CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 世界の幼児教育レポート > 【日本】ワクワク・ドキドキを生み出す砂場の周辺環境 ~もっと楽しい園庭のデザインを考える~

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

【日本】ワクワク・ドキドキを生み出す砂場の周辺環境 ~もっと楽しい園庭のデザインを考える~

炭谷 将史(聖泉大学人間学部教授、神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士後期課程)
野中 哲士(神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授)

2020年1月24日掲載

要旨:

園庭でのワクワク・ドキドキするような遊びの展開を導いている環境の性質とは,いったいどのようなものなのだろうか.本稿では個別事例の観察を通して子どもの遊びの文脈を理解することを目的に,園庭保育を提唱している川和保育園にある傾斜付砂場で遊ぶ園児の様子を観察した.その結果,遊びが盛り上がるプロセスには偶発的な出来事が関わっていることや砂場での遊びは特に水の役割が重要であることを明らかにした.また,そのような遊びを可能にするには場所のデザインと大人の存在が重要であることを考察した.

キーワード:

遊び,園庭,デザイン,砂場,生態学的地図,機能的価値

園庭で遊んでいる園児たちはワクワク・ドキドキしているのだろうか.私たちは園児たちの遊びを理解できているのだろうか.園児たちはどのように遊びを始め,展開し,終えているのだろうか.子どもたちの遊びにワクワク・ドキドキが生まれたとき,遊びを導いているものとはいったい何なのだろうか.園児たちが遊びに没頭しているときに園児たちを取り巻いている状況を具体的に知りたい.

園庭での遊びをより楽しいものにするためのポイントはこれまでも明らかにされてきた(仙田,2016;2018).例えば,Herrington & Lesmeister(2006)は園庭を魅力的にする遊具や遊び場のデザインのポイントとして,character(場所の特徴・見た目),context(密集度・大人の存在),connectivity(隣接する場所とのつながり・通路・接続性),change(1人になれる場所・継時的な変化・流動性),chance(柔軟性・選択性・融通性),clarity(明瞭性),challenge(段階的かつ複数の挑戦)の7つをあげている.また地面の特性(硬さや材質)によって遊びの種類が変わること(Cosco, Moore, & Islam,2010)や,遊び場のデザインや遊具のレイアウトによって遊びの満足度や継続時間が変わること(Dyment & O'Connel,2013;Sporrel, Caljouw, & Withagen,2017),遊び場に置いてある移動可能な道具(おもちゃ)の量や種類によって遊びの人数や内容が異なること(Jarrett, French-Lee, Bulunuz, & Bulunuz,2011)などが報告されている.では,実際の遊びの中では,盛り上がりはどのような個別の文脈の中で生まれるのだろうか.

1. 遊びのプロセス

このような疑問から,園庭保育(寺田,2010;寺田・宮原,2014;青木・河邉,2015)という考え方に基づいた保育を実践している川和保育園(神奈川県横浜市)の協力を得て「傾斜付砂場」(通称:だいもれ)で遊ぶ園児たちを観察させてもらった(炭谷,2019).観察では,園庭内の様々な場所で遊ぶ園児の様子を動画に撮影し,その中から傾斜付砂場での遊びが10分以上継続して撮影できていた5つの遊び事例について,遊びの展開を追ってみることにした.分析に際しては,園児たちの砂場内での行為を「水の行為」,「砂の行為」,「移動」に分け,それらの行為が行われていた場所を傾斜付砂場の「上部」と「下部」に分けて行為の流れを記述してみた.

lab_01_127_01.jpg 傾斜付砂場の上下区分


表1 5つの事例

事例1 大量のバケツで水を流して遊ぶ園児たち lab_01_127_02.jpg
事例2 2箇所での作業が1つにつながり,水路づくりを進める園児たち lab_01_127_03.jpg
事例3 水の排出を堰き止めることで,くぼみに水を貯める園児たち lab_01_127_04.jpg
事例4 バケツや木片を使って水の流れを堰き止める園児たち lab_01_127_05.jpg
事例5 水をほとんど流さずに遊ぶ園児たち lab_01_127_06.jpg



(1)遊びの展開と偶発性

この観察を通してあらためて浮かび上がってきたことのひとつに,遊びの展開の偶発性がある.この研究では遊びのプロセスを検討するために,「遊びの始まり」,「遊びの展開の萌芽」,「遊びの展開」,「遊びの終わり」という4つの視点から遊びを記述し,その特徴を検討した.観察した5事例のうち, 4つの事例で熱中と呼べるような状況が起こっており,その熱中のきっかけを見ると,いずれの事例においても,流した水が砂場内の川や穴(池・ダム)からあふれるといった園児が予想していなかったと思われる出来事が起こった時に,次の行動が生まれたり,遊びが展開したりしていた.例えば,事例3では園児AとBが砂場横の小川から反対側にある穴に向かう水路を作り,穴に水を貯めようとした.しばらくすると当然のことながら穴の水は大量になる.いよいよある箇所からあふれそうになったため,園児たちはそこを食い止めようと砂を懸命に運んだ.ところが,しばらくすると全く異なる箇所が決壊し,砂場の外に水があふれ出した.それを見た園児の多くは口々に「ワ〜」「キャ〜」「早く止めろ〜」と叫び,水路として使っていた竹筒を外したり,決壊した箇所をせき止めたりした.この例のように,ワクワク・ドキドキはあらかじめ考えられていたような場面ばかりではなく,むしろ偶発的に起こった出来事によって生まれた様子が確認された.

lab_01_127_07.jpg 水がくぼみから溢れ出し興奮状態になった園児たち


(2)砂場遊びにはたす「水」の役割

傾斜付砂場の観察から見えてきた2つ目のポイントは,遊びを楽しくする上で水が重要な役割を果たしているということである.5つの事例のうち4つは傾斜付砂場の周囲を流れる小川から汲んだ水を使った遊びであり,熱中が生まれなかった1事例のみが水を使わない遊びであった.先行研究においても砂場遊びに水が加わることで遊び時間が長期化するという報告(Herrington & Leseister, 2006)があるが,水の役割は明確ではなかった.本研究では,水が場所を知るための探索の道具となっていたこと,および複数の場所で遊んでいる園児たちをつなぐ役割を果たしていたことが明らかになった.

遊び始めから確認できた3事例では,傾斜付砂場に最初に入った園児はすべからく水を流すことから始めていた.水を流す前に何かを相談したり,計画したりという様子はなく,とにかく水を流してみるという様子であった.それはあたかも砂場の状態を水の動きで確かめているかのようであり,たまたま水が貯まったところをさらに深く掘ったり,水が流れた跡を水路にしたりという,いわば水の動きに沿って遊びが進められていた.

もう1つの水の役割は,別々に遊んでいる園児をつなぐというものであった.本研究で確認された事例では,砂場の上部と下部もしくは左右などいくつかの小グループに分かれて砂の作業が進行した.例えば事例2では,最初は上部と下部で別々に水路作りが行われていたが,途中で上部から流した水が下部で作業をしている園児たちの水路に流れ込んだ.そこから上部と下部の遊びがつながり,徐々に1つの水路作りへと発展していった.最後には2箇所の水路と途中につくられたダムをつなぐように竹筒を使った水路がつくられ,1つの大きな水脈づくりへと向かっていた(未完成のまま終了).

lab_01_127_08.jpg    lab_01_127_09.jpg
最初は上下に作業が分かれて,別々のイメージで穴を掘っていた    途中から水の流れがつながり水路づくりへと発展した


(3)生態学的地図

一般的に場所を記述する方法(地図)は客観的な測定が可能な形(長さ,距離,空間的配置)のみに基づくが,Heft(1988)は子どもの外遊び環境を表現する際, "そこでできること"に基づいて表すことで,場所の理解が変わる可能性を指摘した.例えば,登ることができる(climb-on-able)とか,走ることができる(run-able),座ることができる(sit-on-able)などの表現で場所を表すことが可能であるということである.

このような"そこでできること"は,環境が生体に与える機能的価値を表している.この機能的価値に基づいて傾斜付砂場を描写した地図(以下,生態学的地図とする)を図1に示す.園児の身体サイズや発達段階によって,同じ場所であっても機能的価値は異なる.例えば,3歳児にとっては,石段があったとしてもバケツいっぱいの水を持って上方に行くことは難しいかもしれない.図1に示した生態学的地図は筆者らが観た4〜5歳児にとっての生態学的地図である.このように生態学的地図を作成するためには園児たちの実際の行為を記述し,園児たちがそこでしていたことを丁寧に観る必要がある.筆者らが観た園児たちは,砂のある場所では"水を流す","水を貯める","建設する(穴を掘る,路をつくる)"という行為をしていたし,石段では"水を持って登り降り"を,また用具置き場に道具を"置く"等の行為をしていた.

lab_01_127_13.jpg 図1 傾斜付砂場の4~5歳児の生態学的地図 (Ecological map of sloping sand pool)

生態学的地図は,その場所を使う人たちにとってのその場所の意味を映し出す.ワクワク・ドキドキを生み出す場所の生態学的地図をいくつも描くことで,園児にとって楽しい遊びを生む場所に特有の機能的価値やレイアウトの特徴を浮かび上がらせることができれば,根拠の明確な園庭デザインが可能になるだろう.


2. 遊びと場所のデザイン,そして大人の存在

この傾斜付砂場には「だいもれ」という通称がつけられているが,これは水が大量に漏れ出すことを表す「大漏れ」に由来するという(寺田・宮原,2014;奥田・炭谷,2018).いわば,偶然の出来事である「漏れ出す」ということをデザインした場所と言える.この砂場のデザインには,いくつもの工夫が織り込まれているが,最も重要なものは傾斜である.その傾斜は築山のような傾斜ではなく,ひな壇状の土台の上に山砂を敷いてつくられた傾斜であるため,作業をする際の姿勢が安定する.また傾斜は下部の方がやや急で,上部は緩やかにつくられているため上部に行っても安心感をもって遊べる.砂場の脇には水を上に運ぶ際に足元が安定するように園児の歩幅に合わせた置石が埋め込まれている.このように傾斜のデザインひとつをとっても,微に入り細に入りいくつもの工夫が為されている.

lab_01_127_10.jpg 大量のバケツを使って遊ぶ園児たち.
必要最低限ではなく,豊富な道具があることで遊びのイマジネーションが広がる


道具もワクワク・ドキドキを生み出す仕掛けとして見逃すことはできない.この傾斜付砂場にはバケツやジョーロ,水路をつくるための竹筒などが大量に準備されている.バケツは園児が運べるくらいの量の水を汲める大きさのものが30個以上はあり,ジョーロも10個くらいはあった.また竹筒は大小のものが20本以上はあっただろうか.園児たちはこれらの道具を砂場の状況に合わせて選んで遊ぶ.時には竹筒を使って水路を作り,時には大量のバケツとジョーロを使って上部まで水を運んで一気に流す.こうして大量の道具に支えられた遊びのバリエーションは尽きることがない.

lab_01_127_11.jpg   lab_01_127_12.jpg
バケツは水を運ぶだけでなく,砂を入れたり,流れを堰き止めるためにも使われる    豊富な道具類.この他にも竹筒や木片などが砂場のすぐ脇に置いてある


川和保育園の寺田園長は「偶然を必然に変える」ことの大切さを伝えている(寺田,2010).園庭にはたくさんの偶然の出来事がある.それを単なる偶然の出来事とするのか,その中に面白さを見出し,新しい発見をするのか.大人がその目をもっているかどうかで,園児たちの気づきも変わってくるという.幼児教育施設における遊びの質を規定する要因の中で,特に遊びに影響を及ぼす要因として,周辺の物的環境要因と人的環境要因が指摘されている.物的要因とは地面の特性,遊び場のデザイン(遊具の種類や数,植栽の量,舗装路の占有率等),固定遊具のレイアウト,道具の量や種類などである.人的環境要因は遊び場のルールや施設の大人の遊びへの関わり方や考え方,子どもの身体能力や家庭の経済状況等が挙げられよう.人的環境要因の中で最も重要な要因が幼児教育施設の大人がもつ遊びに対する考え方や実践内容が最も影響力のある要因のひとつとして報告されている(Pate, Pfeiffer, Trost, Ziegler, & Dowda,2004).本稿で紹介した傾斜の付いた砂場のデザインは,園児たちが自分で考え,自分で遊べるよう,多くの選択肢と偶発的出来事が生まれる可能性をもった場所を作ろうと考えた大人たちがいたからこそ生まれたものである.また,園児たちが偶発的な出来事を見逃さずに遊びのきっかけとしたこともまた,大人たちの日頃の保育態度から学んだことなのかもしれない.そう考えると園児がワクワク・ドキドキしながら遊ぶことのできる園庭づくりで大切なのは,遊びを大切に考え,環境構成を繰り返す大人の存在なのかもしれない.




参考文献

  • 青木久子・河邉貴子(2015)幼児教育 知の探究8 遊びのフォークロア.萌文書林:東京.
  • Barbour, A. (1999). The impact of playground design on the play behaviors of children with differing levels of physical competence. Early Childhood Research Quarterly, 14(1), 75-98.
  • Cosco, N., Moore, R., & Islam, M. (2010). Behavioral mapping: A method for linking preschool physical activity and outdoor design. Medicine & Science in Sports & Exercise, 42(3): 513-519.
  • Dyment, J & O'Connell, T. (2013). The impact of playground design on play choices and behaviors of pre-school children. Children's Geographies, 11(3), 263-280.
  • Heft, H. (1988). Affordances of children's environments: A functional approach to environmental description. Children's Environments Quarterly, 5(3), 29-37.
  • Herrington, S. & Lesmeister, C. (2006). The design of landscapes at child-care centres: Seven Cs. Landscape Research, 31(1),63-82.
  • Jarrett, O., French-Lee, S., Bulunuz, N., & Bulunuz, M. (2011). Play in the Sandpit: A University and a Child-Care Center Collaborate in Facilitated-Action Research. American Journal of play, 3(2), 221-237.
  • Kytta, M. (2004). The extent of children's independent mobility and the number of actualized affordances as criteria for child-friendly environment. Journal of Environmental Psychology, 24(2), 179-198.
  • 奥田援史・炭谷将史(2018)遊びの復権.おうみ学術出版:滋賀.
  • Pate, R., Pfeiffer, K., Trost, S., Ziegler, P., & Dowda, M. (2004). Physical activity among children attending preschools. Pediatrics, 114(5), 1258-1263.
  • 仙田満(2016)こどもの庭 仙田満+環境デザイン研究所の「園庭・園舎30」.世界文化社:東京.
  • 仙田満(2018)こどもを育む環境 蝕む環境.朝日新聞出版:東京.
  • Sporrel, K., Caljouw, S., & Withagen, R. (2017). Children prefer a nonstandardized to a standardized jumping stone configuration: Playing time and judgments. Journal of Environmental Psychology, 53, 131-137.
  • 炭谷将史(2019;印刷中)保育所園庭の傾斜付砂場が園児に与える遊びの機会.生態心理学研究.
  • 寺田信太郎(2010)第一章 川和保育園 危険を遠ざけるのではなく 危険を感じ取り,体験することが 自分の身を守る力を育てる.佐々木正美(編)子どもと親が行きたくなる園 あんしん子育てすこやか保育ライブラリー(3) 優れた保育実践に学ぶ.すばる舎:東京.pp.7-46.
  • 寺田信太郎・宮原洋一・川和保育園編(2014)ふってもはれても:川和保育園・園庭での日々と113の「つぶやき」.新評論:東京.
筆者プロフィール
sumiya_masashi.jpg 炭谷将史(すみや・まさし)

聖泉大学人間学部教授.神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士後期課程.幼児教育施設の保育支援や子育て支援,スポーツ教室の開催など幼児・児童およびその保護者を対象とした事業を展開する一般社団法人スタジオふらっぷを主宰している.子どもたちの遊び環境に焦点を当てた研究を進め,特に園庭の環境デザインに興味を持っている.著書・論文に『遊びの復権』(おうみ学術出版),『保育所園庭の傾斜付砂場が園児に与える遊びの機会』(生態心理学研究,2019印刷中)などがある.

nonaka_tetsushi.jpg 野中哲士(のなか・てつし)

神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授.音楽家として活動したのち,東京大学大学院学際情報学府博士課程修了.2016-17年にハーバード大学ヴィース生物規範工学研究所に客員研究員として滞在.2017年に「身体―環境系における柔軟な行為制御の研究」で第14回日本学術振興会賞を受賞.国際学術雑誌Ecological Psychology編集理事.著書に『具体の知能』,『身体とアフォーダンス: ギブソン『生態学的知覚システム』から読み解く』(金子書房)ほか.専門は発達科学.
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP