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【中国】 自閉症児の視覚的自己認知の実験研究

要旨:

平均精神年齢23ヶ月の6名の自閉症児に対する実験研究を通して、彼らが視覚的に自己と他者を区別できるか否かを見分け、さらに一歩進んで、自閉症児の自己鏡像認知と自己映像認知との間の差異を探求する。実験結果と過程に対して秒単位でコーディングし、分析した。その結果、この6名の幼児が仲間のビデオ映像より、自分のビデオ映像を見た際、より多くの関心や喜びを表し、またビデオ映像の自己認知をした時、より大きな関心とポジティブな感情を表すことが観察された。このことから、彼らは初歩的な自己認知をすでに備えているということが推断される。

Keywords;
周念麗, 方俊明, 発達障害, 精神, 臨床実験, 自閉症, 認知

中国の基礎データ


1.問題提起
視覚的自己認知(visual self-recognition)とは、子どもが鏡などの媒介物の中から自分を識別するという認知能力を指す。このような早期の自己認知能力は、子どもの自我意識、自己コントロール、自己ケア、自己管理等の心理的発達の基礎である。Ornitzなどは、自閉症児が他者とうまく付き合うことができないのは、おもに彼らが自己と非自己をうまく区別できないためであると指摘している。

 

これまで、自閉症児の視覚的自己認知に関する実験研究は、主に以下の二つの問題をめぐって行われてきた。一つは自閉症児に視覚的自己認知能力があるかどうかを探ったものであり、もう一つは自閉症児の視覚的自己認知能力とその他の能力との関係を探ったものである。

しかし、先行研究のほとんどが、被験者を一人単独で鏡の前に立たせて自己を観察させるだけで、他者に対する認知との比較がない方法(デザイン)を用いたものであり、自閉症児が真に視覚的自己認知があるか否かに対して的確な判断を下すのが困難であった。さらに、被験者が顔のマークを取り去ることができるか否かだけに依拠して結論を出し、その認知過程に含まれる心理的活動を深く追求できてはいない。第三に、それらの研究はいずれも被験者が鏡を見たあとの反応を観察したもので、その時の被験者が目にしたのは静止状態の「自己」と即時の「自己」であって、自閉症児の動態の「自己」や遅延の「自己」に対する認知能力はわからないのである。

上述の研究の不足を補うために、本研究では2種の認知を比較することを通して、自閉症児が自己と他者に対して初歩的な区別・認知能力を備えているか否か、彼らの鏡像に対する「自己認知」とビデオ映像に対する「自己認知」とに差異があるか否かを検討する。

2.研究一 自閉症児の自己と他者に対する区別・認知
前言語期の自閉症児に自己と他者を区別・認知する能力があるか否かを明らかにするために、この実験を行う。

2.1 対象児
自閉症の幼児6名。生活年齢の範囲48-60ヶ月、平均生活年齢52ヶ月;精神年齢の範囲19-40ヶ月、平均精神年齢23ヶ月、全員男児であった。

2.2 方法
2.2.1 実験デザイン
独立変数:ビデオ映像中の被験者自身と仲間の映像
従属変数:視覚行動と感情表現。

2.2.2 手順
実験は各被験者が通う幼稚園内(計4か所)の静かな部屋で行われた。実験者は実験開始15分前に撮影した被験者と仲間が一緒に映っているビデオ映像を、デジタルビデオカメラで再生する。ビデオカメラを置く高さは被験者が椅子に座った時の視線の高さと同じで、被験者の眼との距離は35㎝であった。主実験者が被験者の傍らで、被験者と同一方向を向いて座り、映像が再生されている間、被験者に「これは誰ですか?」と繰り返して質問した。実験者が被験者に向かい合って座り、デジタルビデオカメラで全過程を撮影した。「自己-他者」と「他者-自己」のビデオ映像は無作為に入れ替えて再生された。

2.3 データの収集とコーディング(coding)
実験中、デジタルビデオカメラを用いて全過程を撮影する。撮影した内容は秒単位で、コーディングシートにもとづいてコーディングして分析した。  

実験目的に基づき、三つの部分からなるコーディングシート(Coding Sheet)を作成する:「視覚行動」「表情」「言語」の3部分である。行動をすべて「対自己」と「対他者」の2種類に分ける。視覚行動は「ちらっと見る」「注意深く見る」「たかい関心を示す」の3種類に分ける。実験中の実際の状況にしたがって、それぞれ「視覚行動」「表情」「言語」に対し、コーディングを行う。
(具体的な実験の手順、実験のデータ収集と処理およびコーディングは省略。)

2.4 データ処理と信頼度分析
本研究中の二つの実験の信頼度係数はそれぞれ0.85と0.91であった。

2.5 結果と分析
2.5.1 6名の自閉症児の自己と仲間に対する視覚行動の比較

図1と図2は、6名の自閉症児における自己または仲間を「ちらっと見る」、「注意深く見る」という行動の平均発生率の比較結果を表わしている。

 

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 図1 6名の自閉症児における「自己をちらっと見る」と「仲間をちらっと見る」行動の比較


図1からわかるように、6名の被験者は自己または仲間への「ちらっと見る」という行動の発生率が異なる。自己を「ちらっと見る」という行為の発生率が他人を「ちらっと見る」という行為より高い人もいるが、低い人もいる。その中、 一人だけは自己をちらっと見るという行為の発生率が、他人を見るという行為よりはるかに高い。

 

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 図2 6名の自閉症児における「自己を注意深く見る」と「仲間を注意深く見る」行動の比較


図1に反して、図2ではこの6名の自閉症児童がいずれもより多く自己を「注意深く見る」、その発生率が仲間を「注意深く見る」という行為より高いということが示されている。

自閉症児の自己と他者に対する視覚行動上の差異を明らかにするために、著者らはその行動の発生率に対して比較と検証を行った。表1は3種の視覚行動の平均値と標準偏差を示している。


表1 自閉症児の自己と仲間に対する3種類の視覚行動の平均発生率

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注:ここでの発生率は5秒を1単位として計算する。
総観察時間:自己と他者いずれも150秒であった。
   * p<.05 ,  **p<.01


表1の結果は、6名の自閉症児の3種類の視覚行動の発生率は、すべて仲間を見た場合より自己を見た場合のほうが高いことを示している。

以上の結果を分析すると、本実験の6名の幼い自閉症被験者は初歩的に自己と他者を区別・認知する能力をすでに有していると推測される。


2.5.2 6名の自閉症児が自己と仲間のビデオ映像を見た時の感情表現の比較
図3は6名の自閉症児が自己と仲間のビデオ映像を見た時の感情表現の平均発生率を比較した図である。


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 図3 6名の自閉症児が自己と仲間のビデオ映像を見た時の感情比較


図3は、自閉症児が自分のビデオ映像を見た時により多くポジティブな感情を表すことを示している。


2.5.3 自閉症児の感情と自己や仲間に対する視覚行動との関連
6名の被験者の3種類の視覚行動の平均発生率と、彼らが実験中表したポジティブな感情やネガティブな感情の平均発生率とのあいだに関連がみられるかどうかを調べるため、相関分析を行ったところ、以下の結果が得られた(表2)。 


表2 自閉症児の自己と仲間に対する視覚行動と感情との相関係数


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表2の結果は、自閉症児の自己や他者に対する視覚行動と感情との関係性においては、程度ばかりでなく方向性においても異なるところがあることを示している。

「注意深く見る」という行動において、自己や仲間を見ることとポジティブな感情との間にはどちらも正の相関があり、ネガティブな感情との間には負の相関があったが、程度の上では大きく異なっている。ネガティブな感情と注意深く自己を見るという行動との間の相関係数は-0.85の高い相関係数が得られた。
 一方、「高い関心を示して」自己と仲間を見るという行動にも、いずれもポジティブな感情との間に比較的強い正の相関関係があり、自己への注視では、その相関係数は0.74であった。 

同一行動と感情との間に異なる関連があるという点からも、自閉症児はある程度、自己と他者とを区別・認知する能力を有していると推測することができる。 

2.6 考察
研究1において、自閉症児が自己の映像に対してより注意深く見る、自己の映像を見る時により多くポジティブな感情を伴っている、および自己や仲間を注視する時、その視覚行動と感情との間に、程度と方向性において異なった相関分析が見られたということから、平均精神年齢が23ヶ月に過ぎない自閉症児が、初歩的な自己と他者とを区別・認知する能力をすでに有し得ることがあるが、それが朦朧とした萌芽段階にあると推測できる。 

これはサンプルの小さい実験で得られた推論にすぎないが、重要な意義を有していると考えられる。なぜなら、この推論と「自閉症児の社会性発達障害の根本原因が自己と他者との区別がつかないことにある」という考え方とは相容れないものであるため、今後の介入に一つの実行可能な依拠を提供するからである。 

3. 研究二 鏡像の自己認知とビデオ映像の自己認知との比較
本研究の目的は、前言語期自閉症児が、静止的で即時的な視覚的自己と動態的、遅延の視覚的自己に対して認知を行った時、その心理的過程に差異があるか否かを解明することにある。本研究の2つの実験の信頼度係数はそれぞれ0.85と0.91であった。 

3.1 研究対象  研究一と同じとする。

3.2 方法
3.2.1 実験デザイン
独立変数:鏡の中の自己の像とビデオ中の自己映像
従属変数:視覚行動と感情表現。

3.2.2 手続き
各被験者が通う幼稚園(計4か所)で、面積約50㎡の、部屋全面が大きなガラス鏡張りの遊戯室と休息室においてそれぞれ鏡像の自己認知とビデオ映像の自己認知の実験を行った。(具体的な実験の手順、実験のデータ収集と処理や信頼度分析は省略。) 

3.3 結果と分析
3.3.1 2種類の画像に対する認知を行った時の感情表現の比較
図5が示しているのは、6名の自閉症児の「鏡像の自己認知」と「ビデオ映像の自己認知」という2種類の状況下における感情表現の平均発生率の比較である。

 

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  図5 6名の自閉症児における2種類の自己認知中の感情表現の比較


検証結果は、自閉症児の「ビデオ映像の自己認知」条件でのポジティブな感情の平均発生率が「鏡像の自己認知」のポジティブな感情の平均発生率を明らかに上回ることを示し、p<.05に達していた。 

3.3.2 2種類の自己認知の視覚行動間の関連
表3が示しているのは、6名の自閉症児の「鏡像自己認知」と「ビデオ映像自己認知」における3種類の視覚行動の間の相関係数である。 


表3 「鏡像自己認知」と「ビデオ映像自己認知」の視覚行動の相関

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*** df=4, p<.02


表3が示す結果から、「ビデオ映像自己認知」中の「ちらっと見る」の行動と「鏡像自己認知」中の鏡に近づく行動との相関が.90であったことがわかった。 

また、「鏡像自己認知」中の接近行動は、「ビデオ映像自己認知」中の「注意深く見る」との間にも相関があり、相関係数は0.38であった。 

さらに「鏡像自己認知」中の「注視」と「ビデオ映像自己認知」中の「注意深く見る」とは負の相関を呈し、相関係数は-0.46であった。この2種類の異なる状態での自己認知が同類のものではない可能性が考えられる。

3.4 考察
本実験によって、2種類の認知の異なるところ、すなわち自閉症児がより強いポジティブな感情をもってビデオ映像の自己認知をおこなったことが明らかになった。その結果から自閉症児が動態遅延時の自己認知により多く興味を感じることが分かった。 

しかしながら、「ビデオ映像自己認知」の「ちらっと見る」行動と「鏡像自己認知」中の接近行動との間に非常に高い相関が見られた。これは2種類の認知が相互に影響しあうことを示している。 

4. 総合考察
2つの実験を通して、6名の自閉症児の視覚的自己認知の特徴を検討した。

実験の結果は、たとえ平均精神年齢が23ヶ月にすぎない自閉症児であっても、すでに自己と他者を分けて認知する分化認知を初歩的に有していることを示した。

なぜなら、視覚行動上で、彼らは自己のビデオ映像を注視する時間がより長く、一方、感情表現上では、自己の画像を見た時により多くのポジティブな感情があったからである。 

研究では、自閉症児の対「ビデオ映像自己認知」は「鏡像自己認知」に勝るが、両者には互いに関連があることも見出された。

実験結果が我々に示唆したのは、これら自閉症児の自己認知と他者に対する認知が混沌と一体になっていて、区別できない状態にあるというのではないが、まだ朦朧とした萌芽の段階にあるということである。このため、彼らの社会認知発達の鍵となる時期をつかんで、彼らの自己と他者に対する分化認知のレベルを向上させなければならない。 

教育的介入を通して自閉症児の自己認知レベルを向上させるには、ビデオ映像あるいはパソコンソフトを運用して行うことができる。自閉症児が介入内容に対し興味を持った時に初めて、喜んで教育的介入を受けさせることが可能になり、それによって初めて視覚的自己認知レベルを向上させることが可能になる。 

参考文献
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2.Ferrari, M;Matthews, W.S. Self-Recognition Deficits in Autism: Syndrome-Specific or General Developmental Delay? Journal of Autism and Developmental Disorders. 1983, v13 n3,317-24
3.Gallup.C.G.. Chimpanzees: Self-recognition. Science. 1970, 16,786-87.
4.Lewis.M; Sullivan.M.W; Stranger.C; Weiss. Self development and self-conscious emotions. Child Development, 1989,60,146-156.
5.Newman.C.J.; Hill.S.D. Self-recognition and stimulus preference in autistic children. Developmental Psychology,1978,11,571-578.
6.Ornitz.E.M.; Revoke. R.. Perceptual inconstancy in early infantile autism Archives of Central Psychiatry, 1968,18,76-98
7.Omitz.E.M.; Ritvo. E.R. The syndrome of autism: A critical review, American Journal of Psychiatry, 1977,133,609-621.
8.Ricks, M;Spiker, D Visual Self-Recognition in Autistic Children: Developmental Relationships. Child Development, 1984, v55 n1,214-25
9.Spicer's. & Racks, M. (1984). Visual self-recognition in autistic children: developmental relationship. Child Development, 55.214-225.
10.別府 哲 自閉症幼児の他者理解 ナカニシヤ出版 2001

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