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講演:子どもの社会情動的スキルの育成により学びは向上する - 日本における縦断調査より(CRNアジア子ども学研究ネットワーク第3回国際会議講演録)

高岡 純子(ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室 室長)

2020年9月11日掲載
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本稿は、2019年9月25~27日、インドネシア・ジャカルタで開催されたCRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第3回国際会議にて行われた講演録です。

※肩書は当時のものです

日本における乳幼児の環境変化
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本日は、ベネッセ教育総合研究所(BERD)が行った縦断調査に基づき、子どもの社会情動的スキルの発達についてお話しします。

本講演では、4つのトピックを取り上げます。1点目は乳幼児の生活環境の変化について、2点目は社会情動的スキルの発達について、3点目は親の関わりと社会情動的スキルとの関係について、4点目は幼稚園・保育園など(以下、「園」と表記)における体験と社会情動的スキルとの関係についてです。

はじめに、乳幼児とその親の関係の、5つの特徴をご紹介します。1点目は、はじめて親になる年齢に大きな広がりが出ていることです。長寿化やライフスタイルの多様化により、ライフサイクルを平均的な年齢でくくることが難しくなっています。0歳6か月~1歳5か月児をもつ親の年齢は、妻が18~47歳、夫が19~59歳と広範です(乳幼児の生活と育ちに関する調査, 2017)。2点目として、2歳までの子どもをもつ親の約半数は、自分の子どもが生まれるまで赤ちゃんと接したことがありませんでした。3点目として、共働きの夫婦が増え続けています。4点目は、保育時間が長い保育園に通う子どもが増えています。5点目として、子どもは同年代の子どもと遊ぶ機会が減っている一方で、親との関わりが増えています。子どもの日常生活は、園と家庭での活動が中心となっているのです。

幼児期から児童期の社会情動的スキルの発達プロセス

認知的スキルとは、知識や思考力などの力を指します。社会情動的スキルは、感情のコントロール、他者との協働、目標の達成といった力を指します(OECD, 2015)。このスキルへの着目の背景にあるのが、ジェームズ・ヘックマンのペリー就学前プログラムです。ペリー就学前プログラムとは、経済的に恵まれない3~4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもを対象に、40年にわたって行われた介入研究です。就学前教育を受けた子どもは、そうでなかった子どもと比べて、学校の成績、高校卒業率、持ち家率、平均月収が高く、生活保護受給率、逮捕者率が低いことが分かりました。これらの違いは、IQの違いでは説明されず、社会情動的スキルの重要性が指摘されています。

OECDの研究では、社会情動的スキルについて2つの特徴が明らかになりました。1つ目は、社会情動的スキルは生涯を通じて発達させることができるということです。幼少期に強固な土台を築くことは重要ですが、乳幼児期を過ぎてから取り組み始めても遅くはありません。2つ目は、社会情動的スキルは認知的スキルを支えると同時に、認知的スキルに支えられてもいるということです。OECDは社会情動的スキルを「目標の達成」、「情動の抑制」、「他者との協働」の3つの要素で定義しています。「目標の達成」には、がんばる力、自己抑制、目標への情熱が含まれます。「情動の抑制」には、自尊心、楽観性、自信が含まれます。「他者との協働」には、社交性、敬意、思いやりが含まれます。認知的スキルと社会情動的スキルは、互いに影響を及ぼし合いながら、育ち合っていきます。

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図1:生涯を通じたスキルの発達

質の高い乳幼児の教育とケア(ECEC)の発展は、持続可能な開発目標(SDGs)において、目標4のターゲットのひとつとして位置づけられています。ターゲットとして、「2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする」と明記されています。これは、環境、健康、不平等の是正、雇用、貧困削減、ジェンダー平等といったSDGsの他の開発目標とも関係しています。すべての国においてECECを確実に提供することは、子どもの幸福や将来の国の発展にとって不可欠なことです。

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図2:SDGsの17の開発目標

文部科学省は、2019年から幼児教育から高校までの段階で教育改革を実施しています。この教育改革では、すべての子どもに育成すべき「資質・能力の3つの柱」が定義されています。3つの柱とは「知識・技能の習得」、「思考力、判断力、表現力等の育成」、「学びに向かう力、人間性」です。3つ目の柱は、1つ目と2つ目の柱を用いて、どのように社会と関わり、よりよく人生を生きるかを学ぶための資質・能力です。学びに向かう力は、日本の教育制度において今後不可欠な役割を果たし、社会情動的スキルと同じ意味をもちます。

ここからは、日本の幼児を対象とした縦断調査(幼児期から小学生の家庭教育調査・縦断調査)から、子どもの社会情動的スキル(学びに向かう力)の発達についてお話しします。この調査では、小学校以降の学習や生活環境に適応するために求められる幼児の育ちとして、「生活習慣」、「学びに向かう力」、「認知的スキル」の3つの軸を設定しました。この調査では、対象の子どもについて、上記3つの主要なスキルの発達を年少期から7年間にわたって追跡しました。学びに向かう力は、「好奇心」、「協調性」、「自己主張」、「自己抑制」、「がんばる力」の5つのカテゴリーに分類しており、各カテゴリーにつき、4~6項目の尺度を設計しました。「好奇心」とは、「なぜ? どうやって?」を考え、適切な質問をする力です。「協調性」とは、友人などと協力する力です。「自己主張」とは、自身の感情を伝え、他人の意見を尊重する力です。「自己抑制」とは、何かをしたいが他の人に反対されたときに、辛抱する力です。「がんばる力」は、すぐに諦めることなく、挑戦する力です。

図3は、子どもがある学年で習得した力のうち、どの力が後続の発達に影響を与えるかを示したものです。右に向かって、幼児教育の年少、年中、年長、小学校1年生の発達ステージを示しています。年少の時期に生活習慣が高く身についた子どもは、翌年も生活習慣が高くなる傾向があります。このように、横向きの矢印は強い関係性を示します。斜めの矢印に注目すると、年少の時期に生活習慣が高く身についている子どもは、年中の時期に社会情動的スキルの点数が高くなる傾向があります。年中の時期に社会情動的スキルが高く身についている子どもは、年長の時期に文字・数・思考の力が高くなる傾向が見られました。年長の時期に上記の認知的スキルが高い子どもは、小1で自ら進んで勉強するという主体的な学習態度が身につく傾向があります。まとめると、幼児期に生活習慣を身につけ、社会情動的スキルを養うことで、小学校以降の学習に求められるスキルが育成されるのです。早期から文字・数・思考の教育にだけに力をいれるのではなく、この順序性を大切にして、幼児期にふさわしい遊びを通して社会情動的スキルを身につけることが大切であると考えます。

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図3:幼児期の発達プロセス

図4は、幼児期から小4までの子どもの成長発達を示しています。「がんばる力と好奇心」を幼児期に高く身につけた子どもは、小学生低学年でも同様に高水準となる傾向があることが分かりました。小学校低学年の時期にがんばる力、学習態度、好奇心が高く身についた子どもは、小4で言葉のスキルと思考力が高くなる傾向があります。子どもがいかにしてがんばる力を身につけるかを理解することは重要です。大人が単に子どもをがんばらせようとしたり、あるいは逆に子どもにやりたいようにやらせるだけでは、養えません。子ども自身が熱心に取り組み、さらにはうまくいかなかいときでも、工夫して取り組もうとするような遊や学びの環境・活動を提供することが大事だと私は考えます。

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図4:思考を促す親のかかわり、社会情動的スキルが小4時点での言語発達に与える影響

家庭における親の関わりと子どもの社会情動的スキル

親の関わりは、子どもの社会情動的スキルにどのような影響を与えるのでしょうか。幼児期や小学校低学年の時期の関わりにおいて、親が子どもの意欲を尊重したり、子どもが自分で考えられるように促すといった「思考を促すかかわり」に気を付けている親の場合、子どもの思考を促すということは「自分で考えて」と言うことではなく、子どもの良い聞き手になることが重要です。親は例えば、「それってどういう意味?」や「もうちょっと聞かせて」と働きかけたり、子どもと同じ目線で一緒に考え、話し合い、子どもが考えたり意見を述べたりすることをじっくりとサポートする親子関係を確立させることが大切です。

社会情動的スキルの育ちや親の養育態度は、国を超えて共通のものなのでしょうか。
日本、中国、インドネシア、フィンランドを対象に行った私たちの調査(幼児期の家庭教育国際調査【2018年】)では、複数の共通点が見つかりました。表1は、4~6歳児の親の養育態度を聞いたものです。4カ国すべてにおいて、社会情動的スキルと生活習慣に関連する項目については、9割前後の親が肯定的に回答しました(5段階評価のうち、「とても力をいれている」と「まあ力をいれている」の合計)。

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表1:母親の育児の視点に関する質問への肯定的回答の割合

表2は、母親の養育態度について、因子分析を行ったところ、4か国とも「寄り添い型」と「保護型」の2因子に分かれました。子どもの意思や感情を尊重する保護者のかかわりを「寄り添い型養育態度」と定義し、過保護だったり、子どもの言動をコントロールしたりする保護者のかかわり方を「保護型養育態度」と名付けました。4カ国すべてで「寄り添い型養育態度」の得点が高く、「保護型養育態度」の得点が低くなりました。インドネシアは、「保護型養育態度」の中で、2項目が他国と比べて高い値でした。

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表2:母親の養育態度の特徴

乳幼児教育と子どもの社会情動的スキル

2016年2月に、園を卒業する子どもをもつ母親を対象に、子どもの園での体験と社会情動的スキルに関するアンケート調査を行いました(園での経験と幼児の成長に関する調査、2016)。この調査の目的は、社会情動的スキルを高く身につけた子どもが、園でどのような体験をしたかを明らかにすることでした。

子どもが園で、遊び込む経験や協働的な活動を多くしていた場合に、社会情動的スキルが高くなる傾向が見られました。「遊びこむ経験」とは、自分なりに工夫を加える、先生に頼らずに制作する、挑戦的な活動に取り組むなど6項目を指します。また、「協働的な活動」とは、目標に向けて友達と協力して取り組むなど4項目です。

遊び込む経験が多い子どもと少ない子どもの2群に分け、子どもの社会情動的スキルを見たところ、遊び込む経験が多い子どもほど、社会情動的スキルを高く身につけていることが明らかになりました。自分らしく遊びに入り込んで、様々な工夫を加えながら主体的に活動に取り組む体験を多くするほど、子どもの学びに向かう力が高まるのではないでしょうか。

研究からは、園の活動への親の関わりと、親の成長実感の間に相関関係があることも判明しました。園が発信する有用な情報を肯定的に捉えて参考にし、園と頻繁に接点をもつことができた親は、自身の成長を実感する傾向がありました。調査結果から、そのような親は子どもの意欲を尊重し、思考を促す傾向があることが分かりました。

これまで紹介してきた私たちの調査からわかった結果は以下の3点です。第一に、子どもの幼児期における発達は、生活習慣が土台となり、その上で社会情動的スキルと認知的スキルが育まれ、それらが小学校以降の学習態度に影響を与える可能性があります。第二に、子どもの意欲を尊重し、思考を促すといった親の養育態度が、幼児期から児童期における子どもの社会情動的スキルや認知的スキルの育ちを支えています。第三に、園で遊び込む経験や協働的な活動を多くしていた子どもは、社会情動的スキルを高く身につける傾向があります。
ご清聴ありがとうございました。

筆者プロフィール
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ベネッセ教育総合研究所学び・生活研究室室長/主任研究員。2006年より現職。乳幼児領域を中心に子ども、保護者、教師を対象とした意識や実態の調査研究、「学びに向かう力」の発達研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。これまで担当した主な調査は、「幼児の生活アンケート」、「乳幼児の父親についての調査」、「妊娠出産子育て基本調査」など。文部科学省 「幼児教育に関する調査研究拠点の整備に向けた検討会議」委員(2015年度)、三重県家庭教育委員会委員(2016年度)、千代田区こども子育て会議委員(2014年~)、など。

※肩書は発表当時のものです

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