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【元・学生パパがみたドイツ育児】 第1回 「遊び場カフェ」と子育ての動機

今回から、私自身のドイツ体験をもとに「元・学生パパがみたドイツ育児」についてのコラムを書かせていただきます。どうかよろしくお願いします。

第一回目は、ドイツ・ベルリンでの子育て事情の一例として、本サイトでもシュリットディトリッヒ桃子さんが触れられている「遊び場カフェ」を題材に、子育てのモチベーションについて、パパ目線から考えてみたいと思います。

女性は数ヶ月間、自分のお腹で赤ん坊を体感し、大抵の場合は授乳を通じて赤ん坊とコミュニケートして、「母親」になるといえます。対して男性は、こういった体感はありません。ですから、いつかどこかで親としての目覚めが必要なのです。これを私の所属するNPO団体ファザーリング・ジャパンでは「パパスイッチ」と呼んでいます。私のドイツでの育児は、まさにパパスイッチの入れ方を学んだ日々であったといえます。

加えて、2012年3月まで、私は大学院に所属する学生でした。その間、約4年半ドイツ・ベルリンに滞在しました。収入源は、「ドイツの奨学金(2年間)→研究員給付金(1年間)→調査員給与(9ヶ月間)」と移り変わり、無収入の時期も3ヶ月ほどありました。

このベルリン滞在中に私たち夫婦は多くの人と出会い、様々な体験をしましたが、「最も印象的な出会いと体験は?」と問われれば間違いなくこう返答するでしょう。最高の出会いは2008年1月の第一子、2012年2月の第二子との出会いであり、最も楽しく、最も苦労した体験は子育てであったと。

 「学生身分で子育て!?」と思われるかもしれませんが、私たち夫婦は、ドイツで子どもを産んで育ててみようと自分たちの意志で決めることができました。これには、いくつかの理由があります。まず、ドイツの奨学金(ドイツ学術交流会)には、留学生への子ども手当があったということです。当時のユーロ相場(1ユーロ160円 ※現在は1ユーロ105円)で、月額約2万6000円!!いわば、日本で揉めに揉めた「子ども手当」を貰っていた状態でした。

それに加えて、ドイツという国、特にベルリンという街が子育てムードに満ちていたことです。特に私たちの住んでいたプレンツラウアーベルク地区は、ベビーラッシュの真っ只中で人の数ほどベビーカーが溢れているといっても過言ではない地域でした。

これらの雰囲気は、収入の少ない私たちにも「子育てしてみたら?」と誘いかけてきました。この子育て意欲を高める空気や、その空気作りは、子どもを持ちたいと思うには非常に大切であり、これからの日本の少子化対策にとっても参考になると思っています。

では次に、なぜこの地区はベビーラッシュなのでしょうか?そして、その育児ムードはどのように作られているのでしょうか?

まず、プレンツラウアーベルク地区は旧東ベルリンに位置しています。ここは、1990年に東西ドイツが統一し、西側から若い学生達が真っ先に移り住んだ地区であり、彼らがパートナーを見つけ、子育てをする世代になったという事情があります。加えて、彼らが元学生であったこともあり、いわばリベラルな思想の持ち主も多く、「男性は仕事、女性は家庭」なんて考える人も少なかったことが挙げられます。プレンツラウアーベルクを歩いていると、日本では考えられないほどの父親と子どものペアが歩いています。90年代は少なかったドイツの男性の育児休暇取得ですが、2000年代に育児休暇中の有給制度が改革されて、父親の5人に1人が育児休暇を申請しているとのこと。ちなみにこれはドイツ全体の調査なので、プレンツラウアーベルク地区では、さらに多くの育児休暇取得者がいると思われます。

そして、ポイントはここ数年、人口に膾炙(かいしゃ)してきた「イクメン」の定義である「子育てを楽しむ父親」が多いということです。「楽しむ」という部分がポイント。ベルリンは数多のカフェが林立するカフェ天国ですが、そこには子連れでカフェを楽しむパパやママがたくさんいます。

そして、プレンツラウアーベルク地区には、「遊び場カフェ(Spielcafé)」なるものが何店か存在しており、今でも増加中です。「遊び場カフェ」とは、単に子ども用の遊び場を併設したものから、遊び場の中にカフェを作ってしまったものなど様々です。

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今回は、その中の一つ「カフェ・キーツキント(Kiezkind)」を紹介します。キーツキントの意味は「この界隈の子ども」のような意味です。英語の紹介サイトでも「親と子どもにとっての理想のカフェ」と評価されていたりします。私たちも子どもを連れて、ここにしょっちゅう行きました。

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キーツキントの特徴は何よりもヘルムホルツ広場という公園内部にあるということです。公園はベルリン市の管轄らしいのですが、その一部を民間が請け負って経営しています。そういう行政側の柔軟さも注目したい点です。

そして、この公園の遊具に囲まれた環境のカフェ・キーツキントの中に入ると、誰もが最初は驚いてしまうかもしれません。なんと、カフェ内の一部が砂場になっています。これによって、子どもたちは、雨の日はカフェの中で砂遊びができるというわけです。

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最後に重要なポイントは、こういったカフェを訪れる親たちも、カフェで大人同士のおしゃべりや交流を楽しんでいるということです。そして、ドイツ・カフェの特徴、つまり、くつろげる雰囲気が備わっていて、さらに手頃な値段で本格的なカフェ・メニューが用意されているということです。

さて、話を私たち夫婦に戻しますが、子育てをしながらも充実した大人のカフェ・タイムを過ごせるベルリンの環境は、学生でも子育てをしようと思った動機のひとつとなりました。最初の方でも「最も楽しくて、最も苦労した体験」と書いたように、子育ては決して「楽(ラク)」ではありませんが、大人も過ごせるインフラ次第では、楽しいという意味の「楽」にはなるのではないでしょうか?


本原稿は、ならの地域づくりマガジン『俚志(さとびごころ)』(第3号、2010年9月)に掲載された記事に加筆修正を加えたものです。

筆者プロフィール
Yanagihara_Nobuhiro.jpg 柳原 伸洋(東海大学文学部ヨーロッパ文明学科講師<ドイツ近現代史>)

1977年京都府生まれ。2006年7月から2009年11月、2011年8月から2012年3月まで、ドイツ・ベルリンに滞在。NPOファザーリング・ジャパン会員。著書に、歴史コミュニケーター及びライター・伸井太一として、東西ドイツの製品文化史を紹介した『ニセドイツ』(単著、社会評論社、全3巻)や『徹底解析!!最新鉄道ビジネス』(分担執筆、洋泉社、Vol.1、2)がある。
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