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基調講演①:子どものQOLと自尊感情(CRNアジア子ども学研究ネットワーク第3回国際会議講演録)

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本稿は、2019年9月25~27日、インドネシア・ジャカルタで開催されたCRNアジア子ども学研究ネットワーク(CRNA)第3回国際会議にて行われた講演録です。

※肩書は当時のものです

子どものQOL
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本日は、ウェル・ビーイングにも近い概念である子どものQOLについてお話しいたします。みなさまの多くは教育者ですので、幼稚園の枠組みや、教職員、カリキュラムの質について関心がおありだと思います。もちろんこれらは、非常に大切な要素でありますが、必ずしも成果がはっきりと見えるわけではありません。その点、子どもの成果を表すともいえるQOLは、信頼性の高い指標であり、それを測る方法もいくつかあります。これらには、認知や言語の発達、社会情動的スキルなども含まれます。この後、アジア諸国の子どもの社会情動的スキルに関する評価・調査について、ベネッセ教育総合研究所の研究員より発表があります。しかしながら、これらは客観的指標で、大人の視点から作られたものです。QOLのような主観的な指標を使えば、子どもがどう感じているかを確認できます。子どもが幸福を感じていることが大切で、台湾の張世宗氏が後ほど、そのような観点から遊びについてお話しくださいます。その点、QOLを評価するには、生活に全般的に満足しているかを検討しなければなりません。つまり、健康、家族、教育や雇用、経済的豊かさ、安全、自由の保障、宗教観、また環境も含みます。医師としての私の関心事は「健康」でありますが、「健康」とはつまり肉体的、精神的及び社会的に完全なウェル・ビーイングの状態であり、単に病気でないとか、弱っていないということではないのです。ということは、単純に治療に専念するだけではなく、生活全般を改善するにはどうしたらよいかを考えないといけないということです。QOLの最も確固たる指標の一つに、出生数1,000人当たりの生後1年以内の死亡数を表す乳児死亡率があります。日本では、20世紀の間は平均160/1,000、つまり7人に1人くらいの死亡率でしたが、最新のデータでは、3/1,000と大きく改善されています。とはいえ、これが全てではないのです。

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図1 低下する乳児死亡率(日本)

省力化のための技術革新が進む現代の生活水準により、身体的活動が少なくなると、全体的な健康レベルの低下を招きます。そしてさらなる懸念は、ゲーム機など電子機器の過剰な使用からくる社会的スキルの低下です。また、自閉症やADHD、学習障害などの発達障害の有病率が、いまでは7~8%と増加しています。その上、自尊感情が低いことも課題の一つです。教育機関は、より高度な学習成果だけを追求するのではなく、子どものよりよい精神的、情緒的な健康、尊厳をも追求すべきなのです。QOL評価は、こうした点を考慮に入れないといけません。

子どものQOLを向上させるには?

子どものQOLを向上させるにはどうしたらよいのでしょうか。子どものQOLを評価することで、経済状態の改善のための指標となります。ですから、幼児教育の世界では、幼児教育(ECEC)の質が一つの主要なテーマです。ECECの効果、効率、そして質はどのように評価することができるでしょうか。こうした評価指標は、現場の幼稚園や小学校で実際に行われていることが子どもにとって十分に良いのか、判断するのに大変便利です。日本のようにいわゆる裕福な国では、経済事情は大切なテーマでもあります。それは、驚くことに6人に1人(16%)の子どもが貧困状態にあるからです。最近の調査では、こうした貧困家庭の多くが、一人親世帯であることが分かっています。多くの未就学児のための施設で、ネグレクトや児童虐待が懸念されるケースが増え、「標準的な」育児が何であるかもまた、大きなテーマの一つです。そして幼小接続を取り巻く環境も、子どものウェル・ビーイングに影響を与える側面の一つです。遊び中心の環境から勉強が優先される環境への変化は、準備ができていない子どもにとっては衝撃が大きいものです。

さて、子どものQOLを調査した先行研究について見ていこうと思います。まずは、ある調査で、12~13歳の子ども7,000人余り を調査した結果、朝食の摂取、遅寝、長時間のテレビ視聴、運動不足と、QOLの低さに有意な相関関係がみられました。またノルウェーで、8~16歳の子ども1,800人を対象に行われた別の調査では、IKCとKINDL®という2種類のQOL尺度を使用しました。親による子どものQOL評価は、年齢が上がってもさほど変化がないが、子どもによる自己評価は低下する傾向があり、主観的評価と客観的評価の重要な差異を示しています。さらに北欧での別の調査では、男子よりも女子において、QOLを過小評価する傾向がみられますが、これはこの年齢層においては男子よりも女子の方が、社会的ステイタスにより敏感になっているからかもしれません。

私の専門分野は発達障害ですから、注意障害とQOLの関連性についてお話しいたします。日本の子どもの約7%が発達障害をもち、そのうち約半数がADHDをもっています。分析結果によれば、ADHDをもつ子どものQOL評価スコアについては、親から見た評価の方が本人の自己評価よりも高く、自信の差が結果に表れています。

今度は自尊感情についてお話ししたいのですが、これはつまり自分に対する自信や満足感です。一人一人がもつ自分の価値についての主観的な感情評価につながるものです。言い換えれば、自己認識であり、QOLと非常に密接な関係があります。KINDL®においては、包括的な状態を測るQOLが、「身体的健康」「精神的健康」「自尊感情」「家族」「友だち」「学校(園)生活」の6つの領域から構成されています。

自尊感情の発達

自尊感情は、QOLの一部です。これらの6領域は、関連性がありながらも違いがあります。

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図2:QOLの一部に含まれる自尊感情


自尊感情を測るのに両親や、成長した子ども自身が使うことができる、4つの単純な質問があります。

  1. 私の子どもは自信があるようだった
  2. 私の子どもはいろいろなことができると感じているようだった
  3. 私の子どもは自分に満足しているようだった
  4. 私の子どもはいいことをいろいろ思いついていた

自尊感情の中で大切な要素の一つに、他者に認められるというのがありますが、この「他者」とは、赤ちゃんにとっては両親であり、その後は学校の先生となります。また性差は自尊感情に影響を与えており、男の子にとっては肉体的に能力が高いことが重要であり、女の子にとっては、背の高さや洋服の質といったことが重要となってきます。子どもが思春期に達すると、もう子どもの頃のように褒められることが自尊感情につながることではなく、自分の価値観に頼るようになります。ベネッセ教育総合研究所が行った調査では、日本の高校生は、テストの結果が自分の価値を表していると感じるため、自尊感情が低い傾向がありました。成人の自尊感情を測るものとしては、有名なローゼンバーグ自尊感情尺度があります。10の単純な質問に、「とてもそう思う」「そう思う」「あまり思わない」「全くそう思わない」の4件法で答えるものです。

  • 私は、自分自身にだいたい満足している。
  • 時々、自分はまったくダメだと思うことがある。
  • 私にはけっこう長所があると感じている。
  • 私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる。
  • 私は誇れるものが大してないと感じる。
  • 時々、自分は役に立たないと強く感じることがある。
  • 自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じている。
  • 自分のことをもう少し尊敬できたらいいと思う。
  • よく、私は落ちこぼれだと思ってしまう。
  • 私は、自分のことを前向きに考えている。

<日本語版:Mimura&Griffiths(2007)>

SchmittおよびAllik氏は、このような質問を国際比較の尺度で使い、53か国の成人の自尊感情を計りました。セルビア、イスラエル、トルコ、エストニア、メキシコでは、自尊感情が高い結果が出ました。バングラデシュと日本の大人は、自尊感情が比較的低く、子どもの自尊感情が低いことも説明がつきます。

子どものQOLと自尊感情を予測する要素

私が行った別の調査で日本、ベトナム、タイを比較しましたが、社会経済的地位、親の職業、環境、親のストレス、婚姻状況、世帯の形などの要素を分析したため、非常に複雑でした。子どもについては、健康状態、身長、体重、睡眠習慣、メディアの使用、ゲームの使用、インターネットの使用、テレビ視聴、読書、外遊びの要素が考慮されました。保育者と保護者のQOLも調査項目に含まれ、これらの要素の関係性を調べるために回帰分析が行われました。大まかに言うと、ADHDでもそうであるように、不注意は子どもの自尊感情に負の影響を与えることが分かりました。さらに、両親が幸せで自尊感情が高ければ、子どものQOLも高くなるのです。また十分な睡眠時間をとることも、自尊感情のためには非常に大切です。肯定的な親の育児態度、遊びを促すことや向社会的な行動が非常に重要な役割を果たしています。特に就学前の幼児に接する保育者は、小学校に上がる前の子どものQOLや自尊感情を向上させる大切な役割を担うことができるのです。私は医師ですが、子どもの全人的な発達をよりよくするために、皆で協力し合わなければならないと考えています。そうすることで、2030年までに達成すべき、そしてそれ以降へと続くSDGsに則した立派な成人市民になるべく、子どもを軌道に乗せることができるでしょう。

[Q&A]

Q1: 質問項目は単純化されているのでしょうか? 自尊感情を測るのに、4つの質問があったと思いますが、幼児教育の保育者が、どの子どもが情動的に優れていて、他者を尊重することができるのかなどについて分かるように、細分化することはできますか。

A1: QOLの質問項目にはいくつかのタイプがあります。自尊感情についての4つの質問は、24項目の質問の一部です。ウェブサイト上で更に情報が得られると思いますが、インドネシアの子どものQOLを測るために作られたインドネシア独自のものがあるかもしれません。

Q2: インドネシアでは、日本の保育や教育から学ぼうと一目置いておりますので、ご講演を伺って驚いております。小学校に上がると低くなってしまう自尊感情を、どのように向上させたらよいのか、解決法はありますか?

A2: 保育者・先生と保護者の間のコミュニケーションは非常に大切です。その中で、QOLや睡眠時間の大切さと、学習成績の関係性についても話していることでしょう。先生の中には、子どもが勉強で遅れを取らないよう、学習成績に重きを置く先生も多く、保護者にこうした成績を伝えています。成績が大切だと思う保護者もいるでしょうが、これを根拠に罰を与えては火に油を注ぐばかりです。学習成績を伸ばすことよりも、子どもの社会情動的スキルの発達が重要であることを忘れないでください。

Q3: 子どもに一番影響を与えるのは、保護者です。親が共働きの子どもの幸せや、よりよい育ちのためには、どうしたらいいのでしょう。そのような家庭では、とても遅い時間に寝て、朝も早く起きないといけない子どももいます。子どもの自尊感情を育てるために、家庭内で親は何をすべきでしょうか。

A3: 日本では、子どもの睡眠時間を増やすことが全国的に大きな動きとなっています。保育園や幼稚園では、睡眠時間の大切さが認識されています。そんな日本では、二つの壁があります。一つ目は、多くの子どもが夜遅くまでゲームをしたがります。親が罰を与えても、さらに長く遊びたがり、それによって睡眠時間が削がれています。 二つ目は、学校の先生から出される宿題です。このために子どもが遅くまで起きていて、寝ることができないのです。
一般的な親の説得方法としては、睡眠時間が発達に与える影響についての科学的データを示すことです。保育者・先生の役割は、子どもが午前中の早い時間帯に眠くなっている様子に気づいたら、子どもの保護者にもっと睡眠をとるように伝えることです。保護者に睡眠時間の大切さを伝えることが、悪い習慣を断ち切る初めの一歩であり、ひいてはそれが社会情動的スキルの発達にとっても重要なのです。

多くのご質問をいただき、ありがとうございました。



【参考文献】
Mimura, C., Griffiths, P., "A Japanese version of Rosenberg Self-Esteem Scale: translation and equivalence assessment." J Psychosom Res, 62(5):589-594.
筆者プロフィール
sakakihara_2013.jpg榊原 洋一 (さかきはら・よういち)

医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授。ベネッセ教育総合研究所常任顧問。日本子ども学会理事長。専門は小児神経学、発達神経学特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の臨床と脳科学。趣味は登山、音楽鑑賞、二男一女の父。

主な著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)、「アスペルガー症候群と学習障害」(講談社+α新書)、「ADHDの医学」(学研)、「はじめて出会う 育児の百科」(小学館)、「Dr.サカキハラのADHDの医学」(学研)、「子どもの脳の発達 臨界期・敏感期」(講談社+α新書)など。
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