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子どものアレルギー疾患の発症予防(1) ~食物除去をしても食物アレルギー発症予防効果はない~

要旨:

食物アレルギーは、特定の食物摂取により、じんましんやアナフィラキシーなどのアレルギー症状をきたす疾患です。妊娠中や授乳中の母親が食物除去をしても、子どものアレルギー発症予防効果はありません。それどころかアトピー性皮膚炎のある乳児が鶏卵の摂取を遅らせると、鶏卵アレルギー発症が高くなることが明らかになりました。除去せずに経口摂取することにより腸管で耐性誘導されると考えられます。

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English

食物アレルギーは特定の食物の摂取または接触により過剰な免疫反応が起こり、皮膚の赤み・かゆみ・腫れ、じんましん、咳・ぜいぜい、嘔吐・腹痛・下痢、活気低下など様々なアレルギー症状が現れる疾患です。食物摂取直後から2時間以内の即時型反応が中心で、症状が複数の臓器にわたる場合や、意識障害・血圧低下など重篤な症状を伴う場合をアナフィラキシーとよびます。低年齢の子どもに多く0歳~1歳児の5~10%に発症しますが、原因食物の摂取を避けていると数年後には自然に治ることがほとんどです。しかし最近のアレルギー疾患の調査では、ぜん息やアトピー性皮膚炎の有病率が減少傾向にあるのに対して、食物アレルギーやその重症型であるアナフィラキシーをもつ子どもが増加していることが明らかになりました。原因食物として頻度が高いのは鶏卵、牛乳、小麦です。0歳児では鶏卵が過半数を占め、牛乳、小麦の合計で9割近くになります。1歳以降ではそれ以外に魚や魚卵(多くはいくら)、ピーナッツ、甲殻類、果物などを食べる機会が増えるに伴い、これらの食物へのアレルギーも新たに認められるようになります。

食物アレルギーは乳児湿疹やアトピー性皮膚炎とよく合併します。食物アレルギーが注目され始めた30年前ごろには、湿疹のある5、6か月の乳児はしばしば鶏卵や牛乳、ピーナッツに感作されている(血液中の特異的IgE抗体陽性または皮膚テスト陽性になる)ことから、食物が原因でアトピー性皮膚炎が発症すると考えられていました(現在はこれと全く逆であることがわかっています)。そして離乳食開始前でまだ鶏卵を全く摂取していない乳児に鶏卵のアレルギー反応がみられるのは、母親が食べた鶏卵が原因だとみなされていました。そのため小児科医は確たるエビデンスもないままに、妊娠中や授乳中の母親が鶏卵を食べなければ赤ちゃんの食物アレルギーやアトピー性皮膚炎が予防できると考えて、母親の食物除去を推奨したのです。ところが後に多くのレベルの高い研究が行われると、妊娠中、授乳中の母親が特定の食物を制限しても子どものアレルギー発症予防効果がないことが明らかになりました 1。むしろ母親への厳密な食物制限は母子の栄養に悪影響を与える懸念があり、最新の国内外のガイドラインでも、妊娠中や授乳中の母親は自身が食物アレルギーでない限り、特定の食物除去をしないように推奨しています。

それでは食物アレルギー予防のために、湿疹がある乳児が離乳食で鶏卵やピーナッツを除去する、という対策はどうでしょうか。実は湿疹のひどい生後4、5か月の乳児に「念のため1歳まで鶏卵を与えないでください」というようなアドバイスは、日本でも一般的に行われていました。ところがこのような「念のための食物除去」は、子どもの食物アレルギー発症予防効果がないどころか、逆にアレルギー発症を増やしてしまう可能性があることが最近明らかになってきました。2000年ごろの英国ではピーナッツアレルギーの発症を心配して乳児にピーナッツをほとんど食べさせなくなっていましたが、英国の子どものピーナッツアレルギーは減るどころか、その有病率は、乳児にもピーナッツバター入りのお菓子を食べさせるイスラエルの子どもの有病率よりも10倍も高くなっていました 2。そこでピーナッツを除去することがアレルギー発症予防に本当に効果があるかどうかを正確に調べるために、英国のLackらはエビデンスレベルの高いランダム化比較試験(LEAP study)を行いました 3。この研究ではピーナッツアレルギーを発症しやすい乳児、すなわちすでに鶏卵アレルギーを発症しているかまたは重症のアトピー性皮膚炎を有する生後4か月以上11か月未満の640人を、ランダムにピーナッツ摂取群と除去群に割り付けて5歳時でのピーナッツアレルギーの有病率を調べました。ピーナッツ摂取群では1週間当たりピーナッツタンパク6g(ピーナッツバター24g相当またはピーナッツバター入りのお菓子)を3回以上に分割して摂取するように指示しました。解析できた628例のうちピーナッツアレルギーと診断されたのは、除去群17.2%と比べてピーナッツ摂取群では3.2%と有意に少なくなっていました。つまり乳児期からピーナッツを摂取していたほうがピーナッツアレルギーになりにくいということが証明されたのです。

それでは日本で多い鶏卵アレルギーではどうでしょうか? 鶏卵アレルギーについて日本で我々が行った研究(PETIT study)では、生後4、5か月でアトピー性皮膚炎と診断されたハイリスク乳児を、生後6か月から鶏卵摂取群と除去群にランダムに割り付けて、生後12か月での鶏卵アレルギーの発症を調べました 4。鶏卵摂取群では生後6か月から9か月までは加熱全卵粉末50㎎(ゆで全卵0.2g相当)、生後9か月から12か月までは加熱全卵粉末250㎎(ゆで全卵1.1g相当)を段階的に増量して摂取してもらいました。解析できた121人の生後12か月での鶏卵アレルギー発症率は、除去群(61人)で37.7%だったのに対して、摂取群(60人)では8.3%と有意に少なくなっていました。PETIT studyの結果から、ピーナッツだけでなく鶏卵においても、乳児期から摂取することによりその後の食物アレルギーを予防できることが明らかになったのです。

特定の食物を摂取することによりアレルギーが起こるのではなく、むしろアレルギーが起こりにくくなるのは、経口摂取すると腸管で耐性誘導されるためと考えられています。そもそもヒトは食物中のタンパク質を吸収して自らの栄養源としなければなりません。そのため腸管の免疫細胞は他の組織と比べて異種タンパク質に寛容で、アレルギー反応が起こりにくくなっています。少しずつ食物を摂取することにより、腸管免疫を適度に刺激して耐性を誘導する(アレルギーを抑制する)ことができるのです。乳児の食物アレルギー発症予防のためには、母親や乳児の食物を制限するのではなく、生後5、6か月から離乳食を開始し、たんぱく質の摂取も遅らせないことが重要です。 食べたものにアレルギー反応を起こしにくいのだとすると、なぜ食物アレルギーになってしまうのか? その原因は湿疹などにより皮膚のバリアが障害された状態にあることが最近の研究で明らかになってきています。次回は食物アレルギーと皮膚バリア機能について解説します。



引用文献

  • 1. Kramer MS, Kakuma R. Maternal dietary antigen avoidance during pregnancy or lactation, or both, for preventing or treating atopic disease in the child. Evidence-Based Child Health: A Cochrane Review Journal 2014; 9: 447-83.
  • 2. Du Toit G, Katz Y, Sasieni P, Mesher D, Maleki SJ, Fisher HR, et al. Early consumption of peanuts in infancy is associated with a low prevalence of peanut allergy. J Allergy Clin Immunol 2008; 122: 984-91.
  • 3. Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, Bahnson HT, Radulovic S, Santos AF, et al. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy. N Engl J Med 2015; 372: 803-13.
  • 4. Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, Yamamoto-Hanada K, Narita M, Kondo M, et al. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 2017; 389: 276-86.
筆者プロフィール
成田 雅美
東京都立小児総合医療センター アレルギー科医長。
医学博士。小児科医。東京大学医学部卒業、東京大学大学院医学系研究科修了。東京大学医学部附属病院(小児科)、国立成育医療研究センター(アレルギー科)などを経て現職。専門は小児アレルギー学。小児アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息)患者や家族のアドヒアランス向上、QOL改善にも配慮した診療を心がけている。そのために医師、看護師、薬剤師、栄養士、心理士などの医療関係者だけでなく、保育園、幼稚園、学校の職員、保健師など子どもを取り巻く多職種が協力する体制の整備にも関心がある。一方でアレルギー疾患発症予防に関する研究にも従事してきた。
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