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所長ブログ

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英単語の丸暗記では英語力はつかない?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2019年9月13日掲載
人の子どもは、教えなくても母語を話せるようになります。まったく言葉を理解できない状態で生まれてきた赤ちゃんが、言葉を獲得していく過程の解明は、発達心理学の大きな課題の一つです。赤ちゃんは自分の周りにいる人の喋る言葉を何回も繰り返して聞き、1歳前後になると50〜70の単語を理解するとともに、最初の単語(ママ、パパ、ワンワンなど)を喋るようになります。理解できる単語数の増加とともに、喋ることのできる単語数も増え、2歳前後になると200語位の単語が喋れるようになります。そして喋ることのできる200語を組み合わせて、初めて二語文が喋れるようになります。二語文は英語ではword combinationと言いますが、これは単語を文法的に正しく「組み合わせる(combine)」ことができるようになった証拠です。さらに理解し喋れる単語数が増加し、単語の種類(品詞:名詞、動詞、形容詞、前置詞)が増えるにしたがって、子どもは会話ができるようになる、というのが子どもの母語獲得の道筋です。

最近、日本の中学生の英語力についての全国的な調査が行われ、その成績が公表されました。中3の英語では、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能のうち、「話す」の平均正答率が低かったと報じられています。私は英語学習の専門家ではありませんが、英語学習の中核は単語理解ではないかと常々思っていました。

私が中学校で英語を学び始めたころは、文法と単語の暗記が英語学習の中心でした。当時の大手の学習出版社の「豆単」という愛称で呼ばれた、いつでも英単語を学べるような手のひらサイズの単語辞典は人気がありました。また、単語カードを作って単語の暗記に精を出したものです。

文法の重要性も強調され、当時の英語教育ラジオ番組で人気のあった、ある大学教授は、「マーザー、ファーザー、アサクサ、ゴー(Mother, Father, Asakusa, Go)では、英米人に意味は通じないよ。ちゃんとMother and father go to Asakusaと言わなくては」と繰り返し言っていました。

私の個人的な経験からいうと、相手の英語を理解し会話するときに一番重要なのは理解できる単語数ではないか、と思っています。以前このブログで紹介させていただいた、復習を繰り返すことによる英語の学習法で主に身につけたのは単語でした。「Mother Father Asakusa Go」だって、英語を母国語とする人が聞けば、「母(と)父(が)浅草(に)行く」といった意味がおぼろげながらとれるのではないか、と思うのです。

中学生の英語能力の結果についてのある新聞の社説には、「単語が分からないので、聞かれたことの意味が分からなかった、あるいは意味は分かったが言おうとする単語が思いつかなかった」のではないか、と論評されていました。

そして、ブログにこんなことを書く気になったのは、以下の私の個人的体験を後押しするような理由があるからです。

一つは冒頭に書いた、人の赤ちゃんが母語を学習する時の道筋です。赤ちゃんはまず最初に言葉(単語)を覚えます。理解できる単語数が50個以上になって初めて単語を喋り、喋ることができる単語数が200を超えて初めて文を喋るようになるという道筋は、母語でない英語にも当てはまるのではないでしょうか。

もう一つは、英語を公用語にした日本のある大企業で、社員の英語教育の責任者であった方の意見です。この方は「単語力が、英語によるコミュニケーションで一番重要であることが分かった」とテレビのインタビューに答えていました。

英語学習における会話の重要性が取りざたされることが多い昨今ですが、単語の(丸)暗記の重要性についても、再確認されることを願っています。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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