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何か変だよ、日本の(特別支援)教育(1)

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私が専門とする医学・医療の世界で、近年になって盛んに唱えられるようになってきたスローガンが2つあります。一つは、エビデンス・ベースト・メディスン(EBM)で、治療は個人の医師の「さじ加減」ではなく、きちんとした科学的事実(エビデンス)に支えられた方法によって行うべきである、というものです。もう一つはテーラード・メディスン(tailored medicine)です。テーラーは仕立てるという意味ですが、同じ人間とはいっても一人一人体質が違うので、治療法は個人個人の特性に合わせたものにするという意味です。ガンの治療に使う抗がん剤は、同じ薬でも人によって効果や副作用が異なることが知られていますが、前もってそれらを予測する検査法なども開発されており、テーラード・メディスンの代表例です。

 
昭和60年に開かれた日本の教育の大方針を決める(臨時)教育審議会で、教育における一人一人の個性を重視する方針が打ち出されました。第一部の「教育改革の基本方針」には、その冒頭に「(1)個性重視の原則」が謳われ、「個性重視の原則は、今次教育改革の主要な原則であり、教育の内容、方法、制度、政策など教育の全分野がこの原則に照らして、抜本的に見直されなければならない」とあります。

障害者権利条約批准後、文科省は障害のある子どもの受け入れに際して「合理的配慮」を行うように通達を出しました。文科省のウェブサイトには「合理的配慮は、一人一人の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるもの」とあります。これも障害をもつ子どもの特性(個性)を尊重するという方針に沿っています。

さて、本当に教育現場で子どもの個性が重視されているでしょうか? 私は現場では、文科省のそうした方針に追い付いていないような気がします。以下に、最近の私の経験した例を述べます。

ある海外の日本人学校に編入を希望した、高機能自閉症の男児への校長の返事です。「本学では一斉授業を原則としています。一斉授業を原則としているということは、生徒が同じスピードで同じ内容を学習するということであり、A君は一斉授業に同じスピードで付いてゆけないということ(注:前校では支援員がついていた)ですので、本校はA君を受け入れることができません。」

また私が診ている多動性障害をもつ子どもが、登校を渋るようになったために、登校時間を緩やかにするように求めたところ、担任教師の指示は「◯◯君だけ特別扱いはできない。不登校の子どもの通う特別なクラスにいくように」でした。本人は学校から拒否されたと感じ、一時的にパニック状態になってしまいました。

高い知能と多動傾向のある、いわゆるギフティッド児であるB君。様々な体験学習の機会として学校側が計画した、ものづくりや社会科見学などのプログラムの中から、詩吟を選びましたが、選んだのはB君一人だったために、突然中止。しょげているB君を見かねた親が、なんとか実現して欲しいと学校側に要望したところ返ってきた返事が、「B君だけ特別扱いはできません」という返事。

私が診ている発達障害の子どもの中にも、この「特別扱いできない」という拒否の返事を学校からもらった子どもが複数います。
これらは冒頭の個性の重視や合理的配慮という方針に沿った決定なのでしょうか?

医学の分野で常識となりつつある、一人に合わせるテーラードの思想は、教育界にはないのでしょうか?
特別支援教育だけでなく、日本の普通教育にも「何か変だよ」と言いたくなります。
個性を重視するということは、一人一人を「特別扱いする」ということなのではないでしょうか?


筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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