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第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会:フリーディスカッション②放射線の害の蓄積と個体差

2012年9月28日掲載
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放射線の害の蓄積と個体差

渡部 明海大学の歯学部の渡部と申します。今の質問とも関連するのですが、今の先生の話の中には、蓄積と感受性の問題が入っていないように思ったんです。蓄積というのは、置かれた環境によって個人差があると思うんです。自分の子どもはどうなのだろうかという疑問が出てくると思うんです。それから、感受性については、タバコも酒も思い切り飲んでいる人でもがんにならない人はいる。一方、そうでもない人がいる。感受性といいますか、そのような差異が個人にはあると思うのです。科学では計り知れないかもしれませんが、個人の持つそのようなものがあるから疑問が生じてくるのだと思うのです。


稲葉 蓄積という言葉から、ご説明したつもりだったのですが、もう一度お話ししますと、放射線の害は基本的には蓄積しない。放射線の毒というのは、「高線量率」の一発勝負なんですね。バーンとあたっちゃって、蓄積もなにも、それ自体が大変なことなのです。一方、「低線量率」の場合には、少なくとも重金属などとは違うんだというお話をいつもしています。日本人は水俣病とかイタイイタイ病を経験したので、蓄積毒性と言うと、だんだんと臓器が傷んでいって、最終的にひどい状態になってしまうというイメージがものすごく強い。ところが、放射線の場合は、少なくとも「低線量率」である限りは、その日に受けた毒はその日のうちに体が解毒しちゃうというのが、生物の基本的対応なのです。それが重金属と違って、放射線とは35億年間付き合ってきた強みだろうと思っています。だから、基本的に放射線の毒というのは蓄積しないのだとお考えいただきたいんです。


渡部 食べ物から来るものも?


稲葉 同じです。「低線量率」のほうはあまり蓄積ということは、僕らは考えていない。だからこそ、外で遊ばせておいていいんじゃないの、みたいな話になってくるわけです。

要するに、1日いたって全然平気なわけです。それはみんなわかっているわけです。少々高いところに1日いたからといって、そんなに大きな問題はないだろう。2日いて、3日いると、だんだんそれがたまってくるんじゃないかと思ってくるわけですが、現実には1日いて何かがあっても、それはその日のうちに解毒して、明くる日はまた新しい状態になっているので、毎日毎日ご破算にしているから大丈夫ですよと申し上げているんです。ただ、どこまでだったら大丈夫か数字で出せという話になると、とても私には答えられないですし、多分、今の科学ではまったく答えられないんだろうと思います。

もう1つ、先生のおっしゃったことで重要だなと思ったのは、個人差がかなりあるんじゃないかということです。こっちの方は本当に答えがありません。個人差が相当あるのは確かだと思います。「高線量率」に関しては放射線に対する対応が個々の人でかなり違います。小児の白血病を熱心にやっている人は、白血病とかリンパ腫になる子どもたちは、高線量率の放射線によるDNA損傷の修復能力が低いというような結果を出しているグループもあります。では、「低線量率」に関して個人差がすごくあるかと言われると、誰も答えを持っていないだろうと思っていまして、それは確かに全く未知ですので、答えはありません。


木下 今のダメージの蓄積の話に関してですが、よく放射性物質を動物が濃縮するという言い方がありますよね。ダメージが蓄積されないという話と、放射性物質を食べ物として多く取り入れるのはまずいという話と、どのように分けて考えればいいんでしょうか。


稲葉 甲状腺にヨードが集まるというのは非常に有名で、ただ、甲状腺以外はほとんどセシウムですよね。セシウムは入ったら出ていっちゃいますから、ご質問の意味がわかりにくいところがあるんですが......。


榊原 ストロンチウムが骨にたまるみたいな言い方がされるでしょう。そういうことだと思うんです。そうすると、そのものがずっとそこにあるんじゃないかみたいなことで言っているので、ターンオーバーの話をされればいいんだと思うのですが。


稲葉 例えばセシウム137の半減期が30年ということは広く知られるようになりましたが、実際には先ほど眞鍋先生のデータでもごらんになったように、摂取をやめると急速に落ちていきます。体の中でどんどん代謝されて出ていくんですね。人の場合は半減期1カ月というようなことが言われています。セシウムについて、私がそんなに恐れていないのは、体中に均等に分布するものだからです。体中に均等に分布するというのは何を意味するかというと、個々の臓器、細胞にとっては「低線量率」になってしまうんです。

ヨウ素は何が嫌かというと、甲状腺に集まるので、甲状腺の細胞にとっては、そこから出てくる放射線は非常に「高線量率」で、だからチェルノブイリのようなことが起こってしまった。セシウムは半減期が長くてヨードより怖そうなのですが、実は体中に均等に分布して、一個一個の細胞にとっては「低線量率」になるものですから、生体はちゃんと対応できるので、それほど恐れるべきことではないと思うのです。

恐らくすごく重要なことは、今後、10年、20年のうちに、チェルノブイリで甲状腺がん以外のがんが増えるかどうかにかかっているだろうと思っています。広島・長崎では1970年ぐらいから、はっきり普通の肺がんとか乳がんとかが増えていきました。だから、ちょうど今ごろから増えてきた感じなんですね。それが本当にチェルノブイリでも起こるのか。この10年、20年というのはすごく注目しているのですが、これは実際、待つしかないと思っています。あの近辺でのセシウムは半端じゃない量ですから、それでもがんが増えないのか、あるいはやはりちょっと増えてしまうのか。


榊原 稲葉先生は科学的に、「絶対ない」とはおっしゃらないんですね。科学的に言うとそういうことになってしまって、そこで臨床の立場から、私たちの今の科学がどこまでわかるかというところを丁寧にトレースされているのではないかと思うんです。

喩えがいいかどうかわからないのですが、例えば、新しい薬が出る。その前にはもちろん治験というのがあって、何年間もいろいろな人が飲んでみて、全く副作用が出ない。それが市場に出ても義務づけられていて、何年間かは副作用が出ないかという成果を製薬会社は一生懸命集めるんです。そういうことをやって、全く安全だと言われている薬がたくさんあるんですが、そういう薬でも20年、30年たつと、こういう副作用があったというのが、副作用報告として来るというのを私たちは知っているんです。

「この薬どうぞ」「副作用は?」「そんなにありません」と私は言うのですが、「絶対ないのか」と言われると、それは言えません。つまり、臨床知といいますか、一般のところで言うときに安全ですとか、心配ありませんというのと、科学的にゼロかというところの違いがあって、科学的に完全なゼロというのは、ないのだと思うんです。私たちは、「この薬は安全ですか」「安全です」と言いますが、データを持ってきて、「今まで10年間に5例副作用があったんじゃないか」と言われれば、「そのとおりです」ということになるわけです。

ただ、それに対して今できることは何かというと、ひとつは、きっちりとモニターをしていく。例えば、チェルノブイリで増えてくるかどうかをモニターしていくということ。それから、多分、福島では甲状腺がんが一番可能性が高いので、子どもたちの甲状腺をきっちり見ておくということが、私たちが今できることだろうと思うんですね。

外に出ていいのかというのは本当に難しい問題で、私が「安全なんですか」と聞かれたら、「安全です」と言っちゃうと思うんですね。だって、今までそれを危険だということを示すデータがないんですから。でも、データがないということは、「絶対ないのか」と問われれば、「すみません、そんなことはないんです」と言わざるを得ない。現在のどんな英知を出しても、そこまでが私たちにわかることであるということを理解しなければいけない。

本当は全部わかっているのに口を濁すのは、きっと悪いことがあるからに違いない。不幸にもそのような疑心暗鬼の状態になっているのが、今のつらいところだと思うんです。だから、私の仲間のお医者さんも放射線に関しては、しばらくの間は皆さんの不安があるのは事実なので、それに対してどのように言っていいか困っているのです。学会などで「安全です」なんて言うと、すぐに最近では「お金をもらっているのではないか」と言われてしまったりするような不信感が国民の中にある。このことに対してまた別の立場で検討しなくちゃいけないのかなというような気がしました。

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【第1回「放射線と子ども~正しく恐れるための知恵を学ぶ~」研究会】
1.研究会の4つの方針
2.講演1「放射線による健康被害のとらえ方」(稲葉 俊哉氏)①  
3.講演2「放射性物質の乳製品への影響」(眞鍋 昇氏)①  
4.コメンテーターからの発言
5.フリーディスカッション①   
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