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論文・レポート

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子どもと親を巡る法律関係と家庭裁判所

安倍 嘉人(東京高等裁判所長官)

2011年1月28日掲載

要旨:

我が国においては、「法は家庭に入らず」という考え方のもとで家庭の自律を尊重しているが、親子関係の基本的な枠組みについては法で定め、親子関係の重要な事柄の決定については、後見的に家庭裁判所が関与することとされている。未成年の子は父母の親権に服し、親権者は子を監護し教育する権利と義務を負っている。父母が離婚するときは、その一方を親権者と定めなければならないが、離婚が家庭裁判所の調停や裁判手続で行われるときは、親子関係の実情に関する家裁調査官の調査を踏まえて判断がされる。子が虐待されているときは、親子の分離について家庭裁判所が後見的に関与したり、親権喪失の審判をすることができることとされている。
1 はじめに

銀(しろかね)も 金(くがね)も玉も なにせむに まされる宝 子にしかめやも(山上憶良)
と詠まれたときから1300年もの長い年月が経過したが、このような子を思う親の心は今日の社会においても不変であると言ってよいし、多くの子どもたちは親の愛情を享受しながら成長し、社会に巣立っている。

しかしながら、このような理想とはほど遠い親子関係の中で辛い日々を過ごしている子どもたち、親の生活環境の変転に翻弄されている子どもたちも決して少なくないのが社会の実情であるとみられる。

まだ自立していない子どもたちがどのような生活を送るかは親子関係を含む家庭の有りようによって左右されると言ってよいと思われるが、我が国においては、「法は家庭に入らず」との考え方のもとで具体的な家庭生活の持ち方についてはその家庭の自律に委ねる一方で、親子関係の基本的な枠組みについては法で定め、また親子関係を巡る重要な事柄について家庭では適切な判断ができない場合には、裁判所が後見的に関与して親子関係の在り方を決定する、という仕組みを採用している。

そこで、子どもと親を巡る法律関係がどのように定められており、子どもにとっての問題状況において、裁判所がどのように関与する仕組みになっているかについて概観してみたい。


2 親子の法律関係(親権)の概観

親子の法律関係は、民法という法律に規定されている。その基本的な定めは、未成年の子は父母の親権に服する(818条1項)という規定であるが、一方、このことは、親の側からは、親権を行う者(親権者)は、子を監護し教育する権利を有し、義務を負う(820条・監護権)とともに、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為(注:売買することなどが典型的である。)についてその子を代理する(824条・管理権)と定められている。

このように未成年の子は、父母の親権のもとで監護・教育を受けるわけであるが、父母はその婚姻中は共同して親権を行使することとされている(818条3項)。


3 父母の離婚に際しての子どもの問題

父母の離婚に際して解決しなければならない問題はいくつかあるが、中でも未成年の子がある場合には、その親権者をどのように定めるかが最も大きなテーマである。国によっては、父母の離婚後も父母が共同して親権・監護権を行使するという制度を採っているところもあるが、我が国においては、その一方が単独で親権を行使し子を監護教育することとされている(819条)。そこで、離婚と親権に関する法律関係について概観してみたい。

a 親権の帰属
親権者の決定は、離婚が協議離婚によって行われる場合はその協議によって定められる(819条1項)が、離婚が家庭裁判所の調停によって行われる場合はその調停の中で話合いによって決められる。また、離婚が裁判によって行われる場合は判決において家庭裁判所が決定することになる(同条2項)。

このように家庭裁判所の調停ないし裁判手続において親権者が決まる場合には、通常は、心理学ほかの人間関係科学などを学んだ家裁調査官が調査をして、その報告を踏まえて決められている。調査の目的は、父母のいずれがより親権者として適切であるか、すなわち、いずれの親と生活を共にすることが子どもにとってより幸せであるかを検討することであるが、その検討のためには、子どもがいずれの親とより強い気持の繋がりを持っているか、生活環境はいずれが安定しているか、子どもの発達上のニーズをよりよく満たせるのはいずれかなどの調査が欠かせない。家裁調査官の調査の実際は、子どもの現在の生活の場を訪問して、生活状況を調査したり、子どもと会話をしたり、行動を観察したり、親子で遊ばせながら交流の様子を観察したりして親子の心理的な距離関係を調査することが基本となる。また、事案によっては、子どもと同居していない方の親の生活状況を調査したり、家庭裁判所のプレイルームで親と子どもとの面会交流の場面を設けてその様子を観察して親子の関係を調査することもある。家裁調査官は、このような調査の結果を報告書にまとめて、裁判官の判断資料として提出している。

b 養育費や面会交流
離婚が家庭裁判所の手続によって行われる場合はもとより、協議によって離婚した場合でも、子どもの養育費の支払いや子どもと親権者にならなかった親との面会交流について父母間の話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判(注:非公開の場における裁判である。)によって決めることができるが、特に面会交流のように子どもの心に大きな影響を与える事柄についても、家裁調査官が子どもの気持を聞いたり、言葉に表せない内心を知るための調査を行ったり、試験的な面会交流を裁判所内のプレイルームで行うなどして、調停や審判の判断資料を提供している。


4 虐待と子ども

近年子どもの虐待が深刻な社会問題となっているが、虐待を未然に防止したり、虐待を受けている子どもたちを保護することは、社会全体に課せられた課題であると言うことができる。その問題状況の改善のためには、子どもの生育過程全般について、様々な角度から、様々な立場の大人が細心の注意と勇気を持って関わっていく必要があると考えるが、その一つとして裁判所がどのように関わる仕組みになっているかを概観してみたい。

a 児童福祉施設への入所等に関する承認
虐待を受けている子どもについては、先ずは危険な状態から子どもを保護することが第1の課題であるが、そのための司法的な仕組みの一つが児童福祉法28条の施設入所等の承認審判である。前記のように、親権者には子どもを監護教育する義務と共に権利があることから、親権者から子どもを分離するには親権者の同意が必要となるが、親権者が頑なに同意を拒んでいるため子どもの保護ができないときは、申立てを受けて、家庭裁判所は施設入所等の形で親子を分離することの承認審判をすることができる。このような場合にも、家裁調査官が子どもの生活の実情を明らかにするために調査を行っている。

b 親権喪失宣告
今ひとつの仕組みは、監護教育する親権を失わせるというもので、親権者が親権を濫用しているなどの場合には、申立てを受けて、家庭裁判所は審判によって親権喪失宣告をすることができる(民法834条)。そして、このように親権の喪失が認められて親権者がいなくなった場合には、未成年後見人がその権利を代わりに行使することになる(838条1号、840条)。一方、親権喪失の審判がされた後、その原因が消滅したときには、申立てを受けて、家庭裁判所は親権喪失の宣告を取り消すことができ(836条)、その結果父又は母は復権することになる。

しかし、親権喪失の効果が大きいため、かえって使いにくいとの批判があり、親権の一部制限という制度を導入するかどうかが目下法制審議会等の場で議論されており、その議論の行方が注目される。


5 終わりに

将来の社会を支えるべき子どもが健やかに成長していくうえでは、親と子どもとの関係が真に愛情に満ちたものであることが重要であり、そのような親子関係となるよう社会が様々な形でサポートをしていくことが必要であるが、家庭裁判所も司法という立場で役割を十全に果たしていきたいものと思う。


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東京高等裁判所長官であられる安倍嘉人先生から頂いた「子どもと親を巡る法律関係と家庭裁判所」と題する論文を読ませて頂いた。

親権というものを法律的にどう考えるかから始まって、親の離婚や虐待などの特殊な親子関係における親権をどう捉えるかについて述べられている。先生の子ども達に対する優しいまなざしを感じられる文章で書かれていて、大変勉強になった。

しかし、1989年の国連の子ども権利条約を批准したわが国では、親権と子どもの権利との関係が現在どうなっているのかについて知りたいと思った。法理論の上でも、いろいろな問題があるのではないかと思う。個人的に、1970年代から80年代にかけて、国際小児科学会に役員として関係したが、学会は国連と協働して、子どもの権利を明らかにするため、理事会などで話し合う機会があった。しかし、小児科医としてわからないことばかりだったからである。次の機会には、わが国では法律学者がどう考えているか、ぜひお話を伺いたいものである。

CRN所長 小林 登
筆者プロフィール
東京都生まれ。1971年に東京地方裁判所判事補として裁判官となり、その後、最高裁判所家庭局に勤務する期間が長く、この間家庭の紛争解決手続や少年審判手続に関する運営改善や法律制度の改正に関与してきた。千葉家庭裁判所、横浜家庭裁判所の所長などを経て、2010年1月から現職。
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