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日本版「Listening to Mothers」調査の準備研究―日本の周産期ケアを見直してみませんか?

岸 利江子 (甲南女子大学客員研究員・昭和大学横浜市北部病院助産師)

2010年6月 3日掲載

要旨:

Listening to Mothers調査とは、NPO法人Childbirth Connectionによって2002年と2006年に実施され、妊娠・出産・産後・育児・就労について、女性の態度、気持ち、知識、価値観、受けたケア、行動、その結果について広く調べたものである。この調査はアメリカの女性の周産期の体験を理解し改善するための鍵とみなされ、周産期ケアのEBP(エビデンス・研究結果に基づいた実践)の根拠として、アメリカでは臨床実践、教育、研究、政策に利用されている。妊娠・出産・育児の体験について日本とアメリカを比較しつつ、日本におけるドゥーラサポートのニーズについて明らかにするために、Listening to Mothers日本版調査が始まった。日本では周産期医療をとりまく状況が年々変化しているため、本文では、今後の研究体制、研究の方向性や期待なども合わせて述べている。

ドゥーラ研究室でイリノイ大学シカゴ校看護学部に所属しながら連載記事を執筆してくださっていた岸 利江子さんが、帰国後に継続している研究についてのレポートです。



1.アメリカのListening to Mothers調査って,何?


Listening to Mothers調査は、NPO法人Childbirth Connection(創設1918年)によって2002年と2006年に実施され、アメリカの女性の周産期の体験を理解し改善するための鍵とみなされている調査です。この調査では、妊娠・出産・産後・育児・就労について、女性の態度、気持ち、知識、価値観、受けたケア、行動、その結果について広く調べています。この調査によって得られたデータの多くは、普段カルテに記録されない内容であったり、他の公のデータベースでは網羅されていなかったり、全国レベルでは調査されなかったりしたものでした。また、「アメリカでは出産の5%がドゥーラに付き添われている」というデータを出した画期的な調査でもありました。

この調査によって得られる情報には例えばこんなものがあります。
   お産の時の医療介入(薬や処置)
   受けたケアに満足かどうか
   妊娠中の情報源
   産後のうつ症状
   産後の不調
   産後の職場復帰
   夫婦の家事分担

他にも、望まない妊娠の率、不妊治療の率、出産施設を選んだ理由、両親学級の受講、薬を使わない産痛緩和法の種類と使用率、帝王切開の理由、母乳育児の希望と実際、お産体験のトラウマ、出産費用、医療訴訟についての意見、医療介入についての知識、インフォームドコンセントのありかた、産前・産後の健診の内容、託児の手配など、重要な情報が報告されています。また、数字のデータだけでなく、女性の生の声(言葉)がたくさん集められています

アメリカ版の質問票と報告書はChildbirth Connectionのウェブサイトですべて公開されています(http://www.childbirthconnection.org)。

そして、この調査によって得られた情報や提言は、周産期ケアのEBP(エビデンス・研究結果に基づいた実践)の根拠として、アメリカでは臨床実践、教育、研究、政策に利用されています。


2.「ドゥーラ研究室」との関連は?

2005年に「ドゥーラ研究室」がオープンして以来、ドゥーラサポートについてのアメリカの情報を紹介してきました。が,妊娠・出産・育児をとりまく状況が日本とアメリカでは異なるため,アメリカで発達しているドゥーラサポートを日本にそのまま取り入れることはできなさそうです。そこで、女性の妊娠・出産・育児の体験について、日本とアメリカではどこが似ていてどこが異なるのか,また、日本におけるドゥーラサポートのニーズについても明らかにしたいと思いました。

こんな経緯で、アメリカで初めての妊娠・出産・育児の体験についての全国調査といわれるListening to Mothers(母の声を聴く)質問票の妊娠期~産褥早期についての日本語版開発を始めました。


3.今後の研究体制

現在は、「周産期から育児期に関する質問票の日本語版開発:予備調査の完了」として、文部科学省の科学研究費による助成と甲南女子大学の倫理委員会の審査を受けながら、全国調査に向けてさらに準備を進めています。今年中にデータを集めます。

以下の専門家の方々とチームを組んで行っていきます。

・千原泉先生(産婦人科医師、疫学者、公衆衛生修士(イリノイ大学母子保健疫学)、自治医科大学公衆衛生学助教)

・吉田穂波先生(医師、産婦人科専門医、医学博士、公衆衛生学修士(ハーバード大学臨床疫学)、安部フェロー)


4.研究の方向性や期待など

日本では周産期医療をとりまく状況が年々変化しています。産科施設の閉鎖、産科医・助産師の不足、増える帝王切開率、経済面では妊婦健診の無料化、出産育児一時金の増額、子ども手当の支給などにより、お産や子育てをする女性の体験は大きく変化しています。また、地域格差の拡大、所得格差の悪化、特に若い世代の貧困層の増加、DVやうつなどのメンタルヘルス問題の増加、国際化などの社会全体の変化も、女性の妊娠・出産・育児・就労の体験とその家族の生活に大きく影響を及ぼしている可能性があります。

専門家が適切なケアを考えるため、そして政治家が効果的な政策を進めるためには、実態を理解することが必要です。妊娠・出産・育児の現実について一番よく知っているのも、専門家によるケアや政策が良くあってほしいと一番願っているのも、やはり、実際に妊娠・出産・育児・就労を体験している女性だと思います。

本研究を基に、後の全国調査では、
・ 女性は妊娠・出産・育児・産後の就労についてどんな体験をしているのか?
・ 女性は周産期ケアや育児支援についてどんな価値観や考えをもっているのか?
・ どんなケアが満たされていて、どんなケアが足りていないのか?
という実態について、できるだけ正確な情報を提供します。

さらに、さまざまな仮説検証により、
・ 地域、施設の種類、経済レベル、年齢などによる差や特徴はあるのか?
・ どんなケアは有効で、どんなケアは有害な結果を生む可能性があるのか?
などの相関関係を明らかにできればと思います。

国際比較によって日本の特徴を国内外に発信しつつ、日本の女性の体験を理解し、最善の支援のあり方に貢献できることを願っています。

現在、予備調査にご協力いただける医療施設・NPOを募っております
。例えば、産科、小児科、育児サークルなど、ご自分の施設に来られるお母様たちがどんな妊娠・出産・産後・育児・就労の体験をされているのかご興味があり、ご協力いただける場合などございましたら、ぜひお知らせください。


■CRN編集部より

この研究内容にご関心・ご興味をもたれた医療施設・NPOの方はCRNお問い合わせページ(https://enquete.benesse.ne.jp/forms/o/wedb92e108/form.php)よりご一報ください。岸さんに取り次ぎさせていただきます。

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