意図・目的をもった指導
以前の記事において、著者(Cherrington, 2018)は、改訂されたテファリキ(Ministry of Education, 2017)の大きな方針転換は、ニュージーランドでは実践者が「思いやりをもちながら子どもと関わり、意図や目的を備えた教育のもと(彼らは)子どもの学びや成長を促す」(Ministry of Education, 2017, p. 59)よう期待されるものであった、と述べている。これはオーストラリアやイギリス、アメリカなど複数の国でみられる意図・目的をもった指導に、より重きを置くようになっている動きとも連動している。 本稿では、教員が幼児の社会情動的スキルの発達に関し、意図をもってどうサポートするのかということに焦点を絞る前に、意図・目的をもった指導とは何を意味するのか検討する。
Epsteinは「intentional teaching(意図・目的をもった指導)」という用語を作ったことで知られ、それは「教員が何をしようとしているのか考え、子どもの発達をどう促し、真の学び、継続的な学びをどのように生み出すか」であると、常々説いてきた (2007, p.10)。意図をもった教員は、子どもの学びについて、何を計画するかだけでなく、教育的な枠組み(例えば環境を整え、学習体験を計画する)や教育的活動(教授方法や相互関係)にどう沿うかについて熟慮し、目的意識をもっている(Siraj-Blatchford, Sylva, Muttock, Gilden, & Bell, 2002)。
とはいえ、意図・目的をもった指導に携わるということは、教員が高圧的で命令的となったり、あるいは子どもの遊びを統制したり制限をかけたりすることは求められていない。むしろ、意図・目的をもった教員は、遊びや日々の活動、日課の中で、教員が主導する活動、子どもが主導する活動、仲間同士で進める活動を組み合わせながら学びの体験を計画し、提供するのだ(Snyder et al., 2017)。このような複合的な支援は、子ども個々の学びのニーズや興味が異なるので、それぞれ違ってくるが、そのためHedgesやCooper (2016)が主張しているように、子どもの学習目標をサポート、強化できるような形で寄り添えるよう、子どもがもっている「既存の知識」を理解しなければならない。子どもの学びを伸ばすのに、大人が担う役割は不可欠となる(McLaughlin & Cherrington, 2018)。つまり「持続する集団遊び」(Fleer, 2015, p, 1811)や子どものごっこ遊びにおいて大人が積極的に役割を担うことや活動に関与することが重要になるのである。それゆえ、意図や目的をもった指導は単純なものではなく、一人ひとりの子どもに対する理解を基に計画を作成すると共に、子どもと関わっている際にも即興的に使用できる幅広い教授方法を備えることが求められているのである。
次の章では、教員が子どもの社会情動的スキルの発達を、意図・目的をもってどう支援できるかについて、テファリキの学びの成果と関連づけて検討し、保育現場で乳幼児期の子どもと関わる際の効果的な実践例も紹介したい。
社会情動的スキル
幼児の学びにおいて、社会情動性の発達はその根幹をなすものであり、世界各国の幼児教育カリキュラムに取り入れられている。これまでの研究成果より、子どもの社会情動的スキルの発達を支援することが短期的にも長期的にもいい成果を得る上で重要だと裏付けられている(Shonkoff & Phillips, 2000)。社会情動的スキルの定義は色々あるが、一般的な理解として子どもの社会情動的な学びの領域と一致するとされている。これは友達関係を構築する能力や、向社会的に大人や仲間と関わる能力、感情をコントロールする力、自己統制力、仲間との対立を解消する力や、他者に対する共感力などである (McLaughlin, Aspden, & Clarke, 2017)。子どもが社会情動性をもっているということは、自己肯定感があり、逆境においても忍耐力を発揮できるということである。社会情動的スキルは、家族、地域社会、文化と表裏一体であり、子どもはその社会的・文化的な場面に応じた行動をとることができる。
社会情動的スキルの重要性が広く認知されているとはいえ、幼児教育にかかわる教員がこれを理解し、意図をもって適切に指導するべく効果的な方法を使うことができるよう、さらなるサポートが必要かもしれない(Rosenthall & Gatt, 2010)。幼い子どもたちの人生について、教員や大人に伝えたい大切なメッセージの一つは、社会情動的スキルというのは一足飛びに獲得されるものではなく、子どもが実践の機会を得ながら、意図や目的をもった指導を受ける中で時間をかけて獲得していくものである、ということである(McLaughlin et al., 2017)。
ニュージーランドの教員たちは、カリキュラム全体に散りばめられている鍵となる学習領域(key areas)を通して、社会情動的スキルに焦点を当てるべきだとされている。例えば、「貢献」の要素のうち二つの学びの成果は、友達関係の構築と他者との肯定的な社会的交流と関連している。「ウェルビーイング」の要素では、感情の理解、表現、統制に着目した学びの成果があり、「時間をかけた指導と励ましを通じ、子どもはますます自分をコントロールし、感情や要望を表現できるようになる」とされる(Ministry of Education, 2017, p. 24)。テファリキの学びの成果の枠組みにおける注目すべき特徴は、年月を経て発達する子どもの能力、つまり乳児から幼児、そして児童へと成長しながら培う能力を認識していることである。
子どもの社会情動的スキルは、生まれてから小学校に入学するまでの間に急速に発達するため、教員や大人が積極的に意図をもって接することで、このスキルの発達は早期より支援が可能である(Shonkoff & Phillips, 2000)。社会情動性に対する支援は、主たる養育者との関係の中で始まり、具体的には、子どもからのスキンシップや愛情表現に対して、(大人が)安心や安全、そして、信頼を抱けるような形で反応を返すことで生まれるのである(Ho & Funk, 2018)。子どもたちが様々な感情を経験し、統制し、表現する能力については、教員が時間の経過の中で意図や目的をもった支援をどのように活用し適応させているかといった問いと関連付けて考えられるかもしれない。
例えば、乳児が泣く、笑う、興奮して手足をバタバタさせるなど、様々な感情を表すと、大人はそれに合った感情を見せ、その流れに合った言葉を返す。これが子どもの感情を認識する素地を作りだすのである。幼児(よちよち歩きの子ども)に対しては、(教員が)新たな感情を示したり、(教員の)感情を表現したり、他者の感情を伝えることができ始める。大人は豊かな感情表現をするため、幼児は自分で感情表現をし始める前に、見慣れた大人が感情表現の際に使用した言葉や表現を繰り返したり、その真似をしたりするかもしれない。子どもの成長に伴い、教員は子どもたちが新たな感情を経験できるよう本やゲーム、人形を使った関わりができるようになり、また、絵などを活用しながら子どもたちが感情の範囲を認識し、適切に表現できるよう支援を進めることも可能になる。より年長の子どもは、年少の子どもを励ますようになってくるが、これは特に、教員がこうした場面で、肯定的な言葉をかけ、前向きで寄り添うような情緒的雰囲気を作り出すことで生まれるのである。
前述の簡単な例は、教員が子どもたちの社会的情動スキルをどのように育み促進していくかについてのスナップショットであり、そこでの教員の役割として、第一に、社会情動的スキルやその性質を明確にすること、第二に、子どもたちがこれらスキルを日々の生活の中で経験し積み重ねられるよう、意図や目的を備えた支援に従事することの必要性が説かれている。早期に子どもたちが社会情動的スキルを発達させることの重要性を鑑みると、子どもたちの学びや発達を最大限に促すために、教員が意図・目的をもった社会情動的な指導をしていかなければならないことは明白である。大人が主導する活動、子どもが主導する活動、仲間同士で進める活動を通した学びを意図的に混在させることにより、教員はそれぞれの子どもにあった社会情動的な学びの機会を個別に作ることができ、テファリキの学びの成果に沿って、伸びゆく子どもの能力をサポートすることができるのである。
参考文献:
- Cherrington, S. (2018). Te Whāriki 2017: a refreshed early childhood curriculum for New Zealand. Child Research Net, https://www.childresearch.net/projects/ecec/2018_02.html
- Epstein, A. (2007). The intentional teacher: Choosing the best strategies for young children's learning. Washington D.C.: National Association for the Education of Young Children.
- Fleer, M. 2015. Pedagogical positioning in play - Teachers being inside and outside of children's imaginary play. Early Child Development and Care, 185 (11-12), 1801-1814.
- Hedges, H. & Cooper, M. (2016). Inquiring minds: Theorizing children's interests. Journal of Curriculum Studies, 48(3), 303-322, DOI: 10.1080/00220272.2015.110971
- Ho, J., & Funk, S. (2018). Promoting young children's social and emotional health. Young Children, 73, 73-79.
- McLaughlin, T., Aspden, K, & Clarke, L. (2017). How do teachers support children's social emotional competence: Strategies for teachers. Early Childhood Folio, 21, 21-27.
- McLaughlin, T., & Cherrington, S. (2018). Creating a rich curriculum through intentional teaching. Early Childhood Folio, 22, 33-38.
- Ministry of Education. (2017). Te Whāriki. He whāriki mātauranga mō ngā mokopuna o Aotearoa Early childhood curriculum. Wellington: Ministry of Education.
- Rosenthal, M. K., & Gatt, L. (2010). Learning to live together: Training early childhood educators to promote socio-emotional competence of toddlers and pre-school children. European Early Childhood Education Research Journal, 18, 373-390.
- Siraj-Blatchford, I., Sylva, K., Muttock, S., Gilden, R., & Bell, D. (2002). Researching effective pedagogy in the early years. Research Report No. 356, Department for Education and Skills. London: HMSO.
- Shonkoff, J. P., & Phillips, D. A. (Eds.). (2000). From neurons to neighbourhoods: The science of early childhood development. Washington, DC: National Academy Press.
- Snyder, P. and the Embedded Instruction for Early Project. (2017). Tools for teachers embedded instruction Series [Workbook and Practice Guides]. Unpublished professional development series. College of Education, University of Florida, Gainesville, FL.
謝辞
本稿は、ニュージーランドで刊行された2本の論文"Creating a rich curriculum through intentional teaching"(McLaughlin & Cherrington 2018) および"How do teachers support children's social emotional competence: Strategies for teachers" (McLaughlin, Aspden, & Clarke, 2017) をもとに執筆された記事を翻訳したものです。
翻訳にあたり多大なるご協力をいただいた、兵庫教育大学の飯野祐樹先生に深謝申し上げます。