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子どものアレルギー疾患の発症予防(2) ~食物アレルギー発症予防には皮膚バリアが重要~

要旨:

小児の食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎があると発症しやすいことがわかっています。アトピー性皮膚炎では皮膚本来の皮膚バリア機能が障害されるために、環境中の食物などが皮膚に侵入して免疫細胞に認識され、IgE抗体が産生(経皮感作)されてしまいます。これが食物アレルギーを起こします。食物アレルギーのもとになるアトピー性皮膚炎の発症予防には、新生児期からのスキンケア(保湿剤塗布)の効果が部分的に認められています。さらに、発症したアトピー性皮膚炎の早期治療による食物アレルギー発症予防が期待されています。

Keywords:
食物アレルギー, アトピー性皮膚炎, 皮膚バリア機能, 経皮感作, 発症予防, スキンケア
English

食物アレルギーが食物を除去しても予防できないとすれば、どのようにして食物アレルギーになるのでしょうか? 乳児の食物アレルギーの発症には、湿疹やアトピー性皮膚炎が深く関係していることが最近の研究で明らかになってきました。乳児では、アトピー性皮膚炎は食物アレルギーよりも先に発症します。英国の生後3か月の完全母乳栄養児619人を対象にした調査では、アトピー性皮膚炎があると食物抗原(鶏卵、牛乳、ピーナッツ)への感作率が高く、湿疹が重症になるほどより高くなることが明らかになりました。また国立成育医療研究センターで我々が行った「出生コホート研究」(生まれた赤ちゃんを追跡調査する研究)においても、生後12か月までに湿疹があると3歳時の食物アレルギー発症が多くなることがわかりました 1。さらに興味深いことに湿疹の発症時期を詳しく調べると、生後1-2か月に湿疹を発症すると食物アレルギーを発症するリスクが最も高いことがわかりました。つまり乳児期早期にアトピー性皮膚炎を発症し、それが重症であるほど食物アレルギーを発症しやすいことが、疫学研究の結果から明らかになったのです。なぜアトピー性皮膚炎があると食物アレルギーを発症しやすくなるのでしょうか?それには皮膚が本来持つ機能が関与しています。

皮膚には体の内外を区別するバリア機能があります。体外の刺激物質から体を守り、体の中の成分(水分や体液)が外に逃げないような構造をもっています。さらに皮膚の免疫細胞には、傷口などから侵入してくる異物(細菌やウイルスなどの敵)を認識して排除する機能があります。アトピー性皮膚炎の湿疹部位では、皮膚バリア機能が低下するために環境中の抗原(アレルギーの原因となるタンパク質)が皮膚の中に侵入し、皮膚の下にある免疫細胞に「敵」と認識されるとIgE抗体が産生(経皮感作)されてしまうのです。いったんIgE抗体が産生されると再び抗原が体内に入ったときに素早く結合して抗原を排除する反応を起こします。これがアレルギー症状です。環境中に存在する抗原には、食物、ダニ、ペットのふけ・毛、カビ、花粉などがあります。湿疹のある皮膚からの食物抗原の感作(経皮感作)を最初に提唱したのは英国のLackです。彼らはピーナッツアレルギーを発症した子どもの調査で、ピーナッツアレルギーの発症は生後6か月までに湿疹があった子どもに多く、しかもピーナッツオイルを含むスキンケア用品を使用していた子どもで有意に多いことを明らかにしました 2。また別の調査では、家庭内のホコリ中のピーナッツタンパクの量が、子どものピーナッツへの感作率と関係があることを報告しました。家庭の環境中には家族の食事内容を反映して様々な食物成分が含まれています。日本で行われた3歳児94人を対象にした調査でも、家庭訪問して子どもの寝具からホコリを回収したところ、すべてのホコリ中に鶏卵の成分が認められ、ダニのタンパク量よりも鶏卵のタンパク量が多く検出されました 3。環境中に含まれる食物抗原は、家庭での食事内容、調理方法だけでなく食物タンパク質の性質などにより異なります。食物アレルギーの原因食物が国や地域ごとに違うのは、食文化の違いを反映しているのでしょう。

では乳児期の食物アレルギーのもとになるアトピー性皮膚炎はどうして起こるのでしょうか? 原因の一つとして皮膚バリア機能に重要な役割を果たすフィラグリンというタンパク質の遺伝子異常があると、天然保湿成分が不足し、アトピー性皮膚炎の発症リスクが高まることが明らかにされました 4。またフィラグリンに異常がなくてもアトピー性皮膚炎を発症する子どもでは生後2日の時点ですでに何らかの原因により皮膚バリア機能が低下していることが多いことがわかりました。生まれつきの皮膚バリアの弱さがその後のアトピー性皮膚炎の発症に関与しているならば、生後早期から皮膚バリア補強をすればアトピー性皮膚炎の発症は予防できるのではないか? そう考えて、我々は新生児期から保湿剤を塗布することによりアトピー性皮膚炎の発症を予防できるかどうかをエビデンスレベルの高いランダム化比較試験(RCT)で検証しました 5。国立成育医療研究センターで出生したアトピー性皮膚炎の家族歴があるハイリスク新生児118例を、入浴後に毎日保湿剤を全身塗布する介入群と、乾燥部位にのみ必要に応じてワセリンを塗布する対照群に生後1週間以内にランダムに割り付けて、生後32週までの湿疹の累積発症率を比較しました。その結果、かゆみを伴う湿疹が2週間以上続き皮膚科専門医によりアトピー性皮膚炎と診断された乳児は、対照群47.5%と比較して介入群32.2%で約3割有意に減少していました。新生児期からの保湿剤塗布がアトピー性皮膚炎の発症を抑制することがわかりました。英米のグループが実施したハイリスク新生児124例を対象にしたRCTでも、生後3週間以内に全身への保湿剤塗布を開始した群では、保湿剤を塗布しなかった群と比べて、生後6か月までのアトピー性皮膚炎の累積発症率が有意に低下したと報告されています(相対危険度0.5, 95%信頼区間0.28-0.90) 6。しかし我々の研究では、新生児期から保湿剤を塗布した介入群でも、卵白に対する感作の予防効果までは認められませんでした。

一方でアトピー性皮膚炎を発症した場合には、発症から治療開始までの期間が長いと、食物アレルギーになる患者が多かったことが観察研究で報告されています。湿疹がある期間が長いと経皮感作される機会が増えることが原因だと考えられます。アトピー性皮膚炎を乳児期早期にしっかりと治療すると食物アレルギーの発症が予防できるのか、という仮説を検証するためのRCTが、現在日本で多施設研究として行われています(PETIT研究) 7。食物アレルギーの発症予防のための新たな方策が、日本から発信されることを期待しています。今後の情報にもご注目ください。

 

引用文献

  • 1.Shoda T, Futamura M, Yang L, Yamamoto-Hanada K, Narita M, Saito H, et al. Timing of eczema onset and risk of food allergy at 3 years of age: A hospital-based prospective birth cohort study. Journal of Dermatological Science 2016;84:144-8.
  • 2.Lack G, Fox D, Northstone K, Golding J, Avon Longitudinal Study of P, Children Study T. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med 2003;348:977-85.
  • 3.Kitazawa H, Yamamoto-Hanada K, Saito-Abe M, Ayabe T, Mezawa H, Ishitsuka K, et al. Egg antigen was more abundant than mite antigen in children's bedding: Findings of the pilot study of the Japan Environment and Children's Study (JECS). Allergology International 2019;68:391-3.
  • 4.Palmer CN, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, Zhao Y, Liao H, Lee SP, et al. Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nature genetics 2006;38:441-6.
  • 5.Horimukai K, Morita K, Narita M, Kondo M, Kitazawa H, Nozaki M, et al. Application of moisturizer to neonates prevents development of atopic dermatitis. J Allergy Clin Immunol 2014;134:824-30 e6.
  • 6. Simpson EL, Chalmers JR, Hanifin JM, Thomas KS, Cork MJ, McLean WH, et al. Emollient enhancement of the skin barrier from birth offers effective atopic dermatitis prevention. J Allergy Clin Immunol 2014;134:818-23.
  • 7.Yamamoto-Hanada K, Kobayashi T, Williams HC, Mikami M, Saito-Abe M, Morita K, et al. Early aggressive intervention for infantile atopic dermatitis to prevent development of food allergy: a multicenter, investigator-blinded, randomized, parallel group controlled trial (PACI Study)-protocol for a randomized controlled trial. Clin Transl Allergy 2018;8:47.
筆者プロフィール
成田 雅美
東京都立小児総合医療センター アレルギー科医長。
医学博士。小児科医。東京大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院(小児科)、国立成育医療研究センター(アレルギー科)などを経て現職。専門は小児アレルギー学。小児アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息)患者や家族のアドヒアランス向上、QOL改善にも配慮した診療を心がけている。そのために医師、看護師、薬剤師、栄養士、心理士などの医療関係者だけでなく、保育園、幼稚園、学校の職員、保健師など子どもを取り巻く多職種が協力する体制の整備にも関心がある。一方でアレルギー疾患発症予防に関する研究にも従事してきた。
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