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第2回 「ドゥーラ研究の変遷」

岸 利江子 (イリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程)
スーザン・アルトフェルド (Ph.D. 研究評価コンサルタント)

2005年10月28日掲載

要旨:

連載「ドゥーラ」の第2回。ドゥーラ研究の源泉といえるグアテマラの研究と、それをきっかけに世界各地に広がった各研究と合わせてこれまでのドゥーラ研究の流れを追う。また、今後の研究の方向性や、日本でのドゥーラサポート介入の可能性、日本における老人保健へのドゥーラサポートの応用の可能性についてもふれる。

1980年代初期にドゥーラの概念が産科領域に紹介されて以来25年近くになる(Raphael, 1981)。今回は、これまでのドゥーラ研究の流れを追う(図1)。


<図1>
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「ドゥーラ」をキーワードにMEDLINE(医学系)、CINAHL(看護系)、PsycInfo(心理学系)の3つの文献検索データベースを検索してみると、この20年間に急速に研究論文が増えているのが分かる(図2)。

<図2>
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重複を除くと、これらのデータベースを使って検索される論文数は2005年10月3週現在、計115件となる。上記に限らず、出版されたもの、未出版のものを含め得られる限りの英語で書かれたドゥーラについての文献を検索し、これまでに約170件余について入手し、検討を行った。うち、約60件がレビューやコメントではなく独自に調査(データ収集・分析)を行った研究論文であった。その調査研究の内訳は、約8割がドゥーラの効果に関する実験研究で、初期の多くはこれにあたる。そのうちの半数強は、バイアスが一番少ないといわれる無作為化臨床実験(注1)である。また、残りの約2割の研究はドゥーラ自身やプログラムに焦点をあてており、近年増えてきた研究である(図3)。

<図3>
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(注1)ドゥーラサポートを受けるグループと通常のケアを受けるグループの計2グループ以上を設定した臨床実験研究。グループ分けの際に、研究者や参加者の意図が入らないように、くじなどによってランダムに決める方法を用いること(無作為化)が重要である。


1. ドゥーラ研究の源泉:グアテマラの研究


一番初めのドゥーラ研究として有名なのは、1980年に発表された、Sosa、Klaus、Kennelらにより中米のグアテマラで行われた無作為化臨床実験である (Sosa et al., 1980)。これはドゥーラサポートグループ(実験群)20名、ドゥーラサポートなしで通常のケアのみのグループ(コントロール群)に20名という小規模の実験であった。この研究によって、通常のケアのみの母親に比べて、出産中にドゥーラサポートを受けた母親は分娩直後に、ずっと長い時間覚醒し、より頻繁に新生児に笑いかけたり話しかけたりすることが分かった。また、帝王切開や羊水混濁(注2)の頻度も低下することが発見された。このグアテマラの研究は、ほどなく、より大きいサンプル(計465名の母親)を使って医学的効果について調査された (Klaus et al., 1986)。この実験では帝王切開率(ドゥーラサポートグループ7%、通常ケアグループ17%)、オキシトシン(子宮収縮剤)使用率(同2%、13%)、新生児のNICU入院率(同7%、2%)が顕著に低下し、分娩時間が短縮される(同7.7時間、15.5時間)という結果が得られた。

(注2)分娩中に酸素不足などの理由で胎児が苦しんだ時に羊水中で排便をしてしまう現象。


所見1:初期の研究でドゥーラは特にトレーニングされていなかった


これらの初期の研究では、ドゥーラ役の女性は、背中をさすったり、励ましたり、手を握ったりして付き添ったが、ドゥーラになるための特別なトレーニングはされなかった。Kennel, Klausらはその後も場所をアメリカに移して実験を行った(Kennell et al, 1991)。1991年に行われた研究では、3つのグループが比較されていて興味深い。ドゥーラサポートグループ、通常ケアグループに加え、もう一つのグループでは、付き添った女性はトレーニングされていないだけでなく、産婦に話しかけたりも触れたりもせずにただひっそりと部屋の隅で座っていただけなのに、そのグループでも顕著な効果が見られたのである。専門のトレーニングを受けていない女性をドゥーラとしていたのは初期(1990年代の前半頃まで)だけで、その後はドゥーラの研究・実践の両方において、ドゥーラとは専門のトレーニングを受けた女性をさすようになっていった。

所見2:合併症のない健康な初産婦のみ、社会心理的ハイリスク、と対象が限られていた

また、これらの研究は産婦が夫や家族に付き添ってもらえない病院で行われた。また、社会的に経済・教育レベルの低い層や、母親学級などの出産準備教育を受けていない産婦などが多かった。


2. ドゥーラ効果研究の発展・拡大


グアテマラの研究をきっかけに、ドゥーラサポートの効果を調査した実験研究が増えていく。場所も、南米、アメリカだけでなく、フィンランド、スウェーデン、南アフリカ、カナダ、メキシコなど世界各地で行われていった。1) 初産婦、合併症なしなどの研究されてきた集団についてさらに別の施設などで効果を確かめる研究、2) 経産婦も含む、早産など対象領域を広げて調査、3) 母親の心理、産後の母乳育児への影響にも注目した研究、4) 夫も付き添っている場合、裕福な層、出産準備を行った層ではどうかを調べる研究、5) ナースや助産婦学生がドゥーラ役を行った研究や、トレーニングにより特別に養成したドゥーラを使った研究などがされている。これらの研究の流れは現在に続く。

実験研究が増えるに従い、それらを統合しようとする研究もされた。例えば、1つ1つの実験では十分なサンプル数が得られなくても、複数の似た研究をまとめて大きなサンプルとし分析を行うメタアナリシスがある。また、系統的なプロセスを経た総合的文献検討も行われてきた。

これらのドゥーラの効果に関する研究から何が分かったかについて、次回以降に説明していく。ここで触れておきたいことは、ドゥーラの効果に関する研究が発展・拡大するにしたがって、単純化した説明が難しくなってきたことである。これらの研究に共通する問題点として、第一に、方法論的、倫理的な臨床実験の限界が挙げられる。出産という現象一つであっても多くの要因がからみあう。たとえゴールドスタンダードといわれる無作為化臨床実験であっても、ドゥーラサポートのみを単独で抽出し因果関係をつきとめる方法自体が不可能である。また、研究者だけでなく、母親や病院のスタッフが、ドゥーラのサポートを受けているということを知らずに研究に参加するという研究デザインが理想だがそれは不可能である(ブラインドの問題)。コントロール群の通常のケアでどこまで社会心理的サポートがなされているかは不明だが、それを無にする操作は倫理的に問題がある。第二に、ドゥーラという概念のあいまいさがある。ドゥーラサポートの効果に関する研究では、ドゥーラサポート自体が何なのかということも統一されていない。これまでの多くのドゥーラ研究の中で、ドゥーラはトレーニングされていなかったり、その研究のためだけに養成されたり、助産師学生がドゥーラを行うなど、ドゥーラケアの内容や提供者はばらばらと言ってよい。最後に、各研究に関する情報量の限界がある。出版された論文内に必要な情報が十分に書かれていないことにより、研究の再分析が難しいことが多い。例えば、ドゥーラのトレーニングの内容までは書かれていても、実際にそれぞれのドゥーラがそれぞれのケースで何をどれだけ行ったか、ということまで詳細に記載してある研究論文は皆無といってよい。

代表的なメタアナリシスを行ったScottら、Zhangらや、既存の文献をシステマティックに検討することで信頼されているCochrane Library Reviewでドゥーラサポートに関連する検討を多く行っているHodnettも、これらの問題に言及している (Hodnett, 2005; Scott et al., 1999; Zhang et al., 1996)。


3. ドゥーラ自体に焦点をあてた研究の開始

ドゥーラサポートの効果に関する研究が注目を集めるにしたがって、ドゥーラは、臨床に取り入れられ、ヘルスケアシステムにおける新しいパラプロフェッショナル(準専門職)として発展してきた。ドゥーラの実践と研究を促進する組織も設立された。国や州によってドゥーラについて規定した法律やシステムは現在でもなく、それぞれの団体が独自に活動を行っている。このようなドゥーラの実践活動を反映し、ここ10年ほどは、それらのドゥーラプログラムやドゥーラとなる女性について記述する研究が増えた。例えば、これまでで最大規模の調査としては、Lantzらによる、北米の5つの主なドゥーラ組織において認定されたドゥーラらと認定プロセスにあるドゥーラらを対象にアンケート調査を行った報告がある (Lants, et al., 2004; 2005)。

これらの研究により、ドゥーラになる女性の背景や、何を励みにドゥーラの仕事をしているのか、どんなことで困難を感じているのかということが明らかになってきた。ドゥーラ個人の体験や個々のプログラムを記述分析する研究では、共に働く医師や助産師を含んだ母子医療チーム全体や、地域の政治的パワーの問題にも言及したものが少なくない。


4. 今後のドゥーラ研究


ドゥーラの効果に関する研究も、ドゥーラそのものに関する研究も、まだ一般化するには時期尚早である。実験研究では、同じ条件を繰り返したり、対象を広げたり、他の要因をよりコントロールして実験するなどのさらなる探究が必要である。

効果に関する研究では、まず、これまでの多くは出産時のドゥーラサポートが主で、妊娠期のサポートに焦点をあてた研究はされていない。例えば、不妊治療、胎児診断などを受けた母親に関するドゥーラサポートの報告はない。初産年齢の高齢化に伴いこれらの医療介入を受ける女性は増えており、独特の不安を抱えて心理的サポートを必要とすることも多いだろう。流早産を経験した後の女性へのサポート、切迫流早産や多胎妊娠で特別なケアを必要とする女性へのドゥーラサポートについても研究はされていない。帝王切開後の妊娠で帝王切開にするべきか経膣分娩をするべきか、母乳育児をするかどうかなど、妊娠期の母親の意思決定プロセスへのドゥーラサポートを試みた研究もない。

産褥期のドゥーラサポートの効果やプログラムを調べた研究も未開拓である。母子関係に関する研究はごく初期からいくつかなされたものの、測定自体も難しく、研究のコストもかかり、検証には課題が残っている。虐待の発生頻度など長期的な介入や観察も必要となろう。産褥うつ病や母乳育児についても、出産時サポートの余韻としての効果は調べられているが、産褥・育児期までサポートを延長した報告はない。

これまでの研究のデータは圧倒的に母親と新生児から得られている。妊娠・出産・育児は母親だけでなくその夫や、経産婦の場合は上の子ども、産婦の両親や夫の両親など家族のメンバーの皆に関わる出来事である。母児を取り巻く人々に与える効果の研究はされていない。経産婦特有のニーズとサポートに注目した研究もされていない。

ドゥーラ自体に焦点を当てる研究も始まったばかりで手付かずの分野が多い。例えば、トレーニングの程度の違いによってサポート効果の程度を比較する研究はされていない。また、ドゥーラの種類(プライベート、病院ベース、コミュニティベース)によって効果を比べる研究もされていない。ドゥーラのトレーニングや実践内容の増加や多様化とともに、それらを理論化しようとする試みがされていくだろう。新しい専門職として成長しつつあるドゥーラを実際に受け入れている医療スタッフの体制について調べた研究も出版されていない。欧米では男性の助産師は存在するが、男性ドゥーラに関する研究はない。

最後に、これまで検索した限り、日本だけでなくアジアにおいて実験され英文で発表された研究はほぼ皆無であった。しかし近年、アジア(注3)でも中国、台湾などでもドゥーラサポートは注目され始めていることが分かっており、今後研究が進むと考えられる(小林,2004; 本稿第1回目)。中国江蘇省徐州で1997年から2000年にかけてドゥーラの心理的効果について調査された研究報告があることが分かった(Yan, Zhang, Zhao, & Liu, 2002(本文中国語、要旨のみ英訳あり))。

(注3)ここで、TBAについて触れておきたい。アジア、アフリカ、南米などの発展途上国では、伝統的出産付添い人 (Traditional Birth Attendant: TBA)という役割があり、地域における出産サポートにおいて重要な役割を果たしている。日本の昔の産婆に近いかもしれない。世界保健機構 (World Health Organization: WHO)もTBAの活動を奨励している。ドゥーラもTBAも、出産に付き添う非専門職の女性という意味で似ている。しかし、主に先進国で医師や助産師の存在がほぼ確保された上でプラスアルファとして働くドゥーラとは違い、途上国の地域によってはTBAは不足する医師や助産師の代理として分娩介助の全てを引き受ける唯一の援助者であることもあり、ドゥーラの研究とTBAの研究は区別が必要であろう。


5. ドゥーラ研究を日本でどう生かすか

これまでにされたドゥーラに関する研究は、過剰な医療化が問題となるような国で行われており、その多くは医療の発達した先進国である。日本も出産は医療化されており、欧米先進国で得られたこれらの成果を取り入れることは十分に可能である。しかし、日本と欧米で社会文化背景の異なる点に考慮しなければいけないだろう。まず、出産に関する人々の価値観が異なるかもしれない。例えば、私の考としては、アメリカに比べると日本では医療化にしても自然出産への回帰にしても、熱心さの度合いがそれほど極端でないような印象を受ける。日本では高度医療が可能な割に無痛分娩の普及率が低いことはその一端かもしれない。高度な医療技術を生かしつつ、自然な妊娠・出産・育児を尊重する土台があるといえるかもしれない。また、医療保険システム、産後の入院期間などはアメリカなど西欧と大きく異なることも妊産婦やその家族のニーズに影響するだろう。最後に、特筆すべきこととして、日本にはもともと産婆が存在し、現在も地域に根ざした活動で助産や母乳育児サポートで大きな役割を果たしていることも、ドゥーラ役割との関連が深い。というのは、日本人にとってドゥーラはまったく新しいコンセプトではなく、昔から産婆が行ってきた要素として受け入れられる可能性が高い。

また、ドゥーラサポートはそもそも妊娠、出産、産褥期にある女性をターゲットにして発達してきたのだが、周産期保健以外への応用が提案され始めたこともおもしろい。実験研究はないが、幻覚のある老人に対するドゥーラサポートプログラムを提案した論文がある (Balas, et al., 2004)。集中治療室の患者は、絶えずモニターの音にさらされるなどストレスの多い環境におり、特に高齢者では、その環境のせいで幻覚や混乱を起こすことが多い。ナースは多くの患者を担当していて忙しく、1対1のエモーショナルサポートを提供することが難しい。妊娠や出産にドゥーラが必要になった背景、過剰な医療化(非人間化)とナースの不足という問題は、周産期ケア以外の領域でも共通していることが分かる。そのような場で、1対1で付き添い、気持ちを落ち着かせてくれ、患者の気持ちを汲んで医療スタッフとのコミュニケーションの架け橋になってくれるドゥーラサポートが果たす役割は大きい。老人保健へのドゥーラサポートの応用は、高齢化が急激に進んでいる日本においても興味深い。


謝辞


この原稿は小林登先生(東京大学名誉教授・国立小児病院名誉院長・CRN所長)のご指導のもとに作成しました。

参考文献

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Hodnett, E.D., Gates, S., Hofmeyr, G.J., & Sakala C. (2005). Continuous Support for Women during Childbirth. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2.

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Sosa, R., Kennell, J., Klaus, M., Robertson, S. &, Urrutia, J. (1980). The effect of a supportive companion on perinatal problems, length of labor, and mother-infant interaction. New England Journal of Medicine, 303 (11), 597-600.

Yan, G., Zhang, K., Zhao, Y., & Liu, Y. (2002). Psychological effect of doula labor on primigravidae. [Chinese]. Chinese Mental Health Journal, 16 (3), 157-158.

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