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所長ブログ

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Sustainable(持続可能)ってどういう意味?

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2019年8月 9日掲載
私は1990年代にJICAのプロジェクトをいくつかお手伝いした経験があります。その中で最も深く関わったのは、アフリカ・ガーナでの母子保健改善プロジェクトでした。プロジェクト期間の5年間に調査や評価のために十数回ガーナを訪問しました。JICAの支援にはいろいろな形がありますが、私が関わっていたプロジェクトは「プロジェクト方式技術協力」です。資金援助をするだけでなく、実際に日本の専門家が現地に滞在し、技術移転などのより、顔の見える援助をしようというコンセプトのプロジェクトです。

 当時も今も、世界の支援団体が技術協力の基本方針として掲げている考え方の中に、「適正技術(appropriate technology)の供与」と、「持続可能な開発(sustainable development)」があります。前者は、被援助国で運用可能な技術を移転するという意味です。実際の例ですが、JICAは東南アジアの発展途上国のある病院に最新のレントゲン装置を供与しました。私はたまたまその病院を見学する機会があったのですが、そのレントゲン装置は使われず、ホコリをかぶっていました。私は病院の医師に、どうして使わないのか聞きましたが、返ってきた答えは「故障したが、自分の国には直せる技術者はいないし、日本から技術者を呼ぶお金もない」というものでした。この例は適正技術の供与という原則が守られなかった例です。こういった経験を経て、その国の技術水準(=適正)に見合った援助をしようということで、このスローガンができたのです。

JICAの評価ミッションでネパールに行ったことがあります。その時カトマンズ市内で見かけた奇妙な光景を思い出します。国際的な援助団体(ユニセフなど)の看板がかかった、がらんとした空き家をいくつも目にしたのです。私が「あれは何?」と聞くと、援助期間(5年くらい)を過ぎて資金がなくなったために放置されている、支援団体のかつての事務所だ、との答えが返ってきたのです。どのような支援プロジェクトでも、支援期間が終わった途端に事業が中断してはあまり意味がありません。こうした支援をなくするために、プロジェクト終了後も現地で持続するような支援をしましょう、というスローガンがsustainable developmentだったのです。ネット上でJICAの文書をみると、いたるところにsustainable developmentという言葉が出てきており、国際支援において重要な考え方であることが分かります。

さて、私は以前のブログ「誰も置き去りにはしない」で、sustainable development goals(SDGs)を少し誤解していたと書きました。それはこのSDGsのsustainableを、JICAなどがsustainable developmentという文脈で使用するのとは違う意味があると解釈していたからです。そしてその解釈の背景には、幼児教育領域でのsustainable developmentの理解があります。

手元に、ある国際的な幼児教育団体の日本支部のニュースレターがあります。その中での持続可能(性)は次のような文脈で使用されています。

「持続可能な社会の実現」「持続可能性を達成」「持続可能性の本質」「持続可能性の根拠」等々です。持続可能という言葉の由来は国連の「持続可能な開発目標(sustainable development goals)からですが、国連の本旨は開発目標(development goals)にあるのに対し、幼児教育領域ではどうも「持続可能性」の達成が目標になっているようなのです。国連は世紀の変わり目の2000年に、国連が追求すべき世界的な行動目標としてミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)を提案しています。しかし2015年にMDGsを検証したところ、十分に達成できなかったことが、特に低開発国に多々あることが分かりました。そうした反省の上に、2030年までにプロジェクト期間が終わった後にも成果が持続するように、ということでMillenniumという言葉をSustainableに変更しSDGs(持続可能な開発目標)を提唱したのです。このことは2015年の国連総会での決議文にも、以下のようにはっきりと書かれています。「われわれは、世界の行く末を持続可能で強靭な道筋にのせるという喫緊のニーズに応えるために、堅固でかつ融通の効く一歩を踏み出すことを決意した」(We are determined to take the bold and transformative steps which are urgently needed to shift the world on to a sustainable and resilient path.)。sustainable はresilientと対になって進むべき道筋(path)を形容する言葉として使われているのです。

また、子どもにSDGsについて説明する「私たちが目指す世界」という別団体のパンフレットを見ましたが、そこではSDGsは「持続可能な開発のためのグローバル目標」と訳されていました。驚いたことに、国連のSDGsとは異なり「持続可能な開発」が目的であり、目標はそのための手段として書かれているのです。さらに持続可能な開発とは、「環境や資源を壊さずに、今の生活をより良い状態にすること」と解説されています。環境保全、資源保護といったニュアンスは幼児教育団体のニュースレターで謳われていた、持続可能な社会と相通じるものがあります。

「持続可能な開発目標」と「持続可能な開発のための目標」は、言葉としては似ていますが、前者はあくまで「目標」が主体であるのに対し、後者は「持続可能な開発」が主体となっているのです。

些末な字義解釈のように思われるかもしれませんが、この違いは重大だと思います。なぜならSDGsの17項目の開発目標は、資源や環境保護によって持続可能な未来社会を達成するより遥かに大きな広がりをもっているからです。例えばワクチンによって子どもたちの命を救うことや飢えを撲滅することは現在の問題であり、持続可能な未来の社会のための問題ではないからです。

持続可能性に気を取られて、実際の目標項目の影が薄くなってしまうのではないか、と心配しています。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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