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何か変だよ、日本の発達障害の医療 (3) 「発達障害」に関する大きな誤解

榊原 洋一(CRN所長、お茶の水女子大学名誉教授、
ベネッセ教育総合研究所常任顧問)

2018年7月20日掲載
今回は「発達障害」という名前(診断名?)に対する誤解について書きたいと思います。

発達障害という名前(診断名)は、極めて平易な言葉の組み合わせでできています。「発達」も「障害」も、誰でも知っている言葉です。そのため「発達」や「障害」という言葉のもつ意味について、誰でもその人なりの解釈をもつことができる、つまり「知っている」ことになります。

このことが、実は今回のテーマである大きな誤解のもとになっているのです。発達障害は字義通りに解釈すれば、「発達」が「障害」されている状態ということになります。発達や障害という概念はとても広い意味をもっているために、字義通りに解釈すると「発達障害」は、発達が障害されている状態すべてを包含することになります。

誤解その一:知的障害も発達障害に含まれる?

たとえば、知的発達が障害された状態は、知的障害(医学的には精神遅滞)ですので、知的障害は発達障害に含まれると考えたくなります。専門家も含めて、知的障害は発達障害に含めると考えている人がいるのは事実ですが、知的障害は発達障害には含まないというのが現在の考え方です。

こうした、知的障害を発達障害に含める考え方は、かつて日本精神薄弱学会という知的障害を主な研究対象とする学会が、現在日本発達障害学会と名称を変更していることや、そこで発行される学会誌の名称が「発達障害研究」であることなどが大きく影響しています。「発達障害研究」の中には、当然知的障害についての研究が掲載されています。ダウン症や脳性麻痺などに関する研究論文も載っています。こうした「発達障害」という言葉の使われ方の歴史を見れば、知的障害も発達障害の一つと考えたくなるのも無理もありません。

しかし、既に述べたように現在では発達障害は、基本的には知的障害を含みません。現在使用される発達障害の定義に大きな影響を与えているのが、平成16年に制定された「発達障害者支援法」です。発達障害者支援法には、「『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(2条1項)」と明記されています。法律がすべてではありませんが、現在は知的障害は含めずに、注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム、学習障害(およびそれに類する状態)を発達障害を構成する主要な障害として考えることになっているのです。

誤解その二:「発達障害」は自閉症スペクトラムのこと?

誤解その一で説明したことが、きちんと理解できていれば、この「誤解その二」はそもそも存在しません。ところが、専門家を含めた多くの人々に、「発達障害」を自閉症スペクトラムという意味で理解、使用する強い傾向があるのです。私がそのように思う理由には、いくつも根拠があります。

先日ある障害に関するテレビ番組を見ました。100人の様々な障害をもつ人がゲストで出演しており、複数のお笑いタレントさんが、普段は聞きにくいような質問をゲストに質問する、という趣向の番組でした。しゃべりのプロであるタレントさんが、巧みに議論を盛り上げてゆく良くできた番組だと思いましたが、一つだけがっかりしたことがありました。一人一人のゲストは、胸に自分のもっている障害名(「脳性まひ」「てんかん」等)が書かれた名札をつけていましたが、その中に「発達障害」と書かれているものがあったのです。発達障害は、すでに述べてきたように3つの障害の総称であり、単一の障害を示したものではありません。この名札をつけて出演したゲストの方が、3つの障害のうちどれであるのか、まったく分かりませんでした。これは、例えば、狭心症の患者さんが「循環器疾患」、胃潰瘍の患者さんが「消化器疾患」という名札をつけるようなものです。

一般の人だけではなく、専門家にも同様の傾向が見られます。障害をもつ人が年金を申請する時に必要な診断書(国民年金・厚生年金保険 精神障害用)に、医師が記入する申請者の症状を記載する欄があります。そこで医師が、精神障害の種類と症状を選択するようになっています。その中に「発達障害関連症状」という項目があり、さらに詳しい症状を選ぶようになっています。そこには、「1.相互的な社会関係の質的障害、2.言語コミュニケーションの障害, 3.限定した常同的で反復的な関心と行動、4.その他」としか記載されていません。よく見るとすべて自閉症スペクトラム障害の症状です。注意障害や学習障害という項目はありますが、それらは知的障害等、という項目の中にあります。この申請書を作った人は専門家であるはずですが、専門家でさえこんな状態なのです。

まだまだこうした事例は枚挙にいとまがありません。歴史的な経緯や、かつて自閉症スペクトラム障害が広汎性発達障害という紛らわしい名前で呼ばれていたことなどが原因としてあるのだとは思いますが、専門家の間にこのような曖昧さがあるのでは、一般の人々の間にある誤解は当然かもしれません。

以前ある本のなかで、発達障害の専門家が、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害と細かな診断名を挙げるよりは、発達障害という総括的な名前で呼んでおいた方が便利かもしれない、という意見を述べていましたが、どうしてそのような考え方ができるのか、全く理解できません。共通点もあるかもしれませんが、3つの障害は病態や対応法が全く異なるのですから・・・。


関連コーナー:Dr. 榊原洋一の部屋【発達障害】
https://www.blog.crn.or.jp/lab/07/02/

筆者プロフィール

sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめての育児百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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