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【ニュージーランド子育て・教育便り】第46回 ギフティッド教育プログラムを通してインクルーシブ教育を考える

要旨:

ニュージーランドにはギフティッド児向け教育プログラムとして週に1度、専門の教師による教育を受けられるプログラムがあります。保護者の費用負担があるのですが、対象となる子どもたちは同じギフティッドの子どもたちと共に1日を過ごし様々なアクティビティに取り組みます。そして、この週に1日の参加した日はもともと通っている学校も出席となります。このギフティッド児向け教育プログラムについて紹介しています。

<本稿について>
※CRN編集部より:インクルーシブな社会を目指すために、今年度は世界各国の子育て現場の事例を収集しています。日本で展開するインクルーシブ教育の現場の課題解決にヒントになればと願っています。
本コーナーでは、フィンランドカナダBC州ノルウェードイツNZ、インドなどの園や学校現場の取り組みをご紹介します。

インクルーシブ教育についての各国の特集に寄せて、この度はギフティッド教育プログラムの1つを取り上げたいと思います。ニュージーランドには、対象の児童を取り出してギフティッド教育を提供するというプログラムがあります*i。ニュージーランド各地で対面で受ける機会があり、現在はオンラインのコースも充実しています。対象学年は、Year2からYear8(年齢では6~13歳程度にあたる)です。ギフティッドというと人によってさまざまなイメージをもたれると思いますが、才能の素晴らしさだけではなく、特有の苦悩やニーズももち合わせているという理解のもとで展開されている側面も強いようです。このプログラムが対象にしているギフティッドの説明を読むと、決して神童(モーツァルトのような)のみを選んでいるわけではなく、門戸は比較的開かれていて、このプログラムが必要な状況にある子どもには届くようにしているのだろうということが伺えます。

このプログラムの説明によれば、ギフティッド児について「本来はクラスに1-2人はいるもの」とされていますが、(補足:そういった比較的珍しくない存在としているはずのギフティッド児でも)必ずしも簡単に見つかるものでもないとしています。そして、ギフティッドの子についてしばしば以下のような特徴があると記載されています*ii

  • あまり一般的ではないたくさんの質問をする
  • 深い興味や情熱を示す―長く続くものもあれば、短いものもある
  • 感情の現れや振れ幅が大きい
  • 同年齢の子といることが難しい
  • 独特なユーモアを楽しむ
  • 複雑で発展的なことを素早く理解する
(とはいえギフティッドの子どもたちは非常に多様で、必ずしもこの特徴にあてはまるわけでもなく、特に特性(ASD、ADHD、ディスレクシアなど)がある場合には自分の才能を十分に表現できていなかったり、感じられていない場合もあるとのことです)

こうした子どもたちに、専門の教師が教育を提供するというのがこのプログラムです。通っている学校とも必要に応じて連携をとっているようです。「取り出す」というと数時間単位のイメージをもたれるかもしれませんが、「取り出し」は週に1回、まる1日で、行く先も、このギフティッドプログラムを提供している学校に出向くことになります。オークランドでは、4カ所でこのプログラムが提供されています。

このギフティッド向けプログラムに参加している日は、小学校に通っている場合は、学校に出席したとみなされます。小学校の側もこのプログラムを把握していて、対象となりそうな児童にはお勧めをしたり、保護者が自ら調べている過程でその存在を知ることもあります。家庭の費用負担が別途あり、1週間あたり75ドル、年間2,850ドル(日本円にして255,000円ほど)となっています。所得などの条件を考慮して、負担額が10ドルまたは半額に減る仕組みも用意されています。なお、現在はオンラインのコースや分野に特化したコースも用意されており、費用負担は通うコースの半額程度です。

学校に通っている生徒の場合には、保護者、教師、校長の三者からの申し込みが必要になります。ホームスクーリングの生徒の場合には、保護者が申し込むことになります。申し込みに際しては非常に細かい質問項目があり、それらに回答する必要があります。もし診断書などが出されている場合には、そういったものも提出することが可能です。また、申し込めばすぐに受け付けられて通学が開始するわけではなく、審査もあるようですし、定員が埋まっていれば空きを待つ必要がある場合もあるようです。

ここで提供されている内容は、学習の先取りやハイレベルな知識を教えるといったことではありません。ギフティッドについての理解を深めたり、ギフティッドの子どもたちの良い刺激になるような多様な課題に取り組んだりして、毎回違うことをして1日を過ごすようです。どちらかというと子どもたちが一緒にプロジェクトに取り組むようなことをすることが多いようです。またギフティッドの子どもたちが一緒にいることで安心できる場所であったり、理解してくれる大人がいる場所に置かれることそのものにも大きな意味があるのだと思います。また、こうしたプログラムが定期的に開催されていることで専門の先生が養成されたり、ギフティッドに関する情報が発信されたり、教育する知見が蓄積されていくことも良さの一つのように思っています。例えば、ギフティッド週間のように1週間ギフティッドについての知識やよくある誤解などの情報が発信され続けたりします。

個人的なエピソードになりますが、もう5年以上前になりますが、登校時にすれ違った校長先生から、このプログラムに関して「あなたがもし娘を行かせたいと思うなら、良いかもしれないわね」という提案を受けたことがありました。このお勧めの雰囲気も程度も、学校や先生にもよるでしょうし、子どもの必要度や保護者の雰囲気によってもそれぞれなのだと思います。その時の会話では、同じ小学校にも複数名通っているお子さんがいるということで、この学校ではそれほど稀な提案ではないのかなと思いました。ただ、我が家にとってはその頃、下の息子が産まれて間もなくだったので、娘を送迎するハードルは著しく高く感じたこと(当時はオンラインのコースもありませんでした)、また当時の学校での先生方や友人たちも娘に対して良い関わりをしてくださっていたということもあり、娘が学校での生活を楽しんでいたように見え、お断りしたという経緯があります。とはいえ、娘がその後学校だけでは物足りなさを感じたり、理解者が必要な時にはこのようなプログラムがあるのだと知れたことは良かったと思います。

結果的に、子ども自身が学校生活を楽しめていなかったり、同じような状況の同年代の子や専門の先生に会わせてあげたいなと思っているような時に、こうした選択肢があることが救いになる親子は多いように思います。コストがかかることで保護者による決断が異なるということに疑問を感じる読者もいるかもしれませんが、ニュージーランドの教育現場で慢性的に資金不足に苦労している現実を加味すれば、専用の教育費の保護者負担(負担軽減の仕組みもある)というのは、ニュージーランドでは理解される範囲なのかもしれません。また、自分の可能性を最大限に活かせる選択肢があるということは、インクルーシブ教育の一つの形かもしれません。


注記

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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