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研究室

第9回 特定不能の広汎性発達障害における SST(ソーシャルスキルトレーニング)の事例研究

長田 有子 (CRN外部研究員)

2014年2月21日掲載
1. はじめに

特定不能の広汎性発達障害は、対人的相互反応の発達に重症で広汎な障害があり、言語的または非言語的コミュニケーション能力の障害や、常動的な行動、興味、活動の存在を伴っているが、特定の広汎性発達障害の基準を満たさない場合に用いられる。自閉傾向はあるが、閾値に達していない場合、周囲の理解と環境整備によって症状の表出の仕方が変わり、また学童期においては、本人の安定と自信を導く療育と教育が必要とされる。 今回報告する事例のA君は、6歳の時には友達と遊ぶ事もできず、運動も苦手であり、手先の不器用があった。新規の物事の受け入れが苦手で、学習支援を必要とし、できないと頭を叩き泣き出すなど自信がない状態が見られた。しかしその後6年に及ぶ療育のもと、お友達とも遊べるようになり、苦手な項目を克服し、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の小集団の中で自信がつき、自尊心が育ち、全ての教科において優秀な成績を収め、問題行動を軽減できるようになった。今回は、この事例を報告する。

2.方法

セッション開始

場所:調布発達支援教室
個人セッション:週1回1時間/月3回
集団セッション:週1回1時間/月2回
親御さんにおいてはペアレントトレーニング、カウンセリングを定期的に行う。

※ペアレントトレーニング(応用行動療法を取り入れた問題行動の軽減方法や、疾病に対する理解、お子さんに能動的な考え方を導きだす会話方法などを勉強する親御さんに対するトレーニング)

SST内容(詳しい内容については第3回参照)

視覚の追順性課題
視覚の衝動性課題
聴覚記憶課題
数唱課題
指示課題
目と手の協応課題
物語を聞いた後の因果関係についての質疑応答
アイコンタクト課題
ゲーム性のある課題
最後にクールダウンのための凝念呼吸

SST課題は、子どもにとって受け入れやすいように、パソコンからのアプリで行えるように作成されている。大きく壁に画面投影されて、7、8人の小集団で行っていく構成になっている。

また、参加できた行動について、シールをつけて正の評価を与えるようになっている。

個人セッション課題 (詳しい内容については第5回参照)

言語能力系強化課題(文字、識字、逐次読み、特殊音節、構音トレーニング等)
数的能力系強化課題(数概念、数支援、数唱、計算)
視覚系能力強化課題(お絵描き歌、ひらがなのなぞり書き、目と手の協応、空間位置、視覚的記憶)
聴覚系能力強化課題(歌によることば課題、リズム模倣、音から字への変換)
行動・情緒系能力課題(即興演奏による打楽器操作、ピアノによる手のトレーニング)

セッション開始前

6歳3ヶ月 乳幼児発達スケール
発達指数67
運動3歳10ヶ月、操作4歳6ヶ月、理解言語6歳2ヶ月、表出言語5歳6ヶ月、概念6歳4ヶ月、対子ども社会性4歳6ヶ月、対成人社会性3歳2ヶ月、しつけ4歳6ヶ月、食事2歳4ヶ月

6歳0ヶ月 WISC-III 知能検査結果
知能指数IQ 言語性IQ 110 動作性IQ 92 全検査IQ 101
群指数 言語理解 117 知覚統合 95 注意記憶 97 処理速度 89
(平均値:100)

6歳1ヶ月  K-ABC *1検査
継次処理 107、同時処理 94、認知処理過程 99、習得度 111
(平均値:100)

状態

ボール遊びができない、「むすんでひらいて」の手遊びを歌いながらできない、折り紙が折れない、早口言葉が言えない、友達と遊べない、冗談を理解することができない、活動や遊びの内容を提案することができない、トラブルが起きた時解決方法を提案できない、負けを受け入れることができない、遊びのルールが理解できない、よく忘れ物をする、物を落とす、物事の理解に時間がかかる、わからないと頭を叩く、自信がなくすぐに泣く、プレッシャーに弱い、完璧主義、きれやすい、状況を読むことが困難、などが見られた。

3.支援経過

個人の療育においては、就学に向けての準備として学習支援を行いつつ、療育課題を行っていった。さらに不器用であった手先のトレーニングのためにピアノを行った。ピアノの習得にも、発達障害のお子さんに合う教示の仕方があり、本人の負荷がないように積み上げていった。

新規の物事を習得するまでに時間がかかるので、就学前にひらがなの読み書き、足し算、引き算、2桁の数、文章問題から行った。以後6年間通じて、実際の教育現場で行われるよりも半年早く学習することにより、習得するまでの実時間を確保した。学校で先生から教わる勉強の内容を既に知っているという事で、落ち着いて話を聞いて理解でき、その事でまた日常生活を安定したものにしていくことができた。療育課題として、短期記憶課題(「ぐんぐんきおく」として現在 タブレット端末用アプリとして販売中)、言葉課題(「どんどんはなそう」として現在 タブレット端末用アプリとして販売中)、視覚課題を行った。SSTでは、6、7人の小集団の中で、課題を行い(第3回参照)、「みんなと上手に遊べた」という達成感を積み上げた。さらに、4年生からSST内容が高学年向けになり、ルール性のあるゲーム、言葉で表現するゲームなどに課題を変えていった。ピアノは年2回の発表会で演奏を披露し、バンド(ドラム、ベース、ギター)メンバーとのセッションで発表も楽しんだ。ボールを追うことが難しいという事から、個人プレーのスポーツであるテニスを勧めたところ、以後6年間テニス教室に通った。順調に養育が進んでいたが、毎年ある月になると極度に落ち込み、書字も汚くなり、簡単な計算すらできなくなる時期があった。精神的にも落ち込み、直ぐに涙ぐむという姿が見られた。そのような時には自分を褒める認知療法を日記に取り入れ、「今日はこんないい事があった。」「自分にはこんな素晴らしいところがある。」と自分を認める日記を書かせた。本人が何も思い当たらない時には、母親に協力してもらい、代わりに書いてもらった。3ヶ月ぐらいすると自然に立ち直り、いつもの生活に戻るようになっていった。成績はどの教科もよくでき、毎学期「たいへんよくできる」13個、「よい」20個、「もうすこし」0個、国語、社会、音楽、図工が5、算数、理科、家庭科4、体育3など、6年間通して良い成績を取ることができた。自分に自信ができた事により、友達とも自然に遊べるようになり、苦手なピアノもテニスもそれなりにできるようになっていった。また、勝ち負けにもこだわらなくなり、ありのままの自分を受け取めることができるようになった。

学校の担任へは、注意の仕方や叱り方に特別な配慮をしてもらうよう、支援をお願いした。また、A君が集団に交わるためのキーパーソンとなる友達とは、学級編成の時にも同じクラスになれるように特別の配慮をお願いした。未だに新規の物事の受け入れは難しく理解するまでに時間がかかるが、中学進学に向けて早めに勉強を進めている。時には涙ぐみ「わからない」と混乱する事もあるが、時間を1週間空けて何回も繰り返すことで、理解につなげる事ができている。

4. 結果

12歳3ヶ月 WISC-IV *2知能検査の結果
全検査 IQ 109 言語理解IQ 109 知覚推理 IQ 98 ワーキングメモリIQ 106 処理速度IQ 115

 6才(WISC-Ⅲ)  12才(WISC-Ⅳ)
 全検査  IQ 101  IQ 109  +8
 言語性  IQ 110  言語理解 IQ 109  -1
 動作性  IQ 92  知覚推理 IQ 98  +6
 言語理解 117
 知覚統合 95
 注意記憶 97  ワーキングメモリ IQ 106  +9
 処理速度 89  処理速度 IQ 115  +26
※WISC-ⅢとⅣでは、項目の名称に改定があったが、それぞれ対応する項目を比較している。

下位検査においては、理解、積み木、絵の概念、語音整列が平均よりも下の結果となる。

6歳の時から療育を始め6年間続けた結果、知能検査においては、全検査+8 言語理解−1 知覚推理+6 ワーキングメモリ+9 処理速度+26、の変化となった。言語においては、類似、単語は平均よりかなり高い結果が出たが、理解において平均より下の結果となった。6歳の時に見られた状況を把握する力、問題に対処する力の弱さを課題としたままであることが理解された。また WISC-IVより取り入れられた新しい検査項目である語音整列の検査結果からもわかるように、あるルールに従って記憶し、整理し直す課題は、新規の物事を取り入れる力の弱さを表している。6年間に及ぶ療育とピアノ、テニスの効果もあり、処理速度+26と、飛躍的に伸ばすことができた。未だに学校生活の中で、仕度の遅さや切り替えの遅さは認められているが、中学に上がったら、個性の一つに考えられる程度であろうと思われる。ワーキングメモリは+9と伸ばすことができたが、検査には抽出されてこない、一度覚えたものを忘れやすいという特徴は残っている。一度学習した教科内容も忘れることが多々あり、度重なる復習が必要とされる。知的な遅れを持つ他のお子さんの場合にも同様の傾向が認められ、何回も復習することにより学んだことを身につけることが可能となる。幼児期から苦手なものは、本人が興味を持つ課題に置き換えて長期トレーニングすることにより、克服することが可能となる。状況を把握する力や新規の物事を取り入れる事の困難さなどの問題は残るが、本人がそれを自覚し、前もって対処方法がわかっていれば、十分に社会に適応することができる。本人が読み取ることができない状況や心情は、わかりやすく教えていくことで身に付くようになる。人を気遣うやさしさは垣間みられる。前頭前野の脳活動が減弱している場合、人の立場になって考えたり、人の気持ちを理解したりすることが弱いと言われるが、これも育つ環境の中で教えられることにより、身に付くことができるものと思われる。

小集団のSSTの中で達成感を積み上げることにより自信を育むことができ、そうすることで強い恐怖心を軽減させることができた。

CRN名誉所長小林 登先生は、子ども学の中で「子どもは、生活環境から大きな影響を受ける。」と言われているが、育つ環境の中で苦手な事も克服しうるものだと思う。子どもの障害を知り、教育や養育自体に対して自暴自棄になるケースがあるが、子どもの実態をよく理解し、子どもの計り知れない可能性を信じ、よりよい環境を提供することにより、その障害の度合いも軽減することができ、より生きやすくすることができるのではないだろうか。


  • *1. 子どもの知的活動を認知処理過程と習得度から測定し、検査結果を教育的働きかけに結びつけて活用する知能検査。
  • *2. 認知能力の教育的、臨床的、診断的アセスメントをするための検査であり、 WISC-III の更新版である。このバージョンでは、学習に必要な個別能力の指標が追加された。

筆者プロフィール

長田 有子、臨床発達心理士、認定音楽療法士、 CRN(チャイルド・リサーチ・ネット)外部研究員

アメリカバークリ音楽大学卒業、フランス国立音楽音調研究所にて研修、聖徳大学大学院博士課程卒業、成育医療センター、子どもの虹センター被虐胎児施設、調布障害児学童「くれよん」「レインポー」にてSST ・療法を行う。

日本子ども学会理事、日本小児神経学会会員、音楽療法学会会員、臨床発達心理学会会員。

調布発達支援教室

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