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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第7回 Spielplatz(子どもの遊び場)で垣間見えた日独子育て観の違い

要旨:

ベルリンでは公園といっても二種類あり、“Spielplatz(子どもの遊び場)”と ”Park(大きな緑地公園)”に分けられる。“Spielplatz(子どもの遊び場)”は遊具が置いてあり子どもが遊べる広場で、いたるところに見かける。遊び場ごとに、来る子どもたちやその家族のバックグラウンドが異なるのも興味深い。しかし、親の態度やモラルは日本のとは大分異なり「個人主義」のもと、子どもが意地悪をしても叱らず、された方の子どもに非があるような態度をとる親も多い。遊ぶ環境は非常によく整っているのだが、そこで子どもに自分の意見を主張することを教えることも重要であることを学んだ。
ベルリンで暮らし始めて驚いたこと。それは、緑と公園の多さでした。ドイツという大国の首都であるにも関わらず、非常にリラックスした雰囲気は、この緑の多さと大きな公園といった空間からくるものだと思います。

日本語では「公園」とひとくくりに呼んでいますが、ドイツでは"Spielplatz(子どもの遊び場)"と "Park(大きな緑地公園)"の2つに分けられます。今日はこの"Spielplatz(子どもの遊び場)"のご紹介、およびそこから見えてきたドイツの子育て事情について書いていきたいと思います。

大きな緑地公園の"Park"より小さい"Spielplatz(子どもの遊び場)"はその名の通り、遊具が置いてある子どもが遊べる広場。それぞれサイズは多少異なるものの、ブランコか滑り台は標準で設置してあるようです。

日本の公園と異なるのは、日本では砂場が遊具とは独立して設置してあるのに対し、ベルリンの遊び場では遊具が置いてある箇所一面に白い砂が敷き詰められてあり、どこでも砂場遊びができるようになっていることです。

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小さな子ども用滑り台の下で砂遊び

日本では砂場で赤ちゃんを遊ばせることはあまりなかったと記憶していますが、ベルリンではこのような砂の上でハイハイしている赤ちゃんをよく見かけます。

また、少し大きめの遊び場では、アスレチックのような大掛かりな遊具もよく見られます。これらでは、小学生ぐらいの子どもたちも遊んでいます。

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よく見かけるアスレチック遊具の一部

アスレチック風遊具の中には、結構高さがあるものもありますが、幼児でもどんどんチャレンジしていきます。

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ロッククライミングのようにも登れる遊具

このような遊び場はマンションのような集合住宅には大体隣接して設置されているようです。今住んでいるところから徒歩10分圏内に5つもあるので、選り取り見取り、選び放題!ちょっと時間が空いた時や保育園の帰り道など、エネルギーをもて余している3歳の息子を遊ばせる場所に事欠かないのは、本当にありがたいことです。

また遊び場ごとに、来る子どもたちやその家族のバックグラウンドが異なるのも面白いです。先日遊んだところでは、ドイツ語とトルコ語が聞こえてきましたが、週末行った別の遊び場では、イタリア語、スペイン語が飛び交っており、ここはラテンの国か?!と思ったほどでした。それ以外に英語やロシア語、ベトナム語が聞こえてくる時も多々あります。

子ども同士で遊んでいるときは、大体ドイツ語を使っているようですが、親とのコミュニケーション言語は様々です。ベルリンは世界中から来た人々が住んでいる多民族都市ですし、2か国語以上操ることが当たり前のヨーロッパの現状を目の当たりにして、非常に興味深いです。

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ベトナム系の女の子と

最後に日本との大きな違いは、親の態度です。以前、息子が砂場で何かを作っている時に、同じくらいの年の男の子がやってきて、息子の作品を足でわざと壊したことがありました。あまりに急なことで、驚き固まってしまった息子。私もどうしようかと思っていましたが、何度もしつこく壊してきたので、側にいた夫が一喝。子どもはすぐさま逃げて行きましたが、驚いたことに、近くにいたその子の母親は知らんぷり。叱るそぶりもみせません。

また後日、別の遊び場でも別の子どもに同様のことをされ、やはり固まってしまった息子。その時は夫がいなかったので、私もつたないドイツ語で何か言おうか迷っている間に、その子の母親から「やられたら言い返さないとダメよ」と逆に息子がたしなめられてしまいました。

いずれのケースでも、日本だったらすぐさま保護者が飛んできて謝るところでしょうが、ベルリンでは全くその気配はありません。上記の子どもたちも何か悪いことをした、というそぶりは全く見られませんでした。

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鉄棒のような遊具の後ろにはフットサル場

対応に困ったので保育園経営・保育士の義姉に相談してみると、彼女も最近の親のモラルの低下には、大変困っているとのこと。実際に上記のような保護者は多いようですが、まず彼らは「親は親、子どもは子ども」といった「個人主義」という大義名分のもと、子どもの遊びには関与しないようです。といっても、子育てに対する考え方は千差万別なので、彼らに真正面から向き合うことは賢明ではありません。

しかし、悪いことを目の当たりにして素通りをするのはよくないし、子どもには物事の良しあしをきちんと教えるべきなので、義姉のアドバイスとしては、「息子には嫌なことは嫌だと、園や家の外でもはっきり言えるように教えること。3歳児は、園や家でのルールは理解して遵守しているから、安心して遊ぶことができ、お友達とコンフリクトがあったとしても交渉したり、コミュニケーションをとることができる。でもそれ以外の場所では、まだどういうルールに従っていいかわからない。そもそもそのルールだって、人や家庭によって違う。特にベルリンは多民族都市だから。今、一番重要なことは、どこにいても、誰かに嫌なことをされたら、嫌だ!と言って、相手に自分は不快感を覚えているんだ、ってことをしっかり伝えるようにすること。そして、親としてはどこにいても彼のそばから離れないで観察して、彼が心身ともに安全で安心していられる場所を確保すること。」

育児のプロからのアドバイスを頂いて、すっきり納得しましたが、所変わればモラルも変わります。ベルリンでは日本のように画一的に人と共存というよりも、自分の考えをお互いにはっきり示した上で妥協策を模索していくことが前提となっているので、自己主張することは生活の中で不可欠です。実際に保育園で、ある母親はいつも「議論の途中で自分が間違っていることに気づいても、最後まで相手が悪いと押し通しなさい」と、子どもに諭していますし、学校では、どんなにテストの点がよくても、授業中に積極的に自分の意見(正誤は問わず)を言わない子どもは良い成績がとれません。それくらい、自分の意見を主張することは重要視されているようです。

勿論、普段は緑多き公園にて、何事もなくのびのびと楽しく遊んでいますし、後から来る人のためにドアを押さえていてくれたり、息子に電車で席を譲ってくれたりする、礼儀をわきまえたリトルジェントルマンも多くて、感心することも多々あります。今後は息子に、いかに物事の善悪を教えつつ、うまく自己主張できる力とたくましさを身に着けてもらうか、ということが課題となりそうです。
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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