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【ノルウェー】ノルウェーの保育施設:「一部の子どものため」から「すべての子どもの普遍的権利」へ (3)

クリスティン・ホルテ・ハウグ氏(オスロ・アーケシュフース大学准教授)
ジャン・ストロー氏(オスロ・アーケシュフース大学准教授)

2016年5月27日掲載

要旨:

第3部では、ノルウェーで議論されているテーマについて取り上げたい。保育内容、職員、職員の能力、そして保育の質についてである。

キーワード: ノルウェー、ECEC, 保育施設、普遍主義、福祉国家
English
編集部注: 本稿では、原文の"kindergarten(ノルウェー語でバルネハーゲ)"を「保育施設」と訳出している。バルネハーゲは、幼稚園の機能と保育園の機能を併せ持つ保育施設である。

保育施設についての議論

第3部では、保育施設について二つの議論を紹介する。これらの議論は、今日のノルウェー社会において最も注目を浴びている二つの分野かもしれない。

1)遊び、学びと形成

まず初めに、ノルウェーの保育施設が急激に増えたことによる影響を指摘するとすれば、学びに対し、より重点が置かれるようになったことだろう。保育施設の数が増えるにつれ、提供するサービスの質を保証することが重要になってきた。この質の問題は、二十年来盛んに議論されてきた、生涯学習の観点から見たときの保育施設の役割、ということにも関連している。これは、子どもの生活における日常的な活動に教育学的アプローチを重点的に取り入れることにも繋がっている。とはいえ、教育とそれに繋がる活動は、子どもが必要としている要素のほんの一部でしかない。子ども自身がやりたいように遊ばせることもまた大切であり、このことを指摘する著者や研究者もいる。子どもは自由に遊ばせるべきで、教育的な目標を設定した大人の影響下から解放するべきだと、保育施設の教育的な政策に対し、批判的な声も聞かれる(例えばBeck 2012を参照)。

他の研究者(Østrem et al. 2009)も、保育施設で個々の子ども(例えば、言語スキルなど)を評価してマッピングするような保育方法が注目されることに危機感を顕わにしている。省察と学びとしてのドキュメンテーションに重点を置き、個々の子どものドキュメンテーションは制限している国定カリキュラムのガイドラインと一致しているのか、疑問視している。それを踏まえると、ドキュメンテーションやマッピングを通じた個人の評価は注意しなければならない、というのが研究者らの意見である(同書: P.148)。

自由遊びと教育的に計画された活動では、子どもたちは異なったことを学び、経験すると言えるだろう。子どもが自由遊びをするとき、遊びの主導権を握っているのは子ども自身である。このような遊びにおいては、自分の世界がはっきり見える。遊びは多くの場合、目的のない楽しいごっこ遊びである。自由遊びは、創造に端を発した自発的なもので、子どもが様々な感情や関係性、「自然な状況」における子どもたち自身の反応などを経験できる可能性をもっている。それだけでなく、このような遊びを通して子どもは社会的スキルや運動スキルを身に着けるチャンスもある。

多くの場合、より計画的な遊びは、大人が主導権を握っている。それは時により、子どもに静的で内省する機会を与えることにもなる。このような活動では、子どもは集団生活、協力することや社会的な「規則」についてもっと明確に学ぶことができる。認知的要素がはっきりと存在するのである。

「自由遊び」対「計画的な大人主導の活動」についてのこの議論は、保育施設での日常生活の計画性の度合により変わってくる。

自由遊びと計画的な遊びの間には最適なバランスがあるべきと考える人は多い。一方で、今日ではどちらに重点を置くべきかについて、非常に対照的な意見が聞かれる。自由遊びは低年齢の子どもには最も大切である、という意見があるが、これは1歳や2歳の子どもに対して、過度な教育的指向性を与えることに対する警鐘として出てくる意見である。より高い年齢の子どもに関しては、何が必要かということについて意見は概ね一致しており、教育的な就学前活動が与える恩恵は大きいという意見でまとまっている。

2) 職員と能力

本章においては、現在ノルウェーの保育施設で重点的に取り組んでいる2点について、注目したい。全国的な保育者の不足と、専門教育を受けた保育者とそうでない保育者の割合についてである。

保育施設業界の課題の1つは、保育士の不足である。これは、現ノルウェー政府の努力の結果、この10年で保育施設が「爆発的」に増えていることにも関連している。前述の通り、2009年より全ての1歳以上の子どもに保育施設に在籍する権利が法的に保障されている。さらに、保育施設の増加とともに、保育施設は子どもにとっていいという考えが社会的に広まったことで、ノルウェーの1歳~5歳の子どもの殆ど(90%)が保育施設に在籍している現在の状況に繋がった。

その一方で、ノルウェーの大学や単科大学は、この急成長に対応するだけの資金提供を受けておらず、この需要に応えるだけの保育者を卒業させられていない。必然的に、保育施設長は養成課程を修了した保育者でなければならない、とする法的条項を免除する形でこの問題に緊急対応してきた。それゆえ、ノルウェー国内では4,000を超える施設が例外措置を取っている。施設によっては、ECECとは異なる教育学的教育を受けた職員や正式な資格をもたない職員が施設長を務めている。

また教育施設や地方自治体との連携により、教育・研究省は現場研修型の保育者養成プログラムを始めることでこの状況に対応しようとしている。つまり4年制のパートタイム学士プログラムで、正式な養成課程を修了していない保育アシスタントらを生徒として募集している。この教育モデルでは、生徒は職場である施設で最低50%は勤務しながら学士プログラムに参加することが求められる。標準的な養成プログラムに加え、こうした努力により、全国的にみられる保育者の不足が徐々に解消されてきている。とはいえ、このプログラムは、時間がかかりすぎるのではないかと疑問を呈するのは、間違っていない。保育施設の子どもたちは、今すぐに資格をもつスタッフを必要としており、待ったなしの状況である。

職員の状況に関する2つ目の課題は、保育施設内における養成課程を修了した職員とそうでない職員の比率である。標準的な状況としては、保育者1人に対し、保育アシスタント2人が1単位である。保育者がその単位の教育学的リーダーであり、施設の教育的内容および子どもの遊び、学びや社会的発達に対し責任を負う。またアシスタントに対しても、統率して指導していく責任を負う。職員の能力向上に重点を置くことは、子どもたちの待ったなしの状況に加え、生涯学習という観点からも重要なことである。政府による保育施設の保育内容や目的の枠組みによれば、保育施設は「子どものいる各家庭の良き理解と協力を得ながら、生涯にわたる学習への土台づくりや民主的社会への積極的な参画を促す(中略)」べきである。さらに枠組みでは以下のように定めている:

職員はロールモデルとして、設定された保育施設の意義が現場で実践されているか、確認する責任を負っている。自らの価値観や活動の振り返りも職員間の教育的議論の場で行われるべきである。また保育施設側も、園の実践内容や思考様式が活動の土台を形成するとされている価値観を普及させる一助になっているのか、体系的に査定しなければならない(教育・研究省2011b)。

これまで見てきたとおり、教育的リーダーの責任は重く、果たさなければならない業務も多い。それは子どもに対しても、職員に対しても同じである。どんなリーダーでも、これら全ての業務を一日のうちに効率的に済ませることは殆ど不可能であるといっても過言ではない。これにより、リーダーは恒常的にストレスがかかる状態に陥り、全体にとってマイナスな結果を招く。

ノルウェーの保育施設における職員の状況については、ユニセフにおいても議論されている。「レポートカード8 子どものケアの推移」(2008)では、幼少世代の多くが何らかの形の保育施設で幼少期を過ごしていることに注目している。ユニセフは、子どもたちに提供される保育の質を評価するのに使える10の基準を作成した。ノルウェーはこの10の基準のうち、産休の長さ、貧困ライン以下の子どもの割合、医療サービスなど8つを満たしている(UNICEF 2008)。

しかしながら、幼児の保育に関する基準については、ノルウェーの保育施設は他の多くのヨーロッパ諸国に比べてマイナス面が目立つ。ノルウェーでは、80%の職員が保育の基礎研修を修了している、という最低基準も満たしていなければ、保育施設の職員の50%が最低3年の幼児教育課程を修了している、という基準も満たしていない(UNICEF 2008)。

ノルウェーの保育施設の質により重点を置く

本稿の目的は、ノルウェーの保育施設の状況を紹介し、現在直面している課題について議論することである。保育施設の発展の歴史に着目し、施設の成長と福祉国家の価値を関連づけたり、現代の保育施設の鍵となる要素を取り出し、ノルウェーの保育施設の質に関連した課題について議論してきた。我々の視点からは、ノルウェーの子どもたちや保護者に質の高い保育を提供するためには、どれも重要な要素なのである。前述してきたように、この10年は「保育の質」に対する懸念が膨らんできており、選出された政治家や研究者、保育施設の職員やこの分野の関係者にとっての多くの課題となっているのが、ここに焦点を当て、保育の質を保証することである。

社会における保育施設の役割に、様々な側面があるのは、これまで提示してきたとおりである。ノルウェーの保育施設の発展において、社会的な観点は重要な要素である。保育施設の導入、そして施設数を増やすことによる業界の拡大が望まれてきたわけで、ここ数十年の間に大勢の女性が働きだしたことが自然な発展に寄与してきたことは、多くのノルウェー人が認めるところである。そして、これがノルウェー社会で保育施設数の増加と、規模の拡大を支えている。また、ノルウェー当局にとって、生涯学習の中における保育施設の役割も重要なものである。さらに、少数民族の家族や子どもが社会に溶け込めるようにするために、保育施設は非常に重要な要素としてみられている。そのため、保育施設の議論において、社会的観点は外せないものである。

保護者の観点からは、保育施設の存在により両親ともに就労することが可能になった点が大きく、それにより、子どもの籍を確保することも要求されるようになった。

最後に、子どもの観点から保育施設の発展を評価することの重要性を説きたい。これがおそらく最も熱い議論を呼ぶ観点だと思われる。経験上、子どもが議題に上がると、強い意見をもった利害関係者が出てき始める。多くの者は、何が「子どもにとって最善か」を知っていると主張するものの、これは答えが一つではない規範的問題であることに気が付いていない。これまで保育施設の発展を追ってきた筆者の私見としては、保育の質を高く保てば、保育施設は子どもにとって良いものである、ということである。そしてまた、子どもの現状に関して政治的な見解がどうであるかにかかわらず、子どものために保育の質を高めるべく施設を発展させることが大切である。

子どもの観点には、健全な環境などといった、子どもにとって大切な日常的な要素が含まれるべきである。つまり、他者と十分に関われるが、日中一人にもなれるような環境や、子どもの声に耳を傾け、子どもの幸福を心から願う前向きで褒め上手な保育者に囲まれていることや、園で遊ぶ時間がたっぷりありながら、家族との時間を紡ぐことができるくらいのほどよい保育時間であることなどである。

こうした観点は全て規範的立ち位置を表しており、それぞれの社会の中で日常的な保育の問題をどう解決すべきか政治的な議論がなされるべきだということを示している。


参考文献

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筆者プロフィール
Kristin_Holte_Haug.jpg クリスティン・ホルテ・ハウグ(オスロ・アーケシュフース大学准教授)

オスロ・アーケシュフース大学、応用科学部、教育・国際学科の准教授。幼児教育教師プログラムで教育学およびICT教育を教える。主な研究課題は児童福祉とICT教育で、特にデジタルストーリーテリングに強い関心をもつ。これらの分野について数冊の書籍と論文を発表。児童福祉活動においては10年の経験を有する。
Jan_Storoe.jpg ジャン・ストロー(オスロ・アーケシュフース大学准教授)

児童福祉指導員として訓練を受け、幼児や若者を対象としたケア(主に住居問題)において30年の経験を有する。現在、オスロ・アーケシュフース大学、応用科学部、社会科学科の准教授を務める。過去に、保育から成人期への移行、社会教育学、その他の研究題目で5冊の書籍と複数の論文を発表している。
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