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研究室

【インドネシア】しつけと勉強を重んじるジャカルタの子育て(園・家庭での「学びに向かう力」各国事情④)

小川 淳子(CRN研究員)

2017年6月 2日掲載
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<本連載について>
近年、国際的に乳幼児教育への関心が高まっています。チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)の運営を支援するベネッセ教育総合研究所(BERD)では、好奇心、協調性、自己主張、自己統制、がんばる力などの非認知的なスキルを「学びに向かう力」と称し、幼児期から育てたい生涯にわたって必要な力ととらえ、日本国内において縦断的な研究を行ってきました。(詳しくはこちら

この度、ベネッセ教育総合研究所では、「学びに向かう力(非認知的スキル)」が幼児期にどのように育まれ、それを育む環境はどのようになっているのかについての大規模な国際調査を実施いたします。それに先駆けて、2016年から2017年にかけて、アジア、ヨーロッパの国々の幼児教育施設や家庭を訪問し、親子の生活実態や、「学びに向かう力」の育成に対する園や家庭での試みを見てきました。

研究員の目から見た、各国の幼児教育の現状、親子の様子や、子どもへの関わりなどについて、本コーナーで連載します。なお本連載で紹介する園や家庭の事例は、あくまで今回の訪問調査で見聞きした取り組みの紹介であることを、予めご承知おきください。

はじめに~インドネシアの社会状況~

インドネシア共和国は、広大な海域に17,500以上の島々が散在している島国で、国土面積は約189万km2です。人口は約2億5千万人で、中国、インド、米国に次いで世界第4位に位置します(注1)。日本はそれぞれ6,852島、約38万km2、約1億2千万人ですから、インドネシアの島数と人口は日本の約2倍、国土は日本の約5倍にあたります(注2)

広い国土がありながら、全人口の70%近くは、国土の6%にすぎないジャワ島に居住しています。経済活動は、西部インドネシア(スマトラ、ジャワ、バリ)が国家経済の約82-83%を占め、東部インドネシアとの開発格差が存在します。

またインドネシアは、多様な民族・言語・宗教を抱える典型的な多民族国家で、300以上の民族が居住しています。公用語はインドネシア語であり、国語となっていますが、会話言語ではそれぞれの地域で583以上の言葉が日常的に使われています。また世界最大のムスリム(イスラム教徒)人口を有する国でありながら、国はイスラム教だけを国教とはせず、イスラム教、キリスト教(プロテスタント/カトリック)、ヒンドゥー教、仏教、儒教の6大宗教を国家公認の宗教と定めています(注3)

このように、地理的環境また経済的・文化的・宗教的背景も多様な国家において、幼児が育つ環境もまた多様であり、各地域に根付いた子育て文化があるだろうことは想像に難くありません。本稿では、2016年11月に訪れた、インドネシアの首都であり同国最大の都市であるジャカルタの幼稚園やご家庭への訪問インタビューを通して見聞きした、幼児(5歳児)のお子さんのいるご家庭の様子や親子のかかわりを中心にレポートします。

勉強と人格形成が子育ての2大テーマ

インドネシアでは、各幼稚園に保護者相談日が設定されています。保護者相談日には、保護者が個別に先生や小児発達の専門家に子どもの成長について質問や相談をしたり、意見を求めたりすることができます。今回訪問した幼稚園では、毎週決まった曜日に保護者相談日が設けられていました。インドネシアの幼児教育施設について紹介した前稿でも触れられていますが、保護者相談日には、「勉強について」「性格・人格について」の相談が多く寄せられるとのことでした。

さて、今回私たちが訪問したご家庭は、国民の経済格差が大きいインドネシアにおいて中上流階級の2家庭で、いずれも夫婦共働きでした。1件目のキリスト教信者のご家庭では、10代にも見える年若いお手伝いさんが、子どもたちを抱いて私たちを出迎えてくれました。5歳の男の子と3歳の女の子がいるこのご家庭の母親は、「子育てでどんなことに力を入れていますか」という問いに対して、まっさきに「自立心、責任感」と答えました。自分のことは自分でできる子になってほしい、自分自身も親からそのように育てられたとのこと。また「お子様が大きくなったらどんな人物になってほしいと思いますか」と問うと、「神様を大事にする、自立した人間になってほしい」と答えました。いくつかの選択肢を見せると、その中から「自分の家族を大切にする人」「仕事で能力を発揮する人」「社会のために尽くす人」を選びました。自立して、働いてお金を稼ぐためには勉強することが大事と考えており、小学校入学前の準備として、子どもが好きなときに机に座ってやりたいことに取り組めるように、リビングに子ども用のテーブルと椅子、落書き用のホワイトボードが設置されていました。

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リビングの片隅の子どもコーナー:子ども用のテーブルと椅子、ホワイトボードリビングの隣の子どもコーナー:おもちゃで仲良く遊ぶ兄妹


また育児、中でも子どものしつけについては母親が主に行っており、お手伝いさんには家事を中心にお願いしているとのこと。母親が仕事などで不在のときは、祖父に来てもらってお手伝いさんと2人で育児を担う体制をとっており、お手伝いさんと子どもたちだけの状態にはしないよう気を付けているそうです。

子どもの話し相手であり支援者でもある母親はしつけを重んじる

2件目に訪問したのはイスラム教信者のご家庭です。8歳の男の子と5歳の女の子がいるこのご家庭では、国際バカロレア教育をするイスラム系の学校(幼稚園~高校まである)へ子どもたちを通わせていました。「子育てでどんなことに力を入れていますか」という問いに対して、オーストラリアへの留学経験がある母親は「オープンに、親に何でも話してくれること。朝食や園からの帰り道、夕食や寝る前の時間を大事にしている。話すことで子どもの成長が分かる」と答えました。また「素直な子になってほしい。環境に配慮する良い子になってほしい」とも。「お子様が大きくなったらどんな人物になってほしいと思いますか」と問うと、「母親は子どもがやりたいことをサポートする」と自身のことばで答え、いくつかの選択肢の中からは「自分の家族を大切にする人」「他人に迷惑をかけない人」「経済的に豊かな人」を選びました。「他人に迷惑をかけない人」を選んだ理由として「子どもには自立した人間になってほしい」との説明が添えられ、「自立した人間」というキーワードが1件目のご家庭との共通点としてあがりました。

祖母やお手伝いさんが同居するご家庭ですが、育児の主な担い手は母親であり、特に日常的な活動のサポートやしつけは母親が行っているとのこと。お手伝いさんは家事をほぼ一手に引き受けており、祖母は母親が不在のとき、代わって子どものお世話をするそうで、こちらのご家庭でもお手伝いさん1人に子どもを任せることのないようにしているとの話がありました。

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広いリビング・ダイニングルームの片隅にあるおままごとコーナー子どもたちのおもちゃの倉庫

家庭外での教育を重視

今回訪問したご家庭では、文字や数字の勉強は園に任せているとのことでした。園では文字の読み書きや数について学び、宿題もあります。子どもは、家では主に園の宿題に取り組み、絵本を読んだりして過ごします。

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1件目のご家庭より:5歳の息子さんが園で取り組んでいるワークシート。ここでは数を学んでいる。同じく、5歳の息子さんの園の宿題のワークシート。年長クラスでは単語を書く練習をする。1日一行。


習い事は、いずれもスイミングに通わせていました。他にも、英語、フットサル、ピアノなど、1人の子どもにつき2~3種類と、複数の習い事をしているようです。ピアノは母親が習わせたくて始めたそうですが、「右脳と左脳をバランスよく発達させるために習ってほしいと思った」という理由が、強く印象に残りました。また、イスラム教徒の子どもたちのなかには、この頃からコーランの読誦を学んでいる子もいるようです。

いずれのご家庭でも、家庭内で積極的に文字や数の勉強に取り組んでいる様子は見受けられませんでしたが、その分、家庭外での習い事や幼稚園選びに力を入れている印象を受けました。2件目の国際バカロレア教育を行う幼稚園を選択されたご家庭はもちろんですが、1件目のご家庭でも、「最初の園は、子どもの教育面を考えると良い園とは言えなかったため転園させた」との話がありました。園を選ぶ際の観点として「教育」の質を重視していることが窺われます。

過保護?関係性の希薄化?多様な親子のあり方

再び前稿に戻りますが、幼稚園の先生から見た近年の保護者の養育態度の特徴として「過保護になってきている」ことが最後に紹介されています。園活動の一環として行われる外遊びの付き添いを先生に任せておけずに保護者が一緒に行きたがり、子どもが乗っているバスの後ろから保護者が自家用車でついてきたケースなど、具体例の紹介もありました。園の先生によると、こういった保護者の「過保護」「心配性」とも言える態度の要因としては、ジャカルタの急速な都市化と情報化の進展により、生活全般の安全性が脅かされるようになってきているからではないか、とのことでした。

過保護とは異なりますが、保護者の保育参加が盛んであることも、ジャカルタの幼稚園、および保護者の大きな特徴のひとつです。園では保育・幼児教育への保護者のかかわりを促進し、例えば「職業の日」と称して、保護者が自分の仕事を子どもたちに紹介したり、保護者による読み聞かせが行われたりするなど、保護者が参加する活動が奨励されます。実際に、私たちが園を訪問した際にも、PTA役員である保護者が同席してインタビューに応じてくれるなど、保育・幼児教育に積極的にかかわる姿勢が見て取れました。

一方で、今回のジャカルタ訪問中にヒアリングしたある小児科医からは、母親が子どもと遊べなくなっていて、子どもとの関係性が希薄化している点がインドネシアにおける大きな問題のひとつとしてあがりました。インドネシアでは、貧困層は共働きの忙しさにより子どもと過ごす時間がとれず、片や上流層はお手伝いさんに子どもを預けきってしまい、子どもとの関係性が構築できていないとのこと。この小児科医は、そうした母親向けに、自身のクリニックで子どもとのかかわり方についてのトレーニング・プログラムを提供しているとのことでした。こういった母親たちからは「子どもにどんなおもちゃを買えばいいでしょうか」という問い合わせがよくあるそうですが、クリニックでは「大事なのはどんなおもちゃかではなく、子どもとどう接するか、どう遊ぶかです」と伝えているそうです。この事実を裏付けるかのように、私たちが訪れた数少ないショッピングセンター内の光景ではありますが、「子どもとお手伝いさん」という組み合わせで歩く現地の方を複数見かけました。

まとめにかえて~インドネシアの子育てにおける共通する部分と多様性~

本稿の冒頭で、インドネシアでは国民の経済格差が大きいとご紹介しましたが、今回私たちが訪れた2家庭のある中上流階級が集まった住宅街に入るには、セキュリティ・ゲートをくぐる仕組みになっていました。一方で、そのすぐ裏手、あるいは道を一本隔てただけで、男性が昼間から大っぴらにカードゲームなどをしているような下町の風景が広がっていることに、驚きを隠せませんでした。

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ジャカルタの街並み裏通りの風景

イスラム教の教えの中に「親が子どもにする贈り物で一番良いものは、良いしつけである」という考え方があります。恐らくこの点が、インドネシアの子育てにおける共通する部分であり、たとえば今回訪問したいずれの家庭においても、生活全般に根ざした根源的な部分の良し悪しについて教育する(=しつけをする)のは、どんなに祖父母やお手伝いさんが近くにいても母親の役割であるとのことでした(ただし1件目のご家庭はキリスト教信者)。保護者がそれぞれの方針をもって子育てや教育にあたっているこれらのご家庭では、人格形成や幼児期からの教育(勉強)もまた重んじられていました。一方で、こういった熱心な保護者とは異なり、子どもを放任して育てる保護者像の一端をも今回の訪問中に垣間見られたことで、ジャカルタの親子の多様な関係性のあり方に触れたように思いました。そして子どもの成長・発達への保護者のかかわり方については、インドネシアだけでなく、日本をはじめとするその他のアジア諸国にも通じる、共通の課題であると感じました。


次回は、フィンランドの幼児教育施設についてレポートします。


謝辞
本稿をまとめるにあたり多大なるご協力をいただいた、名古屋大学大学院の服部美奈先生に深謝申し上げます。


    参考文献
  • (注1)国土交通省国土政策局「各国の国土政策の概要」インドネシア(情報更新:2017年3月)
    http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/general/indonesia/
  • (注2)総務省統計局「第六十六回日本統計年鑑 平成29年」第1章国土・気象, 1-1国土構成島数,面積及び主な島
    http://www.stat.go.jp/data/nenkan/66nenkan/01.htm
  • (注3)外務省「インドネシア共和国基礎データ」より、インドネシアにおける宗教の割合は次の通り:イスラム教 87.21%,キリスト教 9.87%(プロテスタント 6.96%,カトリック 2.91%),ヒンズー教 1.69%,仏教 0.72%,儒教 0.05%,その他 0.50%(2013年,宗教省統計)
    http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html
  • 編著:池田充裕 山田千明(2006年)「アジアの就学前教育―幼児教育の制度・カリキュラム・実践―」株式会社明石書店
  • 高岡純子(ベネッセ教育総合研究所、2017年)「【インドネシア】幼児教育を通して宗教観と自立性を育むインドネシアの幼稚園(園・家庭での「学びに向かう力」各国事情③)」 チャイルド・リサーチ・ネット
    http://www.blog.crn.or.jp/lab/01/109.html

筆者プロフィール

Junko_Ogawa.jpg 小川 淳子(CRN研究員)

CRN研究員、ベネッセ教育総合研究所研究員。
2004年に(株)ベネッセコーポレーション入社。こども英語教室事業部、グローバル教育事業部を経て、2013年よりベネッセ教育総合研究所に所属し、チャイルド・リサーチ・ネットの活動を運営しています。
これまでに関わった主な研究は以下の通りです。
CRNアジア子ども学交流プログラム(2016年度~現在)
ECEC(Early Childhood Education and Care)研究(2013~2015年度)
東アジア子ども学交流プログラム(2013~2014年度)
国際シンポジウム「子どもの福祉と権利」(2013年度)
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