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【日本】乳児と養育者におけるくすぐり遊びの初期発達

要旨:

前言語期の乳児にとって、身体接触は他者との重要なコミュニケーションのひとつである。本稿では、身体接触を伴うかかわりの中でも特にくすぐり遊びに着目し、養育者と乳児のくすぐり遊びにおける相互作用の初期発達に関する検討を行った。

キーワード:
くすぐり、くすぐったさ、乳児、相互作用、身体接触、発達

ことばを獲得していない乳児にとって、身体接触は他者との重要なコミュニケーションのひとつです。筆者は乳児と養育者における身体接触を伴う遊び、中でもくすぐり遊びに着目しながら、そこにおけるやりとりの発達について検討してきました。本稿では、その一部を紹介します。

身体接触の特徴

身体接触、すなわち「触れ合い」は、その文字通り「触れたと同時に触れられている」という同時双方向性があります。養育者が乳児に触れると、その感覚は両者の間で同時に共有されます。また、身体接触はその行動型や部位、やりとりの文脈により様々な意味が生じ、正(親愛)・負(嫌悪)いずれにせよ、強い情動の発露の場となり得ます。根ケ山(2002)はこれらを踏まえたうえで、身体接触は、「相手とのあいだに生々しい疎通性を生むコミュニケーションチャンネル」であるとしています。

他方で、身体接触は他者との「境界」を感じさせる感覚であるともいえます。ロシャとヘスポス(1997)は、生後24時間以内の新生児を対象として、実験者が乳児の頬を撫でた場合と、乳児の片手が乳児自身の頬に触れた場合で、口唇探索(ルーティング)反応(注1)が生じた頻度を比較しました。その結果、新生児は実験者による接触に対して、自己接触よりも多く口唇探索反応を示しました。このことは、乳児が新生児の時から身体接触を介して「自己」とそれ以外の「他」であるものを区別していることを示唆します。身体接触は、原初的な自他の理解の場ともなり得るのです。

くすぐり遊びへの着目

こうした身体接触の特徴が集約される興味深いやりとりとして、くすぐり遊びがあります。くすぐり遊びは、乳児と養育者において自然になされるごく一般的な遊びであり、ほほえましく大変楽しげなやりとりです。

その一方で、くすぐり遊びをよく観察すると、そこには若干の「不快」成分が含まれていることがわかります。例えばくすぐり行動には、普段はなかなか他者から触られない場所(脇の下、脇腹など)に指を突き立てて触れる、といったネガティブな要素が含まれ、くすぐったがり反応にも、身体のこわばりや手の押し返しといった、回避的反応が含まれます。どんなに楽しくくすぐり遊びをしていても、延々とくすぐり続けられたら、楽しさは一転し、回避や嫌悪の対象となり得ます。くすぐり遊びは、快と不快の微妙なバランスの上に成り立つやりとりなのです。だからこそ、二者の間でちょうどよい加減が達成された時に楽しさが際立つのだと考えられます。

また、くすぐり遊びにおいて核となる「くすぐったさ」は、自分で自分をくすぐっても生じることはなく、他者からくすぐられることによって初めて生じる特殊な身体感覚です。従ってくすぐったがり反応の発現は、乳児の「自己」と「他者」の理解の発達の一側面を示すものであると考えられます。

くすぐり遊びの発達:くすぐり遊びにおける「焦らし」と予期

では、乳児はいつからくすぐったがるようになるのでしょうか? 実は生後すぐの乳児では、くすぐったがり反応はあまり見られません。強いくすぐったがり反応が生じるようになるのは、生後半年頃以降であるとされています(根ケ山・山口、2005)。

具体的にどのようなやりとりがなされているのでしょうか。筆者らは、くすぐったがり反応が発現しはじめる生後半年前後の母子を対象として、くすぐり遊びにおける相互作用について詳細に検討しました(石島・根ケ山、2013)。そうしたところ、母親のくすぐり方が2種類あることに気付きました。ひとつは、母親が乳児の身体に直接的にくすぐる、ごく普通のくすぐり方。もうひとつは、母親が乳児をくすぐる際に、乳児の目の前で(つまり空中で)くすぐる手を見せてから、乳児の身体をくすぐる等の、「焦らし」を含んだくすぐり方です。後者の「焦らし」のあるくすぐりは、生後半年過ぎ頃から生起し始めていました。

さらにこの「焦らし」を含んだくすぐり遊びに着目し、マイクロ分析(注2)を行いました。すると、母親が「焦らして」いるとき、母親の声のピッチ(高さ)が徐々に高調化しており、乳児は母親の「顔」や「手」を見ていたことがわかりました。そして、くすぐる手が乳児の身体に直接触れる直前に、予期的にくすぐったがっていたのです。その直後、身体に直接触れるくすぐりがなされた際には、母親の声のピッチも最高潮となり、乳児はくすぐったがりながらも、時折母親の顔を見る、という行動が生じていました。くすぐったがり反応は回避を含んだ行動であるにもかかわらず、乳児においても母親の顔を見つめる行動が生じていたのは、大変興味深いことです。くすぐり遊びは、一見するとくすぐる側・くすぐられる側という、能動・受動が固定された関係の中でなされるやりとりのようにも思えます。しかしながら、くすぐられる側である乳児も、触覚・視覚・聴覚を総動員させながら、マルチモーダル(注3)に能動的にやりとりに参与しているのです。

マルチモーダルなくすぐり遊びにおける音楽性・盛り上がりの共創

マロックとトレバーセンは、乳児と母親におけるコミュニケーションには「音楽的」とも呼べるような規則性があり、その中でリズム・テンポを共有したり、互いに敏感にやりとりを調律し合ったりする現象がみられることを指摘し、それらを「コミュニカティヴ・ミュージカリティ(コミュニケーション的音楽性)」という概念で説明しました(Malloch & Trevarthen、2009/2018)。くすぐり遊びにおいても「こちょこちょ」というリズム・テンポをベースとしながら、母親と乳児が時々刻々と互いの行動をマルチモーダルに調律し合い、やりとりの盛り上がり(クライマックス)を共創しているのだと考えられます(詳細は石島、2020参照)。

なお、「焦らし」と類似した機能をもつくすぐり方として、「いっぽんばし こちょこちょ」などの「歌にのせたくすぐり」があります。こうした「焦らし」や「歌」を含んだ次の展開の予期を容易にさせるような機能をもつくすぐりは、生後5ケ月頃の母子ペアよりも生後7ケ月頃の母子ペアにおいて、より多くみられることがわかっています(Ishijima & Negayama、2017)。

くすぐり遊びにおける笑いの共有と身体感覚の共感性

さらに、乳児がくすぐったがり反応を示したくすぐり遊びでは、そうではないくすぐり遊びと比べて、有意に多く母親の笑いが見られました(Ishijima & Negayama、2017)。つまり、くすぐり遊びにおいて、母親と乳児とのあいだで笑いの共有が生じていたのです。当たり前のことのようですが、「ヒトらしさ」とは何かを考えたとき、これは非常に重要なポイントだと考えられます。

くすぐり遊びは、ヒトの「進化の隣人」といわれるチンパンジーにおいても観察されますが、その様相は少し異なるようです。松阪(2008)は、チンパンジーにおいては、遊びの中での「笑いの共有」は起こらないと指摘しています。さらに、チンパンジーは遊びにおいて他者の心の状態(楽しさ)を細かく読み取っておらず、相手の楽しさをさらに発展させるための働きかけは希薄であり、「くすぐりの焦らし」などは生じないとしています(松阪、2017)。

ヒトの養育者のくすぐり遊びは、自らの身体の感覚をベースにしながら、「どこをどのようにくすぐれば相手がくすぐったがるだろうか」と考え、乳児の反応を見ながら(同時に乳児がくすぐったがる・笑うことを期待しながら)、呼応的にくすぐり方や働きかけを変化させているのではないでしょうか。それゆえに、乳児がくすぐったがった時、笑いの共有も生じ、大きな一体感や疎通性・楽しさを感じるのだと推察されます。

筆者は現在、養育者(父親・母親)と乳児のくすぐり遊びにおける相互作用の縦断的研究を進めています。その中の質問紙調査で、生後半年以降の乳児とくすぐり遊びをしている時、養育者はどのように感じているのかを尋ねました。その結果、養育者はくすぐる側であるにもかかわらず、「少しくすぐったい」と感じているケースがあることがわかってきました。このことからも、ヒトの養育者における、身体感覚をベースとした共感性の高さがうかがえます。

くすぐり遊びにおける「焦らし」と予期の発達的な意味・機能

くすぐり遊びにおいて、乳児はくすぐる手が直接身体に触れずとも、予期的にくすぐったがることもあります。そうした「触れられること」の予期は、くすぐりのような日常的なやりとりにおける他者の意図の気づきの予兆ともいえます。

こうした他者の意図への気づき・読み取りといったトピックは、発達心理学の中で、「自分―他者―物」という三項関係のなかでの「共同注意」という現象において議論されてきました。他者の視線を追い、その先にある物に目を向け、注意を共有しながらやりとりをするような場面がそれにあたります。こうした共同注意は、他者の意図や情動といった心的状態の理解の発達的基盤を提供すると考えられており、生後9ケ月頃からあらわれることから、「9ケ月革命」とも呼ばれます(Tomasello、1999)。一方で、チンパンジーにおいては「自分―他者―物」という三項関係での複雑な相互交渉の成立は難しく(友永、2006)、物を交互交代的にやり取りする三項関係的な遊びもなされない(明和、2009)とされています。

ここで改めてヒトの乳児の社会性の発達について考えてみると、くすぐり遊びは重要な示唆を与えてくれます。くすぐり遊びは、本来乳児と養育者の間でなされる二項関係的なやりとりです。しかし、くすぐる/くすぐられる「身体」(そこで生じる「身体感覚・くすぐったさ」)を注意の対象としたとき、その場は三項関係的な性質を帯びます。そうした場で身体感覚の共有がなされるからこそ、乳児は予期をしながら活発に反応し、養育者もまた歓喜して、くすぐり遊びが大いに盛り上がるのではないでしょうか。これを私たちは、ヒトの身体感覚の共感性を下敷きにした、三項関係の前駆的体験(「原三項関係」)であると考えています(Negyama、2011; 石島・根ケ山、2013)。

また、生後7ケ月頃の母子ペアでより多く見られた「焦らし」や「歌」を含んだくすぐりには、乳児の社会性を認知的に高次なレベルへと引き上げるような、身体を基盤とした認知発達の足場づくり的な機能があるのかもしれません。これらの点について、今後さらなる検討が必要とされています。


*本記事は、石島このみ(2020)「心と身体に「触れ合う」かかわり― 赤ちゃんとお母さんのくすぐり遊びの発達」(育児通信159号,公益社団法人桶谷式母乳育児推進協会)に加筆、再編集したものです。


  • 注1)口唇や口角に何かが触れると、口を開け、触れられた方向に顔を向ける行動。
  • 注2)マイクロ分析とは、ビデオカメラなどの記録装置を用いて、リアルタイムでは見えなかった行動の時系列的変化を微視的に捉えるための分析方法です。視線の微妙な動きなど、1秒以下の時間間隔での行動の変化を扱うことができます(岡本, 2000)。
  • 注3)マルチモーダルとは、視覚や聴覚、触覚などの複数の感覚刺激を含むことを意味します。


参考文献

  • 石島このみ(2020)「第1部第5章 マルチモーダルな身体接触遊びが持つ意味」, 今川恭子(編著)わたしたちに音楽がある理由(わけ):音楽性の学際的探究, 音楽之友社. 65-80.
  • 石島このみ・根ケ山光一.(2013)乳児と母親のくすぐり遊びにおける相互作用:文脈の共有を通じた意図の読みとり, 発達心理学研究, 24(3), 326-336.
  • Ishijima, K. & Negayama, K.(2017)Development of mother-infant interaction in tickling play: The relationship between infants' ticklishness and social behaviors. Infant Behavior & Development, 49, 161-167.
  • Malloch, S. & Trevarthen, C.(2009) Communicative Musicality :Exploring the basis of human companionship. Oxford University Press.(邦訳:マロック・トレヴァーセン 編, 根ケ山光一・今川恭子他 監訳(2018)『絆の音楽性―つながりの基盤を求めて』 音楽之友社)
  • 松阪崇久.(2008). 笑いの起源と進化. 心理学評論, 51(3), 43
  • 松阪崇久. (2017). チンパンジーの遊びの多様性と環境: ヒトの遊び環境を考えるために. 子ども学, (5), 206-222.
  • 明和政子.(2009). 人問らしい遊びとは?:ヒトとチンパンジーの遊びにみる心の発達と進化. 亀井伸孝編, 遊びの人類学ことはじめ:フィールドで出会った<子ども>たち, 昭和堂. 135-164.
  • 根ケ山光一.(2002). 発達行動学の視座:<個>の自立発達の人間科学的探究. 金子書房.
  • Negayama, K.(2011). Kowakare: A new perspective on the development of mother-offspring relationship. Integrative. Psychological Behavioral Science, 45, 86-99.
  • Rochat, P., & Hespos, S. J. (1997). Differential rooting response by neonates: Evidence for an early sense of self. Infant and Child Development, 6(3-4), 105-112.
  • 根ケ山光一・山口創.(2005). 母子におけるくすぐり遊びとくすぐったさの発達. 小児保健研究, 64, 451-460.
  • 根ケ山光一・今川恭子他 監訳『絆の音楽性―つながりの基盤を求めて』 音楽之友社 2018
  • 岡本依子.(2000). マイクロ分析. 田島信元・西野泰広(編著), 発達研究の技法(pp.175-179). 東京:福村出版.
  • Tomasello, M.(1999). The cultural origins of human cognition. Cambridge: MA: Harvard University Press.
  • 友永雅己.(2006). 霊長類における三項関係と心の創発. 動物心理学研究, 56(1), 67-78.
筆者プロフィール
Ishijima_Konomi.jpg 石島 このみ(いしじま・このみ)

早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程満期退学、博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員(DC2)、早稲田大学人間科学学術院助手、東京家政大学子ども学部助教を経て、2019年4月より白梅学園大学子ども学部子ども学科講師。専門は、発達行動学・発達心理学・乳児保育。ヒトも動物であるという立場から、ヒトらしさとは何か、赤ちゃんはいかにしてヒトらしくなるのかという問いを持ち、探求している。現在は、乳児の社会性の発達や、アロマザリング(母親以外の他者による子どもの世話・養育行動)に関する研究を行っている。

※肩書は執筆時のものです

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