携帯電話の所有率は年々高まっている。子どもについても同様で、小学生・中学生・高校生と学年が高くなるにつれて所有率は高くなり、高校生においてはほとんどの子どもが所有している。しかしながら、子ども達にとって携帯はどのような物なのか、どのような使い方をしているのか、その実態が見えていないのが現状であろう。
そこで「子どもとメディア研究室」では、子どもモニターに第3世代携帯電話を一定期間貸与し、期間終了後に端末を回収、メール等の利用頻度や内容等の情報を収集、分析した。その結果をもとに、(1)居住地や年齢による携帯電話の使用形態、(2)絵文字の利用、(3)画像の利用、の3点に注目し、考察を行った。
2.調査概要
●使用携帯電話
au WINシリーズ(CDMA1X)
この携帯電話のメール機能は、テキスト・絵文字・写真・動画など
●被験者と調査期間
年齢や居住地(都市と地方)の異なる子どもをみるために、以下4グループを設定した。
グループA 東京都在住の高校2年生 女子3人(2セッションの期間調査)
2004年3月21日~4月10日
2004年8月6日~9月16日
グループB 岡山県在住の中学2年生 女子3人
2004年5月24日~6月13日
グループC 岡山県在住の小学5年生 女子3人
2004年6月24日~7月15日
グループD 東京都在住の中学3年生 女子3人
2003年12月29日~2月14日
●調査方法
3人を1グループとして携帯電話を一人1台貸与し、メール機能を自由に利用してもらう。調査期間終了後、携帯電話を回収し、送受信されたメール等のデータを抽出し、頻度や内容等を分析。なお、各グループにおいて、メールの送受信箱の容量を越える数のメールがやりとりされたため、全てのデータを回収できなかった。そのため、調査期間は、貸与期間ではなくデータ回収期間を示している。
●分析項目
I. 各グループにおける特徴についての分析
年齢、地域による使い方の相違についての分析。
II. 絵文字に関して
絵文字の使われ方、どのような時、どのように使われているかについての分析。
III. 画像等に関して
何を撮り、それを使ってどのようなやり取りが行われているのかの分析。
3.分析 I :各グループにおける特徴
●グループA(東京都在住の高校2年生 女子3人)
・ 絵文字を多く使っている。
・ 頻繁に写真や動画等、画像のやりとりを行っている。
・ 件名を付けることがほとんど無い。
・ 文の最後が、疑問符で終わることが多い。
・ 文が話し言葉。
●グループB(岡山県在住の中学2年生 女子3人)
・ 絵文字を多く使っている。
・ 平仮名が多く、漢字をあまり使わない。
・ 文章無しで、写真だけのやり取りが行われることもある程、頻繁に写真や動画等、画像のやりとりを行っている。
・ 件名が非常に長い。件名が文章になっていることもあり、件名の中だけで、本文とは関係無い独立した内容であることもある。時には、件名だけで内容を伝えきってしまい、本文の方が短いこともある。
・ 感嘆符(!)や疑問符(?)をテキスト打ちせずに、わざわざ絵文字を使っていることが多い。
・ 暗号と称して、当て字や絵文字による文章をやり取りし、遊んでいる。
・ 文が話し言葉。
・ 空欄をうまく使い、縦書きのメール文がある。
・ ()を( だけで使うことが多くある。
●グループC(岡山県在住の小学5年生 女子3人)
・ 件名を付けることがほとんど無い。件名を付ける場合、本文にある言葉の一語を付けている。
・ ほとんどの文が話し言葉であるが、時々、友達口調ではなく「~ます」の言い方をしていることがある。
・ メールをチャット感覚で使っている。メールは、すぐに返信できる(返信される)ことが、前提となっており、メール感覚ではなく、チャットの感覚で使っている。そのため、用事があって受信してもすぐにメールを見られない時や、返信出来ない時には、予め、そのことを友達に伝えている。だから習い事の最中などには、メールを送らないで欲しいと前もって頼んでいる時もある。
・ 「しりとり」や「クイズ」をする使い方をしている。
●グループD(東京都在住の中学3年生 女子3人)
・ 件名を付けることがほとんど無い。
・ 文が話し言葉。
・ 「じ」を「ぢ」で表記している。
・ 拗音も多用しているが、母音をわざわざ表記していることが多い。
考察
各グループ共通して、携帯メールは常にチャット感覚、おしゃべり感覚で使用されていた。メールのやり取りの頻度を見ると、返信は10分以内に行われていることが多い。一般に、メールは非同期的な連絡手段として考えられがちだが、子ども世代にとって携帯のメールはチャットのように時間を共有し、同期的な連絡手段として使われていると感じた。
例えばメールのやり取りは、「もう寝る」、「これから塾だから」等で終わっていた。また、すぐに返信が出来なかったときのメールには、「昨日はもう寝ていたの」、「すぐに返信しなくてごめんね」等の言葉が交わされていた。同期的な使われ方をしていることにより、送信者は受信者の状況を常に確認し気使う様子が窺える。つまり、メールと生活との時間的共有が常に行われており、今の若い世代の携帯メールのやり取りの特徴だといえるだろう。
また、メールの文章の特徴としては、句読点の使い方や、平仮名、カタカナ、漢字の使い方が通常の文章とは異なる点が多くあると感じた。また、拗音や母音の表記、濁点、感嘆符や疑問符、記号、絵文字を使うことにより感情や言葉の抑揚を表現していることが分かった。
4.分析 II :絵文字に関して
本調査に使用した携帯電話には828種類の動く絵文字が用意されている。子どもたちは、絵文字をメールで多様に使用していたため、これらがどのような時にどのような使われ方をしているかに着目し、絵文字の使われ方の分類を行った。
絵文字は各グループで使用されていたが、特に使い方の多かったグループAとグループBの分析結果を以下に示す。
●文とは全く関係を持たない、飾りとして使われ方
文節もしくは単語の前後に飾りとして使われており、絵文字自体に言葉の意味は感じられないが、抑揚を残したい時や雰囲気を連想させたい時、強調したい文節や単語の前後に使っている。
例) 電話して伝えたよ
お願い
やりますよ
疲れた
ストパーかけたの
●文と同じ意味を持つ絵文字を単語の前後に使う、飾りとしての使われ方
絵文字を文と連続して使うことにより、文字の表す意味や雰囲気をより鮮明に相手に伝える役割をしている。
例) 時間だよ
鍛え上げた美になりましょ
ラッキー
おはよう
ごろりんしてました
はしらなきゃ間に合わないかしら
沖縄
●文の感情を表現する使われ方
感情を表現する絵文字には、顔の表情が表現されている絵文字で表現する場合、身体のジェスチャーが表現されている絵文字で表現する場合、水滴類の絵文字で表現する場合、矢印の絵文字で表現する場合、その他の絵文字で表現している場合の5つが見られた。またこれらを組み合わせて表現している場合もある。絵文字は、文字だけで表現しきれない感情を相手に伝える役割をしている。
【顔の表情の絵文字】
例) 感動ものでした
ありがとう
わかった
しってるよ
やばいよね
【身体のジェスチャーが表現されている絵文字】
例) ばっちりだよ
グッドラック
再会だもんね
着く予定だよ
にんにん
良いね
【水滴類の絵文字】
例) いじめるよぉ~
やばいよ
【矢印の絵文字】
例) 遅おきじゃん
帰ってきてさぁ
【顔や水滴類以外の絵文字】
例) うれしいです
あっ
忘れてたからねぇ
どうしよう
【組み合わせでの表現】
例) こういう風になりたいわ
●感嘆符や疑問符の使われ方
テキストで感嘆符、疑問符を使っていることもあるが、わざわざ絵文字を使って強調したり、装飾性を持たせたりしている。主に文末に使われている。
例)
●文字の置き換えとしての使われ方
文字の置き換えとしての使われ方には、大きく3種類あげられる。
【絵に共通のイメージを持つ絵文字】
象徴性の強い絵であるため、送信者と受信者が絵に対して共通認識をし易い絵文字、つまり同じ言葉を連想しやすいものがこのような使われ方をしている。
例) いっぱい送っちゃおっと
何の見てるの?
男子の対イタリア戦
←いいな~これ
【絵と文字が合わさっている絵文字】
絵に文字が描かれているため、意味をそのまま伝えやすい絵文字がこのような使われ方をしている。
例) 本当にだよ
じゃないよ
【前のメールで意味を特定してから使われる絵文字】
抽象的な絵であるため、色々な意味として捉えることができ、また意味が認識しにくい絵文字だが、過去にやり取りをしたメールによって絵文字に特定の意味を与えることができるため、2回目以降のメールで特定の意味の言葉を連想出来る使われ方をしている。
例) 最初のメール ... 今日コンビニいく?
2回目以降のメール ... 急いでにかけつけます。
最初のメール ... あした学校いく?
2回目以降のメール ... 行くのかしら?
最初のメール ... カラオケ案は
2回目以降のメール ... も行きたいな
考察
絵文字は、大きく分けて装飾的な絵として使われている場合と意味を持って使われる場合があることが分かった。意味を持って使われる場合は、文の文法と同じように絵文字独自の決まりがみられた。
携帯メールのように短い文章のやりとりで、自分が伝えたいことを相手にできるだけ正確に伝えるために、文字と絵文字を巧みに組み合わせることで表現していることが分かった。
5.分析 III :画像等に関して
●静止画
写していたものは、大きさや量を伝えたい場面や、自分の目の前の状況を伝えたい場面。デザインの意見を求めたり、美容室に行った後の自分の姿を伝えたり、視覚的に伝えないと伝えられない場面での使用がなされていた。その多くがメールの文章で写真の説明を行っていた。
静止画被写体例) テレビの画面・雑誌・広告・PCの画面・携帯の待ち受け画面
マンガのコマ・部屋の様子・街・お店の様子・花・蝶
自分の顔・友達・ペット・キャラクター・食べ物
また、画像に文字や絵を入れる等の加工や携帯電話に内蔵されているフォトミキサー機能を使用しての、写真と文字を組み合わせたムービー作成を行っていた。
●動画
動画で写していたものは、静止画とは異なり、被写体が動いているものや自分が動いている場面が多い。音を伝えたいために写している場合や物を色々な角度から細部に撮りたい時に使われているように感じた。
音を写したいとした意図がある場合を除き、動画を写している時に特に言葉で説明しながら写すことはしておらず、無言で映像だけを写していることがほとんどであった。
動画被写体例) テレビの画面・部屋の様子・物・文章・音が出るぬいぐるみ
走行している車から見える窓の外の風景・雨の様子
ペット・ホタル・キャラクター
動画は、全体を写してから細部を写している。また、携帯に内蔵されている機能を使い、動画にあわせた文字を挿入する等の加工もしていた。
考察
静止画、動画ともに共通していることとして、被写体の多くが、著作権があったり肖像権があったりするものであった。個人で楽しむために撮影したには違いないが、友人に送信した時点で、これらの権利はどのようになるのかが今後問題になるかもしれない。
今回の子どもモニターが、著作権や肖像権についてどの程度の知識を持ち、どの程度の認識があるのは確認していないが、今後、諸権利に関しての意識調査も並行して行う必要性があると感じた。