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【カナダ】 カナダ・ケベック州の子育て支援―フラット・レートによる保育料―

犬塚 典子(京都大学男女共同参画推進本部特定教授)

2014年11月14日掲載

要旨:

カナダの乳幼児の保育・教育制度は、13の州・準州によって大きく異なっている。フランス語圏であるケベック州においては、1990年代後半より、家族政策の一環として保育事業の拡充が行なわれている。その特徴の一つは、保護者の就労状況にかかわらず、認可保育サービスの利用料を一日7カナダドル(1カナダドル=97円/2014年9月)という安価な定額制にしていることである。

Keywords:
カナダ、ケベック州、保育料、家族政策
1.ケベック州の子育て支援策の特徴

カナダの幼児教育・保育政策は、憲法上、連邦政府の管轄ではないため、全国的な法律や基準のないまま各州・準州で実施されてきた。その制度と実態は多様であるが、公的セクターが就学前教育として幼児教育を行っていることでは共通している。5歳児を対象に、初等学校に付設された幼稚園課程(kindergarten,1年間)を提供している州が多い(オンタリオ州は、2014年に全小学校に4・5歳児の全日制幼児教育課程を整備した)。一方、保育(child care)は、どの州でも民間主導で行われてきた。そのため、保育政策において、カナダは、英米と同じく「自助主義」を基調としているといわれる。

しかし、フランス語文化圏であるケベック州は、1990年代後半より、家族政策の一環として子育て支援事業に力を注いできた。その政策の柱は、①認可保育(学校内ケアを含む)への公費助成の拡大と定額利用料制度、②連邦政府とは異なる保険制度に基づく親休業・父親休業制度、③学校内ケア(日本の学童保育に相当)の充実である。小論では、①の保育事業の概要と最近の動向について報告する。

2.ケベック州の認可保育サービスの形態

ケベック州における現在の認可保育サービスは、現在、次の三つに整理される。民間保育所(Garderie)の一部を除き、いずれも利用料は一日7ドル(一日最高10時間まで)のフラット・レートが適用される(2014年10月から7.3ドルになった)。施設型保育(州公認保育センターと民間保育所)における保育者一人に対する子どもの数の上限は、0~17ヶ月児5人、18ヶ月~3歳児8人、3~5歳児10人、また、5歳以上(学校内ケア)の場合、20人である。

① 州公認保育センター(Centre de la petite enfance,CPE,定額制適用)
最も代表的な形態で、直訳すると「小さな子どもセンター」である。略語のCPE(セーペーウー)で呼ばれることが多い。運営費の一部を州が補助する。CPEは非営利組織によって運用され、理事会(最小人数7名、保育職員は含まれない)のうち三分の二が利用者の保護者でなければならない。一つの保育施設の場合もあれば、複数の小規模保育(後述する家庭的保育を含む)で形成されるネットワークのようなセンターもある。0~5歳児を対象とし、一つのセンターの定員は最高80名である。

② 民間保育所(Garderie,定額制適用・非適用)
営利・非営利団体によって運営される。0~5歳児を対象とし、定員は最高80名である。主に全日制サービスを提供し、子どもは定期的に通園する。非営利団体(教会や学生団体など)が運営する全日制プログラムは、州から運営費の補助を得ることも可能であり、利用者には定額制が適用される。それらは、理事会の構成員などの要件がCPEの規定にあてはまらないなどの理由で、民間保育所に分類される。

③ 家庭的保育(Service de garde en milieu familial,定額制適用)
家庭的保育(英語ではfamily child care)は、個人の家庭で最高6人まで(その家の子どもを含む)預かる認可サービス事業である。成人のサポーターがつく場合は9人まで受け入れ可能である。同州の家庭省(Ministère de la Famille)と契約を結び、165ある「家庭的保育事務局」(Bureau coordonnateur de la garde en milieu familial)と連携して保育を提供する。事務局は、近隣のCPEもしくは非営利団体が一般的であり、家庭的保育提供者への支援と認可基準の遵守について監督を行う。

  
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写真01.モントリオール大学の州公認保育センターの案内板、子どもをピックアップして帰る父親 写真02.ケベック大学モントリオール校(UQAM)の州公認保育センター
(いずれも料金は一日7カナダドル/2013年)
*一つの大学に一つは保育施設が併設されている。一般的に教職員・学生が利用できるが、どこも待機リストはかなり長いという。

3.フラット・レートによる保育料制度の開始

認可保育サービスにおける定額制は、カナダ国内でケベック州だけが採用している制度である。ケベック州の人口は約821万人(2014年9月時点)であり国全体の23%を占める。隣のオンタリオ州に次ぐ人口の多い州である。1960年代のいわゆる「静かな革命」(Revolution Tranquille)以降、連邦政府との交渉を経て、独自の医療、社会保障、高等教育政策を進めている。二言語政策を推進するカナダの中で、ケベックは、1977年に「フランス語憲章」を制定し、フランス語のみを公用語としている。モントリオール大学やケベック大学では、フランス、ベルギーなどの思想や政策を参照軸とする社会保障や家族政策の研究が蓄積されてきた。

1996年、ケベック党(Parti Québécois)政権は、0~12歳を対象とする総合的な子ども政策を発展させることを発表した。乳幼児のケアと教育に対するユニバーサル・アクセスをめざし、1997年から4年計画で幼児教育・保育制度改革が実施された。初年度の1997年には、公立学校に付設されている5歳児の幼稚園課程を、それまでの半日制から全日制に延長した。また、認可を受けた施設型保育・家庭的保育の4歳児の利用料を、保護者の就労・所得状況に関わらず一日5ドルのフラット・レートにした。翌年には3歳児も対象とし、最終的に2000年に0~4歳児の利用料を一日5ドルにした。また、社会扶助受給中もしくは失業中の家庭には、週23時間まで無料で利用できることにした。

1997年~2001年の5年間で、ケベック州は、0~4歳の認可保育の定員数を82,302人から139,683人へと増加させた。しかし、それでも認可保育希望待機リストには約85,000人が登録していた(利用中の保育サービスからの転園希望も含む)。そのため、州政府は0~4歳児の定員を、20万人にまで増やす計画を立てた。スタッフ養成のために、カレッジなどの養成課程にも財政支援を行った。2003年に政権が自由党に代わると、保育政策予算は削減され利用料は一日7ドルに上がった。しかし、事業者による保育施設の新設やサービス市場の拡大は続き、認可保育定員数は増加した。

  1992年 1995年 1998年 2001年 2004年 2007年 2010年 2012年
ケベック州 78,388 111,452 175,002 234,905 321,732 364,572 379,386 401,568
オンタリオ州 145,545 147,853 167,090 173,135 206,743 242,488 276,410 292,997
カナダ全体 371,573 425,332 516,734 593,430 745,925 837,392 921,841 986,842
図表1.認可保育定員数(0~12歳)の変化(単位:人)
出典:Friendly et. al. (2013) , p.64, Table 10より筆者作成

図表1は、1992年~2012年における認可保育定員数(0歳~12歳)の変化である。1995年まで、ケベック州の定員数はオンタリオ州よりも少ない。その後急速に伸び、2012年では学校内ケア(学齢児)を含めて40万人を超えた。ケベック州の0~12歳児童数は約107万人であり、対象年齢児童数に占める認可保育定員割合は37.4%である。図表2は、0~12歳のための認可保育サービスに対する公支出額の推移である(インフレ調整済)。1992年では、ケベック州はオンタリオ州の三分の一であったが、現在はカナダ全体の二分の一以上を支出している。

  1992年(インフレ調整後) 2001年(インフレ調整後) 2011/12会計年度(実数)
ケベック州 202,532,000 1,370,031,000 2,392,649,000
オンタリオ州 604,664,000 566,233,000 865,100,000
カナダ全体 $1,096,609,000 $2,370,032,000 $4,016,815,891
図表2.認可保育サービスに対する公支出額の推移(単位:カナダドル)
出典 Ferns & Friendly (2014) , p.11, Table 2より筆者作成

各保育サービスの2012年3月における定員・在籍数は図表3の通りである。施設型定員は153,481人、家庭的保育在籍者は85,095人で、合計238,576人である。家庭的保育は、認可保育サービスの3.5割を占めている。この他に、教育省・教育委員会が実施する学校内ケア(学齢児)の定員は162,992人である。これらを合算すると401,568人になる。

対象\施設 ① 州公認
保育センター
(CPE)
② 民間保育室(Garderie) 合計(人)
州助成あり 州助成なし
(*非定額制)
18ヶ月未満 10,784 3,880 3,448 18,112
18ヶ月~4歳 73,888 37,156 24,325 135,481
合計 (人) 84,672 41,036 27,773 153,481
③家庭的保育
18ヶ月未満 13,867
18ヶ月~3歳未満 38,212
3~5歳未満 32,850
5歳~学齢児 166
合計  (人) 85,095
図表3.認可保育サービス定員数(家庭的保育は在籍者数)(2012年3月)
出典: Friendly et al. (2013), pp.24-25,64より筆者作成
4.子育て支援政策の行方―一日7ドルから7.3ドルへ―

図表4は、2012年における各州の施設型保育(全日制)の利用料平均である。ケベックについては、一ヶ月約21.7日間利用で計算している。他州に比べてきわめて安価である。この制度は、「ケベックモデル」として、他州の子育て支援関係者から高く評価されてきたが、政治的・財政的に厳しい状況にある。

州名\年齢 乳児
0~18ヶ月
幼児
18~30ヶ月
就学前児
2.5~5歳
ニュー・ファンドランド・ラブラドール 不明 773 783
プリンス・エドワード・アイランド 696 566 544
ノバ・スコシア 825 694 685
ニュー・ブランズウィック 740 653 620
ケベック 152 152 152
オンタリオ 1,152 925 835
マニトバ 651 431 431
サスカチュワン 650 561 535
アルバータ 900 825 790
ブリティッシュ・コロンビア 1,047 907 761
カナダ全体 761 701 674
図表4.施設型保育(全日制)の月平均利用料(単位:カナダドル),2012年
出典:Ferns & Friendly (2014), p.14, Table 6より筆者作成

2012年9月の州議会総選挙では、ケベック党が9年ぶりに第一党になり、ポーリン・マロワ(Pauline Marois, 1949-)政権が誕生した。しかし、同政権は2014年4月の州議会選挙で自由党に大敗し、マロワは責任をとり党首の座からも降りた。彼女は、1997年の保育料定額制導入時には、ケベック党政権の家庭省大臣であり、子育て支援政策を推進してきた人物である。

定額保育料一日7ドルの時代は約11年継続したが、自由党の新政権下、2014年10月より一日7.3ドルに値上げされた。同政権は、ケベック独自の親休業制度も縮小することを検討している。そのため、ケベック州民のみならず、乳幼児期のケアと教育に関わるカナダの関係者が今後の動向に注目している。

定額保育料政策の継続を望む声は大きいが、図表2に示したように、州の財政負担も大きい。2011年、ケベック大学の経済学研究者Lefebvreらは、定額保育料制度と就学前教育(5歳児を対象とする全日制幼稚園)の効果を検証する論文を発表した。制度導入前と10年後の労働・教育統計データを様々な角度から分析して、その影響を探るものである。

これによると、定額保育料導入以降、利用者は毎年増えており、同州の1歳~4歳児をもつ母親の労働市場参加率は他の州よりも高くなっている。一方、導入前と後では5歳児の認知的能力(語彙テストなどの結果)は下がっている。また、税制上、高・中所得層の女性が、定額制の認可保育サービスを利用し、出産後に短い期間で職に戻り長時間働くと、連邦所得税への寄与分が増える一方、州財政への寄与分は少ないという。Lefebvreらは、社会的不平等と州の財政赤字拡大を防ぐため、0歳児は定額制から外すこと、子どもの年齢に応じて利用料を変えることなどを提案している。また、学力保障のために、オンタリオ州のように4歳児の就学前教育をフルタイムで実施することも選択肢としてあげている。

母親の労働市場参加、子どもの発達、機会公平性の検証だけでなく、連邦政府と州政府との財政・租税問題へと議論が進んでいくところにケベック独自の政治的背景がある。社会で子どもを育てるユニバーサルな制度は、日本でも望まれるところである。その一方で、税負担や社会的公平性の側面から、これまでの日本の社会福祉的な視点に立つ利用料設計も継続していく必要があると思われる。


    文献
  • Beach, Jane, Friendly, Martha, Ferns, Carolyn, Prabhu, Nina, Forer, Barry (2009) Early Childhood Education and Care in Canada 2008, (8 th Edition), Childcare Resource and Research Unit.
  • Ferns, Carolyn & Friendly, Martha (2014) The State of Early Childhood Education and Care in Canada 2012, Moving Child Care Forward.
  • Friendly, Martha, Halfon, Shani, Beac, Jane and Forer, Barry (2013) Early Childhood Education and Care in Canada 2012, Child Resource and Research Unit.
  • Human Resources and Skills Development Canada (2012) Public Investments in Early Childhood Education and Care in Canada 2010.
  • Lefebvre, Pierre, Merrigan, Philip and Roy-Desrosiers, Francis (2011) Québec's Childcare Universal Low Fees Policy 10 Years After: Effects, Costs and Benefits, CIRPÉÉ, Centre interuniversitaire sur le risqué, les politiques economiques et l'emploi, UQAM.
筆者プロフィール
Noriko_Inuzuka.jpg犬塚 典子(京都大学男女共同参画推進本部特定教授)

京都大学男女共同参画推進本部特定教授.慶應義塾大学大学院社会学研究科において博士(教育学)取得後,東北大学大学院法学研究科COE研究員,九州大学女性研究者キャリア開発センター特任准教授等を経て現職。



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