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分科会②:0~3歳の教育環境デザイン(CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議講演録)

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司会者:周念麗(華東師範大学教育学部教授)
登壇者:文頤(四川0~3歳早期発達 ・教育研究センター常務副主任)、王紅(上海市普陀区早期教育指導センター地域管理部責任者)

親子教室での教育指導課程において整理すべき課題(文頤)

現在、教育において注目されている点は数多くありますが、0~3歳の保育と教育がそのひとつであることは間違いありません。

まず、施設のタイプを説明します。0~3歳対象の教育施設として、二種類の施設があります。一つは子どもを預かる施設で、四川省で「嬰児園」と呼ばれているものや、3歳以下を預かる「家庭教保園」と呼ばれているものです。「家庭教保園」とは、企業の名義で、一般家庭の中に子どもを預かる小さな場所を開設し、主として保護者の代わりに子どもの面倒を見る施設のことです。もう一つの施設は、保護者指導施設と呼ばれ、前者のように保護者の代わりに子どもの面倒を見るのではなく、幼稚園内で一週間に二回、親子を対象に授業を行う「親子教室」がある他、民営の親子教育施設、母子健康センター、非常に人気のある教育施設などもあり、それぞれの方法によって保護者を指導することを目的としています。これら二種類は、目的も活動内容も異なる施設ですが、具体的にどこが異なるのでしょうか?

先ほど述べた一つ目の、子どもを預けるための施設は、昼夜を通じたものです。主な対象は子どもで、保護者は参加せず、施設と利用者の相互関係は比較的シンプルです。したがって、ここで求められるのは子どもにとって有意義な教育です。二つ目は一週間に数回通い、一回の授業は数十分間、子どもと保護者が授業の対象である保護者指導施設で、施設と利用者の相互関係は非常に複雑です。目標は保護者にとって有意義な教育です。以上のとおり、二つの施設は性質の異なる施設です。保護者指導施設は託児施設とは異なります。託児施設での遊びと親子の遊びは代替できるものではなく、同列に論じることもできません。私たちは保護者への調査研究を行い、施設に対するかなり多くの意見があることがわかりました。第一に教師としてよい人材が不足しており、親子教室の先生は保護者が求めるレベルに達していないという意見がありました。また、第二に、授業で取り入れられる遊びは非常に豊富ですが、その効果が認められないということです。

では、上記のような保護者指導施設における親子教育の対象について詳しく検討してみましょう。親子教育の対象は、保護者と子どもですが、これらのうちのどちらに重点が置かれるのでしょう?もし重点が子どもに置かれるなら、一週間に二回の授業で子どもの発達に大きな促進作用があるでしょうか?親子教育での活動によって、子どもは全面的に発達し、向上するでしょうか?残念ながらそれはなさそうです。実際のところ、子どもの発達は家庭にかかっています。もしも主な対象が子どもと保護者の両方だとすると、私たちは教育の過程で大きな困難を感じます。この二つの対象は基本が異なるからです。親と子は学びたいものも異なるし、要求も異なるので、対応するのが難しく感じられます。もし教育の対象を保護者に定めたなら、この授業は保護者にとって有意義な教育を追求するものとなり、保護者の育児能力が向上し、理解したことを家庭に持ち帰ることが期待できます。そうであれば私たちは、保護者に照準を合わせた教育目標、教育計画、評価方法、教師の配置を考慮した上で、保護者のこれまでの経験、保護者への教育の効果に注目する必要があるのではないでしょうか?

第二に、教育の内容を決定する必要があります。多くの保護者は保育の内容に関する知識が不足しています。重点を置く対象は保護者なのですから、授業の中で保護者に保育の内容に関するアドバイスをいくらか提供できないでしょうか。また、子どもは一人一人異なるので、それぞれの子どもの保護者に対応する指導をしなければなりません。

第三に、親子教室の活動の構造について述べます。現在、親子教室の活動内容は多くなりすぎ、個別化した指導が欠けており、家庭へと広げていく内容がなく、授業だけで終わってしまいます。個々の授業に対しての指導のみがなされ、家庭内での親子の相互作用についての指針を保護者に与えていません。

この構造の問題をどのように解決したらよいでしょうか?第一は認知、動作、言語、社会性などの分野を分けることです。これは保護者にとって二つのメリットがあります。メリットの一つは、保護者にその分野における子どもの発達レベルを理解させられることです。二つ目は、保護者にその分野独特の教育方法を伝えられることです。各分野において、親子の活動を形作っていくための異なった方法があります。

第二は生活におけるさまざまな「要素」です。子どもの日常生活は、食事、睡眠、服を着るなど多くの部分から成っています。例えば、お母さんがしている家事の中で、靴下を干すのを子どもが手伝うのが好きな場合、靴下を干すという生活のひとつの部分において、活動をどのように展開したらよいでしょう?靴下を干す過程においても多くの教育の要素があることを保護者が理解できるようにするため、先生はそれを保護者に教え、問題について考える方法を保護者に教えます。

第三は「材料」です。実際には生活のあらゆるものがすべて材料なのですが、保護者はこうした材料が教材になることを知りません。親子活動を通じて保護者に対し、一本の瓶も教材にできることを伝えます。私たちは、教育は授業の中だけで行われるものとは限らず、生活こそが教育であることを保護者に知らせる義務があります。

第四は「生活場面」です。例えば、多くの乳児が日常的に体験する場面に、しばしば注射を受けに行く病院があります。もちろんこうした場面はスーパーや、地下鉄や、バスなどかもしれません。私たちは保護者に、そのような場面で子どもをどのように助けたり教育したりするかを伝えることができるのです。

小さな玩具、大きな知恵―1~3歳の子ども向け家庭用玩具の開発および使用の研究(王紅)

玩具は就学前の全段階を通して、また、1~3歳の成長過程にある子どもの発達にとって特に重要なものと言うべきでしょう。私たちは普段の親子活動の中でいくつかの問題を発見しました。まず、保護者は玩具のもつ意味を正確に理解していません。それは主に、身の回りのものや日常よく目にするものを玩具として認識していないことから分かります。二つ目に、保護者は子どもたちの発達レベルについての理解が不足しています。それは保護者たちが子どものために選ぶ玩具が各段階の発達に必要なものを満たしていないこと、あるいは子どもの興味をひくことができていないことから分かります。三つ目に、子どもの総合的な発達に対する配慮がないがしろにされ、玩具の教育的機能ばかりを重視して、知力以外の要素を育成することを軽視しています。四つ目に、玩具、子ども、保護者の間の相互作用が軽視されています。

これらの問題について、私たち早期教育センターは、1~3歳児の玩具の開発と使用の研究という課題のもと、取り組みました。私たちは玩具を以下のように定義しました:子どものために製作され、子どもが使用できる玩具商品であること。同時に日常的に身の回りにあるものであり、玩具として製作されたものではない「環境材料」を含んでいること。以上の二つを玩具の定義とした後、私たちは家庭用の玩具についてさらに、1~3歳児の心理学および生理学的ニーズに合致し、家で実際に取り扱ったりいじったりできる玩具と定めました。

私たちは120世帯の家庭について関連調査や研究を行い、保護者の玩具商品に対する選択にはいくらかの功利性があることに気づきました。図1のデータから分かるように50%近くの保護者が玩具の価値を「教育的機能のあるもの」と定義しており、その後の調査で私たちは、大多数の保護者が知育玩具を選んでいることに気づきました。玩具の使い方を知る方法はさらに画一的で、多くの保護者が説明書に頼り、34.17%の保護者は書籍や雑誌に拠っていました。そのため、使用方法にも発展性がなく、ある年齢を過ぎるともう使えない、といったように、ひとつのおもちゃを使用できる期間も狭まってしまっています。

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アンケート調査の結果をうけて、私たちは玩具開発についての新しい提案を行いました。まず、玩具商品の効果的な使用、「環境材料」を玩具として自然に取り入れる方法、玩具の効果的な選択と導入の三つの面から、私たちはいくつかのことを検討しました。異なる内容のジグソーパズルを与えると、子どもの認知面を伸ばすことができます。異なる材質のものは子どもの感覚的な体験を豊富にし、異なる空間構造のものは空間認知能力を向上させることができます。同じように、ひとつのピースでひとつの絵柄を表すタイプと、複数のピースでひとつの絵柄を形作るタイプのパズルの併用は、子どもが全体と部分の関係性を把握するのを促すので、違うタイプのジグソーパズルを提示することによって、子どもの手と目の協調性をも発達させることができます。

第二に、「環境材料」を玩具として自然に取り入れる方法において私たちが提案したのは、徐々に身の回りの物に着目し、日常品を玩具として自然に取り入れ、不用品を使用するということです。身の回りの物を子どもの遊びに取り入れる場合、まず子どもの認知と発達の段階を考慮すると同時に、私たちがそれを徐々に導入することによって、子どものバランスのとれた発達を促します。洗濯ばさみを例にとると、プラスチックのもの、木製のものなど、家庭には実にいろいろな種類のものがあって、大きいものも小さいものもあります。私たちがこれを遊びに取り入れる時、例えば洗濯ばさみを小さい魚の餌やりごっこに使ったり、可愛い青虫などの足に見立てて工作をしたりする時に、実は子どもはゆったりとした日常的な環境の中で、最も効果的に、バランスのとれた発達をすることができます。

第三に、私たちは玩具の選択と与える過程において、子どもが試行錯誤できること、楽しいものであること、適切であることを提案しました。私たちは皆、ある玩具を使って試行錯誤できる時、子どもたちは好奇心を満足させると共に、玩具によって注意を引かれる時間も長くなり、認知能力を高めることができることを知っています。ある玩具が楽しいものであれば、子どもたちはさらに夢中になって遊ぶことができます。適切であるかどうかについては、実際玩具のパーツは非常に多いのですが、それらをすべて使う必要があるのか、という点が気になります。多くの保護者はすべてを与えますが、実際はすべてのパーツが子どもに適切なわけではありません。

玩具の使用について、私たちは玩具と子どもと保護者の間の相互作用が欠けていることに気づきました。そこで私たちは家庭での親子相互の遊びについて、「子ども-玩具」、「保護者-玩具」、「保護者-玩具-子ども」の三点に着目して、これらの複合的な相互作用を新しい探索・思考方法で推進します。

実のところ、生活での経験は子どもの遊びの基礎であり、動作の基礎でもあり、子どもと玩具の相互作用の前提です。そして保護者の玩具に対する認識と態度が、子どもの玩具に対する見方に影響を与えます。私たちは1~3歳児の保護者に対して、子どもにできるだけ身の回りにある物を与えるように提案します。子どもたちの日常を取り囲んでいる物は、子どもが自然でバランスのとれた発達をするために最もよい玩具なのです。

保護者は、子どもの現在の発達レベルをある程度理解し、玩具の価値を事前に把握した上で、玩具を選ばなければなりません。保護者が真剣に子どもの相手をし、子どもと共に試行錯誤し、子どもの発達を促し、それによって共に成長していくことが大切なのです。


※この記事は、CRNアジア子ども学交流プログラム第1回国際会議の講演録です。

筆者プロフィール
Yi_Wen.jpg 文 頤

成都師範学校児童心理学教授、四川省高校人文社会科学重点研究基盤「四川0~3歳早期発達・教育研究センター」常務副主任、中国教育学会就学前教育専門委員会副理事長、四川省心理学就学前児童心理と教育専門委員会主任、四川省早期教育業協会専門家顧問。『乳幼児心理と教育』を含む六つの第12次5カ年計画教育部企画課程教材の主編者。


Hong_Wang.jpg 王 紅

上海市普陀区早期教育指導センター地域管理部責任者、幼稚園高級教師、高級保育員。普陀区早期教育指導センターにおける0-3歳幼児教育と普陀区「サンシャインチャイルド」公益事業を管轄する。その他、上海市計画項目『0-3歳障害・ハイリスク児童のための医療と教育の連携によるリハビリテーションモデル研究』の主要メンバーで、脳性麻痺児童の個別化リハビリテーションモデル研究を担当した。主な著書は『0-3歳乳幼児親子活動教師指導ハンドブック・1-2歳』、『0-3歳親子活動家族指導ハンドブック』など。

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