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基調講演④:ECCEおよび子育て政策―インドネシアの視点と現在の政策(CRNアジア子ども学研究ネットワーク第3回国際会議講演録)

ハリス・イスカンダル(インドネシア教育文化省 幼児教育・地域教育総局長)

2020年11月 6日掲載
English

本稿は、2019年9月25~27日、インドネシア・ジャカルタで開催されたCRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第3回国際会議にて行われた講演録です。

※肩書は当時のものです

インドネシアにおけるECCE、子育て
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本日はインドネシアにおける幼児教育・保育(ECCE)*編集部注、そして子育て政策についてお話します。

人工知能(AI)には自然知能に勝るものがいくつかあります。ヒト型ソーシャルロボットのソフィア、質疑応答システムのワトソン、チェス専用のスーパー・コンピューターであるディープブルーなどです。今日このような技術の進歩が私たちに影響を与えています。

トーマス・フリードマンの著書 "Thank You for Being Late: An Optimist's Guide to Thriving in the Age of Accelerations(邦題『遅刻してくれてありがとう―常識が通じない時代の生き方』)"は、1958年に一つの基盤に回路が集積されているICチップが開発されて以来、技術がいかに急激に加速したかを説明しています。ムーアの法則は50年後の今もなお、人々の生活において有効であり、重要視されています。ITの時代である今、次には何が待っているのでしょうか? 悪名高きスマートフォンは財布よりも大切です。財布を忘れたとしても、スマートフォンを使って誰かに財布を寄こしてもらうことができます。しかしスマートフォンを忘れたら家に戻らなければなりません。私にも覚えがあります。私たちは、常に遅れずについていかなくてはならない時代にいます。人間を後押ししているのは3つのMです。1つ目は機械(Machine)、コミュニケーションと技術の発展。2つ目は、市場(Market)、グローバリゼーションと自由貿易。3つ目は母なる自然(Mother nature)、予測しなくてはならない人口動態です。

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図1 Acceleration of Technology(技術の加速)

次世代に必要とされるスキル

世界経済フォーラムによると、今日の世界市場で戦うためには21世紀型スキルが緊要だといいます。これが2つ目のMの鍵となります。教育システムでは批判的思考と問題解決(Critical thinking and problem solving)、創造性と改革(Creativity and innovation)、コミュニケーション(Communication)とコラボレーション(Collaboration)の4つのCに焦点をあてることが議題となっています。がんばる力、情熱、忍耐力といった性質が不可欠です。適応力とリーダーシップも重要であり、異文化認識については言うまでもありません。これが2つ目のMの課題です。母なる自然においては、インドネシアでは生産年齢人口が非生産年齢人口よりも多いことが人口統計学上の問題となっています。つまり雇用に問題があるということです。教育者にとっての課題は、きたるべき将来に備えてよりよい教育とスキルを次世代に提供することです。

ウィドド大統領はスピーチの中でこう答えています:

  1. 妊婦、新生児、幼児、児童の健康を確保する
  2. 黄金期(幼児期)を良好な状態に維持し、インドネシアの人々自身を向上させる
  3. 発育阻害を止める。インドネシア人の3人に1人がいまだに影響を受けている
  4. 新生児と母親の死亡率を減少させる
  5. 職業教育の質を改善する
  6. インドネシア人材管理施設を構築し、インドネシア・ディアスポラ(海外在住インドネシア人)の自己啓発をサポートする

世界市場、人口増加、技術の発展に対応する

黄金期(幼児期)はとても大切です。幼少教育への投資が最良の結果を生み出すと、どの報告書も再認しています。そのために17の持続可能な開発目標(SDG's)があります。そのうちの一つは、幼児期に焦点を当てたものです。これから10年間、つまり2030年までに、すべての男児女児が初等教育に備えるため、良質な保育と就学前教育にアクセスできることを目標としています。この目標は、インドネシアの子どもたちのウェル・ビーイングとして大統領規定2017年第59号、項目5/3にも繰り返し書かれています。

政府規則2018年第2号もまた、国におけるさまざまな州機関に幼児教育とそれに同等するプログラムを最低限の事業の一部として提供することを義務付けています。この規則は、省や教育機関レベルでの政策の策定にとって重要な基礎となります。現在、インドネシアの幼児教育プログラムは主に5~6歳児に焦点を当てています。将来的にはタイのように4~6歳児で始まる初等教育の2~3年前に焦点を当てたいと考えています。フランスでは3歳児の幼児教育の義務化が始まりました。また、この規則には、就学年齢であるものの学校に在籍していない7~18歳が学校に戻る、または地域の学習センターに戻ることができる同等の教育プログラムがあります。

幼児教育政策が幼児教育規則のキャンペーンを進めることで、これまでに2万か所のセンターが立ち上がりました。しかし、このうちの98%は地域の自助センターで、質に劣り、基準もありません。政府はこういったセンターを特定して基準を設定し、支援と規則を取り入れることで、国の教育データベースシステムへの登録を奨励しています。システムの中では、すべての機関、教員、生徒児童に番号が振り当てられます。政府からの支援を得るために登録をし、学期ごとに更新することが推奨されています。

登録すると、認証評価を受けるために国の学習基準に達することが促されます。我々は、すべてのセンターが登録を行い、補助金を受け取り、支援や認証評価が受けられることを願っています。そうすれば、少なくともすべてのセンターがより良質な保育と幼児教育を提供しようと努力していることを国民に保証できます。

幼児教育プログラムでは、子どもたちが教育だけでなく、栄養、健康、保護も得ることのできる包括的で統合的なアプローチをすすめています。そこには、包括的な概念として子どものウェル・ビーイングの側面すべてがあるべきです。幼い年齢での学習的な要素は奨励されるべきではなく、遊びを基にしたアプローチへと変えるべきです。

今日、一つの村に一つのECCEセンターを築く運動は72.4%成功しています。時とともに村の数も増加するため、この数字は変わっていくでしょう。しかし、村に築かれたECCEセンターのうち、認証評価を受けているのは100%にはとても及ばず、2018年時点で登録は25.35%にとどまっています。問題の一つとして、教員の必須条件が大学卒であるにもかかわらず、その多くが高等学校卒であることがあげられます。大学と協力してこの問題を改善したいと考えています。

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図2 ECCE認定評価

政策にある第二の戦略である育児は、家庭教育局が管理を始めて5年目になります。子どもにとっては両親が第一の教師であるものの、その両親こそがもっとも準備ができていないと考えます。教員は4年間学習し、さらに正式に教員になる前に1年間教育養成(PPG)を受けますが、結婚して子どもが授かれば自動的に親となり、それには1年とかからない場合もあります。人を実際に形作るのは親です。そのため、私たちの国には育児スキル、理念、科学に関して次世代を支援する家庭教育局があります。学校、保護者、地域間の相互作用と、育児プログラムへの支援が、保護者と子ども双方のウェル・ビーイングとメンタルヘルスにポジティブな影響を及ぼします。90年以上前、インドネシアの初代教育文化大臣キ・ハジャル・デワントロがすでにこのことについて述べています。子どもにとって大切な3つの社会的な場は、家族、学校そして地域です。この概念は教育の3つの柱として広く知られています。教えを効果的にするためには、親の言うことや地域に存在するものに支えられていなくてはなりません。たとえば、教師が「喫煙は死に至る可能性があります。喫煙はやめなさい」と言ったとします。しかし親が煙草を吸い、地域には喫煙を広告する掲示板があるならどうでしょう。子どもは教師に耳を傾けるでしょうか? 親と地域との相乗作用がなければ、教育的メッセージには全く効果がありません。

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図3 学校での子どもに対して保護者が不安に思うこと(CRN編集部訳)
© Varkey Foundation, 2018. Global Parents Survey : Indonesia Findings 2018.

2017年から2018年にバーキー財団(Varkey Foundation)によって行われたこの世界の保護者調査が、育児プログラムを促進する後押しとなりました。上の結果は、学校での子どもについてもっとも不安に思っている点を訊ねられたときに保護者が選んだ上位7つの項目です。これは、学校で子どもが直面する問題について保護者が気づいた2点を示しています。勉強のプレッシャーが大きすぎると答えたのが35%、いじめを含む精神面のウェル・ビーイングと答えたのが29%でした。

育児政策として、出産前教育(人生最初の1000日)と、幼児教育への親の参加が促されています。親の役割を強化し、フォーマル教育またはインフォーマル教育の場に参加してもらい、発育阻害を止め、人身売買に反対する国家的プログラムを支援し、家庭の性質を形成することもまた、私たちの家庭教育プログラムの中で促進されています。

インドネシアにはバンドン市レンバンに幼児教育・保育および育児センター(SEAMEO CECCEP)があります。3つのビジョンとして、幼児教育と発達、能力開発(子ども、親、教員)、ネットワーク形成があります。CRNAが共同プログラムを行ったり、研究をしたり、研究者を送り込めば効果的です。どれも歓迎します。

地方政府運動にも、多くの構想があります。南カリマンタン州のタナ・ラウトでは午後6時から9時まで電話もテレビも通じません。その時間は家族団らんの時間であり、一緒に遊び、学び、挨拶を交わし、笑い合い、そして親が学校と関わる時間だからです。他にも、ジョグジャカルタには読書の時間があります。

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南カリマンタン州のタナ・ラウト 子育て村

家庭教育局はSahabat Keluargaというウェブサイトを立ち上げましたが、これは保護者の間で話題になり広められるようにデザインされたものです。幼児期、小学校、中学校、高校とすべての教育段階の子どもと保護者とを支援するリソースはあまり多くありませんが、このウェブサイトにはすべてがそろっています。たとえば、よい親になるにはどうすればよいか、そして親子で一緒に学ぶ方法などです。投稿することもでき、運営の担当チームによって投稿が選ばれれば、サイトに掲載されます。

ウェブサイトではまた、子どものメディアの使用法についても、以下のように保護者にガイドラインを紹介しています:

「安全にインターネットを利用するために」

  1. デジタルメディアの使用時間を制限します。インドネシアではスクリーンタイムは平均3時間です。1時間以内が望ましいとされています。
  2. 社会的行動を促すようなアプリケーションやプログラムを選びます。屋外で体を動かしたり、社交的なアクティビティを増やしたりします。
  3. 親の役割の代わりとしてのメディアの使用を避けます。
  4. デジタルテクノロジー使用について子どもと約束事を決め、ルールを破ったときはどうするかについても話し合います。
  5. オンラインで得た情報について子どもに批判的視点をもつよう促し、考えを書き出してもらいます。
  6. 暴力やわいせつ情報、過激主義、容認できない行動を助長する内容を避けます。
  7. 子どもが興味のあることや可能性を探索するように促します。私たちのセンターでは、初等教育の子どもたちにもプログラミングを教えています。ゲームで遊ぶのではなく、自分でオリジナルのゲームを創るのです。
  8. ソーシャルメディア上での振る舞いやプライバシーを守ることを子どもたちに理解してもらいます。
(保護者教育シリーズ:「安全なインターネット」についてはhttps://bit.ly/20dVxJvをご覧ください)

子どもは真似をするのに長けているため、見たとおりに行動するということを保護者のみなさんに伝えたいです。子どもにスマートフォンやその他デジタル機器の使用を制限したいのであれば、まずは親自身が使用を制御すべきです。ウェブサイトに紹介されている保護者と子ども向けのヒントを参考にしてください。幼児教育者向けのコンテンツとして、歌、ビデオ、ゲームやお話もRuang Guru PAUDに用意しています。すべて無料です。

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https://sahabatkeluarga.kemdikbud.go.id/laman/          http://anggunpaud.kemdikbud.go.id/

幼児教育と育児についての便利なリンク

まとめ

  1. 幼児教育・保育期は成人した際の基礎を築く重要な段階です。SDG'sは2030年までにすべての女児男児が良質の幼児教育を受けることを保証します。
  2. インドネシア政府は子どもの人格すべての側面の発達を重視することで、子どもの全体的な成長と発達を手助けすることを目標とします。
  3. デジタル時代の育児は困難です。インターネットとテクノロジーは、適切に使用しなければ発達に負の影響を及ぼすことになりかねません。
  4. そのため、幼児教育・保育実践者と子育て実践者、親、養成者、研究者と政策立案者とが緊密に連携を取り合うことがこれまでよりも緊急とされています。

質疑応答

Q1:家族のレジリエンスに関心があるため、育児だけでなく親になる以前について提案があります。私の経験から言って、親になるために、私の家族は大変な苦労をしました。経済的にも、また仕事の面でもです。家族のレジリエンスは低いです。
中学生、高校生そして大学生のうちから親になる準備をするという構想はありますか?

A1:難しいですが、確かにそのような課題がありますね。現在あるのは婚前プログラムです。イスラムには結婚への提案や地域のアドバイスがあります。クリスチャンやカトリックでは結婚前のカップルに独自のプログラムをもうけています。ここでは7つの省が育児に関わっています。教育省、保健省、社会省、宗教省、国家家族計画調整委員会BKKBN(家族行政庁)、住居と子ども省、国家開発企画庁Bappenas、IPMK(Ikatan Pelajar dan Mahasiswa Kuningan)です。これらの省や機関には育児を異なった角度から捉えた計画があります。こういった省が提供しているプログラムを通じて、インドネシアの親を教育、指導することができ、素晴らしい存在にしていきます!
結婚前にトレーニングセッションを提供するのは、宗教省で考えられています。近い将来、結婚する前にこの証明書を取得しないといけなくなるかもしれません。

Q2:私はマレーシアで小児科と公衆衛生に関わっています。
興味深いプレゼンテーションをありがとうございます。Sahabat Keluargaのようなリソースがたくさんありました。もしかすると、同じ宗教と似通った文化をともにするインドネシアとマレーシアが育児と社会的な家族に関わる教育のリソースを一緒に開発しシェアする時が来たのかもしれません。
マレーシアとインドネシアの多くの大学でこのような問題についてのオンラインリソースを若い人たちに開発してもらうことができます。多くのオンライン資料は西洋からきていますので、マレーシアとインドネシアが競い合ってこれらの資料を作成できるかもしれません。

A2:Sahabat Keluargaは公共のウェブサイトです。CECCEPはインドネシアの設定ですが、調整が可能なため、他の国でも同じものが作れます。
地元の知恵というものについてお話しさせてください。インドネシアにはたくさんの民族が存在し、それぞれに育児、民族の子育てに関する知恵があります。そして今、多くの国で自分たちの世代よりも次世代をよいものにするために、さまざまな国から21世紀型スキルとして批判的思考やコラボレーションを受け入れています。


参照


*編集部注:ECCE(Early Childhood Care, Education)の訳は保育・幼児教育となりますが、文科省の表記に合わせて記事内では「幼児教育・保育」に統一しています。

筆者プロフィール
Harris_Iskandar.jpg ハリス・イスカンダル
ハリス・イスカンダル工学博士(Ir)は2016年よりインドネシアの教育文化省、幼児教育・地域教育総局長教育を務める。1962年4月19日生まれ、バンドン出身。1984年、ボゴール農科大学卒。1990年ニューヨーク、シラキュース大学環境サスティナビリティ政策専攻卒。2009年から2012年まで高等教育事務長、2012年から2015年まで後期(上級)中等教育長を務めた。また、2012年から2016年までスマラン州立大学監査委員長、同期間にディポネゴロ大学監査委員会委員長を務める。2012年から2018年まで東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)地域センター、教職員の資質向上(QITEP)、言語(SEAQIL)委員を務めた。

※肩書は発表当時のものです

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