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研究室

【被災地レポート】第3回 被災地の妊婦さん・お母さんたちや子どもたちの心と体のケアについて

吉田 穂波 (産婦人科医、ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー、
プライマリ・ケア連合学会被災地支援チーム(PCAT)派遣医師)

2011年4月25日掲載

要旨:


1.妊婦さん、産後のお母さんは赤ちゃんを守るために通常以上にいろんな感覚が敏感になっている。安心して静かにくつろげる環境が必要。

2.子どもは、大人と違う感情の表出をし、大人と違うやり方で心の回復をするため、大人と同じ基準に当てはめてしまうことのないよう理解する。

3.いつもとは違う環境のため、いつもとは違う栄養面での発想が大切。
English
1.お母さんになる女性には最大限の配慮と対策を

災害や紛争、内戦があった時に、お年寄りや子どもたちの苦境が報道されることがよくあります。また、今回の被災地も高齢化社会だったことでお年寄りに関するニュース、お年寄りの慢性疾患(高血圧、糖尿病、心臓病などの持病)や低栄養状態に対する問題は良く取り上げられます。

私がいつも思うのは、そこで妊産婦のケアが見過ごされていないか、ということです。若い妊産婦さんは、若いというだけで、また、赤ちゃんがいるということだけで一見幸せそうで元気そうですが、実は、自分と赤ちゃんの健康を保つため、また、赤ちゃんの急速な発育のため、身体や心にかかる負担がとても大きいのです。食事量もそうですが、妊娠していない時とは比べ物にならないくらい心身共に頑張っている状態であるため通常以上に心のエネルギーが必要で、ちょっとしたことで疲れてしまいます。

前回、3週間前の被災地支援の時には、お年寄りに配慮して「自分だけ優先してもらってはいけない」と考えている妊婦さんにたくさん会いました。けれども、周りを気遣う妊婦さん、産後のお母さんにこそ、静かな場所で安心して母乳をあげたり、ゆっくり休息したりできる時間が必要なのです。どんな被災者の方々もそれぞれ大変ですが、お母さんは赤ちゃんを守りたいという生存本能のため、通常以上に寒さや騒音、明るさ、他の人に気を遣うことに対し敏感になります。赤ちゃんには赤ちゃん独自のサイクルがあるため、赤ちゃんに合わせて食事や睡眠を取りたいと思っても、他の人との共同生活ではちょっとした不便が重なって、ストレスがたまってしまいます。

1995年、国連や大学、国際機関をはじめとした40以上のNGOが集まってInter-agency Working Group (IAWG)というグループを作り、問題提起をしました。この中で、世界各国の災害時における共通の経験から、被災地難民のリプロダクティブ・ヘルス、つまり家族を作ること、子どもを産み育てることへの対策を重視すべきということ、リプロダクティブ・ヘルスの問題(例えば出産、性被害、HIVなどの性行為感染症)が女性を死に追いやる一番の原因だということが提唱されました。調査を行わなくてもこれらの問題は被災地で必ず見られることがわかっているので、災害後はすぐに妊産婦死亡や新生児死亡を回避するための介入行動を取れるようにと、以下のThe Minimum Initial Service Package (MISP)には支援活動の指針が示されています。

The Minimum Initial Service Package (MISP)こちらから多言語でダウンロードできます。

また、これは、災害に直面した途上国や難民問題のフィールドワークをしている専門家であればだれでも知っているガイドラインであるSphere Humanitarian Charter and Minimum Standards in Disaster Response(通称Sphere Handbook)にも載っており、災害支援対策のスタンダードとして知られています。このSphereという団体は人道支援組織や赤十字、NGOがお互いの経験や知識を共有する目的で協働している団体ですが、いい面も失敗面もシェアしましょうという姿勢が、今回の被災地支援にはとても役に立つと感じました。

Sphere Handbookこちらから多言語でダウンロードできます。

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被災した行政の方々に援助物資を届けに


2.子どもへのケア

私は産婦人科医である前に一人の母親なので、子どもへのケアが必要だということも痛切に感じています。子どもは、なんでも楽しみ、笑い、遊ぶという本能を持っています。子どもたちと過ごすと、とにかく良く話し、よく笑い、なんでも面白いことや遊びに変えてしまう才能に驚かされます。その子どもたちが病気や強いショックを受けると笑顔がなくなるのを私は多くの病院で見てきました。感情をそのまま表出しないことが当たり前になっている大人と違い、子どもに笑顔がなかったら、それは相当なストレスだということです。また、子どもは感情をうまく言葉で表現することができませんし、本当に心を開くことのできる大人に対してでないと、感情を表そうとしません。被災地や避難所の生活では、子どもたちの遊びや学びまで考える余裕がないかもしれませんが、子どもにとっては遊びや向学心、好奇心が心の栄養であり、同世代の友達と笑って過ごすことが、大人とは違った形での癒しになります。今回、PCAT(第2回の記事参照)の派遣前研修でも、派遣される医療従事者が子どもへのメンタルケアについて学び、理解を深める機会がありました。このような事前の勉強は非常に役に立ちましたが、「メンタルケア」と、専門家のように構えるだけでなく、子どもに会ったら挨拶をする、関心を寄せる、冗談を言う、今日あったことを尋ねる、好きなことを聞く、なんでもいいので声をかけるということが大切だと感じます。子どもは、とにかく、関心を持ってもらいたいし、構って欲しいし、褒めて欲しいのです。

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新生児訪問で赤ちゃんを診察

被災地では見知らぬご家族に話しかけ、子どもさんのことを「可愛いですね!」「よく頑張ってますね!エライエライ」と褒め、「動物は(勉強、食べ物、乗り物、遊びなど何でも)何が好き?」と聞き、まったくのお節介おばちゃんだった私ですが、はにかんだような顔をするそばから、折り紙やあやとり、ボール遊びなど、どんどんその子の得意な遊びや作品を出して見せてくる子どもたちの、被災地にあっても子どもらしさが残っていることにとても感動しました。


3.被災地の妊産婦さんのための栄養補給

以下、独立行政法人 国立健康・栄養研究所の資料「3.赤ちゃん、妊婦・授乳婦リーフレット」から抜粋した、妊産婦さん、乳児をお持ちのお母さんのための栄養アドバイスです。

(1)頑張り過ぎない!

困ったことは何でも医療スタッフに相談しましょう。
母乳の継続、食器や哺乳瓶の消毒、自分や子どもの栄養バランスなど思った通りに行かないことだらけです。困ったこと、わからないことがあったら声を出しましょう。話すだけで気が楽になり、気持ちが整理できることがあります。栄養面と緊急性、必要性を天秤にかけて、そのときでベストを尽くしたら良い、こういうときだから仕方がない、と思えるよう、神経質になっている母親の気持ちを周りがほぐしてあげましょう。

(2)取れるときに水分を

十分な飲み物が得られなかったり、トイレに行く回数を減らしたり、節約するために水分を控えたりしがちですが、通常の成人よりも水分が必要な状態では、優先的に水分を確保し、こまめに飲むことが大切です。

(3)食べられるチャンスに少しでも

食事の回数や一回あたりの食事量が限られたり、食欲がないこともあります。食べられるときに食べられる物を食べましょう。

(4)ビタミン不足はこのようにして補給

パンよりはおにぎりにし、おにぎりでも、出来るだけ野菜の入っているものを摂りましょう。果実ジュースや栄養強化食品、栄養ドリンク、ゼリー飲料などもビタミン源となります。

(5)離乳食は固定観念にとらわれないで

塩味を薄くしたおみそ汁の中にご飯を入れ、柔らかくして食べさせたり、野菜をよく煮たものをつぶして与えることもできます。牛乳や卵はアレルギーのもとになると聞いて与えないよう気をつけているお母さんもいますが、赤ちゃんは私たちが考えているよりも強い生き物。その場で手に入る食材をあげましょう。

私は、以前は産婦人科医として「いいお産が目標」でしたが、自分が産後にとても苦労したことから、お産はゴールではなくスタートだ、と身にしみて感じました。お母さんにもっと注意といたわりを向けてあげて欲しい、育児不安で辛い人を一人でも減らしたい、子育てが大切なことだとわかってはいるけれど、「孤独」を感じてしまう人を一人でも癒したい、と私は自分の世話を後回しにしてしまうお母さんが、いつも気にかかっています。お母さんがハッピーであること、それが子どもへの虐待を予防し、明るく楽しい子どもが育っていくことにつながると思います。

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支援ボランティアの朝食風景


【参考サイト】
The Sphere Project
Minimum Initial Service Package (MISP) for Reproductive Health in Crisis Situations (PDF)
独立行政法人 国立健康・栄養研究所

【被災地レポート記事一覧】

筆者プロフィール

report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
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