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第4回-①「困っているときにどうする?」

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【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】
第4回-①「困っているときにどうする?」

前回に予告しましたように、今度は「困っているときにどうするか」ということについて、日中のデータを比較してみたいと思います。

ところで、今回から少し趣向を変えて、日本と中国のデータを、韓国人研究者の呉宣児(オ・ソンア)さんに見ていただいて議論してみる、という試みをしてみたいと思います。方法論的に言うと、日中比較の問題を韓国というもう一つ別の視点から見たときにどうなるか、という「三角測量」のようなことが可能になりますし、なによりタイトルが「日本、中国と韓国」となっていながら、これまで日中間に偏っていましたので、その点でも次のステップになると思います。

呉宣児さんは大学院から日本で勉強と研究を続けてこられ、今は共愛学園前橋国際大学で心理学を教える先生です。環境心理学が専門ですが、文化間の比較や異文化相互理解のための授業などにも熱心に取り組まれています。

さて、さっそく調査内容です。いつものように読者の皆さんもご参加ください。次のような事例についてどんなふうに考えられるでしょうか?(なお、自由記述については次回以降、内容を紹介させていただくことがあります。もしお望みでない方は、記入時にその旨をお書き下さい。またご回答についての著作権はCRNに移転するもの *1とさせていただきますので、ご了解のほど、よろしくお願いいたします。)


いかがでしたか?日常でときどきありそうな、それほど珍しくもない事例だと思います。

いつものように日中の大学生の意見を聞いてみました。人数はそれぞれ中国・北京の大学生25名(男子7名、女子18名)、日本・関東地方の大学生38名(男子9名、女子29名)です。結果は次のようになりました。ご自分の選択と照らし合わせてみてください。

問い1 Dさんに対するCさんの対応について、あなたはどう思いますか?

lab_08_24_01.jpg
(そのまま)Dさんの気持ちを考えて見守っているのだから、今の対応がいいと思う。
(もう少し聞く)Dさんの気持ちを考えることも大事だが、もう少し強く聞いてあげた方がいい。
(はっきり聞く)Dさんが悩んでいることは明らかだから、親友としてはっきり聞くべきだ。

「その他」で自由記述のあったものが日本で5名、中国で1名ありましたが、内容は日本では「そのまま見守る」もの、中国では「機を見て聞く」ものでしたので、「そのまま」と「さらに聞く」に分類してグラフにしました。

どちらも過半数が「そのままでいい」と答えていますが、中国では52%なのに対して日本は74%になり、日本の方がより「そのまま見守る」気持ちが強いことが分かります。

この質問は回答者自身はどう考えるか、というものですが、これを「周囲の人はどう思うか」というふうに変えて聞いてみると、その差がさらにはっきりしてきます。

問い2 あなたの周囲には、Cさんの対応についてどう考える人が多いと思いますか?

lab_08_24_02.jpg

日本は見守りタイプがやはり74%ですが、中国はわずか21%にとどまります。

文化のことを考えるとき、「あなたならどう思うか?」という質問への答えと、「みんなはどう思っていると思うか?」という質問への答えが異なる、というのはしばしばみられることで、そのこと自体が大事な意味をもっています。自分がどう感じるか、というより、周りの「常識」はどうか、ということの判断のほうが文化差が出やすかったりするのですね。そこは文化の意識が「差を際立たせる」という働きをすることに関係すると思います *2

問い3 もしあなたがCさんなら、どんな対応が考えられるでしょうか。思いつくことを教えてください。

では「あなたならどうするか?」という問いへの答えはどうでしょうか?

* 中国では問い3の意味が「Cなら」と「Dなら」とで混同された回答が多くありました。 このため、この質問については直接日中の結果の比較ができませんが、かえって興味深いポイントが見出されます。ここは転んでもただでは起きないの精神で、あえてご紹介させていただきます(笑)。

日本の方は自分がCさんならという立場で考えて、やはり大部分が「相手が話してくれる気になるのを待つ」とか「話しやすい雰囲気や機会を作る」という内容で、積極的にこちらから尋ねていく、という回答はほとんどありませんでした(付録資料をご覧ください)。

中国の方は大部分が自分がDさんならという立場で考えていますが、「自分なら親友には話す」とか「時機を見て話す」というものが多く、少なくとも自分が悩んでいることは相手にちゃんと伝えておく、という態度をとるようです。

さて、日本の方の場合、もしご自分がDの立場になったら、中国の多くの方たちのように積極的にCさんに自分の悩みを伝えようとするでしょうか?また中国の方の場合、もしご自分がCさんの立場なら、日本の多くの方と同じように「相手が話してくれるのを待って見守る」ようなやりかたを優先するでしょうか。データがありませんので何とも言えませんが、結構興味深いポイントだと思います。

このことも含め、今回の結果について、いつものように皆さんのご意見をお寄せいただければと思います。次回はみなさんから寄せられたご意見もあわせて、呉宣児さんと一緒に、この結果について議論をしてみたいと思います。

読者参加コーナー問い5の自由記述へ戻る

付録資料:「あなたならどうするか」についての自由回答


*1. CRN掲載のほか、書籍への掲載など、自由に利用することができます。

*2. 理論的な問題について興味をもたれる方は、山本の「差の文化心理学」の議論<山本登志哉2015「文化とは何か、どこにあるのか:対立と共生の心理学」>などもご覧ください。

筆者プロフィール

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山本 登志哉(日本:心理学)

教育学博士。子どもとお金研究会代表。日本質的心理学会元理事・編集委員。法と心理学会元常任理事・編集委員長。1959年青森県生まれ。呉服屋の丁稚を経て京都大学文学部・同大学院で心理学専攻。奈良女子大学在職時に文部省長期在外研究員として北京師範大学に滞在。コミュニケーションのズレに関心。近著に「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(高木光太郎と共編:東大出版会)


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姜英敏 Jiang Yingmin(中国:教育学)

教育学博士。北京師範大学国際比較教育研究所副研究員、副教授。1988年~1992年に北京師範大学教育学部を卒業。1992~1994年、遼寧省朝鮮族師範学校の教師を経て、北京師範大学国際と比較教育研究所で修士号、博士号を取得し、当所の講師として務め、現在は副教授として研究・教育に携わっている。在学期間中、1997年~1999年日本鳴門教育大学に留学。また2003年~2005年はポスドクとして、日本の筑波大学に留学し、研究活動を行い、さらに中央大学や早稲田大学、青山学院大学の教員と積極的に日中の学生間の交流授業を進めてきた。日本と韓国、中国を行き来して、実際の授業を観察した道徳教育の国際共同比較研究。


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呉宣児 Oh Seon Ah(韓国:心理学)

現在、共愛学園前橋国際大学・教授。博士(人間環境学)。韓国済州島生まれ育ち。韓国で大学卒業後、一般事務職を経て、1992年留学のため来日。1995年お茶の水女子大学大学院家政学研究科修士課程(児童学専攻)修了、2000年九州大学大学院人間環境学研究科博士課程修了(都市共生デザイン学専攻)。その後、日本学術振興会外国人特別研究員、九州大学教育学部助手を経て、2004年から共愛学園前橋国際大学に赴任。文化心理学・発達心理学・環境心理学の分野の研究・教育活動をしている。単著「語りから見る原風景―心理学からのアプローチ」(2001) 萌文社、共著「「大人になること」のレッスンー「親になること」と「共生」」(2013) 上毛新聞社、ほか多数。前橋市の地域づくり推進活動のアドバイザーや地域の小学校で絵本読み聞かせボランティア活動等もしている。

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