大韓民国の幼児教育・保育(ECEC)の歴史は100年以上に及ぶ1987年に韓国最初の幼稚園である釜山幼稚園が開園、植民地時代の1921年には、初の保育園として泰和基督教幼児センターが開園した。
社会経済の発展に伴い幼児の教育機関の必要性が1980年代後半から90年代初頭にかけて急速に増し、教育と保育という二つに分かれたシステムが作り上げられていくこととなった。一つには、低所得層の家庭と働く母親のための保育施設と、もう一方は、中流家庭・高所得層のための幼稚園教育である。保育所は、保健福祉家庭部の監督下で0歳から5歳の幼児を一日中あずかるプログラムで、教育よりも保育に重点を置いている。これに対し、幼稚園は、教育科学技術部の監督下にあり3歳から5歳の幼児を半日間預かるプログラムを提供し、保育よりも教育に重点を置いている。
こうした経緯から、韓国における幼児の教育・保育ははっきりと二つに分かれて発展してきた。教育を施す幼稚園と保育を担う保育施設である。下の表1は、幼稚園と保育所を比較したものである。
<表1>乳幼児教育・保育サービス提供の型
監督行政機関 |
教育科学技術部 |
保健福祉家庭部 | |||||
名称 |
幼稚園 |
保育所 | |||||
ECEC サービス |
国立 / |
民間 |
国立 / |
民間 |
職場 |
職場 |
生協 |
対象幼児 |
3 ~ 5歳 |
0 ~ 5歳 | |||||
従事者の資格 |
幼児教育を専攻した |
保育園の教諭資格に必要な1年間の保育研修 | |||||
関係する法律 |
ECE 法(2004) |
保育法(1991) | |||||
支援金 |
低所得層の5歳児と、所得に関係なく障害のある5歳児対象 | ||||||
低所得層の3-4歳児と、 |
低所得層の0-4歳児と、所得に関係なく障害 | ||||||
しかしながら、二つの似通った政府機関の下にあるものの、子どもを預かる時間や、元々は異なった特徴を持つはずのプログラムの内容など、どの点においても実際面の違いは薄れてきている。それは、幼児教育促進法により1992年から幼稚園も保育面を拡充し、丸一日のプログラムを実施するようになったからであり、また、保育所も教育プログラムの欠落を補い保育に加え教育も提供するようになったからである。概して4歳までの幼児は幼稚園よりも保育所に通う子供の方が多く、5歳児では保育所よりも幼稚園に通う子どもが多くなった(UNESCO IBE, 2006)。
<表2>早期教育機関と保育園に通っている子どもの年齢別割合(2005) (No: %)
学級・年齢 |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
Total |
機関* |
4.9 |
16.4 |
41.1 |
75.0 |
91.1 |
98.8 |
97.7 |
56.8 |
保育所 |
2.2 |
12.8 |
29.7 |
46.7 |
44.3 |
30.1 |
37.5 |
27.9 |
幼稚園 |
- |
- |
3.3 |
13.2 |
23.5 |
48.8 |
44.8 |
16.5 |
カトリック系/民間 |
2.7 |
3.9 |
8.5 |
19.4 |
35.2 |
57.4 |
58.4 |
23.0 |
家庭内 |
23.0 |
24.2 |
20.8 |
23.1 |
18.8 |
19.8 |
16.3 |
21.0 |
家庭外 |
4.3 |
1.8 |
1.2 |
1.4 |
0.6 |
1.0 |
4.7 |
1.7 |
家庭教師 |
4.3 |
10.9 |
34.0 |
40.8 |
43.2 |
50.1 |
47.7 |
29.7 |
その他 |
- |
0.3 |
- |
- |
- |
0.8 |
- |
0.2 |
合計 |
36.5 |
53.6 |
97.1 |
140.3 |
153.7 |
170.5 |
166.4 |
109.4 |
回答なし |
(358) |
(391) |
(422) |
(441) |
(508) |
(493) |
(348) |
(2,962) |
事実上、幼稚園と保育園の違いはなくなってきていると言っていいが、行政上の問題がいくつか残っており、監督省庁の両者の間では激しい意見の対立が以前としてある。例えば、対象とする子どもの年齢や、関連法における「保育」という言葉の定義の問題である。こうした物議をかもしだす問題に関し、政府は10年にわたる両者の軋轢に一定の同意を得ようと国を挙げて取り組み、双方の利益の統一をはかるべく努力してきた。しかしながら、これまでのところうまくいっているとは言い難い。実施面において、韓国のECECの現在の状況は好ましいとは言えないが、さらにすすんだECECサービスの構築、例えば幼稚園と保育園の統合などは、実施面、理論面の双方において現在進行中である。
また、韓国の100年以上になるECECの歴史において、その政策立案者はサービスを受ける側の求めにほとんど耳を傾けてこなかった。乳幼児とその家族が本当に求めているのは、どんな種類のサービスだろうか。教育よりも保育だろうか?それともその逆?残念なことに、幼児とその家族の声が、ECEC政策やシステムの改革プロセスにおいて取り上げられることはいままでなかったが、それこそがECEC改革の成功においてもっとも重要なエレメントである。求められるのは、安全な場所、そこで子どもたちが資格のある教・養育者から質の高い教育と保育を受けることである。このシンプルで一番大事な原則を実現でき始めたら、サービスの実施時間、対象となる子どもの年齢などは大きな問題ではないし、子どもの利益のために、幼稚園と保育園を統合する新しい政策は、教育者であり保育者でもある両方の立場に立つ人々の賛同を得られていくことだろう。
ECEC政策とその実現の成功のためには、乳幼児やその家族をサービスの受益者として見るのではなく、一緒に作り上げていく協働者として見ていくことが必要である。ECECの肝心なポイントは家族と子どもであり、また彼らのニーズに応えることである。この点を考慮しなければ、政策にたずさわる者と教育者の表面的な議論にすぎない。