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韓国の児童心理学研究の現状と課題

要旨:

本研究では最近20年間にわたり韓国で学齢期の児童に関して研究された児童心理学研究の動向を概観し、今後の研究について論じることにする。児童心理学の動向を理解するため1990年から2009年までにわたって『韓国発達心理学会誌:発達』に掲載された論文の中で学齢期の児童を対象とした研究を概観した。過去20年間の研究の動向を見ることで韓国の学齢期の児童に関する研究テーマやそれぞれの領域の研究の現状の理解を試みる。また、今後扱うべき研究テーマについて論じることにしたい。
1.序論

本研究では最近20年間にわたり韓国で学齢期の児童に関して研究された児童心理学研究の動向を概観し、今後の研究について論じることにする。児童心理学の動向を理解するため1990年から2009年までにわたって『韓国発達心理学会誌:発達』に掲載された論文の中で学齢期の児童を対象とした研究を概観した。過去20年間の研究の動向を見ることで韓国の学齢期の児童に関する研究テーマやそれぞれの領域の研究の現状の理解を試みる。また、今後扱うべき研究テーマについて論じることにしたい。

本研究では1984年から1993年まで韓国の発達心理学研究を対象に概観したSong(1994)の研究と前述の20年間の動向を比較した。Song(1994)は欧米の発達心理学の研究動向を理解するため、アメリカの2種類の発達心理学関連の雑誌の論文を概観し、韓国の発達心理学分野の研究動向を理解するため、1993年まで10年間に韓国の心理学会誌に掲載された論文や学位論文などを分析した。

それによると、『韓国心理学会誌:発達』に最近20年間掲載された論文の中で、年齢層に関する研究では幼児が一番多く、学齢期の児童に関する研究や学齢期児童との比較研究を含むと31.3%が学齢期児童に関する研究であった。ここからみると、韓国の発達心理学研究では幼児と児童を対象にした研究が多く、その次に青少年に関する研究が多くみられる。


2.過去研究動向との比較

この20年間行われてきた韓国の発達心理学研究では31.3%が学齢期児童を扱っているが、この数値は過去48%に比べると減少した割合である。それに反して、乳幼児に関する研究が少し増加し、青少年に関する研究は大きく増加した。年齢層との比較研究は3倍以上増加した。それは、人間を発達過程の連続にある存在とみなして全生涯発達心理学の観点の影響が反映されたことだと見られる。乳児に関する研究は方法論的難しさがあったが、それに挑戦することで増加しつつある。学齢期児童への研究の割合が減り、幼児研究の割合に近づいたが、それはアメリカの傾向に類似している。また、韓国で幼児期への関心が増加したことと、最近発達心理学のテーマである'こころの理論'の研究により幼児期の重要性を認識したこと、有能な幼児への接近及び理論に起因したとみられる。

本稿ではSong(1994)を分類基準とし、研究の下位領域を再構成した。さらに、時代的な変化による新たな研究領域を追加した。学齢期児童に関する研究の現状を中心に、認知、社会認知、性格及び社会性、親子関係、障害、神経生理、相談、治療及び訓練効果、また検査開発の7つの下位領域に分けて概観した。


3.認知発達領域の研究現状

認知領域では記憶、推論・問題解決、言語発達、児童の知識に関する研究が多く行われた。一番多くみられた記憶の研究の中では、児童の記憶に関する回想能力、及び誤った情報を提示された場合の研究があったが、これは法廷で児童本人が経験した記憶を証言として採択するようになった韓国法廷の変化に応じた研究と言える。児童の知識を扱った研究は、新たに注目される領域の一つとして、児童の精神生活の中で自分が経験している内容の構成の仕方、世の中について持っている児童の知識と大人との違い等を検討した分野である。数の発達に関する研究も多数見られるが、これは発達心理学の応用分野、及び教育現場との連携を試みようとした現代の傾向として考えられる。最後に児童の認知発達研究において比較文化研究が2本あったことは興味深い。認知発達領域のように比較的に文化的普遍性が認められている領域で比較文化研究を通じて文化的差異を明らかにした点は、現代の脈絡主義の観点に相応することとしてみなされるし、より活発な研究を通じて共通点と違いを明らかにすることが必要である。


4.社会認知領域の研究現状

2番目に多い研究領域が社会認知領域で、この領域ではほとんどの研究が幼児と児童の比較研究だったことが特徴である。特に、一番多くみられた'こころの理論'に関する研究のすべてが幼児と児童の比較研究であった。'こころの理論'の研究では幼児に関してはある程度理解出来たことで、児童期やその後の時期に関する研究が行われてきている。近年は青年期までの年齢にわたる研究も見られる。

社会認知領域では'学齢期'児童のみを対象にした研究よりも幼児との比較研究が行われる理由は、社会認知領域、特にこころの理論の発達が幼児期から早期に発達するとみなしている観点から研究されているからだと思われる。


5.性格、及び社会性領域

まず、欧米とは違って愛着に関する研究はなかった。過去多く行われた攻撃性に関する研究が1本しかないことが目立つが、それは社会情報処理的な観点に関する研究に移行していったからだと見られる。

最近出てきた新しい下位領域にはインターネット・ゲームに関連した行動、及び問題行動に関する研究で、家族関係とインターネット・ゲーム問題行動の関係を明らかにしようとした研究が行われた。この分野の研究はまだ初期段階であり、今後インタネットの様々な側面に対する多くの研究が行われる必要があるとみられる。


6.その他のテーマ

他のテーマには検査及び尺度の開発、発達障害、相談、治療及び訓練の効果がある。発達障害に関する研究は持続的に行われてきており、具体的にはADHDと自閉症に関する研究が多くみられる。今まで扱われていなかった検査及び尺度開発研究は多く増加したが、その原因は韓国の児童を科学的に測定し診断する機能が増し実用的な関心による結果として見られる。

全体の研究の中で概観研究は7.9%で、過去にはほとんど行われていなかった分野としては大きな変化である。このような変化は各領域の研究結果の蓄積と研究者たちの器量の拡大により可能になったと考えられる。


7.児童心理学の課題

1990年から2009年まで20年間にわたって学齢期児童を対象にした研究の動向を概観したが、その特徴を検討し、今後児童心理学で扱うべき課題を探ることにしたい。

1)児童心理学研究は認知領域に関する研究が一番多く、社会認知領域を含めると経験的研究の半数以上を占めている。1970年代以降心理学では認知主義的観点が重視されてきており、それは韓国の児童心理学研究においても反映された結果であるとみられる。このような認知主義的な観点は今後も続くと見られる。

2)発達障害に関する研究は過去とほぼ同じ程度で行われてきている。それは、障害を正常発達の現象に基づいて理解しようとする発達精神病理的な観点の影響が反映されたことであり、児童心理学の実用主義の観点からの発達障害に関する研究は一層増加していくと予想される。

3)新たに出てきた研究は相談、治療及び訓練効果に関する領域の研究である。これは、児童心理学の実用的な価値を高めるため現場と連携をしようとする努力として見られる。このような関心の例が幼児・児童の法廷への証言に関する研究であり、現場と関連した研究は今後も必要であると見られる。

4)社会的関係に関する研究である愛着、養育に関する研究が全無で、他の年齢層にも少なかったことは、今後、この領域への関心とともに、社会的な関係を因果的に把握できる方法論を適用した研究が必要であるとみられる。

5)神経生理的な接近の研究は全体の年齢層の研究からみても3本しかなかった。方法論的な難しさと高費用の問題による困難があったと推測できるが、未来研究の主要分野であるように、韓国でも挑戦すべき分野であると思われる。

6)比較文化研究はまだ少数であるが、今後の有望な研究テーマの一つであり、特に児童が接する様々な状況や文化の違いによる影響を明らかにすることが発達心理学の課題であるだろう。

7)最後に研究結果と現場との疎通の問題がある。今まで行われた研究の中には応用の必要性が高いものもあった。今後、児童心理研究者と教育現場の専門家の協力体制を作り、研究と現場の連携をつくっていく必要がある。

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2010年5月27日、晋州教育大学で行われた「子ども研究財団・子ども研究所 創立準備シンポジウム」での講演録を掲載しました。
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