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第5回 「ドゥーラの効果(3)~母乳育児、その他に与える効果の種類~」

岸 利江子 (イリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程)
スーザン・アルトフェルド (Ph.D. 研究評価コンサルタント)

2006年2月17日掲載

要旨:

連載過去2回の中でドゥーラサポートが分娩結果に及ぼす効果について説明したが、連載第5回では、分娩効果だけでなく母乳育児に与える影響についてさらに言及する。ドゥーラサポートの母乳育児への効果は、ドゥーラの開始者である人類学者Dr. Dana Raphaelがドゥーラということばを紹介して以来強調されてきたが、母乳育児の確立と、専門的知識をもってサポートするドゥーラの存在について、アメリカと日本を比較しながら説明する。

1. 母乳育児

ドゥーラの開始者である人類学者Dr. Dana Raphaelがドゥーラということばを紹介して以来、母乳育児への効果が強調されてきた。その後の多くの研究によって、分娩結果だけでなく母乳育児に与える影響についても、ドゥーラサポートの効果が調べられてきた。Dr. Raphaelは、出産や育児には周囲の人々による手助けが必須であり、そのようなサポートはアメリカでも徐々に得にくくなっていると述べた(1989)。彼女は世界のさまざまな国の出産・育児について調査し、出産直後の授乳が母乳育児成功の鍵となることなどを喚起した。日本については、桶谷式マッサージや、母乳育児を推進するシステムについて評価している(Raphael, 1989)。


入院中だけでなく、退院後の家庭も、母乳育児の主な場であるため、病院の方針だけでなく、地域でのやり方も母乳育児の実施状況に影響する。そのため、海外で調査された母乳育児に関する研究を日本に応用する際には、社会的背景の違いを考慮しなければいけない。例えば、アメリカで、出産の医療化の波とともに母乳育児が軽んじられてしまった度合いは、日本で昭和30年代に人工ミルクが普及した時以上であった。母乳育児について、時代遅れであるとか、"nasty"(いやなもの)であるというネガティブなイメージが一旦定着してしまったため、現在でも、母乳育児に積極的になれないという社会的文化的なハードルがあるようだ。一方、日本では、人工ミルク普及の波はあったものの、その後まもなく母乳育児が見直され、現在でも、できれば母乳で、と望む母親がほとんどで、社会的に母乳育児が受け入れられている。しかし、アメリカでも、ここ数十年はラクテーションコンサルタントや助産師、小児科医などによって母乳育児の利点が熱心に啓蒙されてきたこともあって、母乳に対して肯定的な母親が増えつつある。また、産後の入院期間も日米で大きく異なる。日本では産後の入院が長いため、母乳育児がほぼ安定するまでケアを受けられるが、入院期間が1~3日ととても短いアメリカでは、母乳育児の確立までに受けられるサポートが不足しがちである。

ドゥーラは出産前から母乳の長所や準備の仕方について情報提供することも少なくなく、出産直後の初回授乳を薦めて介助したり、さらに個人指導したりすることもある。初期の研究ではドゥーラはトレーニングされていなかったが、現在では3分の1以上のドゥーラがナースの資格や分娩準備教育の技術や知識をもつことを考慮すると(Lantz, 2005)、比較的多くのドゥーラが専門的知識をもって母乳育児をサポートしていると考えられる。


※方法論の検討

研究では、産後の入院中(産褥0~2日ということになる)の哺乳状況や、数週間後、数か月後の授乳の状況を電話などでデータ収集したものがある。多くが母乳育児の率を調べた量的研究である。また、哺乳の種類(母乳のみ、混合、ミルクのみ)、断乳の理由、その他の母乳育児を促進・阻害する要因について調べたものもあり、質的研究も含まれる。
 全体的に低い母乳育児率と短い入院期間は研究にも影響している。短い入院期間に残された記録のみで母乳育児の有無のデータを収集している場合もあるようだ。その点、日本では入院中の看護記録を用いてより詳細なデータを得ることが可能であろう。



各研究の結果を別表にまとめた。(資料PDFの表 母乳育児を参照) 多くの研究で、ポジティブな結果が出ている。産後4~6週目まで母乳育児を継続しているかを調べたものが多く、ドゥーラありのグループでより高い実施率が得られている(Hofmeyr et al., 1991; Langer et al., 1998)。メキシコシティで行われたLangerらの研究では、ドゥーラは出産直後の直接母乳を促し、母乳育児について情報提供(教育)を行っていた。産後1か月後の時点では、メキシコではこの時期には既にお茶、果汁などを与える母親が多いので、母乳のみで育てている率は全体に低かったが、母乳育児のための環境づくりや乳首のケアは、ドゥーラありのグループで有意によくされていた(1998)。

コミュニティベースのドゥーラによるサポートが行われたシカゴでの研究でも、顕著な結果が出ている。母乳に対する抵抗感が強いと言われるアフリカンアメリカンを多く含む10代の母親で、80%以上が母乳育児を開始し、21.8%が産後6か月まで母乳育児を継続した(参考:イリノイ州の10代の母親の平均母乳育児率は12.3%)(Altfeld, 2002)。このプロジェクトでは、妊娠期から母乳の利点について教育が行われ、産後まで母乳育児支援が継続された。

有意な差が見られなかった研究もある。Gordonらの研究では、その病院全体が母乳育児に熱心であったため、ドゥーラサポートの有無にかかわらず母乳育児の率が全体に高かった(1999)。Hodnettらの大規模な研究では、母乳育児の率に有意差はなかったが、ドゥーラは分娩時のサポートについて特別な訓練を受けたナースであり、母乳育児サポートについては論文内に記述がみられないため、ドゥーラありのグループで母乳育児支援がどれほどされたかは不明である。また、Landryら(1998)とWaltonら(1998)の研究は、学会発表の要旨のみで情報が少ない。

実験研究ではないが、Barronらは、大半が白人で既婚の貧困層の女性が、母乳育児を継続するのにどんな因子が影響を与えているかを調べた。産後2週間の時期に母乳育児をサポートしてくれる女性(ドゥーラ)がいた女性は平均23.4週間母乳育児を継続し、ドゥーラがいなかった場合には12.3週間であり、その差は有意であったという結果を報告している(1988)。

松永(2004)は断乳のケアに注目した質的研究を行い、日本の助産師が、母親の断乳のプロセスにおいて、継続的なエモーショナルサポートを提供し、ドゥーラ的役割を担っていると考察した。これらの研究結果から、ドゥーラが母乳育児を推進するための特別な指導やケアを行うことが重要であることがわかる。つまり、単に分娩時が快適になるように付き添うだけでは母乳育児への効果は得られにくい。また、出産直後だけでなく、妊娠期の意思決定や準備の時期から、長期的に支援することも効果を高めるようだ(Mallak, 1999)。


2. その他


A. 医療費削減

母子の健康に与えるドゥーラサポートの効果だけでなく、医療介入を減らし自然出産を増やすことによる医療費削減が期待されてきた。この種の研究の必要性は、メタアナリシスを行ったZhangら(1996)や、人類学者Deitrick(2001)の研究によっても指摘されてきたが、実際にはほとんど研究されていないようであるため、ここでは見積もりのみ紹介する。

アメリカではイリノイ州の場合、病院で順調に経膣分娩をした場合は平均1.9日間入院で平均費用は$4,684、分娩が順調に進まず帝王切開になった場合は平均4.7日間入院で$13,186であり、帝王切開は経膣分娩の約3倍のコストがかかる(Illinois Healthcare Cost Containment Council、1999)。日本の場合も、経膣分娩は35万円前後、帝王切開の場合は自己負担の3割で30万円前後ということは、実際には帝王切開は経膣分娩の約3倍のコストがかかると考えられる。また、無痛分娩のために硬膜外麻酔には約$1,000が加算されるという(Altfeld, 2002)。ドゥーラのサポートによりこれらの医療介入が減少すれば、医療費を大きく節約できることになる。

しかし、ドゥーラの養成や人件費に費用がかさむのも事実である。シカゴのドゥーラプログラムはコミュニティベースであるため特殊な例であるが、ドゥーラのトレーニング(ドゥーラトレーナー、ドゥーラへの報酬)にも多大な費用がかかったという(Altfeld, 2002)。このプロジェクトでは、ドゥーラ自身も貧困層であることが多く、トレーニングやミーティングに参加してもらうための謝礼や交通費などもプロジェクトが負担した。ドゥーラになる女性の背景、ドゥーラの所属や働き方などにより、ドゥーラのマネジメントにかかるコストは異なると考えられる。


B. 妊娠中の喫煙・飲酒率、予防接種実施率、家族計画

結果に有意な差はみられなかったものの、前述のシカゴドゥーラプロジェクトでは、妊娠期から産後まで継続的なドゥーラサポートが行われ、妊娠中の喫煙・飲酒率や、児の予防接種実施率、その後の家族計画指導の効果についても調べられた(Altfeld, 2002)。


終わりに

これまで3回にわたり、ドゥーラのサポートによる効果にはどんなものがあるかについて、紹介してきた。程度の差や多少の矛盾はあるものの、大体において、ドゥーラが主に分娩時に付き添うことにより母子の健康や情緒面にプラスの効果がみられることが理解されたと思う。各研究結果の別表を見るとわかるように、これらの研究では、誰がドゥーラになるか、どんなトレーニングを受け、どんなサポートをしたかは、研究によって異なる。また、対象となった女性の背景もさまざまであった。次回は、これまでの研究で設定されたドゥーラサポートの種類や、対象者のタイプについて述べる。その後、代表的なメタアナリシスの結果について紹介し、ドゥーラサポートの効果に関する章のまとめとする予定である。


謝辞

この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。


参考文献
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