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【中国】 政府が職責を履行することは、幼児教育事業発展の大前提である

要旨:

幼児教育は社会公益事業であり、幼児教育を発展させることは、政府が当然引き受けるべき責務である。蘇州市の各級政府は、幼児教育発展に関する通達文書に真剣に取り組み、一貫して政府の資金投入を中心に据えて、人々が満足できる幼児教育を実施した。そして、公立園主体で教育部主管であり、モデル園を主導者とする、公立・民営共存の、優良でバランスよく発展していく幼児教育の基本構造が出来上がったのである。

Keywords;
中国, 保育, 公益事業, 幼児教育, 幼稚園, 張春霞, 政府, 社会, 蘇州
中文 English
中国の基礎データ

幼児教育は基礎教育の基盤であり、生涯教育体系を全体的に構築するための基礎工程である。「第十次五ヵ年計画」に入って以来、蘇州市各級政府は、国務院弁公庁による「<幼児教育改革と発展の指導意見>に関する通知」(国弁[2003]13号)、江蘇省政府弁公庁「<幼児教育改革と発展を加速するための意見>に関する通知」(蘇政弁発[2004]73号)及び蘇州市政府の「幼児教育改革と発展をさらに加速させるための決定」(蘇府[2003]141号)文書の精神を真剣に貫き、資金投入を大きくして負担を少なくし、人々が満足する幼児教育を行った。

一、公立園を主体とし、政府の資金投入を主とする

幼児教育は社会公益事業であり、社会公益事業を発展させることは政府が当然引き受けるべき責務である。改革開放政策以来、蘇州市の幼児教育においては、各級政府が特に重視する中で、急速に発展する経済を後ろ盾に、公立園を主体とし、政府資金投入をその経費の主要財源とする仕組みが一応出来上がった。

蘇州市の380箇所の幼稚園の中で、公立園は263箇所あり幼稚園総数の70%を占める。集団経営園は54箇所で14%、民営園は63箇所で16%を占めている。350箇所の村レベルの幼稚園(以下「村園」)(学級)では、22%の村園の土地建物は郷(鎮)政府による投資、53%は村委員会による投資、24%は附属している小学校の自己資金に依拠している1 )

園舎建設と人員の賃金は、幼稚園の経費の主要支出項目である。蘇州では、これらの大きな支出項目は政府の資金投入が主となっている。園舎建設について言えば、蘇州市所轄の県レベルの市の郷鎮センターの幼稚園を例にすると、張家港市はこの3年間で新設された幼稚園が15箇所、増築が11箇所、改築が32箇所あり、経費投入の累計は2億元余りに達した。常熟市がこの5年間に幼稚園の新築や増築・改築に費やした投入金額は1億4千万元余りに達し、新築された幼稚園は22箇所、改(増)築は12箇所であった。呉江市では、ここ数年間に農村センター幼稚園が16箇所新設され、改築や増築をした農村センター幼稚園が5箇所あり、総投入額は1億4千万元余りに達した。

幼稚園が人員の賃金に費やす経費の財源には主に2つのルートがある。1つは財政から引き出す方法で、もう1つは、保護者が納めた保育費と管理費を充てる方法である。一般に、公立園の正式採用の教諭の賃金は国家財政が負担し、直接採用の教諭の賃金は保育費と管理費からの支出となる。よって、蘇州市の幼稚園にとっては、公立園の教諭の数が増えれば増えるほど、保育費と管理費の徴収額は少なくなるが、政府の財政投入は膨らんでいく。蘇州市の現在の幼稚園教諭7798人のうち、公立園の教諭は4294人で、幼稚園の総教諭数の55%を占めている。平均年収3.5万元として計算すると、蘇州市の財政から、毎年幼稚園の公立園の教諭の賃金として1.5億元が支払われている。

政府の幼児教育への資金投入を保証するため、蘇州市郷一級人民政府は毎年初頭に「目標責任書」を制定するとき、必ず幼児教育を政府事業計画に入れており、幼児教育を独立項目として立て、政府が統一して経費を調達し、最終的に責任者による責任項目となって実行される。一つ上級の指導部署が年度末に郷鎮事業の審査を行う際には、必ず「目標責任書」の中の幼児教育項目に対する審査を行い、審査に通らなかったものに対しては、責任者の責任を追及することになっている。

二、資本金を合理的に分担し、民営幼稚園を規範に合わせる

幼児教育がとしてどの家庭もみな受けられる社会福祉となるよう、各級政府は真剣にそれぞれの政策を制定し、蘇州市の幼児教育が良質で安く提供出来るよう保証した。入園費用においては、政府と家庭が共同で教育資金を負担するようにした。蘇州市現行の幼稚園の徴収額の基準は、2006年上半期においては、教育部門が率先して、商工と財政部門が参与する「幼稚園児の平均養育コスト専門調査研究会」の基礎の下に制定された。新しい徴収額の基準は、南京よりやや低く、無錫・常州・鎮江と同水準を保ち、「コスト計算と合理的分担」の原則を充分に体現した。蘇州市の市街区域にある省レベルのモデル幼稚園を例に見ると、在園児の平均養育コストは、750元/児・月で、そのうち保護者の負担額は480元で、教育コストの64%を占め、政府が36%を負担している。さらに張家港市にある省レベルのモデル幼稚園の例では、在園児の平均養育コストが490元/児・月、保護者負担額200元で、教育コストの41%を占め、政府負担は59%となっている。

政府の負担部分については、一方では財政から費用を引き出し、項目と人員の賃金という形で直接幼稚園に投入し、もう一方で、低所得家庭の子女の入園料減免や、本市職員の子女の入園料に対し、一部払い戻しをするなど保護者を援助する方法で間接投入を行っている。蘇州市人民政府が2006年に通達した蘇州市政府弁公庁[2006]65号文件の規定は、本市の職員の子女(計画生育政策に合致していて、蘇州市に戸籍がある)の保育費と管理費は毎月200元を基準として払い戻しを行うと定めている。この他、蘇州市の現行の幼稚園費用徴収政策においては、戸籍のない地区で学ぶとか、学校選択に関わるような問題はなく、全ての子どもは入園費用において同じ基準であり、幼児教育の福祉性と公平性を充分に体現している。

公立園が不足する情況があり、民営園は、その補充施設として時運に応じて生まれた。民営園の保護者が同じように政府の補助を受けられるよう、各級政府は絶えず実践してきた基礎の上に、互いに関連する一連の政策を試行した。例えば、1. 園舎の賃貸料を免除すること。一部の集合住宅地区の幼稚園の付設には、公開入札を通じて民間市場に分け入る。民営の教育のコストを引き下げ、民営教育を支援するために、地方政府によっては、3年間の賃貸料免除という優遇政策を打ち出し、その条件として、集合住宅地区の保護者にしっかり奉仕し、3年で優良な幼稚園を築き上げることを要求している。2. 奉仕範囲を定めること。集合住宅地区内の保護者の利益を保証するため、一部の区・市では落札者と交わした合意書で具体的に規定し、奉仕範囲区内の幼児の入園は、一律に公立園の徴収額の基準に沿って実施される。集合住宅地区の幼児数が在園幼児総数に占める割合が一定比率に達した場合は、政府は賃貸料を減免する方法を採ることで、民営園に対する補助を行う。3. 教師の待遇を保証する。民営園の教諭の利益を保証するため、一部の区・市では、各町内会が1園児あたり毎年200元を、幼稚園に払い出さなければならないと規定し、教諭の賃金の待遇が毎年上がっていくようにした。また、集合住宅地区に幼稚園を付設する落札者に対し、「教諭の待遇は、当該地区の公立園の教諭の賃金水準を参照する」などの条件を出した。そして相次いで、農村の公立園以外の教諭の最低賃金保証ラインを公布し、農村の幼稚園教諭の養老保険問題についても徐々に解決していった。さらに、多くの郷鎮では、公的試験を受けて教諭資格を得た農村の公立園以外の教諭のために専門の賃金基準を設けて、経済面で公立園の教諭の待遇を受けられるようにした。

三、教育部署が主管し、複数のモデルが共存する

国務院弁公庁[2003]13号文件の精神に基づき、蘇州市の幼児教育は、地元が責任を持って各級で管理し、関係部署が担当するという管理体制が実施された。その中で、教育部署は幼児教育の主管部署であり、重要な管理責任を引き受けている。郷鎮センター幼稚園以上の各種幼稚園の業務管理と教諭資格者養成は、教育部署の機能範囲であり、教育部署が直接管理している。農村の数多くの、規模が小さくて分散配置されている村園に対しては、郷鎮センター幼稚園が全面的に管理を担当している。こうした管理システムが形成されたことは、幼児教育を全体的に推進し、農村の幼児教育の質を全面的に向上させる組織的保証となっている。

郷鎮センター幼稚園の村園管理には、大体次のような幾つかのモデルがある。1. 合併式管理。村園を郷鎮センター幼稚園の分園として、人・資財・物資・教育教学・隊伍建設などを本園により統一管理し、本園と分園の教諭は相互に移動や交替をすることができる。張家港市は村園の管理について大部分がこのモデルを採用しており、現有の21箇所の村園のうち、9箇所は郷鎮センター幼稚園の分園で、張家港市の村園総数の約43%を占めている。2. 派遣式管理。郷鎮センター幼稚園から副園長または業務の柱となる人材を村園に派遣して園長を任せ(編成と待遇は変わらず)、村園に対し全方位管理を行う。このモデルには、村園が比較的少なく、郷鎮センター幼稚園が工作機械の役割を果たせるような郷鎮が適している。3. 輻射式管理。郷鎮センター幼稚園を中心として、周囲の村園に放射状に広がっていく。その管理はセンター幼稚園の園長または副園長が統一的に責任を持ち、村園の教諭の評定もそこに含まれる。センター幼稚園の村園の業務指導と管理は、主に教学の公開と農村での教育支援活動を通して行われる。村園の投資母体が誰であれ、村園の教育、教学、教諭グループは、郷鎮センター幼稚園が統一管理しており、これは、蘇州市の農村幼稚園の管理においてはすでに共通認識となっている。こうすることで、かつて村園の人員採用を各村の自主で行っていて、教諭陣の質を保証しにくい、教育と教学が放置される、各村の教諭が自由放任となっているなどの情況を改善し、村園の教育と教学の質を向上させるのに役立ち、村園の幼稚園児の教育条件が目に見えて改善された。

以上、蘇州市の実践が語ってくれたように、経済発達地区は、幼児教育を人々に幸福をもたらす社会公益事業として行える十分な条件と能力を備えており、一般の人々が、実際には政府の多額の資金投入の中から福利という恩恵を受けているということである。政府の強力な支えがあってこそ、幼児教育事業は健全で秩序を保ち、順調に発展していくことができるのである。

注釈)
1 ) 文中の全てのデータは蘇州市教育局から提供されたものである。

参考文献:
1.王成剛.提昇弁園品質、彰顕弁園特色──幼児園発達規劃研究.学前教育、2006(4)
2.蔡迎旗."幼児教育社会化"政策的解析.学前教育研究、2005(1)
3.呉立保.論対小城鎮民弁幼児教育的社会支持.学前教育研究、2005(4)
4.宋文珍.実施『中国児童発展綱要』、促進我国児童発展.学前教育研究、2006(2)
5.トウ暉、喩剣平、鍾慧.促進公弁幼教事業高速高効発展的探討.学前教育研究、2006(11)

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本稿は「学前教育研究」(中国学前教育研究会出版)の2007年1月号内の記事を転載したものである。
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