CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子ども未来紀行~学際的な研究・レポート・エッセイ~ > 韓国における子ども研究の現状と課題

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

韓国における子ども研究の現状と課題

要旨:

今まで子どもに関する研究は断片的に行われてきており、各々の分野で様々な研究が孤立して行われてきた。これからは子どもの存在を総体的に把握するため、異なる分野の専門家達が相互理解を深めながら一つの立場を見付けていく必要がある。そうすることで研究をより発展させ、子どもの福祉や教育の質の向上に実際に役立てていくことができるだろう。本稿では、子どもに関する福祉、人権、法律に関する内容をまとめ、最後に、子ども研究財団が、社会や子どもの幸せに貢献するために必要と思われる三つの機能についての提言をまとめた。
1.始めに:子どもに関する総合的研究の必要性

今まで子どもに関する研究は断片的に行われてきており、各々の分野で様々な研究が孤立して行われてきた。これからは子どもの存在を総体的に把握するため、異なる分野の専門家達が相互理解を深めながら一つの立場を見付けるべきである。

近年、発症学、神経学、生命科学が急速に発達するにつれ、体と心が影響をし合うということが知られてきている。国際的には、子どもは生物学的存在あるとともに社会的存在であるという観点からより広い分野の研究が行われている。様々な分野の研究が子どもに関心を集めることで、互いに刺激を与え合い、情報交換が可能になる。さらに、学問的な意見交換だけでなく、その結果を子ども保護や教育に実際に適用し、子ども観連事業にも応用することが可能になるだろう。

子どもに関する福祉、人権、法律に関する内容をまとめながら、私の考えを述べたい。

2.児童福祉研究の現状と課題

(1)開設大学の教育課程を通じてみた「児童福祉」の位置とその意味
児童福祉に関する研究は社会福祉学の下位分野として、実際に社会環境からの影響が大きい実践研究的な特徴を持っている。大学の教育の中で児童福祉への関心の程度を理解するために教育課程上の位置やその意味を調べると、児童学科では一般的な児童の発達に関心があり、特に幼児・児童期に集中している。また、教育課程では臨床中心の心理、相談へ移行しているが、それは理論より実践面を強化しようとすることであり、また理論的児童学より実践的な児童福祉との連携を強化しようとする傾向が見られる。つまり、児童福祉学科では「児童福祉」が重要科目であるのに対して児童学科では代表的な科目ではないとされている。

(2)学会を通じてみた児童福祉研究とその意味
韓国で児童福祉を中心にしている学会は「韓国児童福祉学会(1991.5.創立)」と「韓国青少年福祉学会(1998.9.創立)」で、「韓国児童学会(1979.11.創立)」及び「韓国青少年学会(1991.6.創立)」より後に始まった。前者は保護と福祉に焦点を当てた研究を中心に、後者は一般児童と青少年の発達に焦点を当てた研究を中心に始まった。

(3)児童福祉研究の動き
児童福祉に関連する論文集の論文を中心に研究動向をみると、児童学会が始まった1979年から10年単位で一定の流れが見られる。

1)1979年以前:児童学、及び児童福祉研究の胎動
児童学会が1979年設立され1980年12月に『児童学会誌』第1集が発刊、「韓国社会福祉学会」も1979年に創刊号を出した。児童福祉分野の研究論文には「プレイ、プレイ・セラピー、社会事業方法」等の論文があった。国内で関連するテーマの博士論文はなく、少数の修士論文が1970年後半に集中して出されている。

2)1980-1989年:児童福祉に関する本格的研究は不十分
児童福祉に関する研究は少なく、児童学研究の一部として扱われていた。掲載された論文は児童の特徴と家庭環境及び社会環境を背景にした発達心理学の研究で、児童福祉問題を社会構造、及び制度的問題として対応策を提案した研究は行われていなかった。修士学位論文は多くあったが、主に非行と犯罪関連の実態調査に偏った傾向があり、まだうわべだけの研究であるという限界が見られる。さらに児童福祉の問題を制度的な側面から接近した研究は見られず、それは社会福祉分野においても稀であり、児童学分野ではより難しかったと思われる。

3)1990-1999年:児童福祉研究の本格化、及び多様化
「韓国児童福祉学会」、「韓国青少年福祉学会」が設立され、児童福祉に関する研究が盛んに行われ始めた時期である。児童福祉的な観点から行われた博士レベルでの研究が著しく多くみられる。また修士レベルでの研究は前段階の時期に比べて10倍以上増えた。この時期の修士・博士学位論文の特徴を見ると、まず、比較研究が目立ち、比較対象も様々である。これは児童学と児童福祉学の研究の距離を縮めたとも言える。二つ目、多様な学問分野において研究が行われた。これは児童学と児童福祉学との距離を縮めたが、実際に学問的には深まらなかった側面もある。三つ目、児童福祉に関連した法律の制定により、法律に関する研究が見られる。これは児童福祉に関する法律の重要性を認識したと評価できる。四つ目、施設保護と福祉に関する研究が多数を占めている。五つ目、家庭や学校と連携した研究が多く暴力に関する研究も多く増えた。これは全児童の発達段階を包括しており、特に児童学と家庭学を背景にした研究が盛んに行われた。六つ目、情報通信技術の発展により、メディアが児童発達や児童福祉に及ぼす影響に関する研究が増えた。最後に、南・北朝鮮の比較研究と脱北朝鮮の青少年の研究が増加、北朝鮮に接している延辺(中国の朝鮮族自治州) に住む児童と青少年の生活に対する研究も増加している特徴が見られる。

4)2000年以降:児童福祉の処方的な研究化の時期
この時期の学会誌の論文を見ると、いじめの発達への影響、未婚の母の特性、インターネット中毒と対人関係、社会的孤立児童、児童の心理的福祉、性虐待の理解とその対処、ボランティア活動、幼児の養子縁組に関する研究等があった。これは理論中心の児童発達研究から児童福祉の実践的傾向の研究が次第に増えていることを示しており、肯定的に評価できる。また、実質的な福祉を保障するためには社会環境的な文脈でとらえることは当然であり、これからも必要であるだろう。

この時期の修士・博士学位論文の傾向には以前とは異なる特徴が3つ見られる。1つは、児童・青少年問題を相談し治療する研究が増加したことである。このような研究は臨床と実践との連携には学際的な研究と実践が必要であることを、より明白に示してくれる。2つ目は、児童・青少年福祉政策の決定過程に関する研究が増えている点である。これは、政策につながる学問的な研究が必要であるとの認識の反映だとも見られる。3つ目は、児童・青少年相談に続きプログラム開発と評価が教育分野から相談と治療領域に広がっていることである。さらに、宗教を背景にした教育‐相談‐治療プログラム開発まで進んでいる。

(4)児童福祉研究の展望と課題‐実践志向と多学問的研究の強化
周辺的学問であった児童福祉学は、関心が高まり社会的なテーマの一つになった。児童を含め人の福祉に対する権利の認識が高くなり、社会的サービスの専門性への要求も多くなることで専門家への関心や必要性の増加、またそのための実務と研究の両方が必要とされるようになった。そのため、今後より学際的で実践的な研究が必要になった。

3.韓国の児童政策、及び法律

児童学の実践は様々であり、政策など巨視的な方向やビジネス、また微視的な方向等もあり、直接、間節的に影響を与えている。ここでは子どもの幸せな人生の関する制度的、政策的、及び法律的環境の変化や発展を概括したい。

(1)第Ⅰ期(1945~1961):政策的な不毛状態(悲劇の児童期)
「児童の暗黒期」であるこの時代は、子どもはただ救護の対象であり福祉の対象ではなかった。13歳以下の小児を救護対象とし、食糧、住宅、衣類、医療を支援するのが児童政策であった。その後、地域社会と民間のボランティアをすすめる等、児童の保護の一次的責任を民間に任せる水準から児童政策が始まった。1946年児童労働法と1947年未成年の労働保護法の制定は、子どもの権利に関する国の関心と介入への最初の努力として意義があると評価できる。児童政策は戦争による要保護児童を中心に発展し、一般児童は政策の対象にならなかった。

民間では童話作家協会により5月5日に「子ども憲章」が発表されたり、1959年国連は「子ども権利宣言」を発表したが、国内では国家の予算不足や意識不足で児童福祉に関する法律化ができなくなるなど、社会政策として理解されない水準であった。

(2)第Ⅱ期(1961~1979)
1)児童福利法の制定‐法治主義の児童政策の時代を開く
1961年12日児童福利法が制定されたが、それは児童問題が社会政策として認識された歴史的なことであり、児童政策が国の支援と統制下で行われるようになった始まりである。また、孤児関連の法律が立てられ、法治主義の児童政策の時代が始まったことである。

2)積極的な介入政策と保育事業
1960年代の児童福祉事業は選別的で事後的な性質が強かったが、経済成長とそれによる女性労働者の急増により児童養育問題が引き起こされ、託児事業が児童政策の一つであった。

3)児童・青少年政策の制度化
この時期の重要な変化の一つは本格的な青少年政策が始まったことである。「青少年保護対策委員会」が設置され、青少年保護、善導に関して総合的な業務を行うようになった。その後、「青少年対策委員会」と発展し、保護、善導という消極的次元からより幅広く積極的な青少年政策への変化があった。

(3)第Ⅲ期(1980以降):保護主義から普遍主義の児童・青少年政策の転換期
今まで選別的で消極的だった政策は普遍的で積極的な政策に変わり始める。まず、1981年「児童福祉法」が制定された。これは児童政策が一般児童に拡大されて普遍主義に変わったことを意味する。その後、幼児教育振興法、乳幼児保育法の制定はそれぞれ、普遍主義的な児童政策が完成されるきっかけになったと評価される。

このような政策と法律の制定過程を通じて児童政策は選別主義から普遍主義に、保護中心から権利中心に、家族主義から国家主義に発展していった。さらに、政策は福祉的な側面のサービスに焦点が変わった。

(4)第Ⅳ期(2000年以降)
2000年「児童福祉法」が改正されることにより現在まで児童・青少年福祉の成熟期に入ったと言える。だが、政策的側面や法律整備の次元では成熟期に入ったと言えるが、実質的な側面は別の問題であるだろう。

2006年「国家青少年委員会」に名称が変わり、2008年の現政権では児童政策、女性府保育政策、国家青少年委員会の青少年政策を統合し保健福祉府の児童青少年政策室に改編された。

4.韓国の児童・青少年の人権

1991年国連子どもの権利条約に加入して今に至っているが、実際に子どもの人権が改善されたのかは疑問である。

(1)市民的権利と自由
子どもの権利条約では性、宗教、出身等に関係なく全世界のすべての子どもと青少年は大人と同じく市民的、政治的権利を保障されている。干渉や抑圧から解放されて社会活動に参加し自分の意見を表現し人生を決定出来る権利である。

しかし、現在学校の校則に学生の参与は保障出来ておらず、ほとんどの学校が政治活動を禁じている。学校だけでなく、家庭と社会においても同じ状況であり、自分に影響があることに対しても子ども達は自分の意見が反映されず、意見を言っても無視されるのが常である。

(2)経済・社会・文化的権利
これは児童・青少年が人間らしく生きていける条件の中で、健やかに成長し発達することができる権利である。韓国の社会保障はその経済的な規模に比べて乏しいという評価が多く、例えば貧しい地域では、子どもや青少年の医療支援が不十分で健康状態に影響を与えている。また、治療費が多くかかる難病への政府の支援が少ない。他に、他の国に比べて授業日数が220日と多いことや、激しい受験競争の文化で子ども達は瀕死状態にあると言っても過言ではない。

(3)養育と保護に関する権利
子どもと青少年は持続的成長の過程にあるという特徴的状態を考慮され、自分の身体的・精神的能力に相応する養育と保護を受ける権利である。しかし、親からの虐待が増加、離婚時の面接交渉権は親のみ申請出来ることや養育指定権への意志表示権が15歳以上になっていることなど、国の保護が必要な子どもや青少年が毎年増加しつつある。

(4)特別状況での保護装置
すべての搾取から保護される権利、優先的で緊急な保護や配慮を受けられる権利等である。働く青少年が増えている中、賃金、勤労時間などの問題の他に、身体的・性的虐待や差別を受けることがしばしば起こっているのが現状であり、恥ずかしいことであると思う。

(5)児童・青少年の人権改善のための課題
国連子どもの権利委員会は韓国に体罰禁止と競争的教育風土の改善、児童人権専門家、及び小委員会を置くことを勧告した。特に、社会的弱者の対する差別を禁じる法律への努力、予算の優先分配等を勧告した。このような勧告は、何より児童・青少年に対する認識の変換に重要である。さらに児童・青少年自身が自分に最善な選択ができるようにすることが重要であり、子ども達が自分の経験を通じて自分自身の権利を確保できるような環境を提供することが、大人や社会、国がすべきこととして重要である。

5.終わりに:子ども研究財団の活動

子ども研究財団が、その理念に沿って発展できる理想的な環境を整えるためには、研究、教育、政策開発、慈善事業等の機能が必要であるだろう。

まず、ここでいう研究の機能は子どもに関する研究を進めることである。今まで異なる学問の中で行われてきた研究やそのアイディアから子どもを多角的に見ることで研究を進めると、そこから大きなシナジー効果を得られるだろう。これは、多水準から接近し綜合補完、交流を強調する未来科学の観点から見ても理想的である。

もう一つの機能は教育の機能になるだろう。上記の研究の機能から得られたアイディアや情報を普及し、より新しくてバランスよく子どもを理解することで、子どもと接する現場につなげるようにすべきである。これは、教師だけでなく、子ども観連の仕事をする人すべてに対する教育的機能であり、それには子どもの親も含まれるだろう。

三つ目は政策化の機能である。研究から得られたアイディアを基に新しく理想的な政策と制度を提案し具体化していく役割が必要であるだろう。

最後は慈善活動である。研究、教育、政策開発がうまく行われていく中で様々な企業や個人からのサポートを受け、また財団の収入から子どもへの慈善事業を展開することができるだろう。

このような機能がうまく起動すると子どもへの理解が深まり、それを実践に応用することで子どもにより良い世界を提供でき、私たちの明るい未来にもつながるだろう。

----------------------------

2010年5月27日、晋州教育大学で行われた「子ども研究財団・子ども研究所 創立準備シンポジウム」での講演録を掲載しました。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP