CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 所長ブログ > 所長メッセージ > 子ども大学

このエントリーをはてなブックマークに追加

所長ブログ

Director's Blog

子ども大学

中文 English
私は長年大学で学生に対して授業や実習などの教育を担当しました。教育に関わったことのある人は皆知っていることですが、幼稚園、小・中・高校で教員となるためには、国家資格である教員免許の取得が必須ですが、大学の教員になるためには、教員免許は要りません。普通に考えると、大学での教育には小中高より高度な内容を含んでいるはずですから、大学の教員に免許が必要ないことは不思議に思えるかもしれません。こういう私も、大学時代、教員免許に必要な科目は一つも受講しておらず、当然のことながら教員免許は取っていません。

では誰でも大学で教育できるのかというと、そうではなく、大学に就職する時にその人に教育をする能力があるかどうか、大学独自の審査があります。しかしそれは国家資格ではないために、例えば様々な分野(スポーツ、政治等)で活躍した人が、大学教員として招かれることは良くあります。私の知人の外交官は、退職後、ある大学の国際関係の学科で教えていますし、オリンピックに出場したアスリートで体育系の大学教員をしている人はたくさんいます。

冒頭に堅苦しい話をした理由は、小中高では教員に必要な資格を厳密に国が管理しているのに対し、大学では教員の資格は国で管理せず、大学に任せているという違いをはっきりさせておきたかったからです。大学ではそれだけ自由度の高い授業が可能なのです。

今回のテーマである子ども大学の意義はそこにあります。

子ども大学は、2008年に埼玉県川越市で産声を挙げたNPO活動です。小学4、5、6年生の希望者を対象に、様々な専門分野の大学教員や、社会で活躍している多分野の専門家が教師となって講義や実習を行うという活動です。現在では日本各地に子ども大学ができています。CRNの名誉所長の小林登先生が、横浜市で2014年に立ち上がった「子ども大学よこはま」の学長になられ、私も誘われてそこの副学長をお引き受けしています。

現代は情報の時代であり、テレビやインターネットあるいは一般の講演会などで、小学生も小学校のカリキュラム以外の知識に接する機会はあります。しかし専門家が小学生向けに語りかけ、小学生が自由に質問できる双方向的な授業の機会は滅多にないのではないでしょうか?

「子ども大学よこはま」では、子ども大学としては先輩格の「子ども大学かまくら」の学長である養老孟司先生にも特別講義を受け持っていただいています。年間の講義回数は6回と少ないのですが、毎回保護者の方と一緒に元気な小学生が参加しています。今年度初回の講義は2本立てで、養老先生が虫の話、私が「なぜ医者になったか」というテーマで講義を行いました。

養老先生の講義は「今日は何の話をしようかな」で始まりました。話す内容を事前に考えずに、その場で自由に決められたのです。洒脱な語り口で、昆虫標本の作り方や、なぜオサムシという何の変哲もない虫を好きになったかから始まり、世界中には500万種類の昆虫がいるが、そのうち400万種はまだ同定されていない新種であることなど、気持ちの赴くままのまさに自由度いっぱいの話をされました。足が6本の昆虫は好きだが、足がたくさんあるクモやムカデは大嫌いであるという個人情報も聞かせて頂きました。養老先生のお話には、小学生だけでなく同伴している保護者の方々も熱心に聞き入っていました。

私は、世の中の様々な場所をあげて「この中に医者はいるかな?」というクイズ形式の講義をしました。病院や国会、拘置所や客船の中に医者がいることは多くの子どもが正解しましたが、オリンピックや海外遠征の登山隊などにも医者が随行することを話し、いろいろなところで働けることを強調することで、医者といえば病院にいるというイメージを壊してもらうことが講義の一番の目的でした。登山隊に参加する医師という話から、私自身のカラコルム登山隊での経験談、そしてその後のネパールやガーナの国際医療の話と私自身の経験に引きつけた話をしました。正直に白状すると、できれば受講生の中から医者(できれば小児科医)を目指す小学生がでればいいな、という下心もありました。

大学生や一般社会人を対象とした講演会では、講演後の質問は数人からあれば良い方ですが、子ども大学では、質問はありますか、と聞くとほぼ全員が元気いっぱい手を上げます。この旺盛で正直な好奇心が、どうして大学生や社会人になると陰を潜めてしまうのか、本当に不思議です。大人になって分別がついたのだと説明したくなりますが、小学生ほどではないものの外国の学生はよく手を挙げますから、日本独特の「分別」なのかもしれません。

授業の後、養老先生の所に何人かの子どもがサインをもらいにいったことで火がつき、ほぼ全員が養老先生と私の前に行列をなしてサイン会になってしまいました。

私にサインをもらいにきたまだ幼さの残る4年生の女の子が目を輝かせながら、「私も小児科医になりたいです」とうれしい告白をしてくれました。心の中で快哉を叫んだことはいうまでもありません。

筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

所長ブログカテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP