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研究室

【ネパール】 ネパールの就学前教育

ニルマラ・ウプレティ(Nirmala Upreti)(トリプバン大学 パドマ・カニヤ・カレッジ 家政学部 准教授)

2012年10月26日掲載
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ネパール

ネパールは、南アジアに位置する小さな国である。多文化国家であり、2011年の国勢調査によると、102の民族が住み、92の言語が話されている。国の公用語はネパール語である。国土は、東西約850キロメートル、南北約200キロメートルに及び、面積は147,181平方キロメートルである。(CBS, 2011)

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図1:アジアの地図におけるネパール
出典:Upreti, 2011

サンスクリット語で「雪の住処」を意味する雄大なヒマラヤ山脈があることで知られるこの国は、その国土のほとんどが、世界で一番高いこの山脈の南側の斜面に沿って位置している。2,400キロメートルに渡るヒマラヤ山脈の3分の1をネパールが占めている。内陸国であり、国の三方をインドに、北方を中国チベット自治区に囲まれている。インドの西ベンガルを挟んで15キロメートルのところにはバングラデシュが、シッキムを挟んで88キロメートルのところにはブータンが位置している。最寄りの港は、400キロメートル離れたインドのコルカタである。ネパールは、輸送用設備や海の利用(最寄りの港はベンガル湾にある)をインドに大きく依存しており、中国からの輸入品の陸揚げの多くをインドの港に頼っている。

2011年の国勢調査によると、ネパールの人口は26,620,809人であり、人口増加率は1.4%である。前回の国勢調査(国勢調査2001)では、人口23,151,423人、人口増加率2.25%と報告されている。(ネパール政府、2011年国勢調査暫定結果)

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図2:ネパールの地図
出典:Upreti, 2011


ネパールの就学前教育

1950年代まで、ネパールは、事実上、世界で孤立していた。ネパールで正規の学校教育が発展し始めたのは1950年以降である。1950年代初頭の識字率は、約2%であった。初等教育が発展し始めたのは、1951年以降である。とりわけ、幼児教育に関しては、ネパールの教育制度全体において最もなおざりにされていた分野であった。

今日、ネパールの教育制度は急速に拡大し、全ての子どもの需要を満たすことができるよう取り組まれている。乳幼児の発達支援(ECD: Early Childhood Development、以下ECD)は、長い間、それがもつ重要性に見合うほど重視されていなかった。子どものケアは、とりわけ家庭内において、十分に配慮されてこなかった。

1950年、カトマンズにモンテッソーリ学校が開校され、いくつかの地区にバルマンディール(孤児院)が設立されたことにより、就学前教育が始まったが、その重要性が認識されたのは、近年になってからだった。

表1:2006年から2008年までのネパールのECD施設数

ネパールのECD施設 2006 2007 2008
地域主体のECD 229 6,332 6,332
政府のECD施設 5,835 10,191 13,691
私立のECD施設 3,313 3,413 3,636
合計 9,377 19,936 23,659

表1は、ネパールのECD施設の数が増えつつあることを示している。
出典:ネパール政府教育省教育局(2008年)カトマンズ

最新の統計によると、国内には24,000校を超える学校や地域主体のECD施設がある(速報2007)。ネパール政府は、第7次計画(1987-1992)の施行にあたり、ECDプログラムに取り組み始めた。第7次計画で政府は、妊娠時からの、子どもに対する適切なサービスの必要性を認識していた。しかし、政府は、家庭や地域社会に対し、率先して保育サービスを提供することを奨励する以外には、具体的で明確な計画や政策を展開しなかった。第8次計画(1992-1997)では、第7次計画と同じ声明を繰り返した。第9次計画(1997-2002)では、国のECDプログラムを拡大するために、いくつかの具体的な計画や政策が展開された。第9次計画では、基礎・初等教育プロジェクト(BPEP: Basic and Primary Education Project)として10,000校の就学前学校を設立することが目標とされていたが、施行時にはその数が5,700校に削減された。実際に設立に至ったのは、2,915校であった。第10次計画(2003-2008)では、就学前学校の設立目標数を13,000校とした。2010/2011の速報では、国内のECDおよび就学前クラスの数は31,089であり、そのうちの26,773(86.1%)が地域主体のECD施設や地域の学校が運営するものであり、残りの4,316(13.9%)は私立の学校が運営するものである。


ネパールのECD施設と就学前クラスの種類

  • 政府、NGO、国際NGO、および民間が運営する、地域主体および学校主体の施設
  • (私立や政府の)小学校に併設されている就学前クラス

今日、カトマンズのような大都市には、モンテッソーリ教育にちなんで名付けられた就学前学校が増えているが、学費は高額である。「モンテッソーリ就学前学校」では、実際にはモンテッソーリ教育法を用いておらず、学校経営のために名前を利用しているにすぎない。

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政府の学校に通う子どもたち

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農村地域の政府の学校に通う子どもたち


ネパールのECDカリキュラム

教育省の幼児教育担当は、全ての私立学校、地域の学校、および、3~4歳児向けのECDプログラムを行っている施設を対象に、カリキュラム手引書を作成した。

このカリキュラム手引書は以下の3部から成っている。
a. 序論、目標、ECD環境
b. カリキュラム、基礎教育分野、科目別分野
c. テーマに基づいた活動(教育省、2006年)

表2:ECD施設における年齢別の一日の活動配分

番号 分野 3歳児 4歳児
1 健康的な習慣、道徳規範、価値観の習得と確立、
生活スキルの発達
30分 40分
2 自由遊び 60分 45分
3 言語表現 45分 60分
4 計画された社会的活動 30分 45分
5 総合的な運動発達 45分 30分
6 計画された教育的活動 30分 60分
  合計時間 240分
(4時間)
270分
(4時間半)

*表2では、3歳児の活動時間は4歳児に比べて短いことがわかる。

表3:ECD施設に奨励されている1日の時間割

番号 活動 時間
1 屋外での遊び 15分
2 運動遊びと社会交流 15分
3 共同作業 30分
4 計画された活動 15-30分
5 一人遊び 15分
6 計画されたグループ遊びと活動 20分
7 健康および道徳に関する訓話/休憩 10分
8 昼食/トイレ -
9 音楽とロールプレイング 30分
10 休憩 10分
11 計画された活動 15-30分
12 自由な一人遊び 25分
13 計画されたグループ活動 10分
14 音楽表現 10分
15 学級会 15分
16 各自の帰宅準備 10分

子どもは、年齢に応じて、1日最低4〜5時間を施設や保育園、幼稚園の年少クラスで過ごさなければならず、施設やクラスは、年に32週間(1週間に6日、日曜日から金曜日の午前10時から午後2〜3時まで)開設されなければならないとされている。

ECDカリキュラムの目標は、全ての発達分野において、子どもたちに能力をつけさせることである。

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私立の学校に通う子どもたち

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私立の学校の就学前クラス

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私立の就学前学校の遊戯場


運営の形態

私立および政府のECD施設は一般的に日曜日から金曜日まで運営されている。ECD施設や就学前学校の多くは、午前10時に始まり午後3時に終わる。一部の私立のECD施設や保育園のなかには、時間に融通が利くところもある。カトマンズ盆地にある政府の学校では、祝日の他に、冬休みを45日、夏休みを15日設けている。私立の学校では、この冬と夏の休みは各学校に任されている。

学校主体のECD施設や地域主体のECD施設は、政府主導のもの、国際NGO/NGOの協力によるもの、政府と国際NGOの連携によるもの、の3つの形態で運営されている。
ネパールでは、ECDプログラムの数が増えてきているが、その質は地域によって異なっている。都市部では、教育費が高額なところ、施設が整っているところ、施設が整っておらず質の低いところなど、様々なECD施設がある。農村地域や遠隔地のECD施設には、訓練を受けた保育者がおらず、子どもたちが使う教材も充分ではない。

筆者は、9つの政府の学校と9つの私立の学校を選び、学校や教室の環境を観察するという、小規模な調査を行った。

以下が、その結果である。

  1. ネパールの学校は、地理的に様々な場所(山間部、平野部、農村地域、都市部)に設置されていた。
  2. 様々な地域におけるECDプログラムが直面している問題点は以下の通りである。
  1. 不十分な設備
  2. 無資格でスキルが未熟な教員や保育者
  3. 就学前クラスで使う教材やおもちゃが不足しており、文房具の質も極めて劣悪である
  4. 政府の学校は、校舎は広いが整備されていない

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グラフ 1:私立および政府立の学校の学校環境の差

グラフは、私立の学校に比べて、政府の学校は環境が悪く、保育に適していないことを示している。学校の環境についての平均獲得スコアは、合計248点中、私立の学校は135.0点、政府の学校は105.5点であった。

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私立の学校に通う子どもたち

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政府の学校の就学前クラス

文献

  • Nepal, G. (2011). Statical year book of Nepal. Kathmandu: Government of Nepal ,Ministry of education.
  • Acharya, U. D. (2002). primary education in Nepal. Kathmandu: EKkata Books Distributers.
  • Shrestha, K., Bajracharya, H. R., Aryal, P. N., Thapa, R., & Bajracharya, U. (2008). Early Childhood Policy Review in Nepal. Kathmandu,Balkhu: CERID.
  • UNICEF. (2007, december). Retrieved 5 19, 1011, from http://www.unicef.org/earlychildhood/index.html
  • Nepal, Government .(2007). Flash I Report 2007/08 Sanothimi ,Bhaktapur: Ministry of Education.
  • Upreti, Nirmala. Development During Early Childhood: Pre-primary Education in Nepal. Delhi, India: Nirmala Upreti, 2011.
  • Department of Education, Ministry of Education,Government of Nepal. ECD Curriculum Handbook. - 2006. 15 08 2011 .
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