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研究室

【ドゥーラ CASE編】第4回 ドゥーラと文化:世界を旅するドゥーラ、木村章鼓さん

福澤(岸) 利江子  (東京大学大学院医学系研究科助教)

2014年11月28日掲載

はじめに

ドゥーラCASE編では、開拓者的存在のパワフルで個性豊かなドゥーラを毎回ご紹介しつつ、国内外の妊娠・出産・育児をめぐる状況について考察していきたいと思います。今回のテーマは文化とドゥーラ。ドゥーラの研究や職業化は、日本とは文化の異なる欧米を中心に1990年代以降に急速に発達してきました。国や文化が異なればドゥーラ・サポートは異なるのでしょうか?今回は、世界65カ国を訪問し、4カ国でドゥーラとして活動し、様々な文化や国を知る木村章鼓(きむら・あきこ)さんにお話を伺いました。


Q-ドゥーラになったきっかけは何ですか?

A-私がドゥーラになったのは偶然の巡り合わせです。流れに身を任せていたらいつの間にかなっていたとしか言いようがないのです。以前から自分の行っていたことはドゥーラ的だったので、「ドゥーラを極めれば、誰しもが居心地よく感じられる社会づくりに少しは貢献できるかもしれない」と思い、資格を取り、自然と活動を深めていった気がします。ただ、妊娠・出産体験が契機となったことは確かです。

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ドゥーラになるきっかけを作ってくれた娘と。


当時、日本でドゥーラとして活動されている方はいませんでした。幸いにも日本には、経験豊かで奥行きのある活動を展開されている助産師さんがいらっしゃるので、本来的にはドゥーラの要らない環境だと思います。


Q-受講されたドゥーラの養成プログラムなどについて教えてください。

A-日本でベビーマッサージやバース・エデュケーターの資格を取り、娘が2歳になるまでは、育児の傍ら細々と日本で活動していました。夫の転勤にともないイギリスのスコットランドへ引っ越した時、エジンバラ大学の医療人類学の修士課程に通いました。

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人類学者エミリー・マーティン氏(中央)の講演会で
ナディーン・エドワーズ氏(左)と。


理詰めでは自分の深めたい学びは得られないと思っていたところ、エジンバラ市内のPregnancy and Parents Centre(当時はBirth Resource Centre)でSBTA(スコティッシュ・バースティーチャーズ・ アソシエーション)によるバースティーチャーの資格取得コースがスタートし、「これだ!」と思い受講しました。結果、理論と実践という相乗効果が生まれました。

SBTAのディレクターであるナディーン・エドワーズ博士(社会学)はドゥーラとしての経験も長い方でした。様々な立場の方による講義が豊かな影響を与えてくれました。次第に私は、女性の身体性と精神性を、歴史的背景、文化的、社会的、政治的といった非常に大きな枠組みのなかで捉えるようになりました。

そんな頃、元助産師の先生によるドゥーラ養成コースを受けました。当時のコースは半年間に約40冊の課題図書と与えられたテキストを読みつつ、3か月間ほど遠隔で、4か月目に2回にわたり対面で学びました。同期の受講者は6名くらい、コース費用は当時の換算レートで約10万円でしたが、合宿や数々のワークショップも含めるとその倍はかかったかもしれません。卒論が通るとメンターとなる先輩ドゥーラを紹介してもらい、終了後も産前、出産、産後ドゥーラを引き受けるたびにレポートを提出しました。今もメンターとの深い信頼関係は続いています。

もっと学びたかったことを挙げるなら、お金のやりくりについてでしょうか。経済的に立ち行かなくなるドゥーラを多く見てきたので......。私の場合、大学院とSBTAでの学びがあったからこそ、本格的にドゥーラへの道が開かれていきましたが、ドゥーラとして女性を支えたい情熱のある方には、私のように時間的・経済的な回り道をせず、直接ドゥーラとなってケアを始めてもよいのではないかと思います。理論でなく、こころで寄り添い、行動で示していくというのがドゥーラの仕事なのですから。


Q-ドゥーラの活動内容、料金などについて教えてください。

A-ドゥーラとしての具体的な活動内容は、妊娠中はお話を聴くこと、出産時は寄り添うこと、産後・育児期はお産の振り返りをしたり、育児の相談にのること。口コミや地域のお産イベントに参加したり、施設にお知らせや名刺を置かせていただいたり。インターネットを通じて依頼を受けることが多いです。

料金は、様々な国で活動してきたため、メンターの助言や国の相場により設定します。物価の高いロンドンでは、需要が増し年々高くなってきており、妊娠中の2回訪問・出産の立ち会い・産後の2回訪問で13万円前後が一般的と聞いています。さらに距離やお相手の経済的事情、初産か経産婦さんか、ケアの内容により料金が異なります。移動に時間がかかったり、自分の子どもたちの保育を手配し交通費を差し引くと、手元にほとんど何も残らないことも...。ある妊婦さんのサポート期間中、夫が長期出張のため不在となり、日本の実母を呼び寄せたこともありました。渡航費などの経費がドゥーラの料金を超えてしまいました。仕事を持つ母親がみな直面する問題ではありますが、ドゥーラも例外ではありません。

イギリスやアメリカなどでは、ドゥーラ一本で生活を成り立たせている方も5年くらい前より徐々に増えてきているように感じます。ただ、思い出すのは、イギリスで日本人のお母さんの出産に立ち会った時のことです。その方の分娩介助を担当した現地の開業助産師さんに英語でこんなことを言われました。

「これから私の言うことだけは一言一句しっかりと日本語に訳してね。『何かがあって、医療訴訟を起こされたら、私が差し上げられるものは、今住んでいる家だけなのよ』、と。私たちはそんなもろい立場なの、と言ってね」。王立の総合病院でパートの助産師としても勤務する彼女は、病院で見聞きするお産が母子の健康を高めるものであるとは到底思えずに、それでも経済的な事情などから産科病棟で働きつつも開業している助産師さんでした。私は、「子どもたちとの時間を紡いできたあの大切な家を担保にしてまで、自分が理想と思うお産のために日々頑張っているんだ...」と、彼女の言葉と表情を見ていて泣けてきました。

その点、私は非医療者ですので、彼女ほど大切なものを賭けてまで挑むという体勢では活動していません。もちろん、彼女と同じくらい深い想いはあります。未来へと語り継いでいきたいお産の原風景をしっかり胸に抱いてはいます。でも、医療者としての緊張感からは解放されたところにいるといえます。それは、フリーランスのよさであり、心もとなさでもあります。

決してお金のためだけにできる仕事でないことは、しっかりとお伝えしたいです。私が突出して貧乏なドゥーラだったら、他のドゥーラたちに申し訳ないとも思っています。

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病院でケアさせていただいた方と。


Q-ドゥーラの困難とは?燃え尽き予防にはどんなコツが必要でしょうか?

A-母親として生まれ変わった女性を見ることは、ドゥーラとして何よりもうれしいことです。反対に、知識・情報不足から母子の安全にとってメリットがあるか分からない選択肢を選ぼうとしている時、例えば、健康な妊娠経過にもかかわらず予定帝王切開を希望したり、それに対してご本人がまったく疑問を抱いていない時は難しさを感じます。

まだ周知されていない職業のため、熱意があってもいろいろと大変なことがあります。また、妊産婦さんにとっても、敷居の高いサービスであると思います。もし行政や企業が、産前〜出産〜産後を通してある一定の期間、助成金を受けながらドゥーラサービスを利用することができるようなオプションを提示してくだされば、多くの出産トラウマや産後うつ、育児ノイローゼを抱えるお母さん方の助けになり、予防になると思います。また、ドゥーラもより安定した働き方ができると思います。

燃え尽きずにドゥーラの活動を続けるためには、ドゥーラたちの絆、ネットワークおよび仲間づくり、同じような価値観で活動している職業を超えた人々(助産師、ヨーガの先生、鍼灸師、ハーバリスト、整体師、ヒプノセラピストの方々など)との結びつきが大切だと思います。そして、ドゥーラ活動を続けるためには、家族の理解が本当に大事です。また、コミュニティー、ご近所など周囲の方々にドゥ-ラという仕事とその内容をより深く知ってもらいたいと思うことがあります。

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米国で出会った仲間、ドゥーラ、助産師、ヨーガティーチャーと。


Q-ドゥーラとして活動する上で感じた、国や文化の影響はありますか?

A-バースドゥーラに限って言うならば、ドゥーラに求められるケアは本当にユニバーサルだと思います。

日本のドゥーラ協会、オーストラリアのDoula College、イギリスのDoula UK、アメリカのCAPPAなど、資格を出す団体も国ごとに違いがあります。ただ、非医療者として組織の仕組みにとらわれずに動くドゥーラが、妊娠~出産~産後に提供できるものや、妊産婦さんから期待されているものは、突き詰めていくとすごくユニバーサルであり、またエッセンシャル(必要不可欠)なものだと感じています。それは純粋に'寄り添い'なのだと思います。特にお産では、技術ではなく、基本的にその場にいさせていただくだけ。究極的には、手を握ったりマッサージをしながら、「大丈夫。あなたならできる!」と全身全霊で励ますのです。

私がドゥーラとして唯一自信をもっていることは、肌感覚の違いを埋めることです。日本人は欧米人と比較すると、冷房の寒さに弱いですよね。陣痛がはじまり病院へ行くと、寒い部屋で長時間過ごすことがあるのですが、寒いだけで陣痛は遠のいてしまいます。そこで日本人ドゥーラの強みが出てきます。肌感覚や温度感覚のギャップを埋めるべく、せっせと腰や下半身を温めたり、背中から首筋の温度を保つのです。海外のドゥーラ養成テキストにはあまり書かれていないのですが、日本、とくに助産師さんの間ではごく当たり前のことですよね。そういった日本人ならではの気遣いをドゥーラ業に生かすことを心がけています。


Q-日本にもドゥーラは必要ですか?

A-今の日本でも数は減ってしまいましたが、'トリアゲバア'や'お産婆さん'と呼ばれていた時代から比べると、助産師さんのケアの質や社会的位置づけは格段に高まっています。現在も地域で活動している助産師さんの社会的貢献とその役割は、一言では表現できない厚みと奥行きがあります。一方で、近年では嘱託医問題 *1などにより複雑化しつつあります。都市化、少子化、晩産化、産科医不足。そういった状況のなか、出産そのものや産前産後のしんどい時期を支えてくれる人的リソースを見つけにくくなっています。夫婦問題や子育ての悩みに寄り添えるケアギバーの存在は、意味を増してきていると想像します。

そのため、今はドゥーラのような存在がリソースのひとつとして、選択肢のなかに入ってもいい複雑な社会的背景があるように思われます。助産師さんのしてきたことのほんの一部をドゥーラが補っている、あるいは補おうとしているのではないかと思います。

日本ではドゥーラ協会(http://www.doulajapan.com/)で学ばれた産後ケアの担い手、お産に立ち会わないドゥーラとして、「産後ドゥーラ」が育っていると聞きます。私の見知ったアメリカやイギリスでは、実際の職域ということでも、お産の現場で助産師さんとドゥーラが共存しています。助産師さんはあくまでも国家資格を持つ専門課程をマスターした医療者。一方で、私たちドゥーラはどこまでいっても非医療者です。

日本でのドゥーラ波及の流れについてあまりよく知らない者がこのようなことを安易に言うと誤解を招かないか心配ですが、私にしてみれば、助産師とドゥーラの両者は、お産の場にあっては決して敵対し合うものではなく、むしろ高めあい、人的リソースとして補完し合えるものではないかと思うのです。

ドゥーラが関わるお産を見聞きする機会が増えないことには、医療者の方々には、地域に根差したドゥーラを恩恵として実感しては頂けないかもしれません。ただ、私の体験や妊産婦さんの声などから、ドゥーラ効果を肌で感じとっていますし、助産師さんたちもドゥーラを雇うように妊婦さんに勧めるケースがよくみられるほどに、ドゥーラのいるお産を'邪魔者がいる'のではなく、チームの仲間として感じて下さっているように思います。

ドゥーラは助産師さんの最大の理解者であると思っています。そして一方の助産師さんは今、ドゥーラのような代弁者を必要としている、と感じています。アメリカでのことですが、「医療者であれば口にするのをためらってしまうようなことでも、ドゥーラはバシッと小気味よく言ってくれるので助かる」、と友人ドゥーラが助産師さんから言われたこともあります。

視線を外に向けると、ドゥーラは地域の助産師さんの応援団として、助産師さんの活動に賛同したり、宣伝をしたり、影から後押しする役目を担っています。助産という職能こそ、女性の経験する子産み子育てというライフイベントの質を高める大きな資源となり得ると信じるドゥーラが世界中に大勢います。アメリカやイギリスだけでなく、ブラジル、コスタリカ、ヨーロッパ本土ではフランス、ドイツ、イタリア、スペインなど各国でMidwife & Doula(助産師とドゥーラ)の会合は日々いたるところで開かれています。

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ベテラン助産師さんとともに。


Q-良いドゥーラとは、どんなイメージですか?

A-良いドゥーラは共感能力が高いと感じます。理想のドゥーラのイメージは、お相手の存在を丸ごと尊重できる女性です。ドゥーラとはすべての人の中に備わる資質のひとつだと思います。ドゥーラと名乗らなくても、どんな職業でもドゥーラ的に人が人をケアすることが求められます。たまたまドゥーラは産みゆく女性に関わるため、妊産婦さんや褥婦さんへの寄り添い方を磨いているだけだと思います。

赤ちゃんの誕生する場は、どこか私たちを敬虔にさせてくれます。そして、より受容的に、相手に共感する力を目覚めさせてくれる力があります。赤ちゃん、産む女性、その方の家族や友人などと、その方の最終的に選んだ産み方と、その結果をも含めたすべての在り様にドゥーラとして寄り添ううちに、自分の中の共感する振幅が自ずと広まっていくことを、ドゥーラになる人は誰しも感じるのではないでしょうか。


*1 開業助産所では、以前は産科医以外も含む嘱託医師の確保で十分であったが、2007年以来、嘱託産科医と嘱託医療機関を確保しなければいけないと法で定められた。そのため、搬送先の産院などを確保できない助産所が存続できなくなった。

1.嘱託医師については産科又は産婦人科を担当する医師を嘱託医師とすること
2.診療科名中に産科又は産婦人科及び小児科を有し、かつ、新生児への診療を行うことができる入院できる病院又は診療所を確保すること
参考:http://midwife.or.jp/pdf/tuchi071205.pdf

(執筆協力:界外亜由美)



lab_03_30_06.jpg  木村章鼓 (Kimura, Akiko)
 イギリス在住。ドゥーラ&バースファシリテーター。エディンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士。エディンバラにてバースティーチャー養成コース受講。SBTA(Scottish Birth Teachers Association)資格取得。元助産師のアデラ・ストックトン氏によるドゥーラ養成講座の全課程を修了、ドゥーラの資格を取得。メロディークリスタル式ヒーリング法1級&2級修了。プラクティショナーとクリストロジーのマスター資格取得。BOLDメソッド バース・ファシリテーター資格取得。訳書に「自己変容をもたらすホールネスの実践―マインドフルネスと思いやりに満ちた統合療法」。約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母。周産期医療に携わる助産師・看護師・医師のための専門誌『ペリネイタルケア』( http://www.medica.co.jp/m/perinatalcare )(メディカ出版)にて連載中。自らを「ノマドゥーラ」(「ノマド」 とは遊牧民のこと)と呼ぶ。
木村さんのドゥーラ活動についての詳細は、以下をぜひご覧ください。
http://nomadoula.wordpress.com/
https://youtu.be/oREQHaTV0Z0

筆者プロフィール

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福澤(岸) 利江子

東京大学大学院医学系研究科家族看護学教室 助教 助産師、看護師、保健師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。 Community-Based Doula Leadership Instituteアドバイザリーボードメンバー、社団法人ドゥーラ協会顧問、ニチイ産前産後ママへルパー養成講座監修。 研究分野:「周産期ケアの国際比較」「ドゥーラサポート」



界外亜由美
ライター・コピーライター。広告制作会社で旅行情報誌や人材採用の広告ディレクター・コピーライターとして活動後、フリーランスとなる。また、ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」の運営など、ドゥーラを支援する活動も行っている。
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