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【比較から考える日中の教育と子育て】 第11回 日本と中国の子どもの送り迎え

要旨:

本稿では、日本と中国の子どもの送り迎え、受験の付き添いについて比較するとともに、中国で子どもの送り迎えがさかんな理由とその背景、中国の人たちのそれに対する考え方などについてまとめた。

Keyword: 子どもの送り迎え, 受験への親の付き添い, 日中比較, 子どもの自立, 学校の安全管理
中文

8年前留学したばかりの頃、日本と大きく違う点として気になっていたことのひとつに、比較的大きくなった子どもを親が学校まで送り迎えする、というのがあった。朝の通学時間だけでなく下校時間にも、幼稚園や小学校の門の前に親子の人だかりができる。いや、小学校ほどではないにしても、中学校(中国の場合には中学校も高校も同じところにあるので中学生を迎えに来ているのか高校生を迎えに来ているのか判然としないのだが)の前にも、夕方になると子どもを迎えに来た親たちが一定程度はいる。もちろん、中学生ぐらいになれば子どもたちだけで一緒に帰る子やひとりで帰る子どもも多く、門の前で待っているのは放課後にすぐ塾に行かなければならないなど、特別な理由があるのかもしれないのだが、それでも日本と比べれば、やはり送り迎えの親の人数は多いように思う。

8年も暮らしていると、そうした光景にはもう慣れっこになってきてはいるのだが、なんとなくの違和感は抜けきっておらず、そういう光景を見ながら、たとえば「子どもたちにとってみれば、友だちどうしで帰ったほうが楽しいんじゃないだろうか?」などとふと考えたりする。

中国の「子どもの送り迎え」というテーマについては、報道やインターネットでも取り上げられたこともあり、見聞きしたことのある読者の方もいらっしゃるかもしれない。ただ、その原因や背景事情については、日本ではあまり深く突っ込んで考察されることも少ないと思われ、また、筆者も自分自身がずっと違和感を持ち続けてきたその理由についても、少しじっくり考えてみたいところである。そこで本稿では、中国と日本の子どもの送り迎えについて比較するとともに、その背景事情などについても考えてみたい。

1 小・中学生の送り迎え

王冰(2013)が山東省済南市の小学校で行った調査によれば(対象は2,798人の小学生とその親、先生。それぞれが何名かは不明)、45.3%の親は「出勤時間との関係などの条件があえば、自分で送り迎えしてもいい」と考えており、半分近くの親は「仕事が忙しいなどの理由で家族や代わりの人に送り迎えしてもらう」、と回答している。また70%の子どもたちが「親に送り迎えしてもらうことは必要だ」と回答しており、その理由として、そのうち42.1%の子どもが「自分で登下校するのが怖いから」、と答え、50.1%の子どもが「学校にそのような決まりがあるから」、あるいは「親がそうしなさいというので送り迎えしてもらう」、と答えている。つまり、親も子どもも、親による送り迎えについて賛成する者が多く、実際に小学生のうちはほとんどの親が送り迎えしているように思われる。では、「仕事が忙しいなどの理由で家族や代わりの人に送り迎えしてもらう」場合に誰が送り迎えするのかというと、祖父母が多いようである。たとえば、鄭(1993)では、ハルピン、長春、西安(楊陵)の三都市で親族ネットワークと子育てについて調査を行っており、その中に「低学年のときに、だれがあなたの送り迎えをしましたか」という質問項目がある(複数回答)。その結果を見ると、都市間で違いはあるものの、父親と母親はだいたい40%から60%の間、それについで父方の祖父母が多くなっている。データとしては少し古いが、これは現在私が北京に暮らしていて、知り合いの家庭を見ていても同じような感じである。というのも、両親とも働いている場合が多く、北京の場合には、子どもが生まれると、祖父母がわざわざ田舎から出てきて一緒に住み、子育てを手伝う家庭も多く、したがって幼稚園や学校への送り迎えも祖父母が行う家庭も少なくないと思われる。また家族以外の「代わりの人」については、最近では車で子どもの幼稚園や学校への送迎をしてくれる専門の会社もあるようだ。

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北京市内の中学校の夕方の門の前の様子

中国でも学校によってはスクールバスで送迎してくれるところもあるようだが、以前は安全管理の面での意識が低かった。2011年に甘粛省で9人乗りのワゴンを改造したスクールバスに64人の幼稚園児が乗っていたところ、衝突事故を起こし、19人の幼稚園児が亡くなる事故があった。それをきっかけとして、2012年の4月に「校車安全管理条例」が出され、現在ではスクールバスの安全管理が厳しくなっている。とはいえ、地域や学校によってはスクールバスが運行されていない場合もあるだろうし、親としてもやはり自分たちで直接送り迎えしたほうが安全だという気持ちもあるのかもしれない。同時に、安全なスクールバスを学校に整備することは、学校の安全管理の面で、現在学校や政府に求められる重要な改善策のひとつにもなっている。

それに対して、日本の場合には、地域によっては親が送り迎えすることが多いところもあっても、さすがに中国ほどの黒山の人だかりが下校時に毎日学校の前にできる、といったようなことはないように思われる。実は筆者は小学校の3年生から6年生まで時々親に車で迎えに来てもらっていたが(登校時は集団登校であった)、それは中学受験のために塾に通っていたからである。おそらく日本の小学校の近くで親が下校時間に待機していたら、それは家が非常に遠いか、何か下校後の予定のため、といった特殊な事情がある場合に限られるのではないだろうか。考えてみれば筆者の親が私の下校を待ち受けていた場所も、門の前ではなく、少し外れたところに車を停めてなんだかひっそりと待っている感じであった。北京の親たちのように、門の前に堂々と立っていたり、車を停めていたりはしない。

中国の場合には、上で述べたように、特に通学路の「安全」ということが気になるために、親や祖父母が送り迎えせざるをえないということであった。一方で、日本の場合には、その同じ「安全」を確保するために「集団登下校」を実施する小学校も多い *1。「集団登下校」とは、近所に住む子どもたちで「登校班(グループ)」や「下校班」を作り、一緒に登校や下校をさせるものである(誤解されることも多いので、中国の人たちに向けて強調しておきたいのは、子どもたち「だけ」で登校班は組織されていて、一緒につきそって学校に行く保護者や管理者はいないという点である)。通学路において、子どもがひとりきりにならずに済むので、誘拐などの事件を防止することができ、また日本で重要とされる学年をまたいだ集団行動を身につけるという点で教育的意味もある。文部科学省が行った調査をみても(図参照)、小学校では集団登下校が80%近くになっている。

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図 日本の小学校での通園・通学方式の割合
(出典)文部科学省「学校の安全管理の取組状況に関する調査」

なお、登校の際には朝なので比較的子どもたちの時間をあわせやすいが、下校時は学校での子どもたちの活動もバラバラなので時間を合わせにくい。したがって、登校時には集団登校を実施し、下校時には特に集団下校を行わないといった学校も多いと思われる。その場合にも、親が迎えに行くのではなく、子どもが自分たちで帰宅することが多く、誘拐事件なども、登校時よりも下校時のほうが多い。子どもの通学時の犯罪に対して未然に防ごうという動きも高まっているところではあるので、下校時の集団下校を実施する学校も、以前と比べて増えてきているのかもしれない。

ただ、その場合、集団登下校のほかにも子どもたちの登下校の安全確保の手段はあり、たとえば、通学路の特に危険な場所に「学童擁護員(あるいは『交通指導員』。女性が多く、緑の制服を着ていたことから通称で『緑のおばさん』などと呼ばれる)」や親(たいてい当番制で「旗当番」などと呼ばれる)、地域のボランティアの人(「スクールガード」などと呼ばれる)が立って安全確保する学校もある。また、防犯ブザーの配布または貸与を実施している学校も多く、上記の文部科学省の調査によれば、平成22年度で全国の84.6%の小学校で実施されている。そのほかにも、現在ではGPS機能付きの携帯端末もあるので、それを子どもに持たせる親もいるだろう。

2 門の前で待つ親たち

中国で親たちが学校の門の前に集合するのは、下校時間だけではない。入学試験の時にも多くの親たちが門の前に集まる。写真を見てもわかるように、中国の高考(中国の全国統一大学入学試験であり、毎年6月初に行われる)の際には、子どもたちが試験を受けている間、試験会場の門の前には親が集まってずっと待っている。これは北京で撮った写真だが、北京の場合にはまだ少ないほうで、報道やネットを見ていると、地域によっては親たちが門の前に山のように多く群れている場合もある。すでに毎年恒例の行事のようになっているので、高考の際には事前に給水所が設置されていたり、そこで新聞が配られていたり、学校の近くに待っている親たちのために休憩所が作られていたりする。

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2012年の高考の際の試験会場前の様子
(緊急の場合に備えて救急車が待機しているのが見える)

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2013年の高考の際の試験会場前の様子
(写真では2012年に比べて増えているように見えるが、時間帯による)

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高考の際に試験会場の門の前に設けられた給水所

どの程度の親がつきそいをするのかについて、中国の学術誌などでは特に調査結果が見当たらなかったので、新聞社などが行ったインターネット上で見られる調査結果を見ると(調査対象者の人数などが書かれていないことも多いので信頼性に疑問も残るが、参考まで)、高考の際に親がつきそいをするかどうかについては、たとえば2010年に新華社の記者が四川省で高校やインターネットで行った調査によれば *2、8割の高校3年生の親が「高考の際には一緒につきそって行かない」と答えているようだ。ただし、ネット上のニュースを見ている限りでは、結果は調査によって様々である。調査結果とは別に、ここ10年ぐらいの高考前後のニュース記事の傾向としては「今年の高考は、例年とは違ってつきそいに行く親が減少している(もしくは、しそうだ)」という記事が毎年出る。「例年とは違う」傾向が「毎年」表れる、というのは矛盾しているが、つまりは「高考の時には多くの親が試験会場までつきそって行く」ということ、また門の前に群れをなす親たちの映像を、依然として人々はイメージとして根強く共有している一方で、実際に門の前にいる親が想像よりも少ない、あるいは調査で、つきそって行く予定と言う親が思ったよりも少ない、ということが毎年ニュースとして出てくる、ということなのだろう。実際、筆者もここ8年ぐらい高考の時には近所の中学(高考の試験会場)の門の前は必ず見に行くようにしているが、明らかに少ないというほどでもないが、減ったと言われればたしかに減ったのかもしれない。

それに対して、日本の場合には、親がつきそって大学受験に行く、というのは(少なくとも中国に比べれば)少ないだろう。日本についてはめぼしい調査結果が見当たらなかったのだが、そもそも「子どもにつきそっていくべきかどうか」ということ自体が、わざわざ調査をしようという意欲をもつほどには、あまり問題になってこなかったのかもしれない。昨年度(2013年度)の東北大学の入学試験の際に、試験会場までのバスに保護者が多く乗ったために試験に間に合わなくなる受験生が出たことがニュースとなった。こうしたことから見れば、近年多少の変化が生じている可能性もあるのだが *3、その後のネット上などで起こった議論 *4などをみている限りでは、親のつきそいについてはまだ否定的な意見が主流のようである。

3 なぜ集団登下校をしないのか

本稿で子どもの送り迎えや受験への付き添いについて書こうと思ったのは、筆者がふと「なぜ中国では集団登下校をしないのか」あるいは「なぜ子どもたちの集団に任せないのか」と思ったからである。中国の人の話を聞いていても、またインターネットでの議論などを見ても、中国の親たちも楽に送り迎えをしているわけではなく、やはり子どもの送り迎えについて大変だと感じること(あるいは大変だと感じている人)が多いようだ。ただ、それでも子どもの送り迎えが必要となるのは、(1)治安の面や交通の安全の面での不安があること、(2)学校の近くのお店の飲食物が衛生的でない可能性があり、健康面での不安があること、(3)安全なスクールバスを購入・運行させたり、子どもたちに対して安全教育を行うなどの学校の安全管理が不十分なこと、(4)学校の宿題も多いため、通学に時間をかけていると学習に影響する、(5)子どもが毎日勉強で疲れているので車で送り迎えするなどして休ませる必要がある、などといった、やむにやまれぬ事情があるようである(王冰,2013;王瑩瑩,2013;蔡,2013.) *5

しかしながら、こうしたさまざまな理由があるとしても、「子どもを甘やかしている」などの反対意見もあるわけなので、中国でほとんど集団登下校が行われない(ほぼ行われていないと思われるが、中国は広いのでどこかで行われている可能性までは否定出来ない)というのには、何か別の理由があるような気もする。また、親としても子どもたちに任せてしまうほうが、楽なのではないかとも思う。そもそも集団登下校というやり方があるとは知らないから、という理由も考えられるが、中国において日本で「集団登下校」というものがあるということは全く知られていないわけではない。また、知り合いの先生で、何人かの親で代わる代わる自分たちの子どもを学校に迎えに行くやり方をしている人もいる。さらには、そもそもまだ今ほど交通や治安の面で危険性が高くなかった(または、そのように思われていた)時代には、組織的なものではなくても子どもたちだけで登下校していたのである(余,2012)。しかし、やはり子どもたちのみの集団で登下校させる、ということにはあまり積極的にはならないような印象があり、またそうしたやり方が普及していくこともない。

そこで「なぜ中国では集団登下校をしないのか?」について知り合いの中国の人たちに聞いてみたのだが、ひとつの理由は「中国の子どもたちは近くの学校に行かないから」というものである。基礎教育段階での学校間における教育の質の格差、というのは中国の教育界でも解決すべき大きな問題となっており、「就近入学(居住地から近い学校に入学する、あるいはできる状態)」を実現するというのは、近年の中国の教育改革におけるひとつの大きなテーマとなっている *6。従って、学区制を採用する日本の公立小学校の場合とは違い、子どもたちが通ってくる地域もばらばらであり、登下校班のようなグループを作りにくい実態がある。

しかし、疑問に思うのは、通ってくる地域に多様性があったとしても、学校の中には同じ地域や近所に住んでいる子どもが多いにもかかわらず、子どもたちのみの集団登下校が行われないことである。たとえば大学の附属小学校であれば、大学の中や大学の所有するマンションに住んでいる子どもも多いと思われるのだが、その場合にも送り迎えはそれぞれの家庭で、という印象がある。そのあたりを聞いてみると、次に出てくる理由は「安全面での不安」である。日本と比べて安全かどうかというのは別として、やはり親としては子どもたちだけでの登下校というのはどうもリスクが高いという感覚があるようだ。

その中でも「学年によって違っていて、6年生ぐらいだと自分で登下校する子もいるよ」という人もいる。もし学年が上がれば子どももしっかりしてくるため、安心してひとりで登下校させられる、というのであれば、日本式に高学年の子を班長やリーダーとして、6年生や1年生、2年生の混成班を作ればいいのではないか、と思い、聞いてみると、やはり学年をまたいでグループを作る、という点で少し抵抗があるようだ(中国の学校の中での学年間の交流のなさについては、「先輩と後輩」の回を参照)。

結局、なぜ集団登下校させないのか、という理由については判然としなかったのだが、そもそも、「子どもたちだけで登下校させる」ということ自体が、想像しにくい、あるいは、かなり現実味のない無理のある仮定なのかもしれない。たとえば「子どもたちだけで登校させないのはなぜ?」と聞いている場合でも、「先生が子どもたちだけで登校させるのを管理する(監視する)のは大変だから」とか「それを管理する費用を学校がまかないきれないから」、「車を学校側で手配するお金がない」といった答えが返ってくることもあった。子どもをグループにして登校させるだけであれば、費用やスクールバスが必要になることはないので、要するに「完全に子どもだけで登下校させる」ことにはあまり現実味がない、想像がつかない、ということのようだ。

この問題は、学校の送り迎えを親がするかどうか、という比較的単純な問題なのだが、こうして理由を見てみると、そこには、学校間の教育の質のバランスがとれていないこと、学校の安全管理面での強化の必要性(資金の調達も含め)、子どもたちの学年間の交流が不足、子どもたちの学習面での負担が重すぎる、といった大小さまざまなレベルでの中国の教育の特徴や問題が含まれているようにも見える。

4 送り迎えと付き添いをめぐる議論の傾向

中国の子どもの学校への送り迎えの現状を、中国の人たちは「中国式接送孩子(中国式の子どもの送り迎え)」と呼ぶ *7。その言葉の中には、中国で特徴的な送り迎え、ということだけではなく、中国式の送り迎えが、子どもを甘やかすことで自立を遅らせ、また社会的に見れば渋滞などによる交通問題を引き起こす、困った現象だと考えると同時に、現在の子どもをとりまく環境から考えればしかたがないこと、とも思わざるを得ない、という複雑な中国の人たちの気持ちが含まれているようにみえる。

たしかに、送り迎えや受験の際のつきそいにとどまらず、子育てや子どもの教育において、「子どもの自主性を尊重する」あるいは「子ども自身にひとりで何かをさせる」ということと「安全性の確保」との間でバランスを取ることはとても難しい。そして、中国の現状を考えれば、子どもの移動の場面で、「安全性の確保」をまず第一に考えなければならない、というのも理解できる。ただ、「完全な(大人による)管理」と「完全な(子どもの)自由・自立」との「中間」には、本来いくつかの段階(現状に合わせたうまいやり方)があるはずで、そのひとつが日本的な「子どもたちのグループを作って自分たちで管理させる」というやり方だと考えられる。その点、筆者の目から見ていて、中国の議論には多くの場合、そうした「中間」の議論が抜け落ちているように思われるのだ。

こう考えれば、日本と中国で我々が「自立」という言葉を使い、それによって子育てや教育のあるべき姿を論じる時、実はその「自立」の具体的なあり方には微妙なズレがあるのかもしれない。具体的にいえば、中国人が自分たちの子育ての現状からみて、「子どもたちの親からの『自立』」を達成しているように見えるかもしれない日本式の「子どもたちだけでの集団登下校」も、日本の親や子どもたちからみれば、「すでに自立している」というよりも、上下関係や集団行動をそこで学ぶことで「社会に適応した自立した大人」になっていくために必要なステップである(もちろん安全面での対応という面もあるが)という気がする。逆に言えば、送り迎えや付き添いにかぎらず、様々な場面で、子どもの自由にさせるときでも、どこかで何らかの形で大人による「管理」を入れなければ十分でないと考えるというのも(すべてにおいてそうであるというつもりはなく、あくまでも日本と比較しての「傾向」であるが)、中国的な子育て・教育の特徴のように思われる。

中国では、学区制のような、居住地の近くの学校への入学を促進する改革が現在始まっており、今後は状況が変化する可能性はある。ただし、親の送り迎えや子どもの安全な通学をめぐってこれだけさまざまな考え方があり、また治安や交通状況の面でも不安がある状況では、完全な子どもたちだけでの集団登校というのは、なかなか親たちの同意も得られにくいだろう。その意味では、たとえ学区制が実現したとしても、(学校側も何らかの事故が起こるリスクをとることは避けたいはずなので)中央政府などが統一して推進でもしないかぎりは、子どもたちだけでの集団登校はなかなか実現が難しいのではないかと思う。結局、政府や学校が統一して集団登下校を行うよりも、近所の仲のいい親たちが自分たちでグループを組んで、交替でつきそいをして登下校する、というほうが、中国の実情に合っていて、現実味のある「中国式解決策」なのかもしれない。

送り迎えをめぐって、子どもの「自立」の対極にあるものが親や学校による「管理」であること、中間としての子どもたちの集団による「自律」がないこと、などについては、教育のみにとどまらず、何らかの問題に集団として対応していく場合の、中国的な組織・集団の作り方、日本的な組織・集団の作り方の違いを考えるうえで大きなヒントを与えてくれるような気もするが、本稿は「子どもの送り迎え」についてのみ論じており、資料的にも論じるには限界があるように思われる。その点については今後もう少し詳細かつ広範な検討が必要だろう。


  • *1 ただし、では集団登下校がそれぞれの子どもで登校する場合に比べて完全に安全なのかという点については、少し注意が必要な点もある。2012年には京都で集団登校中の児童らの列に車が突っ込み、子どもが亡くなるという痛ましい事故が起こった。これについては、1968年(昭和43)にも当時の文部省から通達(「集団登下校の実施について」文体保251号)が出されており、「集団登下校は、通学の安全を確保するための有効な方法であるが、反面、大事故を起こす危険もあるので」検討するように通達されている。このように、子どもたちがグループで登下校することによってリスクが生じる面も否定はできない。
  • *2 王迪(2010). 八成被調查家長不陪考 2010年6月2日 <http://www.dahe.cn/XWZX/zt/hnzt/2010hngk/tpbd/t20100602_1812197.htm>大河網.
  • *3 このニュースについては少し注意が必要である。ひとつは、本当にニュースとして報じられたように「保護者が同乗したために」遅れたのかどうかについて、また本当に保護者が例年に比べて多かったのかどうかについては(保護者説明会も同時に開かれていたようなので保護者が多かった理由についても)、検証が必要だと思われる。また、同時に果たして昔から日本の大学受験において「親の付き添い」がなかったのかという点についても検証は必要であろう。
  • *4 大学入試に親がついていく、というのは子どもが自立していない、親が過保護、といった意見(参考:山口浩(2014)大学入試、親の付き添いはいつから?http://www.huffingtonpost.jp/hiroshi-yamaguchi/post_6994_b_4879147.html)。
  • *5 その一方で、利点としては、送り迎えの途中で子どもとのコミュニケーションがとれること、も挙げられている。
  • *6 大学受験の日中比較の回の三中全会の「決定」の内容を参照。
  • *7 「中国式~」という言い方は、流行した決まった言い方であり、他に「中国式過馬路(中国式の道の渡り方)」などがある。

    <引用文献>
  • 王冰(2013).中国式小学生上下学接送現象的現状、問題及対策研究----以済南市部分小学為例.中国校外教育.6.5-6.
  • 瑩瑩(2013).針対小学生安全応急教育的研究----基於中国式接送孩子.青年与社会.27.160-161.
  • 蔡剣秀(2013)."中国式接送"何時休.中華家教.1.6-7.
  • 鄭楊(1993)中国都市部の親族ネットワークと国家政策 ―3都市における育児の実態調査から― 家族社会学研究, 14(2), 88-98.
  • 余珊(2012)."中国式接送"是溺愛還是無奈.青春期健康.23.56-57.
筆者プロフィール
Watanabe_Tadaharu.jpg渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

東京大学教育学研究科修士課程修了。北京師範大学心理学院発展心理研究所博士課程修了。博士(教育学)。
現在は、中国人民大学教育学院で、日本と中国の大学受験の制度、受験生心理などの比較を行なっている。専門は比較教育学、文化心理学、教育心理学、発達心理学など。

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