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スイスから涼風を

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もう60年以上生きてきた私ですが、これほどの夏の猛暑は初めてです。これを読んでいる皆さんも、このじりじりするような熱が過ぎ去るのを待ち望んでおられるでしょう。

そんな皆さんに、今回はスイスの山から涼風をお届けしたいと思います。

以前このブログにも書きましたが、学生時代からの山登りは私のほぼ唯一の趣味となっていました。衰える筋力やバランス感覚に逆らいながら、あと何年山登りが続けられるのか、やや焦りに似た気持ちがあります。

そうした気持ちの中で、若い頃からのあこがれであったスイスアルプスの山登りが、再び私の気持ちの中で頭をもたげてきていました。私と同じような気持ちをもっている大学時代の登山クラブの友人2人とともに、ついにスイスアルプスの登山に行ってきました。

昨年から計画を練っていましたが、なんといっても衰えた筋力をなんとかしなくてはならないということで、今年に入ってから、冬の八ヶ岳や残雪期の谷川岳、北アルプスで足慣らしをしました。学生時代であれば、登山地図に記されたコース時間の半分くらいで行けたのに、ほぼ標準時間いっぱいかかってしまうことに気を落としたり、どんどん追いこしていく若い登山者の後ろ姿を恨めしい気持ちで眺めたりしながらの登山でした。

7月初旬、友人と一緒にスイスのグリンデルワルトに向けて出発しました。目指す山は、世界3大北壁の一つ、アイガーの隣にあるメンヒ(4107メートル)です。スイスの山にはその難易度でランク付けがされており、メンヒはPD(Petit Difficile:やや難しい)で4000メートル超えの山としては比較的簡単です。でも一応ピッケルやアイゼン(クランポン)、そしてロープで身体を結び合って登る技術が必要です。

登山は、登山電車の終点であるユンクフラウヨッホから始まります。駅で登山ガイドと落ち合い、ヨーロッパで一番長いアレッチ氷河の上を約1時間歩いて、メンヒ登山の取り付き口である岩場に着きます。日本ではやや危険な岩場には、鎖やはしごが取り付けてありますが、スイスの山には、そうした設備はほとんどありません。自然な山の状態を保ちたい、という気持ちがあるのかもしれません。

登山開始の取り付きから、次の足場を探しながらの岩登りで、ロープで確保されているとはいえ、冷や汗をかきながらの登坂でした。その後は、やや楽になりましたが、ガイドの歩くスピードが速く、また高度が高いせいもあって、息を切らしながら最後の狭い雪の稜線にたどり着きました。切り立っているために「ナイフリッジ」とよばれる最後の稜線は、両側がすっぱりと数百メートル下まで切れ落ちています。下の写真は頂上から見たこのナイフリッジですが、通過している間は、緊張のあまり恐怖感を感じる暇もないほどでした。

chief2_56_01.jpg 頂上からの眺めはすばらしく、眼下にヨーロッパでもっとも長いアレッチ氷河や、前後にアイガーやユンクフラウなどの雪をかぶった秀麗な山が白く輝いて見えました。

へとへとになりながら、途中にある小屋まで降りてきましたが、60代半ばを過ぎて積年のあこがれをやり遂げたという満足感と、もうこんなに疲れる思いはしたくないという気持ちが半々でした。

でも猛暑の中で体力が回復してくると、また来年スイスの別の山に登りたいという気持ちが頭をもたげてきています。ランナーズハイならぬ、クライマーズハイになってしまったようです。

chief2_56_02.jpg
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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