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中国都市部における祖父母との共同育児の現状と影響

孫 怡(立命館大学グローバルイノベーション研究機構 専門研究員)

2019年10月18日掲載

要旨:

本稿では、筆者の中国での子育て経験と、2014年から中国・上海で実施している「祖父母の育児参加に関する調査」のデータから、中国都市部における祖父母との共同育児の背景と現状、そしてその特徴と子育てへの影響について報告します。祖父母の育児支援は、共働き世帯の強いサポートになっている一方、様々な課題もあるようです。

キーワード:
祖父母, 共同育児, 孫育て, 共働き, 中国, QOL, 子ども
祖父母共同育児の背景と現状

中国では共働き世帯が多いですが、1990年代以降、国の経済体制改革の影響注1で、3歳未満向けの保育施設が非常に少なくなりました。育児における公的資源が少ない中、祖父母の力を借りての共同育児(co-parenting)、または3歳まで完全に祖父母が孫を育てるのが一般的です。
例えば、筆者の研究チームが2017年に中国・上海で実施した「祖父母の育児参加に関する調査」(以下「祖父母調査」とする)のデータ(1歳児をもつ母親522名を対象としたアンケート)から、上海においては、完全に祖父母が孫の面倒を見る家庭が26%、祖父母と両親が一緒に共同育児をしている家庭が62%、祖父母に頼らず完全に親だけで子育てしている家庭が12%でした。

上海長寧区における「0-3歳乳幼児をもつ共働き夫婦の生育観と育児状況の課題研究(2012年)」による調査結果でも、共働き世帯の68.5%は祖父母か親戚、ベビーシッターと共同で育児していると報告されています。都市部では、働く親は朝と夜だけ、または週末だけ子どもの面倒を見ることが多いです。ベビーシッターや民間の託児所といった「育児支援サービス」を利用している家庭もありますが、ベビーシッターの労働市場は、まだ資格などの制度が普及していないため、ベビーシッターの質の低さ、責任感の欠如、流動性の高さなどによる子どもへの悪影響が懸念されています。民営託児所も整備しきれておらず、保育の質がまちまちであるため、共働き家庭はやはり祖父母に預けることが一番安心だと思っています。

近年、経済的に余裕がある家庭では、家事を家政婦に頼み、子どもは祖父母に見てもらうケースが多くなっています。早期教育に熱心な家庭は、子どもが2歳以降幼稚園入園までの間、平日の昼間(半日または一日)に子どもを民間の早期教育施設に入れて、祖父母は同行または送り迎えを担当します。

早期教育施設に入れなくても、親が家にいる間は、子どもとのかかわりや知的教育(例えば、数、漢字など)を意識して行っている傾向もみられます。つまり、祖父母は主に家事や子どもの日常の世話(生活面)を担当しますが、親はしつけ・知的教育を担当し、お互いに補いながら共同育児をするパターンが最もポピュラーだと言われます。

本当にそのような状況なのでしょうか?
「祖父母調査」の中で、「子どもの日常的な世話(着替え、食事、お風呂、寝かしつけなど)の主な担当者(最大3名)」を尋ねたところ、用意した選択肢の中から選ばれた割合は、それぞれ以下となりました:母親(85.8%)、父親(36.6%)、父方祖父(7.9%)、父方祖母(35.6%)、母方祖父(12.3%)、母方祖母(37.4%)、ベビーシッター/育児師注2(7.1%)、その他(0.8%)(図1)。
母親、祖母(父方+母方)、父親と回答した割合が高かったです。祖母は父方と母方両方に分けて選択肢を設けたので、それぞれ3割台でしたが、合わせると6割以上となり、大幅に父親を越えます。

一方、「子どもの教育(しつけ、勉強など)の主な担当者(最大3名)」の質問に対する結果については、以下の割合でした:母親(91.8%)、父親(62.3%)、父方祖父(8.0%)、父方祖母(23.6%)、母方祖父(9.0%)、母方祖母(27.4%)、ベビーシッター/育児師(3.4%)、その他(0.8%)(図1)。
教育面においても、だいたい生活面と同じように母親と父親、祖母が選択されましたが、父親を選択した割合は両方の祖母の合計(5割)よりも高くなっています。

lab_08_32_01.jpg 図1. 子どもの世話と教育の主な担当者

つまり、1歳時期では、生活面の主な担当の上位3者の順位は母親、祖母、父親ですが、しつけなどの教育面の主な担当の上位3者の順位は母親、父親、祖母であることがわかりました。さらに、祖父母による育児支援の具体的な内容を尋ねた項目への回答から、祖父母は主に子どもの日常の世話と家事の手伝いを担当していることが実証され、周りからの印象と一致する結果となりました。子どもが少し大きくなると、学習面の教育は両親がより意識してかかわっていくが、1歳時点では祖父母も日常世話をしている中に、しつけやマナー、言葉などを教えていると思われます。

祖父母との共同育児の特徴

以上の現状から、中国の共働き夫婦の子育てには、祖父母の力が不可欠であると言えますが、祖父母と共同育児をしている母親にインタビューしたところ、祖父母の育児支援は大変助かっている一方で、世代間の育児に対する考え方の違いによる家族内の対立も時々あるようです。

例えば、最近早期教育の風潮が高まり、欧米の養育に対する考え方も浸透してきている中、若い親たちは熱心にインターネットや育児本などを通じて、育児に対する様々な考え方と育児方法を勉強し、実際の育児にも取り入れていこうと思っています。しかし、祖父母世代の育児に対する考え方はまだ伝統的なものが根強く、なかなか新しい考え方についていけないところがあります。

よく聞く話ですが、若い親は、子どもは新陳代謝が活発なので薄着でも大丈夫と主張しますが、祖父母たちは風邪をひかないようにといつも子どもに厚着をさせる傾向があります。祖父母による孫への甘やかしも、時々親の考え方に反することになります。例えば、親はなるべく子どもの自立心を育てたいので、子どもには自分でできることは自分でやってもらうという方針ですが、祖父母はついついやってあげてしまうことが多くなります。特に、中国では一人っ子が多いため、昔から言われている「家の小皇帝」の面影がいまだに見える子が多いです。子どもが欲しがるもの、あるいはやりたいことを、祖父母がなんでも満足させてしまう傾向があります。いまの祖父母は、昔、結構苦労した世代なので、孫にはなるべく楽をさせたいという思いもあります。親は、食事中はテレビなどを見せることを禁止して、子どもに自分で食べるようになってほしいという方針ですが、ついテレビを見せながら孫にご飯を食べさせている祖父母がいます。もちろん、祖父母が厳しくしつけ、親が甘やかしすぎるケースもあります。このように細かい日常生活の中で、毎日親と祖父母の間にいろいろな意見の違いが生じ、対立が繰り返されているようです。

また、高齢者である祖父母はやはり体力面で若い世代とは違うので、まだ子どもである孫と活発に遊んだり、お出かけしたりすることは難しいです。若い親は、子どもになるべく体を動かしてもらい、たくさん運動をさせたいのですが、祖父母は体力の限界があり、孫のケガなども心配で、昼間はほとんど家の中、または家の近くで静かに過ごすことが多いです。すると親は、子ども同士のふれあいが少ないから他の子どもとうまく遊べない、社会性が欠如するのではないかなどと心配になります。

特に、祖父母が孫の面倒を見るために一時的に孫の家に住み込んでいる場合、祖父母は近所に知り合いが少なく外出する機会があまりないため、その祖父母に育てられている孫も他人との接触機会が少なくなります。中国では地域の児童館や子育て支援センターのような施設がほとんどないため、祖父母と孫どうしが気軽に集い、交流できる場が少ないのです。

一方、若い親は育児経験はほとんどないものの、祖父母の育児に対する考え方はもう時代遅れととらえ、なんでも育児本を参考にしながら、教科書通りに祖父母にいろいろ指示を出しているというケースも多いようです。それは祖父母にとってかなりの負担になり、自分の子育ての仕方を批判されることもかなりのストレスになるので、育児問題で家族関係が悪くなることも少なくありません。筆者たちの「祖父母調査」では、育児の考え方の違いによる世代間の衝突の有無について母親に尋ねたところ、「よくある」家庭は9.1%、「時々ある」は53.0%、「あまりない」は32.5%でした。

祖父母との共同育児の影響

それでは、祖父母との共同育児は親子にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
「祖父母調査」のアンケート結果から、祖父母の育児支援が、働く母親のQOL(Quality of Life)を向上させるという効果が見られました。つまり祖父母の支援が多いほど、母親の生活満足度がより高いことが確認されました。一方、家庭内で世代間の衝突が多いほど、子どもが思い通りにならないときは、反応がより激しいこと(例えば、大泣きしたり、悲鳴をあげたり、かんしゃくを起こしたりといった行動)が示唆されました。

親と祖父母の間で、育児方針が違う場合、けんかが生じたり、家族関係に緊張が生まれたりする可能性が高いので、子どもにもストレスがかかり、情緒不安定になりやすいのではないかと推測されます。もう一つの解釈としては、学習理論の視点から、子どもが親と祖父母の衝突の場面をみて、思い通りにならないときに大人の真似をして、強い感情(例えば、大きな声で泣いたり、悲鳴をあげたり)を表出してしまうのではないでしょうか。

また、世代間の衝突が母親のQOLにネガティブな影響を与えることも実証されました。世代間の衝突は避けがたいものではありますが、母親と子ども両方の心身の健康にネガティブな影響を及ぼすので、これからは世代間の育児の考え方の違いに対する解決策や、衝突に対する対処法を見出すことが大事でしょう。

もう一つ、筆者が2014年に中国・上海のある幼稚園で、園児505名(年少から年長)の保護者に実施したアンケート調査では、入園前の養育スタイルを3群(完全祖父母育児群、祖父母共同育児群、完全親育児群)にわけて、子どもたちのパーソナリティを比較しました。

その結果、「完全親育児群」のほうが、子どもの向社会性が高いことが判明しました。また祖父母の育児参与度が高いほど、子どもの向社会性が低いことが示されました。おそらく上述したように、祖父母育児の場合、社会活動が少ないため、他の子どもまたは大人と触れ合う機会が少なくなってしまい、初めて会った人との付き合いが少し苦手で、緊張しやすい子どもに育つ傾向にあるのではないかと推測されます。

また、年少の対象者には、祖父母育児参与度が高いほど、反応の激しさの得点がより高いという結果が出ました。それは上述した祖父母の育児参加による世代間の衝突が原因の一つと考えられるほか、祖父母の甘やかしも、孫の反応の激しさを高めた可能性があります。おじいちゃん、おばあちゃんがいつもなるべく孫のニーズを満たそうとしてしまう結果、少しでも思い通りにならないとすぐ大げさに泣いたり、かんしゃくを起こしたりする子どもに育ってしまいます。泣いたら、おじいちゃん・おばあちゃんがすぐ応じてくれるだろうと思っているのかもしれません。あるいは、いつも「小皇帝」のように特別扱いされているので、わがままになりがちとも考えられます。

一方、その年少児たちにその後2年間にわたって追跡調査を行ったところ、「反応の激しさ」は著しく低下し、社交性が高まりました。それは入園前の養育スタイル(ここでは特に祖父母の育児参加の影響)が、幼稚園での集団生活と教育によって弱まっていった可能性が考えられます。

以上、筆者自身の子育て経験と実証研究の結果から報告いたしました。祖父母の育児支援は確かに若い世代の強いサポートになっていますが、共同育児による様々な課題もあるようです。世代間の育児に対する考え方の違い、祖父母の体力の低下、甘やかしなどにより生じる問題について、今後の研究を通じて、具体的な改善策を提供していきたいと思います。




  • 注1 以前はほとんど国有・国営企業に保育所が設置されていたが、企業の民営化によって、多くの保育所が切り離された。
  • 注2 ベビーシッターより育児の専門知識と経験がある人。家事などの手伝いはせずに、育児だけに専念する。
筆者プロフィール
孫 怡(ソン・イ)

Ph.D,立命館大学グローバルイノベーション研究機構(RGIRO)専門研究員。
お茶の水女子大学で心理学博士号を取得、現在立命館大学RGIROに勤務。
2014年から、中国都市部における祖父母との共同育児に着目し、祖父母による育児参加に関する研究に着手し、「祖父母育児参加による幼児のパーソナリティ発達及び親子のQOLへの影響―日中比較縦断研究」を行っている。2017年から、大阪府茨木市で実施している「いばらきコホート研究」に携わり、妊娠から出産、就学前までの親子の精神状態および乳幼児の発達について長期縦断調査を実施中。
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