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【日本】 遊び場に対する幼児の価値づけに関する横断的検討 -モザイク・アプローチと課題価値評定尺度を用いて-

杉本 貴代(愛知大学短期大学部准教授)

2019年7月12日掲載

要旨:

本研究では,保育所における幼児の遊び場の選好とそこでの遊びに対する価値づけを検討した.モザイク・アプローチにもとづき写真投影法と面接法を組み合わせて4~5歳児合計93名の選好を調査し,課題価値評定尺度を用いて幼児の発話内容を分析した.その結果,幼児は多様な遊びや主体的な学びができる遊び場に独自に価値づけをしていることが分かった.また幼児の価値づけは保育方針や家族の影響も受けて形成される可能性が示唆された.

キーワード:
モザイク・アプローチ, 好きな遊び場, 課題価値, 幼児
Ⅰ 問題と目的
1.1 研究の背景と問題の所在

遊びは,生涯を通じて重要な意味をもつ(Bateson, 2011 他).とりわけ乳幼児期の遊びは,子どもにとって欠かすことのできない精神的・身体的活動であり,児童期以降の遊びや学びの重要な基盤となる(Brown, 2010; Gray, 2013).子どもの遊びについては,哲学,心理学,教育・保育学,動物行動学といった幅広い領域から定義されてきたが(Pelligrini, 2011; Smith & Roopnarine, 2019 他),近年,遊びの主体である子どもの視点を取り入れる動きが盛んになっている.その一つとして,モザイク・アプローチ(Clark & Moss, 2011)は,子どもを「完全なコミュニケーター」とみなし,複数の視点(子ども,大人,保育者等)とコミュニケーション・モード(視覚情報,発話等)をモザイクのピースとして組み立てて,子どもの認識に接近する手法である.

日本でも,モザイク・アプローチを用いた「遊び場」研究が進み,興味深い知見が蓄積されてきている.たとえば,幼児の好む保育施設内の遊び場には8つの物理的特徴(隠れ家的性質等; 宮本他, 2016)がみられる. 幼児の認識と保育専門職の認識の差異は,遊び場の空間要因と状態要因への注目の仕方にある(宮本他,2017). 園内には保育専門職のチームとしての多面的な視点と幼児独自の視点や評価が共存する点が報告されてきた(杉本他,2019).

しかし,これまでの研究では,幼児が好む遊び場の特徴の解明にとどまっており,好きな遊び場で幼児が何を感じ,また考えて,どのように遊んでいるかといった遊びのプロセスについては明らかにされていない.幼児一人ひとりが好きな遊び場に対してどのような価値づけをしているか,またその個人差や多様性を生み出す要因に関しても検討する必要がある.幼児は好きな遊び場での多様な経験等を通して価値を見出し,さらに遊びを発展させていると考えられる.また幼児の生活の連続性の点から,日常的にかかわりのある他者の影響も考えられる.幼児の声に耳を傾け,個々の多様な価値づけを意識することは,子どもの視点から保育や遊びの環境を向上・改善する際の重要な手がかりとなりうる.また日々の保育実践が乳幼児の発達に重大な影響を及ぼすことを示すことができると考える.

1.2 目的

本研究の目的は、園内の好きな遊び場への幼児の価値づけの傾向を明らかにし,価値づけが遊び場の特徴や保育の方法とどのように関連するか考察することである.子どもの発達の連続性に鑑み,小学生以上で使用される基準(課題価値評定尺度)を用いた.リサーチ・クエスチョンとして次の3つが挙げられる.すなわち,① 幼児は保育所内の好きな遊び場での遊びにどのような課題価値を見出すか ②場所ごとの価値づけ傾向や,特定の価値が付与される場所はあるか ③幼児の価値づけにはどのようなことが影響を及ぼすと考えられるかの3点である.

Ⅱ 方法
2.1 対象園と手続き

対象は中部地方の認可保育所2園に通園する4~5歳児合計93名(うち4歳児67名)であった.園は有意サンプリングにより選択し,園の規模と周辺地域の環境等の類似性を統制した.A園は2016年1月~3月,B園は2017年の1月~3月に実施した.

手続きは,モザイク・アプローチを用いた宮本他(2017)をもとに,写真投影法と個別面接法による調査とした.写真投影法では、15分間の時間を与え、幼児が自由に園内の好きな遊び場をデジタルカメラで撮影した.次に,個別面接法では,各児が撮影した写真の場所について半構造化面接を実施した.面接は各15分以内とし,幼児は好きな遊び場をランクづけし,調査者からの3つの質問に自由に回答した.質問項目は,A.場所の命名(「ここは,どこですか.」),B. 好きな理由(「どうしてこの場所が好きですか.」),C.遊び方 (「ここで,どんなことをしますか.」)であった.なお,「A. 場所の命名」に対し, 遊びや遊具の名称等を答える例もあった.

2.2 分析方法

幼児の価値づけ傾向をみるために,小学生から成人まで使用されている心理尺度である,課題価値評定尺度(表1)を用いて幼児の回答内容をコーディングした.

表1 課題価値評定尺度(伊田, 2001; 吉田・宮本, 2011)を幼児用に改変

 課題価値定義(幼児の具体的回答例を補足)
興味価値 おもしろい.楽しい.すごい
私的獲得価値 自己成長を感じることができる.自分の個性を生かすのに役立つ.
公的獲得価値 自己有能感を抱くことができる.他者に尊敬される.
実践的利用価値 社会(他者・周囲)に貢献できる(動物の世話,掃除など).実践に生かせる(隠れ家).問題解決に役立つ(鬼ごっこの避難先).
制度的利用価値 希望する就職・進学にとって大切, あるいは将来要求される.成績(先生の評価)がよくなる.


Ⅲ 結果

写真投影法と個別面接法による幼児の発話回答から,対象園の4~5歳児には好きな遊び場が一人平均7か所前後あること,好きな場所をランク付けできることが確認された(表2).

表2 対象園の幼児の好きな場所数

  学年 一人当たり回答場所数(SD)・ランクづけした場所 園内の選好場所総数
A園 4歳児(21名) 6.86 (2.86) 50箇所
5歳児(26名) 7.68 (2.05) 67箇所
B園 4歳児(46名) 7.13 (2.2) 65箇所



3.1 課題価値にもとづく分析

得点化の方法として,遊び場一箇所に対し課題価値(表1参照)ごとに1点を付与した(例:鉄棒→私的獲得1点).ただし,一箇所に複数の課題価値付与も可とした(例:うさぎ小屋:興味&実践的利用 各1点). 対象児全体の価値づけ傾向として,4~5歳児は好きな遊び場の約7割に興味関心,面白さ,期待感を抱いているだけでなく,遊び場に興味価値以外の価値も見出していることが分かる(図1).

lab_01_123_01.jpg 図1 幼児の課題価値の付与(2園・全回答場所対象)



3.2 幼児の価値づけパターンの園間比較と保育方針

幼児は自分の好きな遊び場をランク付けできることが分かっている(杉本他, 2019).そこで本研究では,各児が選んだ上位5箇所に対する価値づけ傾向を2園で分析した.課題価値(3:私・公・実)*園(2)*性別(2)の3元配置分散分析の結果,課題価値の主効果が有意となり(F(4,60)=70.265, p<.001, sig., η2= .824) ,1次の交互作用が有意(F(4,60)=4.24, p<.001, sig., η2= .220) ,「課題価値」の単純主効果が有意となった.なお,男女差は認められなかった.

A園とB園は異なる価値づけパターンを示し,A園の幼児は私的獲得価値と実践的利用価値が公的獲得価値よりも高くなる傾向がみられた(私的獲得価値・実践的利用価値>公的獲得価値).一方,B園の4歳児では,私的獲得価値と公的獲得価値と実践的利用価値の3つの価値づけに差は見られなかった.A園の幼児はB園よりも,自分の好きな遊び場に私的獲得価値・実践的利用価値をより多く見出しているといえる.

lab_01_123_02.jpg

図2 4~5歳児の価値づけパターン(2園)


3.3 実践的利用価値とA園の保育方針・保育内容 

幼児が実践的利用価値を付与する傾向がみられたA園では,デッキの廊下の雑巾がけを日課とし,うさぎの世話を当番制にしている.掃除の時間は,保育者は離れたところから見守るのみで幼児たちのやっていることに一切口出ししない. デッキの廊下を選んだ9名の5歳児は,実践的利用と興味価値を見出しており,廊下の雑巾がけも遊びと認識していることが分かった.

また,うさぎ小屋に対しては14名が実践的利用と興味価値を見出していた.A園の子どもにとってはうさぎ小屋の掃除や,餌やりは遊びであった.うさぎの飼育道具を収納する場所も好きな場所となっていたことから,保育者からうさぎの世話を任されることに誇りを抱いていることが窺えた.

3.4 幼児の価値づけの多様性-同じ遊び場に異なる価値づけ

同じ場所で遊んでいても,その選好理由や価値づけが異なる例を紹介する.表にまとめた幼児の回答内容から,同じ場所(鉄棒,プール等)に女児は自己成長を感じることができる「私的獲得価値」を見出しているのに対し,男児は興味価値を多く見出して遊んでいることが分かる.こうした差異が男女差に起因するものかは不明であるため今後の継続した調査が必要である.

表3 場所と価値づけと遊び方 lab_01_123_04.jpg
クリックして拡大


3.5 「興味」以外の価値を重視する幼児の事例  

本研究で対象とした2園には,興味価値以外の価値を重視している子どもがいた.たとえば, A園4歳児のR子は,鉄棒,うんてい,畑,園庭で育てている大根に,私的獲得価値を見出していた.鉄棒は「できるようになりたいから」「練習してるから」好きだと理由づけしていた.また,畑や園庭で栽培していた野菜を好きな場所として選んだ理由は,「『お野菜,体に良いよ,大きくなるよ』ってママがいつも言ってるから,お野菜大好きなの」と回答していた.R子は,自分の成長につながること、すなわち練習して上達することや、偏食せずに食べて体づくりをすることを評価する私的獲得価値重視型であると考えられる.

lab_01_123_03.jpg 図3 R子の好きな大根の簡易プランター


一方,B園のY男(4歳児)は,好きな場所上位4か所(園庭,パズル,将棋,年長組の部屋)のいずれにも公的獲得価値を見出しており,公的獲得価値重視型と考えられた.好きな理由として,「勝つと楽しいから」,「友だちにはたまに勝てる.お父さんにはまだ勝てない.」といった理由づけをしており,勝負ができる遊びや人的環境を好んで評価していることが分かった.本児は,園だけでなく,自宅でも父親と将棋,オセロゲーム等の勝負を楽しんでいた.幼児が保護者と価値観を共有し,そのことが遊び場の選好や価値づけ,遊び方に影響している可能性が考えられる.

Ⅳ 総合考察と結論

本研究から,幼児の好きな遊び場に対する価値づけには以下の特徴が見出された.第一に,幼児は好きな遊び場に独自に課題価値を付与する.同じ場所で一緒に遊んでいても,遊ぶ動機は多様である.第二に,園内環境や保育方針も幼児の価値づけに影響を及ぼしている可能性がある.幼児が主体的に取り組める遊び環境には私的獲得価値が付与されやすい(鉄棒,プールなど).世話や掃除などの向社会的行動をすることで,幼児にとって遊びとなる場に実践的利用価値が付与されやすくなると考えられる(ウサギ小屋,廊下). 価値づけは,幼児の遊びや主体的な学びを方向づけるものである(観察する,楽しむ,練習する,がんばる,うまくなる,勝負する,認めてもらう).幼児は好きな遊び場の多くに興味価値を付与するが,興味価値以外の価値を重視する幼児がいることや,同じ場所に対してもその子によって異なる価値を見出して遊んでいることも分かった.幼児の発話内容から,価値づけは自らの遊びの経験,遊びの効用,保育園の方針,周囲の大人の期待などの影響を受けると考えられるが,さらなる調査が必要である.幼児の価値づけは,経験を通して絶えず再構成されていくと考えられ,幼児の園内外の生活の中で連続性をもつ可能性がある.今後の課題として,幼児の興味価値の特徴を詳細にとらえることや,縦断的に個人内変容を追跡していくことが必要である.


    引用参考文献:
  1. Bateson, P. (2011). Theories of Play. In Pellegrini, A. D., (ed.), The Oxford Handbook of the Development of Play. New York: Oxford University Press.
  2. Brown, S. (2010). Play: How it Shapes the Brain, Opens the Imagination, and Invigorates the Soul. Avery.
  3. Clark,A. & Moss,P. (2011). Listening to Young Children: The Mosaic Approach. Second edition. National Children's Bureau.
  4. Gray, P. (2013). Free to Learn: Why Unleashing the Instinct to Play Will Make Our Children Happier, More Self-reliant, and Better Students for Life. Basic Books.
  5. Hunleth, J. (2011). Beyond on or with: Questioning power dynamics and knowledge production in 'child-oriented research methodology. Childhood 18(1). pp81-93.
  6. 伊田勝憲.(2001). 課題価値評定尺度作成の試み. 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(心理発達科学). 48, 83-95.
  7. 宮本雄太・秋田喜代美・辻谷真知子・宮田まり子.(2016). 幼児の遊び場の認識:幼児による写真投影法を用いて. 乳幼児教育学研究 No.25. pp9-21.
  8. 宮本雄太・秋田喜代美・杉本貴代・辻谷真知子・宮田まり子.(2017). 保育者が捉える幼児の遊び場の認識 国際幼児教育研究 V0l. 24, pp61-76.
  9. McInnes, K., Howard,J., Crowley, K. & Miles, G. (2013). The nature of adult-child interaction in the early years classroom: Implications for children's perceptions of play and subsequent learning behavior. European Early Childhood Education Research Journal Vol.21. pp268-282.
  10. Moore, D. (2015). 'The teacher doesn't know what it is, but she knows where we are': young children's secret places in early childhood outdoor environments. International Journal of Play. Vol. 4, No.1. pp20-31.
  11. Pellegrini, A. (2011). The Oxford Handbook of the Development of Play. New York: Oxford University Press.
  12. Smith, P.K. & Roopnarine, J.L. (2019). The Cambridge Handbook of Play: Developmental and Disciplinary Perspectives. Cambridge: Cambridge University Press.
  13. 杉本貴代・秋田喜代美・宮本雄太・辻谷真知子・宮田まり子・石田佳織.(2018). 遊び場に対する4~5歳児の価値づけに影響を及ぼす諸要因の検討ー 第15回子ども学会議 プログラム・抄録集p38.
  14. 杉本貴代・秋田喜代美・宮本雄太・宮田まり子・辻谷真知子・石田佳織.(2019). 遊び場に対する幼児と保育者の認識の諸相-選好の多様性と視点の多重性-. チャイルドサイエンス Vol. 17 pp31-36.
  15. 吉田富二雄・宮本聡介編(2011).課題価値測定尺度(伊田 2001)心理測定尺度集Ⅴ pp95-101. サイエンス社. 


【謝辞】

本稿は,秋田喜代美(東京大学大学院教育学研究科), 宮本雄太(東京大学大学院教育学研究科・日本学術振興会), 宮田まり子(白梅学園大学), 辻谷真知子(白梅学園大学・日本学術振興会), 石田佳織(園庭研究所)の諸先生方との共同研究の成果にもとづいてまとめたものです.本研究の実施にあたり,東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター(Cedep)の関連SEEDS研究プロジェクト(代表:秋田喜代美)の助成を受けました.

筆者プロフィール
杉本 貴代(すぎもと・たかよ)

愛知大学短期大学部准教授.米国ミシガン州立大学大学院言語学研究科修了(言語学修士).東京大学大学院教育学研究科修士課程教育心理学コース修了(教育学修士).専門は,言語学と心理学.言語とコミュニケーションの生涯発達,子どもの遊び観と学びの相互影響のプロセスの解明などを中心に研究を進めている.主な研究業績として,「日本語母語児の連濁処理方略」(8章分担執筆),Vance,T. 他編著(2017)『連濁の研究』(開拓社)等がある.
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