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研究室

【ハンガリー】 ハンガリーの早期外国語教育

ユディット・ヒダシ (ブダペスト商科大学 教授)

2010年2月26日掲載

要旨:

国際化が進む世界では、大人になるまでに外国語を話せるようになってほしいという子どもたちへの期待がますます大きくなっている。その実現には、比較的幼い時期に外国語に親しむことが必要である。子どもは何歳から外国語を学び始めるべきか、いつから可能か、あるいは何歳までに始めなければならないかについて、長い間多くの国で教育者や親、その他の人々によって熱く議論が闘わされてきた。

早期外国語学習に関する誤解や不安は大まかに分けると次のようなものになる。

1. 遊ぶ時間が少なくなり、子どもに余計な負担をかける。
2. 子どもが読み書きできるようになるまでは意味がない。
3. 子どもが母国語を十分に習得するまでは意味がない。
4. たくさんの言語を同時に学ぶ子どもは習熟が遅くなる。
5. 言葉のゲームや活動を毎日行う時間はないため、効率が悪く無駄でさえある。
6. 指導は目的が定まっておらず、暗記中心の学習はほんものの知識にならない。

本論文は、特に幼稚園と小学校における、早期の外国語習得及び学習に関するハンガリーの人々の考え方と経験について紹介する。

Keywords;
ハンガリー, バイリンガル, ユディット・ヒダシ, 外国語, 小学校, 幼児教育, 早期外国語教育
中文 English
いつ、何を、なぜ

子どもは何歳の時に外国語を学び始めるべきか、可能か、あるいは始めなければならいかという問題は、教育者や親たち、一般の人々によって熱い議論が交わされてきた。この問題は、一千万人という比較的少ない人口を持つ中央ヨーロッパの小国で、固有の言語が周りの国々の文化や言語に囲まれて一つの島国を形成しているような国であるハンガリーにとって、特に関わりの深いテーマである。2004年にハンガリーがEUに加盟した後、子どもは成人に達するまでに2か国語以上の外国語を話せるようになることがますます求められるようになった。その達成のためには、子どもがごく早い時期に外国語にふれあうことが不可欠であることは言うまでもない。

しかしながら、早期の外国語学習に対してハンガリー国民は少なからず誤解や不安を抱いている。

1. 「遊ぶ時間が少なくなり、子どもに余計な負担をかける」
全く逆である。子どもの生活で遊びを最優先にし、外国語学習をゲームとして実践すれば、外国語は子どもにとって身近なものとなり、効果も高まる。

2.「子どもが読み書きできるようになるまでは意味がない」
実際、言語学習は、4つの能力(聞く、話す、読む、書く)を基礎とし、「指導」によるものではなく、自然な習得であるならば、(その習得)順序は外国語も第一言語も同じである。すなわち、最初の二つの能力が先に習得され、あと二つの能力を学ぶ基礎となる。

3.「子どもが母国語を習得するまでは意味がない」
全く逆である。明るく楽しい雰囲気で外国語を学べば、母国語の発達の妨げになることはありえない。子どもの脳の学習能力は膨大であり、2つの大脳半球は汎用性に富むため、母国語と外国語が衝突することはないからである。

4. 「たくさんの言語を同時に学ぶ子どもは習熟が遅くなる」
実際問題なのは、一つの言語に習熟する早さと効率性は、同時に刺激を受ける言語の数ではなく個々の適性に依るということだ。習熟するまでにかかる時間と習熟の質の両面において、母国語のみで成長する人々の間にも大きな個人差が見られる。

5.「言葉のゲームや活動を毎日行う時間はないため、効率が悪く無駄でさえある」
正反対だ。あらゆる学習過程において、「活動」の長さはその頻度に比べるとはるかに重要度が低い。決定的な要因は規則性だ。より長い時間をかけてより少ない頻度で行うより、短くても頻繁な練習や学習を行うことによって、より良い結果が得られる。短期間の記憶に保存された情報はある程度の期間を経て「長期間の情報」に熟成するまで補強する必要がある。こうして時間をかけた情報が「知識」に変わるのである。

6.「指導は目的が定まっておらず、暗記中心の学習はほんものの知識にならない」
実のところ、子どもの柔軟な脳に保存された情報(発音、イディオム、言語のリズムと音調、イントネーション、構造上の決まり文句)は、もっと成長してからの意識的な言語学習のための確固とした基礎となる。


ハンガリーにおける早期言語学習の状況と水準

ハンガリーの教育政策は、いつ外国語教育を教室で始めるかの調整においてトップダウンによるアプローチをとっている。すなわち専門家は、子どもが外国語習得を始めるのに最適と見なされる年齢の上限は9歳(小学校4年生)であると決定した。子どもたちは、この年齢で最初の外国語の勉強を始めることが義務化されている。いわゆる「臨界年齢」のことであり、知的にも身体的にも、言語スキルを習得するために必要な能力はまだ活力を失っていない。言い換えると、子どもは新しい言語情報を非常に効率的に処理することができ、新たな言語を習得するために必要な柔軟性も同時に保っている

ハンガリーの専門家たちの意見では、私的、個人的方法にせよ、あるいは組織的に制度化された形式にせよ、外国語の能力を伸ばすことはできるだけ早く始めてよい、あるいは始めるべきだとされている。後者の顕著な例が幼稚園である。独立系の幼稚園がハンガリー全土で3450校あり、より規模の大きい教育機関に付属する幼稚園が4759校ある。就学前教育に従事する教師一人当たりの子どもの数の全国平均は10.6人、幼稚園一校の園児数の平均は22.3人となっている。就学前(幼稚園)教育は公教育の一部である。入園率は高く、3~6歳の子どもの92%が何らかの教育機関に通っている。2005年には就学前教育の教師の数は30704人だった。

就学前の外国語教育の問題は、教授法の専門家の関心を長い間ひきつけてきた。就学前の年齢にある子どもの外国語の能力を伸ばすためには、指導がセッションや授業、特定のイベントに限られているのではなく、毎日の子どもの活動と結びついて、一日継続して行われる必要がある。つまり、第一言語の習得の状況に似た方法がとられなければならない。上記のような学習環境があって初めて、子どもの実際の知識に基づき、また個々の能力に合った進め方で、成績ではなく技能や学習に対する積極的な姿勢に焦点を当てた言語習得が保証される

2003年以来、文部省は外国語教育を発展させることに力を注いできた(Nikolov 2007)。Vilag-Nyelv (世界言語プログラム1)の枠組みで、外国語指導の方法論を活性化させることや教師の経験を交換し合うことを目的とする数多くのプロジェクトが実現されてきた(会議、助成金、出版、カリキュラムの推奨、研究授業等)。早期外国語教育を支援し広めるために、2009年、世界言語プログラムにより、該当年齢の子どもたちのためにデザインされた活動マニュアル「就学前の子どもの外国語能力を伸ばす優れた実践」が作成された。その発行の目的は、子どもたちが外国語習得に長期にわたって積極的に取り組む姿勢を持つための確固とした基礎となるプログラムやメソッド、プロセスを提示することである。就学前の外国語教育には、「一言語につき一人の教師」の理論に従い、通常2人の教師が関わる。従って、子どもは自然な環境で外国語を習得することができる。しかし、こうしたプログラムの成功は、しばしば上記マニュアルの題名にもなっている4つの条件が同時に満たされて初めて保証される。

- 指導の量と頻度
- 教師の能力
- プログラムの持続性
- 好ましい家庭環境

親の側のサポートや励ましは- 忍耐と同様 - 子どもの言語スキルを伸ばすために大いにプラスとなる。しかし、言語プログラムの成功のカギは教師及び教授法の選択にある。就学前の年齢の子どもを教える教師は、豊富で充実した素材を提供し、日々の活動の中で自然な外国語環境を作れるだけの格別に高い語学力を有していなければならない。子どもの概念的思考はこの段階ではまだ十分発達していないため、生後数年間で母語を習得するのと全く同じように、継続的にかつたくさん外国語を使うことで言語を習得していく。就学前の外国語教育の第一の目的は、言語学習への積極的な姿勢を身につけることとコミュニケーション能力の育成である。


学校における外国語教育

ハンガリーでは、小学校4年生(ほとんどの子どもが9歳頃)から外国語を学ぶことが義務化され、週に2、3時間の実施が始まった。最初の外国語は必ずしも英語とは限らず、各々の学校で指導体制が最も整っている言語で、あらゆる言語の可能性がある。しかし、外国語を学ぶこのような伝統的な機会に加え、より高額ではあるもののより集中的で効率の良い、もう一つの方法がある。バイリンガルスクールだ。

1987~1988年度に、統一されたカリキュラムに従って一部の中等教育学校2)で2カ国語による教育が開始され、その後職業学校や小学校でも始まった。バイリンガルの初等教育学校では中等教育でのプログラムの実績をうまく活用した。2008年には、全国で136の中等教育学校と初等教育学校約90校がバイリンガル教育を行っている(Vamos 2008)。第二言語の種類は極めて多い。英語、ドイツ語、ロシア語の他、フランス語やイタリア語、スペイン語、中国語で授業を行う学校もある。また、ハンガリー国内に住む少数民族(ロマ人、ドイツ人、ルーマニア人、セルビア人、スロバキア人)にその民族の言語でも授業をする、いわゆる「エスニックバイリンガル」学校も多い

バイリンガル学校創設の背景
- 第一に、前述の通り、社会の中で外国語を学ぶ要請が高まった。
- 少数民族に「エスニック言語」教育を行なう必要性は無視できない。
- ハンガリー語で教える学校に入る外国人(移民)の生徒によって新たな動機が加わった。
- ハンガリーには国際的な経営基盤を持つ教育機関が多数ある

バイリンガルスクールの実践的な側面を見てみたい。目標言語の集中的な指導が行われ、目標言語の十分な能力が身に付くと、その言語を用いて様々な教科を教える。

ここ数年ずっと、文部省は3~6歳、6~10歳、10~14歳の各年齢層を対象にした非常に幅広い広報活動を通し、ハンガリーの公教育機関における英語及びドイツ語による教育の優れた実践の紹介に取り組み、専門家の成長や対話を促してきた。


課題と問題

社会には、早期外国語教育による成果を肯定的に受け止める声も多いが、早期外国語教育の実践が一般的となり普及していると言うのは大げさだろう。最も大きな課題は十分に訓練を受けた専門家が不足していることにある。すなわち、高度な訓練を受けかつ非常に熟練した外国語教師が、必ずしも年少の子どもたちを教える仕事に就くとは限らない。逆も然りで、プリスクールや保育園の先生が、子どもたちに外国語を身につけさせられるだけの卓越したレベルの語学力を獲得するまで外国語を学ぶことができるとは限らない。

上記に関連して、教師の訓練の問題がある。外国語の教師を訓練する伝統的なシステムは、年少の子どもたちを対象とする言語教育の方法論や特有の問題には関心を払ってこなかった。この問題に対処する大学の特別なプログラムが開発される必要がある。これから数年間の課題となる。

外国語教育を公教育で最も幼い子どもたち向けに導入することに関連して生じる費用も無視できない。私立のプリスクールや幼稚園は通常費用を授業料に組み込んで資金を捻出しているが、地方公共団体が運営する公立のプリスクールや幼稚園は特別な予算を使えるわけではない。

課題は山積みだ。しかし、社会政策および教育政策のいずれも近い将来こうした問題の最善の解決法を見つけようというはっきりした意向を示していることからも、状況は間違いなく良くなっている。この問題へのEUのサポートもある程度まで確保されている。「複数言語を使用する欧州市民」になる道程の最初のステップは幼児期に踏み出さなければならないからである。

(訳注)
1) Vilag-Nyelv (「世界言語」(World Language))は、言語能力やスキルを向上させるために2003年に文部省によって創設された国家的なプログラムである。
2) ハンガリーでは初等教育が8年、中等教育が4年である。


参考文献
Nikolov, Mariann (2007): Magyarorszagi nyelvoktatas-fejlesztesi politika - nyelvoktatasunk a nemzetkozi trendek tukreben (Language Education Development Policy in Hungary - Hungarian language education as viewed against international trends). In: Fokuszban a nyelvtanulas. OFI, Budapest, 46-69.
Vamos, Agnes (2008): A ketnyelvu oktatas tannyelv-politikai problematortenete es jelenkora (Issues of language use in education in a historical and current perspective of bilingual education). Nemzeti Tankonyvkiado, Budapest.

筆者プロフィール

ユディット・ヒダシ Judit HIDASHI (ブダペスト商科大学国際経営学部 教授(学部長))

2001~2006年、神田外語大学国際コミュニケーション学科の教授を務める。
2006年4月より、ブダペスト商科大学国際経営学部学部長。
専門分野はコミュニケーション、応用言語学、異文化研究。
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