CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 子どもとメディア研究室 > 「こがねいメディアキッズ Flash Movieを体験しよう」活動報告書

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

「こがねいメディアキッズ Flash Movieを体験しよう」活動報告書

要旨:

参加した子どもたちからは、ホームページ閲覧が慣れ親しんだ行為となっていることが推測された。FLASH作成においては、キャラクターの描画は完成度も高く、パソコンでのお絵かきに慣れていると感じられた。アニメーションの設定では、子どもたちは予定より高度な技術を利用したアニメーションを作成した。子どもの持つ想像力、応用力が発揮されていた。アニメーション作成ソフトウェアは、子どもたちが持つ想像力を具体化するために有効なツールとなるであろう。子どもたちはインターネットを柔軟にかつ自在に利用し、また情報取得だけではなく、自らの表現力を元にして個性的なアニメーションを作成する様子が見られた。
■概要

実施日時 : 2003年12月26日(木)
会場 : NPOこがねいねっと(東京都小金井市)
講師(報告者) : 川上真哉
アシスタント : 河村智洋(CRN外部研究員)、所真里子(CRN)
参加者 : 10歳~14歳の子ども、男女10名。保護者1名。
使用機材 : パソコン11台 各参加者に一台ずつ割り当て
ADSLでインターネットに接続
全パソコンにMacromedia Flash MX体験版をインストール済み

■活動内容

●タイムテーブル

子ども スタッフ 川上
9:00 開場・受付(参加票確認、名札配布)
9:30 開始 全体説明
家庭におけるパソコン環境調査アンケート
9:50 ホームページ閲覧 パソコン操作補助
子どものグループ把握・聞き取り
参加者以外の友人・知人関係の聞き取り
グループ間の情報の流れ、参加者以外の交流対象・関係を把握し、交流網を浮かび上がらせる

11:00 Flash作成 Flash説明
パソコン操作補助
12:20 次回の連絡
12:30 解散


●着席配置

来場した子どもには友達同士、知り合い同士が近くなるように調整して、図1の様に着席させた。アルファベットは着席した子どもを表し、一人一台パソコンを割り当てた。きょうだい関係にあるのは、B-E、C-D、G-Hであり、同じ学校の同級生にあるのは、A-B-C、D-E、F-G、H-Iである。JはA-B-Cと同じ学校の生徒であるが、学年が異なる。

 
lab_02_03_1.gif
図1 参加者の着席位置と人物相関図



●家庭におけるパソコン環境調査アンケート

参加者のパソコン利用状況を把握するために、ワークショップ開始時に全員にアンケートを行った。アンケート結果を表2に示す。参加者10名のうち、5名の家庭にインターネットに接続されたパソコンがあり、5名の家庭にはパソコンが無く、主に学校でパソコンを利用していると回答された。インターネットに接続されたパソコンがある家庭では、特に制限・約束事などの無い状態でパソコンが利用されていた。


【質問項目】

Q1: どこでパソコンをよく使っていますか?
Q2: あなたのお家にパソコンはありますか?
以下の質問は、Q2において自宅にパソコンがあると答えた参加者のみに質問した。
Q2-1): お家のパソコンはインターネットに繋がっていますか?
 繋がっている     繋がってない
Q2-2): 繋がっている方に質問します。インターネットの回線速度を書いてください。
Q2-3): お家で、あなたがパソコンを使うのに約束事がありましたら、書いてください。
Q2-4): 家族の中でインターネットをよく使っている人を、何人でも書いてください。
Q2-5): 上にインターネットをよく使っていると書いた人の職業を書いてください。


表2 家庭におけるパソコン環境調査アンケート結果   Q1 Q2 Q2-1) Q2-2) Q2-3) Q2-4) Q2-5)
A 自宅 有 接続        
B   無          
C 学校 無          
D 学校 無          
E   無          
F 自宅 有 接続 80M(?) なし 母 母:主婦
G 自宅 有 接続   なし 父母 母:医者
父:建設
H 自宅 有 接続     父 父:建設
I 自宅 有 接続   なし 父母姉 父:音楽関係
姉:中3
J パソコン部 無


■ホームページ閲覧

開始時刻以前に来場した子どもには、PC席に着かせ、自由に使用してよいと説明したところ、子どもは自主的にいくつかのホームページを閲覧していた。音楽関連サイトを閲覧した子どもは、ミュージシャンの曲を配信するサイトを閲覧し、音楽を聴いていた。

開始時刻となり、講師は改めて子どもによく観にいくWEBサイト、よく遊ぶWEB上のゲーム、調べたい・興味のある事柄についてのWEBサイト等、特にFLASHムービーのサイトを閲覧するよう促した。


●キーワード検索

ホームページ閲覧では、子どもがWEB上の検索サイトからキーワード検索を利用して、見たいホームページを開くケースが多く見られた。ここで、見たいホームページの抽象的なイメージに基づいて検索し、出力結果に含まれたホームページに対して偶々興味を持ったケースと、初めから開きたいホームページを具体的に意識して、過去においてそのホームページを実際に開くことが出来た検索手順を再現したケースが見られた(A、B、F)。

キーワード検索の利用時には、文字入力にキーボードを利用する子どもの他に、IMEパッド-手書きを利用する子どもが複数見られた(B、J)。手書きパッドへの入力には、正確な文字筆記ではなく、マウスを用いて漠然とした文字形象を描画している様子であった。手書きパッドは候補漢字を複数表示するため、曖昧な形象を入力するだけでも目的の文字入力を実現することができる。それらの子どもは、同じ中学校の生徒であり、キーボード入力に頼らずとも、マウスのみを利用してホームページの閲覧を問題なく実現していた。


●コミュニケーションの展開事例

子ども(F)が閲覧していたFLASHムービーの音声を聞いて、別の子ども(A)が「懐かしい!」と声を上げた。声を上げた子ども(A)は中学2年生で、閲覧していた子ども(F)は小学4年生であった。それぞれ家庭にインターネットに接続されたPCがあり、日常的にインターネットを利用している子供であった。子ども(F)には中学1年生の兄(不参加)がおり、普段からホームページの情報を兄から教えてもらっている。同一学校内で生徒・児童間にホームページの情報が伝達されるケースは容易に想像できるが、各々の家は校区が異なり、学校経由・地域的な情報伝播の可能性は低いと考えられる。 尚、こども(A)らの話では、彼らの中学校では、当該Flashサイトを以前は閲覧可能であったものが、閲覧不能となったそうである。

また、子ども(F)は、子ども(A)が閲覧しているFLASHムービーを配信するページに対して興味を持ったが、初対面であったため、なかなか相手に声をかけられないでいた。その様子に母親が気付いて、教えてくださいと言うように促し、子ども(F)は相手(A)の席へ行って頼み、教えてもらった検索手順に従って自分の席で同じFLASHムービーサイトを閲覧することができた。子ども(A)と子ども(F)の間で行われたコミュニケーションは図の同一FLASHの閲覧経験と、FLASHサイト情報の授受である。

仲のよい子どもは隣同士で同じホームページを閲覧、同じゲームを遊ぶ様子が見られた(D-E、F-G、A-B-C)。参加した子どもはFLASHムービーという単語に対して、既に理解があり、「FLASHって何?」というような戸惑いは見られなかった。中には既に良く見に行くサイトがあり、お気に入りのFLASHムービーを持っている子どもも複数いた(A、F)。

 
lab_02_03_2.gif
図2 参加者の人物相関発展図



●まとめ

約1時間のFlashサイト閲覧において、図2に示す様に、A-F間のコミュニケーションの発展が見られた。会場はA-B-C-D-EとF-G-H-I-Jが対面するパソコン配置となっており、左右の子ども同士のコミュニケーションは容易であるが、対面同士でのコミュニケーションは難しかったと思われる。A-Fはそれぞれテーブルの端に位置し、横から回り込むことで容易に近づくことができたため、コミュニケーションが行われたと考えられる。

■FLASH作成

はじめに講師から、今回のFLASH作成では、アニメーション作成の基本である描画と画像の平行移動を体験してもらうことを説明した。


●描画

子どもには、まず描画ツールの使い方を説明し、自由に絵を書いてもらった。参加した子どもは学校や家庭でパソコンを使ってお絵かきをした経験を有しており、FLASHの描画ツールは、他の一般的なお絵かきソフトに類似したインタフェースを持つため、描画ツールのアイコンに戸惑う様子は見られなかった。多くの子どもは線ツール、鉛筆ツール、矩形ツール、楕円ツール、ブラシツール、インクボトルツール等の描画ツールを利用していた。ただし、FLASHの描画オブジェクトは、ビットマップとは異なるベクターグラフィックの形式で扱われており、図形の塗りと外周(線)が分かれている点や描画の修正方法がビットマップ形式の描画ソフトと異なる点で戸惑う様子が見られた。ほとんどの子どもがキャラクター等の具体的な絵を描画した。


●タイムライン設定

次にフレームを設定し平行移動の動作を指定させる方法を説明した。FLASHのアニメーションでは、動作の切れ目となるフレームを指定し、それらのフレームにおける描画オブジェクトの状態を指定すると、前後の描画オブジェクトの状態を自動的に結合するように、フレーム間の動作が自動的に決定される。この操作は単純であり、少ない作業量でアニメーションを設定することが出来る。子どもは、まず初期状態の描画から次のフレームを指定し、描画オブジェクト位置を変更して最も基本的なアニメーションを設定し、動作を確認した。さらにこの仕組みを繰り返して利用し、様々に動作するアニメーションを作成した。


●多層レイヤーの利用

何人かの子供は、さらに、より高度なアニメーションの技法を模索した。例えば、背景と動作オブジェクトを分けることを意図したり、オブジェクトの重ね合わせについて質問したり、等が見られた。そこでそのような子どもにはレイヤーの使い方を説明し、利用してもらった。

各参加者が作成したFLASHアニメーション作品はFloppyDiskに保存し、お土産として持ってかえってもらった。


■考察

参加した子どもたちは、ワークショップが開始されると、短時間で目的のサイトを開き、閲覧を始めていた。検索時においても文字パッドを利用して滞ることなく文字入力を行う方法を身に付けており、ホームページ閲覧が、参加した子どもたちにとって慣れ親しんだ行為となっていることが推測される。インターネット初心者では、キーボード入力に手間取るケースや、サイトの構成を推測することが困難なために閲覧が進まないケースが見られるが、参加した子どもたちは皆、そのような状態からは大分に進んでいる印象をうけた。特に文字入力に文字パッドを利用する際、正確な筆記にこだわらず、曖昧な形象の筆記で目的の漢字を獲得する手法などは、全く予想外の行動であった。彼らはキーボード入力に頼らずにインターネットを自在に活用しており、子どもの持つ柔軟性がインターネット利用の場面においても発揮されていると言えるであろう。

FLASHサイトの閲覧時に、ある子どもが別の子どもにとって既知であるFLASH作品を閲覧したケースは、インターネット上にあるFLASHサイトと作品の数を考慮すると、大変珍しいケースであると思われる。学校や地域での情報伝達があったのか、検索方法に(学校での指導、子どもが持つ特性、検索サイトの特性等による)同一方向のバイアスが加わっていたのか、偶然であるのか、結論を出すことはできないが、興味深い出来事だと思われる。

FLASH作成においては、描画は学校や家庭で豊富な経験を持っていると考えていたが、実際、多くの子どもたちによるキャラクターの描画は完成度も高く、パソコンでのお絵かきに慣れていると感じられた。アニメーションの設定では、それらの描画を基にして単純な動作を付ける程度のものを予定していたが、実際には、子どもたちは予定より高度な技術を利用し、内容的にも豊かなアニメーションを作成した。中学生の参加者の多くは多層レイヤーを用いて背景と動作オブジェクトを分離して、オブジェクトだけが動作するアニメーションを作成した。小学生による作品の多くは、初めに描画した絵から物語を生み出そうとする意図が見られた。キャラクター間の会話やキャラクターの特徴を生かして変化を見せる等の工夫が見られるアニメーションが作成された。スピード感や躍動感のあるアニメーションを作成した子どももいた。そうしたスピード感や躍動感は、既知のFLASH作品や他のメディア映像等から学習したものかもしれないが、子どもの持つ想像力、応用力が発揮されたと言えるであろう。多くのFlashムービー作成の解説書では、Flash作成ソフトの機能解説が主として扱われていることが多いのに比べ、実際の子どもたちは自分の想像力を基にして具体的な作品をイメージして、それを実現する手法として様々な機能を利用する。このような点を考慮して活用するなら、アニメーション作成ソフトウェアは、子どもたちが持つ想像力を具体化するために有効なツールとなるであろう。

今回のワークショップを通じて、子どもたちはインターネットを柔軟にかつ自在に利用し、また情報取得だけではなく、自らの表現力を元にして個性的なアニメーションを作成する様子が見られた。

このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

研究室カテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP