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所長ブログ

Director's Blog

誰も置きざりにはしない

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2019年4月12日掲載
パナマで開催された国際小児科学会に参加してきました。国際小児科学会(International Pediatric Association: IPA)は世界各国の小児科学会の連合体で、現在150近くの国(の小児科学会)が参加している国際組織です。小児科医を40年以上していますが、お恥ずかしいことに今回が初めての参加でした。言い訳になりますが、若い頃は国内の学会や自分の専門分野の内外の学会に参加するだけで忙しく、全世界の小児科学会が集まるIPAは、いわば各国の小児科医の代表が集まるお祭りのようなものである、という先入観がありました。もちろん、CRNの創設者である小林登先生がこのIPAの会長をつとめられたことがあることは知っていました。小林先生の広い国際的人脈もIPAの会長をなさったことが関係していると思います。

今回パナマという遠隔地であるにも関わらず参加した契機は、その分科会で学習障害について話をしてくれないか、と依頼されたためです。

パナマといえば、パナマ運河のある中米の国というくらいしか事前の知識はありませんでしたが、首都のパナマシティーは人口百万人近い大都市で、シンガポールや香港を思わせる高層ビルの立ち並んだ近代都市であることを知りました。

あまり大きな期待はせずに参加したのですが、学会のプログラムはすばらしいものでした。通常、小児科関係の国内の学会や専門分野の学会では、そのプログラムの大部分は、様々な子どもの病気の治療や予防に関するものです。しかしIPAでは、学会を通じて小児科医の使命が前面に押し出され気迫のこもった発表がたくさんありました。使命とは国連の「持続可能な開発目標:(Sustainable Development Goals: SDGs)」の実現です。国連は世界中の人々が現在から未来にかけて幸福な人生を送ることを可能にするための目標として17の分野のゴールを掲げています。持続可能という言葉があまり日本語としてこなれていないので、私も少し誤解していましたが、要するに一時的な目標ではなく、目標達成までやり遂げるぞ、という意思表明なのです。医療は17分野の1つに過ぎませんが、IPAでは医療に関わらず子どものQOLを向上させるために必要な他分野(教育、環境、平和、きれいな水の確保、貧困、飢餓)にも積極的に関わろうという強い使命感を講演や発表の中に感じる事ができました。低〜中開発国が多いことや、国連と一緒に活動することが多いIPAならではの特徴ということもできますが、世界各地の貧困や低栄養、子どもの命を奪う紛争や感染症に関する講演が大半を占めていました。

様々な講演や発表を聞きながら私はあることに気がついたのです。IPAの課題はCRNの課題と大きく重なっているのです。学会で取り上げられた子どもとメディア、発達障害、虐待防止、母子保健などに関する課題は、どれをとっても、私たちがCRNの重要課題と見なしていることです。そして、IPAの会長の経験をされた小林先生がCRNを創設された理由が分かったような気がしました。

国連の提唱したSDGsにはとてもすてきなスローガンがついています。それが表題の「誰も置きざりにはしない(No one will be left behind)」です。

乗り継ぎを入れて片道20時間以上の長旅で疲れましたが、充実した経験に満足して帰国しました。CRNもNo child will be left behindのスローガンを掲げていきたいと思います。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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