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【中国】 生活に根ざした幼児の美術教育の実践事例-創造性を育む新しい試み

2005年9月30日掲載

要旨:

中国では幼児教育分野でのカリキュラム改革が盛んに行われている。今回の中国幼児教育事情では、「子ども中心」かつ「教育と生活の結びつき」が強調される近年の幼児教育の一環として、熱心に指導を行っている美術教育を取り上げる。創造性を育むための幼児の美術教育が、年齢別にどのようにカリキュラムに組まれているかを「上海松江区白雲幼児園」というモデル校の先進事例とともに紹介する。(『学前教育-信息与研究』(2005.4号)に掲載されているものをもとに編集したものです。)
中国の基礎データ

中国では幼児教育分野でのカリキュラム改革が盛んに行われている。今回の中国幼児教育事情では、「子ども中心」かつ「教育と生活の結びつき」が強調される近年の幼児教育の一環として、熱心に指導を行っている美術教育を取り上げる。創造性を育むための幼児の美術教育が、年齢別にどのようにカリキュラムに組まれているかを「上海松江区白雲幼児園」というモデル校の先進事例とともに紹介する。(『学前教育-信息与研究』(2005.4号)に掲載されているものをもとに編集したものです。)


年少クラス向け「貼り絵」(王 艶)


年少クラスの美術活動は貼り絵を主としているが、貼り絵で問題となるのは、年少の幼児は絵の正しい向きがわからないことである。幼児は往々にして、貼る材料を上向き、下向き、左向き、右向き、また別の方向に意のままに貼る傾向にある。そこで私たちは、幼児にも取り組みやすく、理解が容易になるように、幼児の生活に根ざした題材を用いて年少クラスの幼児の貼り絵能力を育てることにした。

一、貼り絵への興味を育てる

貼り絵のはじめの段階では、私は方向性のない貼り絵を何回か試みた。たとえば、風船、野菜などである。この種の貼り絵は、幼児の生活にごく身近なものであり、幼児は貼り絵材料を自由に貼ることで、ある程度の達成感を得られる。方向性のない貼り絵を何回か行うと、貼り絵に対する興味が幼児に生まれ、かつ失敗したという気持ちを抱かないため興味が持続する。幼児は貼ることにとても興味を持つ。

二、容易なものから難しいものへ、段階的に進める

幼児が方向性のない貼り絵をうまく自分のものにすることができた後は、方向性のある貼り絵を取り入れる。簡単なものから難しいものへと、段階的に進める。まず、教師は毎回、貼り絵を行う前、幼児に観察をさせる。観察は幼児に作業の流れを理解させるための最も基本的な方法である。たとえば、「楽しい幼稚園」という題材で人物の貼り絵をする際は、友達の頭はどこ(上)で、足はどこ(下)か、両手はどこ(両側)にあるかを観察させ、立っている時の、頭、手、足の正しい位置を初歩的に分からせる。

次に、教師が貼り方の手本を示す。手本を示す際は、わざと間違いをしてみせた。たとえば、子供の頭を下向きに、足を上向きに貼り、先生が貼り間違っていないかどうか、間違っていたらどうして間違いなのか、どう貼るべきなのかを観察させて、幼児が直すように導く。毎回貼り絵を行う前には、子供たちのために貼り絵材料を用意するばかりでなく、一枚一枚の作品に参考例を貼り付けて、それをまねさせ、徐々に参考例を取り去るようにした。これらの準備は幼児が上下左右の方向を把握するために確実に役に立った。

 

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年少クラスの幼児の作品例



年中クラス向け「図画の創作」(張 奕)


幼児の美術教育には多くの要素が含まれるが、図画の創作(お絵かき)は極めて重要な部分を占めている。年中クラスの教育目標は、いろいろな図形を選択・組み合わせ、人や物の特徴や簡単な動きを表現する方法を会得するというものである。

一、絵の基本部分を図形に集約するよう幼児を導く


1.図形と線の組み合わせ
年少クラスの終盤になると、幼児は図形と線とを組み合わせられるようになっていて日常生活でよく知っている物、たとえば風船や人物などを描き、さらには、半円や三角形など他の図形を用いることもでき、初歩的な創作能力を備えている。しかしこれら記号的な表現形式によって描き出される図画は大雑把なもので、幼児は次第に実物により近い図画を描きだすことを求めるようになる。このため、必然的に図形が次第に線に取って代わるようになる。

2.図形の組み合わせ
図形の組み合わせを用いると、幼児が物の形や構造を把握するのに役立つが、これには観察が最も重要となる。1つの物には、さまざまな描き方があってよい。集約される方法が合理的である限り、どれも肯定されるべきであり、一致を無理に求める必要はない。幼児は互いに刺激し、学びあい、1つの物の描き方は固定したものではなく、さらに多くの方法に変わりうることを会得するよう導くべきである。

たとえば、アヒルを描くとする。ある幼児は円、半円の組み合わせだと考える。一方、他の幼児が考えたのは円と楕円の組み合わせである。両方ともアヒルのかわいらしい形を表現することができる。このとき、教師は幼児の理にかなった考え方を肯定し、さらに「アヒルはほかにどんな図形を用いて描くことができるかな」とヒントを出すと、曲がったバナナのようなアヒルを描く子供もあって、基本図形に変化が起きる。

 

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年中クラスの幼児の作品例


3.組み合わせの合理性に注意する
幼児は図形に対する認識ができると、さらに組み合わせの合理性を求めるようになる。私たちは「比べてみよう、探してみよう」という方法で、合理的な組み合わせに対する注意力を引き出した。

たとえば、「このウサギの絵は正しいかな?」と観察させて、間違い(耳が短すぎる、離れすぎている、足が長すぎる)を直させることによって、図形が合理的に組み合わされていてはじめて客観対象に近い図形を創造することができる、ということを会得させた。

二、物の主要な特徴の表現に注意するよう幼児を導く

多くの物は、基本部分を分析すると、シルエットはとても似通っているのに、注意深く観察すると、違いが引き立つ。観察眼を養うために、私たちはシルエットクイズという活動を企画した。その主な目的は動物のさまざまな特徴を区別させることである。たとえば、ゾウは鼻が長く、キリンは首が長い。ウサギは耳が長く、サルは尻尾が長い。キリンと白鳥は同じように首が長いが、キリンは足が4本であり、白鳥は2本であるなどである。シルエットクイズを通して、幼児は動物の主な特徴に注意して表現することを学ぶ。

 
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年中クラスの幼児の作品例


三、人の正面像と側面像の簡単な動きを描けるよう導く

動きを表現する際、機械的なパターンや単調な練習方法を用いてはいけない。幼児の大胆な表現の積極性、創造性を引き出さなければならない。

たとえば、スケートを描くとする。事前に幼児にはスケート遊びの経験があるので、絵を描く際、スケートをする人のさまざまな動きを大胆に描き出す。両手を上げ、片足は氷につけ、別の足が上がっているのはスケートを練習している男の子である。両足を交差しているのはフィギュアスケートをしているお姉さんであり、両足が曲がって転んでしまった姿の女の子もいる。この三段階の中で挙げた例はいずれも幼児の生活から出たもので、幼児の身近な経験の中から選んだものである。

初歩的な創造意識が芽生えると、いろいろな樹形の木や形の違う家屋などを描けるようになる。しかしこの種の創造はまだ極めて不安定なものであり、容易に模倣や、従来の手法へ走ってしまいがちである。したがって、活動の中で教師は先ず創造性を奪わぬよう、幼児の自己発見、自己創造を励ますという原則を大切にしなければならない。こうしてはじめて幼児の創造性をさらに伸ばすことができる。

年長クラス向け 「人物の動きを描く」(任 妹)


年長クラスの幼児はすでに事物間の簡単な重なりを理解する能力を有し、簡単な動きを美術表現できるようになっている。しかし幼児の思考はまだ直感的、具体的、イメージ的であり、それは幼児自身の生活や認識や経験と直接的なつながりを持っている。したがって教師は、幼児の実際の経験をもとに指導しなければならない。

一、幼児の生活体験を活動へ反映させる


年長クラスの「ヒソヒソ話」という活動の中で、ある教師は、正面向きに座っている人の両足が「m」の形になっているのを描く指導をする時、「膝が曲がっていて、脛が真っ直ぐ下に伸びているように描く」よう幼児を指導するのだが、さらに、座っている時の足を実際に自分で触らせようと考えた。


 

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年長クラスの幼児の作品例


その時、一人が「この足、ちょっとマクドナルドの『m』に似てる」と言った。教師は、目をやってすぐ「ほんとにマクドナルドみたいな足ね。あなたたちも自分の足を触ってみてね、座ると自分の足がマクドナルドの足になるかしら?」と答えた。簡単な言葉のキャッチボールによって、雰囲気が生き生きしだし、人物の動きという難しさも溶解した。教師の指導言葉が具体的なイメージに変わり、幼児の生活体験と密接に結びついたことである。幼児の生活体験にマッチした言葉を教師の指導言葉にすることによって、活動が瞬時に子供たちを生活の1シーンに導き、子供たちは活動の主役になった。教師と子どもの間の相互作用がこれにより生まれ、教師と子ども間の関係もさらに打ち解けあったのである。

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                           年長クラスの幼児の作品例

 

二、幼児を生き生きとした相互作用の中で学ばせる

あの『子どもたちの100の言葉』でも触れられているように、年長クラスの幼児は、認知構造、生活体験の蓄積、また表現能力においても、各幼児の表現方法がさまざまに異なってきている。幼児の絵画表現活動を行う際は、子供たちの間の経験をしばしば応用し、お互いに学習するという相互作用の中で、もともと自ら持っていた能力が高まり、さらにすすんだ創作表現をさせることができた。

互いの作品の鑑賞、あるいは互いに力を合わせる形で共同し完成させることによっても、幼児の経験や能力をもともと持っていた基礎能力よりも向上させることができる。つまり、年長クラスの幼児に人物の動きを教えるには、すでに持っている生活体験や表現レベルに基づいて幼児の表現を導き、より多く観察させ、より多く人の作品を鑑賞させ、より多くの経験を蓄積させることが必要である。こうしてはじめて、幼児は大胆な表現をすることができ、もともとの基礎能力よりもさらに高い創造性が引き出され、幼児の成功達成感を満足させることができるのである。

 

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年長クラスの幼児の作品例

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