携帯電話の所有率は年々高まっている。また小学生・中学生・高校生と学年が高くなるにつれて所有率は高く高校生においては90%以上にもなる。しかしながら、子ども達にとって携帯はどういう物なのか、どういう使い方をしているのか実態が見えていない。そこで、2003年末から2004年夏にかけ、子ども達に第3世代携帯電話を自由に使用してもらい、メール、写真、動画についてどのように利用しているのか、コミュニケーションの特徴などを調査し、「子どもの次世代携帯利用実態」で報告した。今回のレポートでは、絵文字の使い方とメールの文章の特徴に焦点を当てて、さらに考察を深めてみた。
■調査概要
●使用携帯電話
au Wシリーズ(3G CDMA)
この携帯端末でのメール機能は、テキスト・絵文字・写真・動画など
●被験者と調査期間
年齢や居住地(都会と郊外)の異なる子どもをみるために、以下の4グループについて調査した。
グループA 東京都在住の高校2年生 女子3人(2セッションの期間調査)
2004年3月21日~4月10日
2004年8月6日~9月16日
グループB 岡山県在住の中学3年生 女子3人
2004年5月24日~6月13日
グループC 岡山県在住の小学生 女子3人
2004年6月24日~7月15日
グループD 東京都在住の中学3年生 女子3人
2003年12月29日~2月14日
●調査方法
3人を1グループとして携帯を貸し出し、メールを自由に利用してもらい、送受信されたメールをそのまま回収した。
ただし、メールの送受信箱の容量を超えたため、やりとりされた全てのメールデータを回収出来たわけではない。調査期間は、利用期間ではなく回収を行えた期間を示した。
■結果
通常の文章と異なり、メールでの文章は、メール独自の文章特徴がみられた。そこで、メールの文章にはどんな特徴があるのかを調べた。
1. 句読点
句読点が少ししか使われていない。通常、句読点が入りそうな文節や文章の終わりには、絵文字が使われたり、スペースが使われたりしている。特に、メールの最後の文章には句読点は使われていない。
2. 改行
個人によって文章の切れ目や、話の内容の切り替わりの時に改行を行っているが、ほとんどの場合、改行は行っていない。
話の切り替えの代わりに絵文字を挿入している。
3. 漢字・平仮名・カタカナ・促音・拗音等
平仮名を使うことが多く、漢字が少ない。また、通常平仮名で書かれる言葉をカタカナで書いていることが多い。
促音や拗音等を頻繁に使うことが多く、通常は表記しない母音を小さい文字で書いていることが多い。また、「―」や「~」のような伸ばしが多くみられる。
こうした言葉の使われ方は、感情を伝えるための表現方法の1つだと考えられる。
例)だったんだろうぉなぁ~
増えていくぅ~
そぉだよねぇ
てきとぉでいぃよね
4. 接続詞
「さて」、「ところで」のような接続詞が使われていない。通常接続詞が使われる部分には、接続詞の代わりに絵文字が使われている。
また、主語の後にくる「は」、「が」等も省略されていることが多い。
5. 誤字脱字
同音異義語に関しての誤字がみられた。
例)「可愛いかった」
「可愛い」はそもそも当て字であるが、「かわいい」であれば「可愛い」、「かわいかった」は「可愛かった」と送り仮名をふるのが通常である。
「可愛いかった」だと「かわいいかった」と読めるが、送信者、受信者ともに「かわいかった」と表記したかったと思われる。
このことから、メール文章の漢字変換をどのような方法で行っているかが推測できる。携帯のメールでは長い文章を一度に漢字変換すると、誤変換が起きやすい。そのため単語ごと、節ごとに変換させることで誤変換をしなくてすみ、早くメールを打つことが出来る。
つまりは「可愛いかった」も、「可愛い」+「かった」と打っているのだろう。また、携帯のメールの機能として、1回使った言葉は2回目以降、候補文字として表示される。そのため、間違った言葉であってもずっと気が付かないで使い続けてしまうことが多いと考えられる。
ちなみに、今回の文章では「かわいくない」は「可愛くない」と送り仮名をふっており、送り仮名は合っていた。
例)漢字の変換間違い
誤「前々」 正「全然」
「お知える」 「教える」
「来て」 「着て」
6. 疑問符や感嘆符
文末が「!」や「?」等の感嘆符や疑問符で終わることが多い。
メールがおしゃべり感覚で使われていることから、相手に言葉を投げかけるような文章が多いと考えられる。
また、感嘆符や疑問符は、感情表現の1つとして多く使われているのだろう。さらには、上向きと下向きの矢印の絵文字を文末に使うことにより、話し言葉の尻上がり尻下がりを表現しているようである。
7. アラビア数字と漢数字の使い分け
メールは横文字の表記であるが、文中で使われる数字にはアラビア数字と漢数字を混ぜて使われている。例えば、数量を表す数字であっても、アラビア数字と漢数字の両方を混ぜて使われている。
これは、メールを打つときの変換の仕方によって現れる、メールの文章の表記の特徴であるといえよう。つまりは数量が多い場合には英数字として入力した結果アラビア数字になり、1桁の数量の場合は平仮名打ちをしたものを数字に変換しているため漢数字の表記になっていると思われる。
8. 言葉遊び
絵文字や同音異義語を上手に使い、暗号と称した言葉遊びをしていることがある。
例)
今日発表会
皆に藁
た。ハズ
かった。
→「今日英語発表会あり皆に笑われた。恥ずかしかった。」
今日部打津田根
→「今日美術部だったね」。
シャトル打津田。
津居田化ナ
→「シャトルランだった。筋肉付いたかな」
早苦。ナ木矢
→「早く注射行かなきゃ」
背景(-1)て見た
→「背景変えてみた」
死体・・・!
→「ゲームしたい・・・!」
居間荷物(-1)
いない~
→「今家にも親いない~」
間あくて買った~井伊んだケドね!
→「まあ欲しくて買ったからいいんだけどね!」
が十
よ宇は一時辛
ストだ~
→「ありがとう 今日は一時からテストだ~ 」
誰か私2安見をさい
→「誰か私に休みを下さい」
■考察
メールの文章にはメール独自の特徴があり、通常の文章とは異なる点がいくつもあることが分かる。同時に若い世代にとっては、こうした文章を書くこと、読むことに慣れ親しんでいるわけであり、携帯メールの文章が通常の文章と感じているのかもしれない。
文章や絵文字にしても、それぞれの仲間同士で、それぞれの独特の文章や絵文字の使い方がみられることも興味深い。
また言葉は、1つの単語に対して幾つかの意味を持つ場合、前後の文章の流れから、どういう意味の言葉として使われているのかを判断しているが、絵文字でも言葉と同じように前後の文章の流れによって意味の判断がされているとみられる。
さらには絵文字の場合、同じ絵柄に対し、前後の文章から、ただの絵なのか文字としての絵なのかが識別されている。また絵を文字として置き換えて読ませる時も、前後の文章から、その絵がどういう意味の文字の置き換えなのかを識別している。そのため同じ絵柄を使っていても、その時々に絵文字の意味が全く異なる。
例)は「クリップ」とも「添付」との意味にもなる
通常の文章において、漢字を音読みか訓読みかを瞬時に判断して読んだり、いくつかの意味を持つ言葉を前後の文章からどういう意味で使用されているかを瞬時に判断したりしているのと同様、メールの文章中にある絵文字についても、瞬時に色々な読み方をしたり、色々な意味として捉えたりする判断がされているのである。
絵文字の読み方や絵文字の意味を判断することは、通常の文章中で使われている言葉の意味を理解するよりも煩雑であることから、絵文字を多用しているメールの文章は、様々な視点から意味を判断出来る柔軟さや、想像力が多く必要と思われる。この柔軟さや想像力は、メール世代の若者にとっては当然の判断能力なのであろう。
このようなメールにみられる絵文字や文章の特徴は、メール世代の若者にみられる文字の文化の一つといえよう。