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第4回 「ドゥーラの効果(2)~心理社会面に与える効果の種類~」

岸 利江子 (イリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程)
スーザン・アルトフェルド (Ph.D. 研究評価コンサルタント)

2005年12月22日掲載

要旨:

連載第4回では、引き続きドゥーラサポートが分娩結果に及ぼす効果について述べるが、今回は産婦の心理面に与える効果に言及する。心理面・社会面についてのこれらの効果は密接に絡み合っているが、具体的には、陣痛の痛みに耐えられるという自信や安心感は分娩体験の満足感にも影響することなどがあげられる。産褥うつ病の発生率、陣痛の痛みの度合い、分娩の満足度などの調査と合わせて紹介し、ドゥーラサポートの日本への導入の期待についてもふれる。

第3回目では分娩時にドゥーラが付き添うことにより身体面に与える影響について紹介した。今回は心理社会面に与える効果について、これまでに調査されてきた研究を紹介する。



1. 心理面

ドゥーラサポートが産婦の心理面に与える効果には次のようなものがある。


A. 出産を自分でコントロールできたと感じられる
B. 自尊感情が高められ自信をもつ
C. 産褥うつ病の発生率が低下する
D. 陣痛の痛みの感じ方が和らぐ
E. より満足度の高い分娩体験になる
F. 不安が軽減する
G. 分娩中に受けたケアに満足する
(注)心理面への効果の測定について

※心理的側面や、次に述べる社会的側面の研究には、多数の産婦に対し質問表を依頼し、データを点数化して分析した量的研究もある一方、グラウンデッドセオリーや現象学などの手法により比較的少数の産婦から感想や意見を聴き、ことばで分析・記述した質的研究もよくみられる。量的研究では統計的手法を使って有意差の有無を数字で提示できる強みがあり、質的研究では対象者の思いや経験を自分のことばで深く語ってもらえる長所がある。

心理面の効果を調べる研究で問題になるのは、コストと測定の難しさである。一人一人の産婦にインタビューで気持ちを語ってもらい、それをテープ起こしして分析するのはデータ収集・分析ともに大変な作業である。質問表を使うと、一つ一つにかかる手間と人件費はやや抑えられる一方、統計的分析を行うには十分な数(できれば100名以上など)が必要となる。医学面のデータのようにカルテに記載してある情報を使う場合に比べて、質問表による調査は本人にアンケート回答を依頼する必要があり、産後に疲れていたり育児に忙しかったりする産婦に負担をかけてしまう。謝礼を払うことも多い。

測定の難しさについては、まず、医学的定義が明らかなものが多い身体面の項目に比べ、心理項目は定義があいまいであることによる難しさがある(例:自尊感情とは?不安とは?など)。気持ちは変動するものなのでデータ収集のタイミングの決定も難しい。得られた観察結果をどう判断するかの問題もある(例:質問によい答えをくれる産婦が必ずしも本当に満足したのかは分からない。例えば研究者やドゥーラを喜ばそうとして言ってくれただけかもしれない)。このように、誰もが納得する方法で厳密に心理的効果を測定する方法には課題が多い。

各研究で使われた尺度について別表にまとめた。(資料PDFの表 ドゥーラサポートが母子の心理社会面へ与える効果を測るために使われたスケールを参照


A. 出産を自分でコントロールできたと感じられる

女性が自分の出産を自分でコントロールできたと感じられる感覚は、出産の過剰な医療化からの回復の、重要な指標として多くの研究で調べられてきた。各研究の結果を見ると、ドゥーラに付き添われたグループの産婦は自分の分娩をよりコントロールできたと感じたという結果が多い。(資料PDFの表A.分娩の自己コントロール感を参照)特に、Hodnett & Osborn(1989)による研究では、妊娠中には両グループで差がなかったのに、分娩後にドゥーラありのグループでは、コントロール感がより上昇したという。メキシコシティで行われたCamperoらの質的研究(1998)では、ドゥーラありの産婦は、陣痛中に何が起こっていて自分が何をしたかということをより理解していた一方、ドゥーラなしの産婦は、分娩の全ての事が医療スタッフによってなされたと感じている産婦が多かった。Hodnettらの研究(2002)では有意な差が見られなかったが、社会的に恵まれた層で夫や家族の付き添いがあったことに加え、経産婦も半数含まれていたため、初産婦に比べて分娩への対処法について、もともと自信があったのかもしれない。


B. 自尊感情が高められ自信をもつ

ドゥーラのサポートによる産婦の心理面への効果は、出産前後の一時にとどまらず、その後の自己肯定感や自信にもつながるという結果が出ている。Hofmeyr、Wolmanらにより南アフリカで1990年初期に行われた実験では、産後の女性の心理状態が主に調べられた(1991; 1993)。産後1日目には両グループで差がなかったのに、産後6週目までに、ドゥーラサポートのあったグループで自尊心のスコアが増加し、ドゥーラなしのグループではスコアが減少した(Hofmeyr et al., 1991; Wolman et al., 1993)。ドゥーラのサポートは分娩時のみであったにもかかわらず、その効果が産後長期的に母親の心理面に効果を与え続けるという興味深い結果が得られた。(資料PDFの表B.自尊心・自信を参照) また、妊娠・出産に関する自信だけでなく、女性であることや、女性としての自分の身体を誇りに思う女性が、ドゥーラありのグループで出産後に有意に多かったという結果も得られた(Gordon et al., 1999)。


C. 産褥うつ病の発生率が低下する

産後の気持ちの落ちこみには、ベビーブルーとよばれる軽いものから、精神科の治療が必要になる重度のものまであり、本人や家族の産後の生活に大きな影響を与える(Trotter et al., 1992; Yogev, 2004)。産褥うつ病は産後1年以内に発症し、アメリカでは褥婦の10~20%に起こるという(Laing, 2000; Tam, 2001)。ホルモンバランス、うつ病の既往、家族歴だけでなく、サポートの欠如、予期しなかった分娩結果や児の状態などが発症のリスクを高めるという(Tam, 2001)。各研究の結果を見ると、産褥うつ病の発生率や症状を示すスコアが、ドゥーラありのグループで有意に低くなる結果が多く得られた。これらの有意な結果は貧困やマイノリティなど社会的に不利な状況の女性に著しかった。裕福な白人の多いサンプルを使ったHodnettらの研究では、ドゥーラあり・なしの2グループ間に有意差は見られなかった(2002)。(資料PDFの表C.産褥うつ病を参照


D. 陣痛の痛みの感じ方が和らぐ


陣痛の痛みはお産への恐怖の大きな要因であることが多いが、出産に対する気構えや社会文化的要素によってもその感じ方は大きく異なるという(Lowe, 2002)。ドゥーラの存在によって痛み自体がなくなることはないが、痛みの感じ方が軽減するという効果が調べられ、薬物を使わない疼痛緩和法として注目されている(Leeman, 2003)。有意な結果もある一方(Hofmeyr et al., 1991)、有意でなかったものもある(Langer et al., 1998)。Camperoらの質的研究(1998)では、ドゥーラありの産婦は、ドゥーラが話しかけてくれたおかげで痛みから気をそらすことができた、耐えられる痛みだと感じた、陣痛がちゃんと進んでいると感じられた、という声が聞かれた。ドゥーラなしのグループでは、陣痛が始まって入院してからは、いつ終わる痛みか、どうなるのか分からなかった、という感想があった(Campero et al., 1998)。


E. より満足度の高い分娩体験になる

分娩体験の満足度は総合的な評価として多くの研究で調べられてきたが、陣痛の痛みの感じ方との関連が深い(Yogev, 2002)。各研究の結果を見てみると、ドゥーラありのグループでより満足度が高くなった研究結果が圧倒的に多い。


F. 不安が軽減する

不安は定義の難しい概念であるが、女性が分娩についてさまざまな不安を感じると、それが分娩の進行状況と相互作用して難産をもたらす傾向がある(Yogev, 2002)。また不安はうつ病の兆候でもある(Hofmeyr et al., 1991; Wolman et al., 1993)。ドゥーラサポートによって産婦の不安を和らげる効果が調べられてきた。Manning-Orenstein (1998)はドゥーラサポートとラマーズ法を比較する研究を行い、ドゥーラサポートの方が女性の不安を軽減する効果があることを示す結果を得た。


G. 分娩中に受けたケアに満足する

出産の際にいいケアを受けられたという満足感は、産婦やその家族にとってうれしいだけでなく、病院のサービスの質を評価する上でも重要である。多くの研究で、ドゥーラのサポートがよかったので次回の出産でもドゥーラに付き添ってほしいと答えた産婦やパートナーが多かった(Gordon et al., 1999; Hemminki et al., 1990; Hodnett et al., 2002; Hodnett & Osborn, 1989)。Schroederら(2005)は刑務所内の女性にドゥーラサポートを提供し、女性からだけでなく、施設の病院のスタッフからも喜ばれた。


2. 社会面

(注)社会面に与える効果の測定について

心理面に関する研究と同様、ドゥーラサポートが母子の社会的側面に与える効果を測定する研究でもコストと測定の難しさが問題になる。グアテマラの研究では出産直後の母子に研究者が観察のためにずっとそばにいて、母親が新生児に話しかけたり笑いかけたりする回数を数えた。このようなデータ収集は、カルテを見れば分かる医学的介入の項目に比べてとても時間と手間がかかり人件費がかさむ。直接観察のスキルも必要である。愛着や夫婦関係などの人間関係も、時間とともに変化するので測定のタイミングの設定が難しい。観察者の存在によって母親の行動が変化することもあるだろう。各研究で使われた尺度について別表にまとめた。(資料PDFの表 ドゥーラサポートが母子の心理社会面へ与える効果を測るために使われたスケールを参照


A. 母子関係、児への愛着

女性は出産が終わると、次は「良い母親」になることが期待されている。自分の子どもを慈しむためには、女性が自分で自分自身を慈しむ能力が必要であるという(Bartell, 2004)。ドゥーラはまるで母親のように分娩中の女性を慈しむので、ドゥーラによるエモーショナルサポートは、「mothering the mother」と呼ばれる。情緒的に満たされた母親はよりスムーズに母親役割を獲得するという(Bartell, 2004; Raphael, 1981)。例えば、ナースに心配事にうまく対処してもらい、共感的なケアをうけた母親は、そのようなケアやサポートを受けるのにふさわしい自分を肯定し、自分の子どもに対してもそのような態度をとるという(Erickson et al., 1992; Korfmacher, 2001)。

また、分娩後できるだけ早期に触れ合うことによって母子のきずなが強まるといわれているが(Kennell & Klaus, 1998; Kennell, 2002)、ドゥーラは分娩に付き添い、出産直後の母児の触れ合いを促す役割を果たすことが多い。分娩直後だけでなく(Sosa et al., 1980)、産後2か月目に調査した研究(Landry, 1999)でも、ドゥーラサポートを受けた母親は、ドゥーラサポートなしの母親に比べて、児に触ったり話しかけたりする頻度が有意に高いという結果が出ている。(資料PDFの表.母子関係、児への愛着を参照)また、ラマーズ法のグループと比べても、ドゥーラサポートのあった母親の方が児をすんなり受け入れられたという研究結果もある(Manning-Orenstein, 1998)。母親が児に愛着を感じられるかどうかは、母親側だけでなく児の気質や行動とも深く関連しあう。ドゥーラサポートを受けた母親は、ラマーズ法のグループの母親に比べて、自分の児はよりむずがりにくく接しやすいと評価したという(Manning-Orenstein, 1998)。


B. 母親役割の自己評価

Wolmanら(1993)は産褥うつ病についてドゥーラサポートの効果を調べ、分娩時のサポートが産後6週間目まで母親の自尊心を向上させることを発見したが、同時に、母親としての能力に自信があると答えた母親もドゥーラサポートのあったグループで多いことを発見した。自分が良い母親であると自信をもつことにより、母子関係が安定し、ひいては虐待の発生率低下にもつながる可能性がある。


まとめ

今回はドゥーラのサポートが母親の心理面と社会面に与える効果について紹介した。これまでにされた研究は、統計的に有意でないものも含まれるが、全体的にとても良い結果がでている。心理面・社会面についてのこれらの効果は密接に絡み合っている。陣痛の痛みに耐えられるという自信や安心感は分娩体験の満足感にも影響する。逆に、不安や恐怖が緊張を呼び、緊張が痛みを増し、痛みがさらに不安や恐怖を増すというサイクルもよく知られている(森,1996)。また、出産を自分でコントロールできたという感覚は、女性として、母親としての自信や自尊心につながる。ドゥーラのサポートはこれらのサイクルについて、悪循環を予防しポジティブなものにする可能性がある。これらの効果は母親個人だけでなく、親子関係や夫婦関係など家族全体へも影響が大きい。

さらに、これらの研究でされたドゥーラサポートは分娩時のみという短期であったのに、その効果は時間が経つにつれて薄れるどころか増していき、長期的にみられることも明らかになった。これまでの研究では最長でも産後2か月くらいまでしか調べられておらず、年単位の効果については分かっていないので、さらなる研究が必要である。日本では少子化が進んでおり、子どもを産みたくない女性が増えているという。また、虐待の件数も増加していることから、母親役割を獲得しにくい社会になっているのかもしれない。ドゥーラのサポートは、女性が出産や育児についてより安心できる環境づくりに役立つため、日本へも導入が期待される。次回は、母乳育児、その他、医療費に与える効果などについて、これまでにされた研究結果を紹介する。


謝辞

この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。


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