアが、フルタイムのケアとなっていて、通常子どもたちは、日中の7時間から8時間をここで過ごします。

 

report_02_79_5.gifスライド7では、歳が上がるにつれて、公立私立ともデイケアセンターに通う子どもが多くなっていくのがわかります。子どもがまだとても小さいときには、家庭のような環境が好まれるようです。就学前の1年間のプレスクールの年齢になると、ほとんどの子ども(96.3%)が、児童期幼児教育という一つのタイプの教育を受けることになります。つまり、就学前教育です。

 

report_02_79_6.gifreport_02_79_7.gif次にヨーロッパの他の国々と比較してみましょう。フィンランドの幼児教育が他の国々と大きく違っているのがおわかりになると思います。例えばイタリアですが、3歳になるとほとんど全ての子どもがプレスクール、日本では幼稚園、フィンランドではデイケアセンターにあたるでしょうか、プレスクールに通っています。これに比べ、フィンランドでは、公立又は私立のデイケアセンターに通っている子どもは、3歳の時点では36パーセントにすぎません。残りの子はファミリータイプのケアを受けています。子どもが6歳になるまでに、プレスクールに通う子は徐々に増えていき、他のヨーロッパ諸国と同じようなパーセンテージになっていきます。

 

※スライドをクリックすると拡大されます。

 

次に1歳から5歳、つまりプレスクールに入学するまでの子どもの教育のための新しい教育ガイドラインについてご説明しましょう。教育的価値について、この教育ガイドラインに則って、議論に取り組み始めたところです。いくつかお話ししましょう。第一は、差別なく平等に教育の機会を与えること。つまりフィンランのどこにおいても、質の高い教育が同じように受けられ、家族は自己の判断で、きちんとしたいくつかのデイケアの中から自由に選択できるということです。第二のモットーは、子ども達に対する考え方を反映していると思いますが、子ども達がデイケアセンター(幼稚園)でどんなふうに学びたいか、何を学びたいか、子ども達の声に耳を傾けるということです。子ども達はどんな意見を持っているのだろうか、たとえ小さな子どもであっても彼らの意見を尊重して話を聞くというのは今まではあまり配慮されていなかった新しい視点と言えるでしょう。第三は、特別なサポートが大変重要であるということです。学校にあがってからの勉強が大変そうな子ども、何か行動問題を抱えている子どもがいたら、就学前から、デイケアセンター(幼稚園)でできる限りのサポートをします。デイケアセンターの職員と協力して専門家達がサポートします。

 

report_02_79_9.gif1歳から5歳の子どものためのカリキュラムは、フィンランドの新しい教育ツールです。この、国の新しいカリキュラムが導入されてからまだ3年にすぎません。1歳から5歳の子ども達たちのための教育及びケア活動すべてにわたって指針となっている重要な考え方についてお話しましょう。一つには、子ども達の普通の幸せを重要課題であると位置づけています。読み書きや算数、その他何らかのスキルを早くから学ぶことがそれほど重要とは考えていません。それよりも子どもの幸福の方が大切です。次に大事なことは、社会的な交流です。そして第三の教育指針として、自主性、独立性をもって行動したり学んだりできる子どもになるよう教育していくことが大事であるとしています。

 

report_02_79_10.gifこのカリキュラムには、共通目標をどのように実行していくか、そのガイドラインも含まれています。いくつか例をあげてみましょう。「学ぶよろこび」は、小さい子ども達の教育やケアを組織化するとき、一つの重要事項となっています。何か特定のカリキュラム目標を達成すべく真剣に勉強に取り組ませるよりは、学ぶために、学ぶ喜びや学びへの興味を持てるようにすることに焦点を当てています。

 

report_02_79_11.gifECECカリキュラムを実行するにあたり、どんな教育方針が提案されているかについてですが、重要な教育的活動が挙げられています。第一は遊びです。つまり、遊びを重視した学びです。第二には、体を動かすことです。デイケアセンターで子ども達は様々なタイプの運動や音楽活動をします。第三には、音楽や絵などの美術的活動も重要であると考えています。第四には、幼稚園内や園外での探究も勧められています。

 

report_02_79_12.gif子ども達は、小学校に入ると教科の勉強をしなければなりません。またプレスクールが6歳になると始まります。これらのことを踏まえ、ECECカリキュラムでは新しい概念を打ち立てました。オリエンテーションです。1歳から5歳までの期間を、学校のカリキュラムの内容、あるいは教科に向けての教育的準備期間ととらえることです。ECECガイドラインは、子ども達は、数学、自然科学、歴史や社会、倫理、宗教哲学を学ぶに際し、そのオリエンテーション(準備)をしなくてはならないとしています。これらの準備が、1歳から5歳までに受ける教育の中味ということになります。

 

report_02_79_13.gif次はプレスクールの教育についてお話しましょう。まずフィンランドにおけるプレスクールの教育カリキュラムは非常に新しいものだということを知っていただく必要があります。学校に通い始めるための集中的準備段階としてのガイドラインができる直前の2000年にカリキュラムが始まったばかりです。学校にあがる前に、二つのカリキュラムがあるということに留意してください。つまり、0歳から5歳児のためのカリキュラムと、学校に通い始める直前の子ども達のための特別カリキュラムです。

私の時間はそろそろ終わりのようですので、最後にプレスクールのカリキュラムの特徴をいくつかあげます。男の子と女の子、それぞれの特性に合った教育が等しく提供できることを原則にしてカリキュラムが組まれています。教諭は、男の子も女の子も強い興味を持って学べるような活動を作り出さないといけません。これはとても重要な新しい原則です。

白川:つまり、男の子と女の子で必要とするものが違うという意味ですか。

オヤラ教授:そうです。先生方が性の違いを考慮して活動を計画することで、男の子も女の子も興味を持てるのです。

白川:つまり男の子と女の子のことを別に考えて活動を考えるのですね。


オヤラ教授:時には別の、時には同じ活動をさせます。大体は一緒なのですが、まあ、本当に難しいですね。

話を終える前に最後の原則をあげたいと思います。プレスクールの期間でとても重要なのは、どんな活動も子どもの自己肯定感を育てることを考えて組み立てられなければならないということです。子ども達が新しいことを学ぶこと、学校に行くのを楽しみにするようになることも大変常用な目標です。学ぶことへの興味、学習能力の強化、学びのための自己肯定感、この三つが重要なのです。

これで私のプレゼンテーションは終わりです。ここからはディスカッションで、問題をさらに掘り下げていけたらと思います。また、フィンランドのECECやプレスクールにつきまして、多くの情報に接することもできると思います。今日、こうして皆さんにお話しできる機会を与えてくださいまして、どうもありがとうございました。お礼申し上げます。

白川:オヤラ教授、本当にどうもありがとうございました。それでは、次にパネリストとしてご出席くださっていますスポデック教授にお話いただきましょう。

スポデック教授:こんにちは!甲南女子大学の皆様、本日はお招きいただきまして、どうもありがとうございます。こちらにお招きいただくのは、これで二度目になります。最初は3年前でしたが、学生さんたちの数が大きく増えられたように思います。

オヤラ教授の論文について意見を述べるようにと聞いています。ここでの私の持ち時間はあまり長いとは言えませんが、オヤラ教授があげられたフィンランドの幼児教育の内容につきまして、数週間検討しました。まずアメリカ人や日本人の方々にとっても重要と思われるいくつかの点を指摘したいと思います。来日経験が数回あるアメリカ人の観点から述べさせていただきます。

オヤラ教授は、論文の中で、フィンランドの義務教育の開始年齢について述べています。フィンランドでは7歳で始まっています。私が知るほとんどの国々よりも遅い始まりとなっているといえます。6歳から小学校が始まる国が多く、5歳で始まる国もあります。しかし、今年初めに出たOECDによる学力調査によると、小学校終了時における学力達成度で、フィンランドの子ども達が他の国々の子ども達を抑えてトップでした。大変興味深い結果だと思います。より早く小学校に入れば、高い学力がつくというものではないようですね。

フィンランドと、日本、アメリカを比較するにあたり、オヤラ教授は他にも6つ、重要な点をあげてくださいました。

第一は、デイケアあるいはチャイルドケアと幼児教育機関である幼稚園との関係です。私は3年前に幼児教育とチャイルドケアの関係についての会議に出席するため来日しました。そこで私が話した中に、アメリカで人々が使い始めたエデュケアという概念があります。つまり、チャイルドケアと幼児教育を一つのサービスに統合しようという考え方です。こうしたタイプのサービスはフィンランドをはじめ他の北欧の国々でも実施されています。そのときの会議のメインスピーカーのお一人は、こうした組み合わせは日本では起こりえないとおっしゃいました。しかし、フィンランドや他のスカンジナビア諸国では大きな成功を収めているのです。例えばアイスランドですが、小さな子どもは、幼稚園でもプレスクールでもチャイルドケアでもなく、プレイ・スクールに行きます。小さな子どものための遊びをベースにした教育です。こうしたプログラムは、教育と世話の両方を提供するもので、子ども達は半日あるいは丸一日、プログラムに参加して過ごします。

オヤラ教授が講演で述べられた第二のイッシューは、どんな子が幼稚園にいって、どんな子がデイケアに行くかに関係しています。フィンランドではすべての子どもがプログラムを受ける権利を有して、親は子どもが受けるプログラムを選ぶことができます。アメリカにおいては、プレスクールに申し込むか、チャイルドケアプログラムに申し込むかは、その費用を支払う余裕があるかにかかっているのです。ほとんどのプログラムが民間ですから、親は費用を払えさえすれば、どんなプログラムでも子どもに受けさせられます。アメリカで公立であるのは、公立の学校の一環として、5歳ちょっと前の子どもの幼児教育をサポートするものが、つい最近始まったばかりです。また、経済的に恵まれない家庭の子どものために、政府が提供するプログラムとしてヘッドスタートのようなもの、また、障害のある子ども達のためのプレスクールプログラムがあります。近頃では、すべての子ども達を対象に、公立の学校をつかって、幼稚園に入る準備教育としてのプログラムを提供している州もあります。

これに関連した問題ですが、誰が子ども達の幼児教育のための費用を負担するかという問題があります。日本では、公立の幼稚園に行こうと、私立の幼稚園に行こうと、親がその授業料を支払わなくてはなりません。アメリカでは、5歳、場合によっては4歳で公立の幼稚園、あるいはプレ幼稚園に通う子どもについては、親はその費用を払う必要はありませんが、デイケアあるいは、幼稚園に入園前のプレスクールに通う場合は、費用を支払わなければなりません。フィンランドでは、幼児教育は無料で、税収からし払われます。

フィンランドにおいては、幼児教育に従事しようとする者は、雇用前に教諭になるための準備教育を受けます。また教諭の仕事に就いてからも、継続して教育を受けます。デイケア、プレスクール、幼稚園のすべての教諭が学位を持っています。アメリカでは、公立の幼稚園の教諭は、少なくとも4年制大学の学士号をもっていますが、デイケアセンターの教諭は、あまり高い教育を受けていません。日本においては、短期大学でも4年制の大学でも幼稚園教諭の資格がとれます。幼稚園では短期大学と4年制大学の卒業生、両者が混在していると思います。

次に私が興味を惹かれたのは、幼稚園のカリキュラムです。ここでは具体的なところまで触れられないのは残念ですが、アメリカにおいては国が定めるカリキュラムというものがありません。州のカリキュラムはありますが、きわめて大まかなものです。日本では、国が定める幼稚園のカリキュラムがあります。数年前の改正の際には、"表現"について望まれることに関して、問題になりましたが、幼稚園の子ども達や先生方は何が問題だったのかご存じないと思いますが、多くの議論がありました。芸術的な表現というのは、フィンランドのカリキュラムでもとても重要とされています。

私がお話ししたい六つ目のポイントは、プレスクール、チャイルドケア、幼稚園と小学校の関係です。フィンランドでは現在、子ども達のこの移行期について関心がもたれています。義務教育を受けるまでの最後の年、フィンランドでは6歳ですが、子ども達が幼稚園やデイケアセンターから小学校にうまく移れるように、特別プログラムが用意されています。アメリカでは、幼稚園が5歳児を対象としていますので、これに当たるものは小学校の一部である特別クラスで、同じ建物内にあります。日本では、幼稚園と小学校がきっちりと別れていて、子ども達は幼稚園では、小学校の影響が及ばないようになっています。幼稚園では遊びに大きな比重が置かれていますが、小学校への移行については何もなされていません。子ども達にとって多分必要なことだと思いますが。

最後に、オヤラ教授がお話しくださったフィンランドの幼児教育で優先されている事柄に、私が感銘を受けたということをお伝えしたいと思います。世界中の様々な国々において、幼児教育において優先されるべき事柄は、共通するものであると思います。中国、日本、イギリス、オーストラリア、アメリカ、どこでも同じ優先項目を見ることができるでしょう。違いは、優先項目そのものにあるのではなく、こうした優先項目が国や文化のよってどのように実行されるか、そのやり方にあると思います。国によって違ってくるでしょう。

大変複雑で重要なオヤラ教授の文献に対し、簡単なコメントになりましたが、こうした機会をくださった皆様に心よりお礼を申し上げます。

白川:ドクター・スポデック、どうもありがとうございました。ここからは質疑応答の時間になります。学生たちは2時半にここを出ますので、まず学生たちから質問を受けたいと思います。

学生A:この講義を聴きに他大学からやってきました。オヤラ教授はフィンランドでは、2ヶ国語が話されているとおっしゃいましたが、どんな言語になりますか。

白川:フィンランド語とスウェーデン語の二言語になります。土地の言葉はフィンランド語になりますが、フィンランドの人口の6パーセントはスウェーデン人で、スウェーデン語をしゃべります。これで間違いないでしょうか、ドクター・オヤラ?

オヤラ教授:そうです。間違いありません。どの学校も大学も、母語がフィンランド語でない生徒、学生がいたら、二ヶ国語で教えなくてはなりません。

学生B:フィンランドの父親たちは、どのくらい子育てに参加していますか。父親の育児休暇の取得率はフィンランドではどのくらいでしょうか。

オヤラ教授:父親は育児休暇を一か月とれます。50パーセントから60パーセントの父親が、利用します。母親は、普通一年間の育児休暇をとります。

スポデック教授:50から60パーセント!日本の父親たちと随分違うのですね。

学生C:オヤラ教授の国では、なぜそんなに国がチャイルドケアや教育を支援するのですか。

オヤラ教授:子ども達は私達の未来であるからです。いたってシンプルな理由です。

スポデック教授:日本では出生率が下がり続けているのが問題になっていますが、日本でもフィンランドのように産休が十分にとれるような制度になれば、出生率も上がっていくのではないでしょうか。

学生D:フィンランドでは何人ぐらい子どもを持つのが普通ですか。

オヤラ教授:1.7人です。一家族にだいたい二人、二人以下になります。

学生D:国が手厚く子育て支援をしているフィンランドで、どうしてそんなに少ないのですか?支援がこれだけしっかりしているともっと多くなると思うのですが。

オヤラ教授:いい質問ですね。なぜもっと多くないのか?とても難しい質問ですが、いい質問だと思います。生活状態がよくなるほど、子どもの数は減っていきます。どの先進国についても言えることだと思います。ある意味おかしなことですし、理解に苦しみますが。フィンランドにおいても労働力が十分ではありませんから、このまま出生率が低いと将来的に外国から労働者を迎える必要があるでしょう。

学生E:日本では、女性が子どもを育てながら働き続けることがとても難しいと思いますが、フィンランドではどうですか。

オヤラ教授:フィンランドでは、子どもがまだ小さいうちは、育児休暇で3年間家にいることができます。この間雇用者は母親に対し休暇の取得前の地位を保証し、戻る際には同じ仕事に就くことができるようにしておかなければなりません。これは法律で決まっています。

学生G:子どもが病気のとき、あるいは何か持病があって学校やチャイルドケアセンターに行けないとき、または長期の入院が必要なとき、フィンランドではこうした子どもを支援するシステムが何かありますか?

オヤラ教授:どの病院にも長期入院の子ども達のために院内学級やデイケアセンター(幼稚園)があります。そこで教える教諭は、通常の教員免許の他に、こうした所で教えるための教員免許を持っています。ご質問、どうもありがとうございました。

学生H:フィンランドではどうして女子大学がないのですか。

オヤラ教授:教育政策でもお話ししたように、フィンランドでは男女にかかわらず平等に機会が与えられています。そのため、女の子、あるいは女性だけのための学校、短期大学、大学というのはありません。昔は、男女別学の高校がありましたが。

学生I:フィンランドでは社会福祉が非常に充実していて、3歳前の子どもを家で母親が面倒をみる場合、国が相応な報酬を支払うとうかがいましたが、膨大な予算が必要になると思います。税金がかなり高くなると思うのですが、先生はどのくらいの税金を納めていらっしゃるのかうかがってもよろしいですか。

オヤラ教授:所得税は平均で35パーセントになります。私の場合は、40パーセント納めています。その他に22パーセントの消費税があります。
(学生たちから驚きの声)

白川:大変興味深いシンポジウムで、まだまだ質問はつきないと思いますが、残念ながら、学生たちは、次の授業のため退席しなくてはなりません。オヤラ教授、スポデック教授、本当にどうもありがとうございました。

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「フィンランドの子育てと教育改革」は、甲南女子大学国際子ども学研究センター『子ども学』第10号(2008年3月)に掲載された内容を翻訳して、転載いたしました。

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