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所長ブログ

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何か変だよ、日本の発達障害の医療(6) 教育機関の過敏反応?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2019年11月29日掲載
発達障害についての社会的な理解が不十分であると感じた私は、20年くらい前から、社会的理解を広げようと、講演会や一般向けの本の出版などを通じた活動をしてきました。

発達障害はご存知のように、注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム障害、そして学習障害という異なった障害の総称であるために、その見立て(診断)にはなかなか難しいところがあります。これまでにこのブログでも述べてきた過剰診断などは、その結果生じてきた問題です。 一般の方々にも分かり易いように、注意欠陥多動性障害や自閉症スペクトラム障害の行動の特徴を「気になる行動」という分かり易い言葉で説明してきたのも、社会的な理解を助けようという気持ちからでした。

しかし今私は、そうした分かり易い言葉で表現したことで、発達障害によらない「気になる行動」を、園や学校の現場で、発達障害に容易に結びつけてしまう傾向を助長してしまったのではないか、と反省しなくてはならない事態が生じていると感じています。

5歳の女の子が、通っている幼稚園から「発達障害かもしれないので、専門家に診てもらうように」助言され、私の外来を受診されました。発達障害かもしれないと言われた理由は、教師の指示に従わない、ということでした。

教師の指示に従わないという「気になる行動」から考えられる状態は、知的障害で指示の言葉が分からない、自閉症スペクトラム障害のために、集団場面での指示の意図が理解できない、あるいは注意欠陥多動性障害のために、他のことに気が散ってしまい指示を聞いていない、のいずれかであると思い、本人と話を始めました。名前や通っている幼稚園の名前、好きな食べ物などについての私の質問には難なく応えられます。家庭での行動の特徴を聞いても、不注意や多動などの行動特徴はありません。親に家庭での行動で困っていることはないか聞くと、「この子は頑固で何かに熱中していると、それをやめられないんです」ということでした。そして現在通っている幼稚園は、しつけが厳しいことでよく知られている幼稚園であることを私に告げたのです。

ここで私は合点がいきました。この5歳の女の子は、いわゆるカンの強い子(頑固で自己主張の強い子)であったのです。子どもの気質と、幼稚園の運営方針のミスマッチであろう、という意見を伝えました。後日再診したときに、幼稚園を転園したことを知らされました。そして新しい幼稚園では、何の問題もなく過ごせています。

最近経験したもう一例についても紹介します。小学5年生の男児が、担任から「医療機関を受診して診断を受け、薬を飲んだ方が良い」と言われて来院されました。 受診のきっかけは、この男児が普段からあまり仲の良くない同級生と口喧嘩をし、それがきっかけでその同級生が、不登校気味になってしまったということでした。受診された母親は、不登校気味になってしまった親から責められたことをつらそうに語ってくれました。この5年生男児は、少年野球のチームでピッチャーをしており、私が初診の子どもに聞く常套質問である「大人になったら何になりたい?」という質問には「プロ野球選手になりたい」との答えが返ってきました。

母親に、「野球チームでは他のメンバーと上手くやっているの?」と聞くと、以前人間関係が上手くいかなかったこともあったが、現在は上手くいっているとのこと。 成績は中ぐらいであり、また私の質問にもちゃんと答えてくれることから、知的障害やコミュニケーションの問題はないと考え、多動性や衝動性がないかどうか、母親にADHDのチェックリストをつけてもらいました。質問紙のみでは診断はつけられませんが、傾向があるのかどうかという判断の助けになります。しかし、ADHDのチェックリストでも、多動性・衝動性は高くありません。

医療機関を受診するように薦めた担任の教師は厳格で、男児はこれまでもしばしば叱られたようで、本人も「あまり好きでない」と告白しています。なお小学校低学年の時には、特に学校生活で問題になったことはなく、親が当時の担任教師から息子の状況について相談されたこともなかったようです。

私は現在の教師とこの5年生の男児も、ミスマッチ(相性が合わない)が原因ではないかと見立てました。もし注意欠陥多動性障害を含めた発達障害であるとすれば、その症状は保育園・幼稚園あるいは小学校低学年の時に顕在化するのが普通です。この男児は小学校低学年までそのようなことはなく、また診察や親のチェックリストでも、発達障害を思わせるような所見はなかったことも、私が上記の見立てに至った理由です。

教師が「気になる行動」は確かに発達障害のサインであることもあるのですが、子どもの気質や教育現場との相性によっても説明できることも多いのです。

もちろん「気になる子ども」を医療機関にどんどん紹介していただいて構わないのですが、その前に不適切に見える行動が、本人の気質や、園や学校との擦り合わせが上手く行かない「ミスマッチ(相性の悪さ)」に起因する可能性について、教師としての経験知を活かした見立てをもう少しやっていただきたいと思います。

なにか、園や学校現場が発達障害に過敏になっているのではないかと感じるのは私だけでしょうか?


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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