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絵本場面における母子共同注視と子どもの言語発達

小椋 たみ子 (大阪総合保育大学特任教授・神戸大学名誉教授)

2019年4月19日掲載

要旨:

母子の絵本読み場面の意義と、養育者・絵本・子どもの三項により成立する共同注視についての9、12、18、21、24ヶ月142組の母子の絵本場面の観察から、注視時間、注視頻度の年齢推移と言語・コミュニケーションとの関連を明らかにした。注視時間は21ヶ月からそれ以前に比べ有意に増加した。18ヶ月児の共同注視時間や共同注視頻度が子どものコミュニケーション・言語得点と相関があった。
1.養育者と子どもの絵本読み

絵本を読むことは子どもの言語発達や読みの発達に結びついており、就学後の学習にも影響を及ぼすとの研究もあり、乳児期からの絵本読みが推奨されている。1992年に英語を母語としない移民の子どもが多い英国バーミンガム市ではじまったブックスタートは、社会階層や家庭環境で子どもの識字率が異なり、学力差が生じることの防止が目的であった。「Share books with your baby(赤ちゃんと絵本をいっしょに楽しもう。お母さんと赤ちゃんとが絵本で歓びをわかちあおう)」のメッセージとともに絵本を手渡す活動は世界に広がり、日本は、子ども読書年の活動のひとつとして2001年から行われるようになり、これは世界で二番目であった。0歳児健診などの機会に自治体の図書館のスタッフやボランティアが赤ちゃんと楽しい「体験」をプレゼントする活動として広まり、2019年2月には全国の1741市町村のうち1038市町村(59.6%)で実施されている。NPOブックスタートの会長の松居直氏は「ブックスタートはお母さんと赤ちゃんとに言葉と愛を届ける奉仕です。なぜなら絵本の中にはゆたかなことばが秘められています。赤ちゃんが眼にするさし絵は言葉につながり、赤ちゃんとともにさし絵をみるお母さんも文と絵からいろいろな言葉を読みとって、自由に赤ちゃんに話しかけます」と述べているように、絵本は子どもの発達にとっての栄養であり、母子の絆を強める効果をもっている。

絵本読み場面は、養育者、子ども、絵本の三項で成立している。9ヶ月から1歳頃になると、大人―子どもや、子ども―対象の二項関係から、子ども、大人、そして、両者が注意を共有する対象や出来事からなる三項関係的な行動が出現する。大人と一緒に比較的長い時間、ある対象物を媒介として社会的相互作用に携わる共同かかわり合い(joint engagement)の行動も1歳前後には可能となる。この、対象に対する注意を他者と共有する行動である共同注視は、言語獲得の基盤として必須なものである。Baldwin(1993)は、子どもに2つの新しい玩具を見せ、そのうちの1つを子どもに与え、もうひとつは実験者の手のひらの上におき、子どもが与えられた玩具で遊んでいる時に、もう一方の実験者の手のひらの上の玩具を4秒間注視しながら、「ペリ」と命名する実験を行った。生後18ヶ月以上の子どもであれば、「ペリ」という新しいラベルを聞くと、即座に実験者の顔を見て、何を見ているかチェックした。また、「ペリ」を探すように言われると、自分が遊んでいた玩具ではなく、実験者が見ていた玩具を選択できた。この実験結果から、「ペリ」が何を指しているかという意味の推測が18ヶ月以上の子どもであればできるようになることが示されている。共同注視の成立により、他者の意図を理解できるようになり、意味の推測も可能となる。絵本場面は大人との共同的な関わり合いの場面であり、言語獲得の基盤となる。子どもと大人、そしてこの2人が注意をともに向けている事物の三項により構成され、社会的に相互にやりとりし、指さし、共同注視、ことばでのラベリングが生起し、構造化された場面で語と事物のマッピングを学習するには格好の場面である(Farrant & Zubrik, 2011)。

絵本読みの経験が生後3年の言語発達に影響を与えることが報告されている。ある文化や社会経済的階層では1歳前から子どもへ本読みを行い、絵本読みの開始の時期がはやいほど、言語発達もよかったことを報告している(DeBaryshe, 1993; Payne et al., 1994)。また、Marjanovič-Umek, Fekonja-Peklaj, & Sočan (2017)は、1歳7ヶ月の子どもに親が1週間の間に本を読んであげる頻度は、親の教育歴が媒介して、2歳7ヶ月時点の子どもの語彙数や文法発達を予測していたことを報告している。

Fletcher & Reese (2005)は絵本読み場面での養育者、子ども、絵本の三項の関係とそれぞれの項で絵本読みの質に影響する要因の概観を提案している(図1)。

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図1 絵本読みの質に影響する要因の概観 (出所:Fletcher & Reese, 2005, p.68)

図1では絵本読みに影響する子ども側の要因として「言語」「注意/興味」「愛着」が示されているが、これらのうち、「注意」と「言語」をとりあげた筆者ら(小椋・樋口・増田, 2018)の研究を次に紹介する。

2.母子の絵本読み場面での共同注視と子どものコミュニケーション・言語発達

この研究では、子どもと養育者がともに絵本に注意をむけている時間や注意を転換する頻度を指標として、子どものコミュニケーション・言語発達との関係を明らかにした。

9ヶ月児38名、12ヶ月児30名、18ヶ月児28名、21ヶ月児19名、24ヶ月児27名、計142組(男児75名、女児67名)の母子を対象に観察と質問紙調査を実施し、そのうち、9、12、18ヶ月児72組は24ヶ月時点で、9、12、18、21、24ヶ月98組は33ヶ月時点で質問紙による追跡調査を実施した。

観察児には、大学の観察室で、指定した絵本『どうすればいいのかな』『ブルーナのどうぶつ』『ブルーナのこれなあに』の3冊を5分間読んでもらい、2方向から録画した。本研究では絵本に注意を母子がむけていることを共同注視とし、母子共同注視頻度(母子が絵本を同時に見る回数、あるいは絵本から目が離れる回数)、平均注視時間(秒)、最大注視時間(秒)、総注視時間(秒)を行動コーディングシステムであるDKH coding system Beco2で測定した。分析の信頼性は、母子共同注視指標については2名の分析者で各月齢約18%の子ども26名について2名の評定者で測定した結果、頻度は0.927、最大注視時間は0.982、平均注視時間は0.935、注視総時間は0.996の相関であった。

子どもの言語発達については、日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙(JCDI)「語と身振り版」(小椋・綿巻, 2004)を9、12、18ヶ月児に、また「語と文法」版(綿巻・小椋, 2004)を21、24ヶ月の観察児と24、 33ヶ月の追跡児に適用して、母親に記入を依頼した。

絵本場面での母子の共同注視

9、12、18、21、24ヶ月児の母子共同注視の頻度、時間(秒)の平均値を表1に示した。


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観察時点の母子共同注視頻度、最大注視時間、平均注視時間、注視総時間について、年齢、性別の二要因の分散分析を行った結果、頻度には年齢による有意な差はあったが、多重比較では年齢間での有意な差はなかった。性差は頻度だけ女児が有意に高かった。年齢×性の交互作用は有意ではなかった。各注視時間については、年齢による有意な差があり、多重比較の結果、最大注視時間は21ヶ月児では9、12、18ヶ月児より有意に高く、注視総時間では、21ヶ月児は9、12、18ヶ月児より有意に高く、また、24ヶ月児は12ヶ月児より有意に高かった。平均注視時間も21ヶ月児が9、18ヶ月児より有意に高く、また、24ヶ月児は9ヶ月児より有意に高かった。注視時間は最大、平均、総時間とも21ヶ月児以降に急激に増加した。

21ヶ月児以降はそれ以前の月齢に比べ有意に絵本への注視時間(最大注視時間、平均注視時間、注視総時間)が長く、21ヶ月児以降に絵本に集中して見ることができるようになることが示された。

子どもの言語発達

観察時点表出語数は年齢に伴い増加し(図2)、一要因の分散分析の結果、21ヶ月と9、12、18ヶ月の間に有意な差があり、21ヶ月児はそれ以前に比べ、有意に語数が多かった。


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観察時点と追跡時点の表出語数の相関については、9、12ヶ月観察時点と24、33ヶ月追跡時点での表出語数には相関はなく、18ヶ月観察時点の表出語数が24ヶ月追跡時点の表出語数と有意な相関があり、21、24ヶ月観察時点の表出語数は33ヶ月追跡時点の表出語数と有意な相関があった。有意味語出現期の9、12ヶ月の表出語数は、その後の表出語数を予測していなかった。

観察時点の共同注視指標とコミュニケーション・言語発達

観察時点18ヶ月児で最大、平均、注視総時間とJCDIの指示理解得点、身振り得点との間に有意な正の相関があった(表2)。注視頻度、注視総時間と理解語数との間に正の有意な相関があった。他の月齢では共同注視測度とJCDIのコミュニケーション・言語得点との相関はなかった。観察18ヶ月時点で語彙理解、コミュニケーション能力が高い子どもは、絵本を母親と共有して見ている時間が高いことが示された。


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母子共同注視と追跡24ヶ月、33ヶ月時点の言語発達

観察時点9、12、18ヶ月の共同注視指標と追跡24ヶ月時点の表出語数の相関と、観察時点の表出語数を一定にした偏相関を算出した結果、観察18ヶ月時点の注視頻度が追跡24ヶ月表出語数と正の有意な偏相関(r = 0.542, p<.05)があった。注視頻度は母子で絵本を共有している状態から子どもの視線が外れることを意味している。絵本から目を離すことは他の物への注意の転換であり、好奇心のあらわれとも解釈できる。また、観察時点21ヶ月の最大注視時間は、追跡33ヶ月表出語数を負に予測した。

これらにより、18ヶ月児と21ヶ月児に関しては、絵本だけを見ているよりも絵本の中の事物の絵と部屋の中の実物と照合させたり、他の絵本に注意をうつしたりの注意の転換、好奇心がその後の語彙発達を促進することを本研究の結果は示した。長時間母子が絵本を見続けることだけが言語発達にとり有効ではないという結果である。共同注視中、非共同注視中の母親と子どもの言語・非言語のやりとり、子どもの気質と共同注視との関係など、より詳細に今後、検討することが必要である。

3.おわりに

早期教育として絵本を重視するのでなく、松居(2018)が述べているように、「読み手」と「聞き手」が言葉の喜びを「共有(Share)すること」に絵本の最も大切な意味と役割がある。
描かれた絵は言葉をあらわしたイメージであり、言葉の理解を助ける。新しい語を学ぶ機会ともなる。私もこの原稿を書きながら、何十年も前に岩波の子どもの絵本の「ちいさいおうち」「ちびくろ・さんぼ」「スザンナのお人形」「ふしぎなたいこ」などの絵本を母と読んだことを思い出した。


    参考文献:
  • Baldwin, D.A. (1993). Infant's ability to consult the speaker for clues to word reference. Journal of Child Language , 20, 395-418.
  • DeBaryshe, B. D. (1993). Joint picture book reading correlates of early oral language skill. Journal of Child Language, 20, 455-461.
  • Farrant, B.M. & Zubrick, S. (2011). Early vocabulary development: The importance of joint attention and parent-child book reading. First Language, 32, 343-364.
  • Fletcher, K. L. & Reese, E. (2005). Picture book reading with young children: A conceptual framework. Developmental Review, 25, 64-103.
  • Marjanovič- Umek L., Fekonja-Peklaj, U., & Sočan, G. (2017). Early vocabulary, parental education, and the frequency of shared reading as predictors of toddler's vocabulary and grammar at age 2;7: a Slovenian longitudinal CDI study. Journal of Child Language, 44, 457-479.
  • 松井直 (2018). 絵本は心のへその緒. NPOブックスタート. NPOブックスタートBookstart Japan.  (2019年3月7日).
  • 小椋たみ子・樋口幸・増田珠巳. (2018) 絵本場面における母子共同注視と子どもの言語発達. 第15回子ども学会議(日本子ども学会学術集会)ポスター発表. 同志社女子大学.
  • 小椋たみ子・綿巻徹. (2004).日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙「語と身振り」 手引. 京都国際社会福祉センター.
  • 田島信元・佐々木丈夫・宮下孝広・秋田喜代美(編・著). (2018). 歌と絵本が育む子 どもの豊かな心 -歌いかけ・読み聞かせ子育てのすすめ-. ミネルヴァ書房.
  • Payne, A.C., Whitehurst, G.J., & Angell, A.L. (1994). The role of home literacy environment in the development of language ability in preschool children from low-income families. Early Childhood Research Quarterly, 9, 427-440.
  • 綿巻徹・小椋たみ子. (2004). 日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙「語と文法」手引.京都国際社会福祉センター
筆者プロフィール
Ogura_Tamiko.jpg 小椋 たみ子(おぐら・たみこ)

大阪総合保育大学特任教授・神戸大学名誉教授。
奈良女子大学文学部、文学研究科修士課程修了、京都大学大学院文学研究科博士課程単位修得退学。博士(文学)。
奈良女子大学、島根大学、神戸大学、帝塚山大学をへて現職。専門は言語・認知発達心理学。定型発達児、非定型発達児のことばの発達とその認知的基盤、養育者の働きかけの研究を進めてきた。
主著に『初期言語発達と認知発達の関係』(風間書房)、『乳幼児期のことばの発達とその遅れ:保育・発達を学ぶ人のための基礎知識』(共著、ミネルヴァ書房)、『日本語マッカーサー乳幼児言語発達質問紙の開発と研究』(共著、ナカニシヤ書店)などがある。
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