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【ニュージーランド子育て・教育便り】第45回 保育士に聞く(2):子どもが「好ましくないと考えられる行動」をしたときのニュージーランド流対応の仕方

要旨:

前回に引き続き、日本、ニュージーランド両国で保育士として働いたご経験のある谷島直樹さんにインタビューの機会を頂き、子どもが「好ましくないと考えられる行動」をしたときのニュージーランドの保育園での対応の仕方について教えて頂きました。子どもに対して肯定的な言葉を使って導いていく保育のあり方、子どもが「好ましくないと考えられる行動」をしたときに保育環境や園のルーティンを見直すことについてお話を伺いました。

前回は、ニュージーランドの保育現場でどのように「遊びから学ぶ(Play-based learning)」という環境下で好きなことに気がつき評価していくのかをお伺いしました。大前提として自分の好きなことに没頭し続けていられるニュージーランドの幼児教育環境下においては、規則や集団行動が多いわけではないので、「ノー(No)」と言わなければならないことは多くはないのかもしれません。それでも子どもは時として明らかに「好ましくない行動」iをするものだと思います。今回は、そのような場合のニュージーランドの対処方法について伺いたいと思います。

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谷島 直樹(やじま・なおき)

日本で7年間保育士として勤務し、2014年にニュージーランドへ渡航。オークランドの保育園で保育補助として約1年働いた後、クラス担任を3年経験。その後小学校へ転職し1年生を担任し、幼稚園教諭としての勤務も経験。2023年4月から清明学園幼保連携型認定こども園おかだまのもり園長として勤務。
日本にて聖学院大学児童学科卒業、聖徳大学大学院児童学研究科博士課程前期修了。修士(児童学)。ニュージーランドにてオークランド工科大学大学院教育学研究科1年次終了。2017年にニュージーランドの教員免許取得。
主な著書に、「ニュージーランドの保育園で働いてみた~子ども主体・多文化共生・保育者のウェルビーイング体験記~」(2022, ひとなる書房)「海外でも日本の保育士は活躍できる!未来教育先進国ニュージーランドで働く30代男性保育士の日記」(2019, ファクトリー出版)。

ニュージーランドの保育園では、子どもが「好ましくないと考えられる行動」をしたときに、保育者はどのように対応するのでしょうか。私はニュージーランドの保育士さんたちは、子どもが「好ましくないと考えられる行動」をしたときに代替案を提示するのが上手だなという印象をもっています。

谷島:一言で言えば人(保育士)による、保育の先生方のチームによると思います。「好ましくないと考えられる行動」というのも人によっても文化によっても違います。例えば、最近の事例としては、園で3人の男の子たちが基地を作って遊んでいたら、完成する頃に女の子が近づいてきて一緒に遊びたがったところ、当初の3人が「男の子だけ!(Only boys!)」と言って入れてあげなかったという件がありました。園はみんなのための場所なので、このように性別を理由に人を排除するのは良くないことです。「男の子だけ、と何で言ったの?」と尋ねると、「最後まで自分たちで基地を完成させたいから」ということが理由でした。僕としても遊びを始めた側の子どもたちの思いも尊重したいところです。「だったら、『最後まで自分たちで完成させたいからごめんね』って言ってみよう」と言ってみたところ、それでも女の子は納得しません。では、「完成した後、遊びに来ることはいいの?」と聞くと、その3人は「大丈夫」ということでした。「『それであれば、理由を伝えて、完成した後に遊びに来てくれる?』と言ってみよう」、という形で対応していきます。その結果、女の子は基地が完成した後に遊びに来ることになりました。

また、「男の子だけ!」といった言い方については、「それは許されない(It's not acceptable.)」 とか「それは言っていいことではない(It's not ok to say that.)」 ということで、その後、教師たちの間で話し合いが行われ、「みんなのためのみんな。誰でも何でもできる(Everyone for everyone , anyone can do anything)」ということをテーマに幼児教育が実践されていくようになりました。そうすると、子どもたちの中にも浸透していって「男の子だけ!」といった言葉は出なくなっていきます。こうした解決の過程は、その場にいる保育士、その園の先生方のチームにより様々になり得ます。

少しシンプルな例だと、おもちゃを室内で投げてしまうということは、大人にとってはあまり望ましくない行為です。それであれば「投げたい」という衝動があるのだなと捉えて、「外でボールを投げてみようか?」と、より好ましい活動を提案していきます。園内で大声を出す子どもがいたら「歌おうか?」、変な場所に入ってしまう子どもには、今隠れたがっているんだなと捉えてブランケットを渡してみるなど、園児が見せている行動が好ましくなければ、より肯定的なものに変えていく対応がこちらの園では多いかもしれません。ニュージーランドでは「方向を変える(Redirection)」という言い方をします。個人的には、子どもの衝動をうまく表に出す方法を保育士が提案してあげるという考え方をしています。

以前、2歳前の息子と園の見学に行った時に、園の子が作った積み木を息子が壊したので、私が「やめなさい(No.)」と言ったら、園長先生に「ノーって言わなくていいですよ。壊れたものはまた作ればいいし、何かを壊してしまった時に友達が悲しんでいると理解したら壊さなくなるから」と言われたことがありました。大人からみたら「やめなさい」と言いたくなるような行動も成長過程として、そこから学ぶこともあると捉えていることが分かりました。確かに誰かが作ったものを壊すといった息子の行動は、その時以来見ていません。また、ニュージーランドで気が付くのは、日本だと「ダメ!」と注意してしまいがちな場面で、望ましい行いを促す言葉にするということです。

谷島:そうですね。どこの園でも、して欲しい行動の方を口にすることが多いです。例えば、走っている子に歩いて欲しい時には「走らない(Stop running)!」ではなく「歩こう(walk in feet))」、声が大きすぎる時には「うるさい(too loud)」ではなく「屋内用の声でお願い(inside voice please)」や、 「優しい声で(gentle voices)」など、またテーブルの上に乗っている子がいたら「テーブルからおりなさい(Hop off from the table)」ではなく「足を地面につけましょう(put your feet on the floor)」、殴っているような子がいたら「 殴らない(don't punch)」ではなく「優しいタッチでね(gentle hands)」、他にも話をよく聞いていない子がいたら「聞く耳にしてね(listening ears on)」、「僕を見てね(eyes on me)」というのも良く使います。

先ほど人(先生)によって違うということでしたが、中には直接的に言う先生もいるのでしょうか。

谷島:園の先生の中で多数派ではありませんが、ニュージーランドという多様な国で様々な国出身の先生が働いている状況という事もあり、中には「やめなさい(Don't do that.)」と割と直接的に言う先生もいます。そのような伝え方が合う子もいるし、そういった教育もありだと思っています。それでも、子どもにノーと言わなければいけない状況の時に、その子自身に問題があるという捉え方をするのではなく、ノーと言わなければいけない保育環境や園のルーティンのどこかがうまくいっていないと捉えて、大人側の対応を考え、変えていくということが基本的な姿勢です。

結び

日本にいた頃に言っていた「ダメ!」が決して悪いというわけではありませんが、その裏のあるべき行動に対する、ある程度日本ならではの共通認識があったからこそ、「ダメ」が使えていたのかもしれない、とニュージーランドで子育てをしているうちに感じてきました。背景が多様な子どもたちが多いと、ダメと言われても何をしたらよいのか分からない子も多いでしょうし、自分の生きている社会に受け入れられる形で衝動の出し方を広げ、提案してあげるという大人としてのあり方は、参考になった方も多いと思います。

この度は、谷島さんに貴重なお話をお伺いでき、感謝申し上げます。

なお、このテーマを取り上げるにあたり、今回は日本とニュージーランドの比較でしたが、日本以外の例として、アメリカの保育者がどのように対応しているのかについて書かれている「【米国】アメリカの保育者養成の授業の例(2)~幼児期の子どもの行動理解と援助方法」も谷島さんにご紹介しながら、お話を伺いました。ご興味のある方は、そちらも併せてお読みいただければと思います。



  • i)「好ましくないと考えられる行動」として「他児に危害を与える、備品を破壊する、ルールを尊重しない等の、幼児教育施設の中での運営に支障をきたすと働いている保育士たちが考えられるもの」と仮に定義しました。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
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